「先天性大脳白質形成不全症」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
62行目: 62行目:
 電気生理学的検査は、画像診断や遺伝子解析に比べると特異性に劣るが、MRIでの髄鞘形成不全の描出が難しい生後6ヶ月までの時期には診断的有用性が高い。聴覚脳幹反応において、II波以降の潜時の延長が見られる。PMDではニューロパチーの合併は通常認めないが、PLP1のnull変異の症例では軽度から中等度の神経伝導速度の低下を認めることが多い。また、イントロンのスプライス変異の症例では、比較的重度のPMD例であっても神経伝導速度が低下することがある。PMD以外の先天性大脳白質形成不全症の症例では、ニューロパチーを合併する疾患もあるため(表1)、神経伝導速度の測定は積極的に実施していくことが望ましい。<br />
 電気生理学的検査は、画像診断や遺伝子解析に比べると特異性に劣るが、MRIでの髄鞘形成不全の描出が難しい生後6ヶ月までの時期には診断的有用性が高い。聴覚脳幹反応において、II波以降の潜時の延長が見られる。PMDではニューロパチーの合併は通常認めないが、PLP1のnull変異の症例では軽度から中等度の神経伝導速度の低下を認めることが多い。また、イントロンのスプライス変異の症例では、比較的重度のPMD例であっても神経伝導速度が低下することがある。PMD以外の先天性大脳白質形成不全症の症例では、ニューロパチーを合併する疾患もあるため(表1)、神経伝導速度の測定は積極的に実施していくことが望ましい。<br />


[[Image:MutationPMD|thumb|'''図1.PMDの表現型、変異と分子病態。PMDの臨床像は重症の先天型から軽症の痙性対麻痺2型まで、幅広いスペクトラムを呈する。変異の種類と表現型の間にある程度の相関を有する。また変異の種類によって異なる細胞病態を呈する。点変異によりアミノ酸置換を来した変異PLP1蛋白質は、小胞体(ER)に蓄積することによってERストレスを誘導する。過剰なERストレスによりunfolded protein response(UPR)の細胞死シグナル経路が活性化されると、オリゴデンドロサイトは死に至る。遺伝子重複によって過剰産生された野生型PLP1蛋白質は、正常に膜輸送されるが、その後コレステロール(chol)に結合して後期エンドソーム・リソソーム(E/L)に蓄積するが、細胞死に至る細胞分子病態は不明である。遺伝子欠失などのnull変異は、疾患スペクトラムの中では軽症型となる痙性対麻痺を呈する。PLP1の欠損は、髄鞘化そのものには大きな影響を及ぼさないが、PLP1が欠落している髄鞘は脆弱で壊れやすい。]]
[[Image:MutationPMD.png|thumb|'''図1.PMDの表現型、変異と分子病態。PMDの臨床像は重症の先天型から軽症の痙性対麻痺2型まで、幅広いスペクトラムを呈する。変異の種類と表現型の間にある程度の相関を有する。また変異の種類によって異なる細胞病態を呈する。点変異によりアミノ酸置換を来した変異PLP1蛋白質は、小胞体(ER)に蓄積することによってERストレスを誘導する。過剰なERストレスによりunfolded protein response(UPR)の細胞死シグナル経路が活性化されると、オリゴデンドロサイトは死に至る。遺伝子重複によって過剰産生された野生型PLP1蛋白質は、正常に膜輸送されるが、その後コレステロール(chol)に結合して後期エンドソーム・リソソーム(E/L)に蓄積するが、細胞死に至る細胞分子病態は不明である。遺伝子欠失などのnull変異は、疾患スペクトラムの中では軽症型となる痙性対麻痺を呈する。PLP1の欠損は、髄鞘化そのものには大きな影響を及ぼさないが、PLP1が欠落している髄鞘は脆弱で壊れやすい。]]
===病態生理===
===病態生理===
 中枢神経系のミエリンが広範かつび漫性に欠落することがPMDの一次的な組織学的病因である。オリゴデンドロサイトは広く脱落する。一方で、軸索は比較的保たれている。一部、皮質直下のUファイバーに島状にミエリン化を認める(tigroidと呼ばれる)。遺伝学的病因は、PLP1遺伝子の変異である。PLP1は四回貫通型構造をとる主要なミエリン膜蛋白質をコードする。17kbのゲノム領域に渡る7つのエクソンから構成される。PLP1とDM20という2つのスプライス多型を有する。DM20はエクソン3の後半35残基分が欠落している。このPLP1特異的領域に生じた変異は、DM20のアミノ酸配列には影響を及ぼさないため、臨床的には軽症のSPG2となる。PLP1の変異で最も頻度が高いのはPLP1全体を含むゲノム重複(60〜70%)である。点変異(20〜30%)はアミノ酸置換変異が多く、変異は全エクソンに均等に分布する。頻度は低いが、微小欠失挿入変異やナンセンス変異も見出される。エクソン以外にイントロン部位の変異も見出されている。遺伝子全体を含む欠失は、重複に比べて頻度は低い。<br />
 中枢神経系のミエリンが広範かつび漫性に欠落することがPMDの一次的な組織学的病因である。オリゴデンドロサイトは広く脱落する。一方で、軸索は比較的保たれている。一部、皮質直下のUファイバーに島状にミエリン化を認める(tigroidと呼ばれる)。遺伝学的病因は、PLP1遺伝子の変異である。PLP1は四回貫通型構造をとる主要なミエリン膜蛋白質をコードする。17kbのゲノム領域に渡る7つのエクソンから構成される。PLP1とDM20という2つのスプライス多型を有する。DM20はエクソン3の後半35残基分が欠落している。このPLP1特異的領域に生じた変異は、DM20のアミノ酸配列には影響を及ぼさないため、臨床的には軽症のSPG2となる。PLP1の変異で最も頻度が高いのはPLP1全体を含むゲノム重複(60〜70%)である。点変異(20〜30%)はアミノ酸置換変異が多く、変異は全エクソンに均等に分布する。頻度は低いが、微小欠失挿入変異やナンセンス変異も見出される。エクソン以外にイントロン部位の変異も見出されている。遺伝子全体を含む欠失は、重複に比べて頻度は低い。<br />
14

回編集

案内メニュー