「細胞死」の版間の差分

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667 バイト追加 、 2015年7月10日 (金)
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英語名:cell death
英語名:cell death 独:Zelltod 仏:mort cellulaire
{{box|text= 細胞が何らかの理由により[[細胞膜]]や[[wikipedia:ja:核|核]]などの破綻をきたし、修復不可能となった不可逆的状態が細胞死である。物理的損傷等により一瞬のうちに細胞構造が破壊されるのを「[[事故的細胞死]](accidental cell death:ACD)」とよぶ。一方、細胞内の遺伝的にコードされた分子機構が発動する細胞死は、「[[制御された細胞死]](regulated cell death)」と呼ぶ。制御された細胞死には、アポトーシス、[[制御されたネクローシス]]、[[オートファジー細胞死]]、等がある。}}


==概要==
 
==細胞死とは==
 細胞が何らかの理由により[[細胞膜]]や[[wikipedia:ja:核|核]]などの破綻をきたし、修復不可能となった不可逆的状態が細胞死である。かつては、発生過程で観察される[[プログラム細胞死]]の主要形態である[[アポトーシス]](apoptosis)と、それ以外の[[ネクローシス]](necrosis)とに細胞死を分類することもあった。しかし近年、多種多様な分子機構が細胞死に関与することが明らかとなり、細胞死を以下のように区別することが提唱されている<ref name=ref1><pubmed>4561027</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>25710534</pubmed></ref>。まず、強酸やアルカリ、熱、物理的損傷等の、外傷により一瞬のうちに細胞構造が破壊される細胞死は、「[[事故的細胞死]](accidental cell death:ACD)」と呼ぶ。かつてネクローシスと呼ばれたもののうち事故的に生じたものが含まれる。一方、細胞内の遺伝的にコードされた分子機構が発動する細胞死は、「[[制御された細胞死]](regulated cell death)」と呼ぶ。制御された細胞死には、アポトーシス、[[制御されたネクローシス]]、[[オートファジー細胞死]]、等がある。制御されたネクローシスはさらに複数の細胞死に分類されつつある。
 細胞が何らかの理由により[[細胞膜]]や[[wikipedia:ja:核|核]]などの破綻をきたし、修復不可能となった不可逆的状態が細胞死である。かつては、発生過程で観察される[[プログラム細胞死]]の主要形態である[[アポトーシス]](apoptosis)と、それ以外の[[ネクローシス]](necrosis)とに細胞死を分類することもあった。しかし近年、多種多様な分子機構が細胞死に関与することが明らかとなり、細胞死を以下のように区別することが提唱されている<ref name=ref1><pubmed>4561027</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>25710534</pubmed></ref>。まず、強酸やアルカリ、熱、物理的損傷等の、外傷により一瞬のうちに細胞構造が破壊される細胞死は、「[[事故的細胞死]](accidental cell death:ACD)」と呼ぶ。かつてネクローシスと呼ばれたもののうち事故的に生じたものが含まれる。一方、細胞内の遺伝的にコードされた分子機構が発動する細胞死は、「[[制御された細胞死]](regulated cell death)」と呼ぶ。制御された細胞死には、アポトーシス、[[制御されたネクローシス]]、[[オートファジー細胞死]]、等がある。制御されたネクローシスはさらに複数の細胞死に分類されつつある。
 多種多様な細胞死が見つかる一方、その命名は各研究者が独自に行なってきたため、細胞死の名称や定義が混乱している。これを受けて、オートファジー細胞死の例で見られるように、細胞死の定義と命名に関して整理を行なうべきとの提言が細胞死研究者のコミュニティから出されている<ref name=ref3 /> <ref name=ref22><pubmed>25236395</pubmed></ref>。今後の分子機構の解明次第で、パイロトーシスやフェロプトーシスなどの新しい細胞死に関しては、名称や定義が変化する可能性もあり、注意が必要である。
 英語での発音についても、-ptosisの冒頭のpを発音するか否かは見解がわかれる。ApoptosisとPyroptosisについては、それぞれ命名者であるKerrらとCoocksonらが提唱した際に-ptosisのpは無声であるとしている<ref><pubmed>15784530</pubmed></ref>。これに従い、本稿では日本語でのカタカナ表記もアポトーシスとパイロトーシスとする。しかし実際の会話では、Apoptosisのpを-ptosisの由来のギリシャ語発音(πτῶσις)にならい発音する外国人が非常に多い。そこで本項では、発音の仕方が明確に記述されていないNecroptosis、Ferroptosisについては、pを発音するカタカナ表記である「ネクロプトーシス」「フェロプトーシス」を採用している<ref>[http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/essay/カタカナ標記.htm カタカナ標記について(金沢大学須田貴司教授による解説)]</ref>。


