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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0098562 福田 正人]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0098562 福田 正人]</font><br> | ||
'' | ''群馬大学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月10日 原稿完成日:2016年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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英:schizophrenia 独:Schizophrenie 仏:schizophrénie | 英:schizophrenia 独:Schizophrenie 仏:schizophrénie | ||
{{box|text= 統合失調症は、主要な[[精神疾患]] | {{box|text= 統合失調症は、主要な[[精神疾患]]のひとつで、10歳代後半~30歳代に発症する頻度の高い疾患である。自分を悪く評価し言動に命令する幻声や、何者かから注目を浴び迫害を受けるという[[被害妄想]]([[幻覚]]・[[妄想]])、行動や思考における能動感・自己所属感の喪失([[自我障害]]、以上陽性症状)と、それら症状についての自己認識の困難([[病識]]障害)、目標に向け行動や思考を組織する障害(不統合)と意欲や自発性の低下(陰性症状)である。対人関係・自我機能・表象機能という人間でとくに発達した脳機能の障害を反映すると想定でき、それに対応する脳構造や脳機能に変化が認められる。陽性症状が強まる急性期を繰り返す慢性の経過をたどることが多い。日常生活・対人関係・職業生活に困難を経験することが多い。そのため、一般人口において、疾患により引き起こされている障害の中でも、最も社会への負荷が大きなものが、急性期の統合失調症により引き起こされている障害である、と報告されている。陽性症状の軽減や急性期の予防には[[抗精神病薬]]の服薬継続への納得が有用である。一方、陰性症状の改善には薬物療法の効果は限定的であるため、心理社会的治療を組み合わせることにより、再発の予防と生活機能の改善を目指す。早期の発見・治療による未治療期間の短縮、地域生活のための支援の充実を組み合わせることで、自立生活や就労が促進され、入院の必要性が減ることが明らかとなった。そのうえでは、当事者が望む生活と人生の回復を治療の目標とすることが大切である。}} | ||
==統合失調症とは== | ==統合失調症とは== | ||
統合失調症とは、主要な[[精神疾患]]のひとつで、日本の精神科入院患者29.3万人のうち17.2万人(58.5%)、外来患者290.0万人のうち53.9万人(18.6%)をしめる[2011年患者調査]。未受診者を含めた一般人口の有病率は0.7%で、10歳代後半~30歳代に発症する頻度の高い疾患である。 | |||
===主体の体験としての精神疾患=== | ===主体の体験としての精神疾患=== | ||
統合失調症に限らず精神疾患には、当事者にとってそれが認識や治療の対象であるだけでなく、自分の精神という主体が実感する体験であるという特徴がある。そのため、対象としての客観的な理解とともに、体験としての主観的な実感の側面が、身体疾患に比べてより重要となる。 | 統合失調症に限らず精神疾患には、当事者にとってそれが認識や治療の対象であるだけでなく、自分の精神という主体が実感する体験であるという特徴がある。そのため、対象としての客観的な理解とともに、体験としての主観的な実感の側面が、身体疾患に比べてより重要となる。 | ||
客観的な理解のための知識は、概略については『マンガでわかる!統合失調症』<ref>'''中村ユキ'''<br>マンガでわかる!統合失調症<br>''日本評論社'',2011</ref>、詳細については「統合失調症の基礎知識-診断と治療についての説明用資料」<ref>'''日本統合失調症学会監修'''<br>統合失調症<br>''医学書院'',2013[http://jssr.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20130607154632-1A14E5083752AE7C4013B4AC78650481972CEA4F0CCF58E42F0703E53448C62F.pdf | 客観的な理解のための知識は、概略については『マンガでわかる!統合失調症』<ref>'''中村ユキ'''<br>マンガでわかる!統合失調症<br>''日本評論社'',2011</ref>、詳細については「統合失調症の基礎知識-診断と治療についての説明用資料」<ref>'''日本統合失調症学会監修'''<br>統合失調症<br>''医学書院'',2013</ref>[http://jssr.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20130607154632-1A14E5083752AE7C4013B4AC78650481972CEA4F0CCF58E42F0703E53448C62F.pdf PDFファイル]が、詳細な文献については、[http://www.schres-journal.com Schizophrenia Research]誌の「schizophrenia , just the facts」と題する6編の総説シリーズが参考になる<ref><pubmed>18291627 </pubmed></ref><ref><pubmed>18514488 </pubmed></ref><ref><pubmed>18799287</pubmed></ref><ref><pubmed> 19328655 </pubmed></ref><ref><pubmed>20655178</pubmed></ref><ref><pubmed> 21316923</pubmed></ref>。 | ||