==アポトーシス==
==アポトーシス==
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==オートファジー細胞死==
==オートファジー細胞死==
 細胞死実行過程でオートファジーが誘導され、かつオートファジーの実行が細胞死に必須な細胞死のことを指す<ref name=ref3 />。実際に[[ショウジョウバエ]]の[[wikipedia:ja:変態|変態]]時に[[wikipedia:ja:中腸|中腸]][[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]において生じることが遺伝学的・形態学的観察により示されている<ref name=ref19><pubmed>18083103</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>19818615</pubmed></ref>。歴史的には、「オートファジー細胞死」(autophagic cell death)という名称は、単に「形態学的にオートファジーを伴った細胞死」という意味であった<ref name=ref21><pubmed>2186664</pubmed></ref>。実際、死にかけ細胞で見られるオートファジーは細胞死実行のため誘導されたのではなく、何らかの[[ストレス]]に対する生存のための適応である場合も多い。しかし、「オートファジー細胞死」という名称はオートファジーが細胞死に必須であるという印象を与え、適応の結果としてオートファジーを伴っただけの細胞死を「オートファジー細胞死」と呼ぶのは、分子機構の理解のうえでも名称のうえでも混乱を招く原因となる。そこで、現在では、オートファジーの必要性を含有した細胞死にのみこの名称を適用するべきだと考え方が一般的となっている<ref name=ref3 />。オートファジーが細胞死実行に関与する例は先のショウジョウバエの例で観察されており、アポトーシス機構が破綻しているときの代償機構など、ある状況下・細胞種では確かに生じる機構といえる。
 細胞死実行過程でオートファジーが誘導され、かつオートファジーの実行が細胞死に必須な細胞死のことを指す<ref name=ref3 />。実際に[[ショウジョウバエ]]の[[wikipedia:ja:変態|変態]]時に[[wikipedia:ja:中腸|中腸]][[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]において生じることが遺伝学的・形態学的観察により示されている<ref name=ref19><pubmed>18083103</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>19818615</pubmed></ref>。歴史的には、「オートファジー細胞死」(autophagic cell death)という名称は、単に「形態学的にオートファジーを伴った細胞死」という意味であった<ref name=ref21><pubmed>2186664</pubmed></ref>。実際、死にかけ細胞で見られるオートファジーは細胞死実行のため誘導されたのではなく、何らかの[[ストレス]]に対する生存のための適応である場合も多い。しかし、「オートファジー細胞死」という名称はオートファジーが細胞死に必須であるという印象を与え、適応の結果としてオートファジーを伴っただけの細胞死を「オートファジー細胞死」と呼ぶのは、分子機構の理解のうえでも名称のうえでも混乱を招く原因となる。そこで、現在では、オートファジーの必要性を含有した細胞死にのみこの名称を適用するべきだと考え方が一般的となっている<ref name=ref3 />。オートファジーが細胞死実行に関与する例は先のショウジョウバエの例で観察されており、アポトーシス機構が破綻しているときの代償機構など、ある状況下・細胞種では確かに生じる機構といえる。
==命名・発音に関する議論==
 多種多様な細胞死が見つかる一方、その命名は各研究者が独自に行なってきたため、細胞死の名称や定義が混乱している。これを受けて、オートファジー細胞死の例で見られるように、細胞死の定義と命名に関して整理を行なうべきとの提言が細胞死研究者のコミュニティから出されている<ref name=ref3 /> <ref name=ref22><pubmed>25236395</pubmed></ref>。今後の分子機構の解明次第で、パイロトーシスやフェロプトーシスなどの新しい細胞死に関しては、名称や定義が変化する可能性もあり、注意が必要である。
 英語での発音についても、-ptosisの冒頭のpを発音するか否かは見解がわかれる。ApoptosisとPyroptosisについては、それぞれ命名者であるKerrらとCoocksonらが提唱した際に-ptosisのpは無声であるとしている<ref><pubmed>15784530</pubmed></ref>。これに従い、本稿では日本語でのカタカナ表記もアポトーシスとパイロトーシスとする。しかし実際の会話では、Apoptosisのpを-ptosisの由来のギリシャ語発音(πτῶσις)にならい発音する外国人が非常に多い。そこで本項では、発音の仕方が明確に記述されていないNecroptosis、Ferroptosisについては、pを発音するカタカナ表記である「ネクロプトーシス」「フェロプトーシス」を採用している<ref>[http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/essay/カタカナ標記.htm カタカナ標記について(金沢大学須田貴司教授による解説)]</ref>。


==神経系における細胞死の役割==
==神経系における細胞死の役割==

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