当事者や家族が素顔で体験を語る動画サイト(「JPOP-VOICE統合失調症と向き合う」)や、みずからの体験を伝える漫画や書籍(『統合失調症がやってきた』<ref>'''ハウス加賀谷'''<br>統合失調症がやってきた<br>''イーストプレス'',2013</ref>、『わが家の母はビョーキです』<ref>'''中村ユキ'''<br>わが家の母はビョーキです<br>''サンマーク出版'',2008</ref>、『心病む母が遺してくれたもの』<ref>'''夏苅郁子'''<br>心病む母が遺してくれたもの<br>''日本評論社'',2012</ref>)は、体験としての主観的な実感を知るために有用である。 | 当事者や家族が素顔で体験を語る動画サイト(「JPOP-VOICE統合失調症と向き合う」)や、みずからの体験を伝える漫画や書籍(『統合失調症がやってきた』<ref>'''ハウス加賀谷'''<br>統合失調症がやってきた<br>''イーストプレス'',2013</ref>、『わが家の母はビョーキです』<ref>'''中村ユキ'''<br>わが家の母はビョーキです<br>''サンマーク出版'',2008</ref>、『心病む母が遺してくれたもの』<ref>'''夏苅郁子'''<br>心病む母が遺してくれたもの<br>''日本評論社'',2012</ref>)は、体験としての主観的な実感を知るために有用である。 | ||
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統合失調症が単一の病因にもとづく疾患概念であると考えている臨床家や研究者は皆無に近いにもかかわらず、統合失調症がひとつの疾患であるかのように取り扱われていることについては、いくつかの立場がある。病因はさまざまであるが病態のなかに共通する部分があり、臨床家はその点をひとつの疾患と捉えているとする考えがある。そうした共通する病態を認めず、病因も病態も異なるが臨床症状が類似している複数の疾患を、ひとつの疾患として捉えているにすぎないとする考えもある。そのような立場から、現状の統合失調症という疾患概念は将来は複数の疾患概念に解体され、あるいはその一部は他の疾患と統合されるだろうと見通す考え方もある。 | 統合失調症が単一の病因にもとづく疾患概念であると考えている臨床家や研究者は皆無に近いにもかかわらず、統合失調症がひとつの疾患であるかのように取り扱われていることについては、いくつかの立場がある。病因はさまざまであるが病態のなかに共通する部分があり、臨床家はその点をひとつの疾患と捉えているとする考えがある。そうした共通する病態を認めず、病因も病態も異なるが臨床症状が類似している複数の疾患を、ひとつの疾患として捉えているにすぎないとする考えもある。そのような立場から、現状の統合失調症という疾患概念は将来は複数の疾患概念に解体され、あるいはその一部は他の疾患と統合されるだろうと見通す考え方もある。 | ||
こうした状況を踏まえ、症状にもとづいて定義された疾患概念をもとに検討を進めることを放棄し、既存の疾患概念を横断する形で精神症状や心理機能や脳機能にもとづいて検討を進めるべきだとする考え、精神疾患概念をカテゴリーとしてではなくディメンションとして捉えるべきだとの考えも強まっている。例えば、米国精神衛生研究所(NIMH, National Institute of Mental Health)が主導する[https://www.nimh.nih.gov/research-priorities/rdoc/index.shtml RDoC(Research Domein Criteria)] | こうした状況を踏まえ、症状にもとづいて定義された疾患概念をもとに検討を進めることを放棄し、既存の疾患概念を横断する形で精神症状や心理機能や脳機能にもとづいて検討を進めるべきだとする考え、精神疾患概念をカテゴリーとしてではなくディメンションとして捉えるべきだとの考えも強まっている。例えば、米国精神衛生研究所(NIMH, National Institute of Mental Health)が主導する[https://www.nimh.nih.gov/research-priorities/rdoc/index.shtml RDoC(Research Domein Criteria)]は、そうした試みと言える。この問題は結局、症状という現象を取り扱っている限りは結論に至ることはなく、その背景にある実体が明らかとなることで初めて解決する。 | ||
精神医学の臨床家や研究者は、以上のような状況と限界をわきまえつつ、そうした制約のなかで診断や治療をどのように行えるか、病因や病態をどのくらい解明することができるかを検討しており、本稿の記載もそうした前提に基づいている。 | 精神医学の臨床家や研究者は、以上のような状況と限界をわきまえつつ、そうした制約のなかで診断や治療をどのように行えるか、病因や病態をどのくらい解明することができるかを検討しており、本稿の記載もそうした前提に基づいている。 | ||
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認知機能は、顕在発症前から軽度の障害があり、発症に伴って[[IQ]]換算で5~10点に相当する低下を生じ、(長期入院患者以外では)その後は一定に留まる。 [[抗精神病薬]]が認知機能に対して機能的に意味のある効果を発揮するとはいえない。 | 認知機能は、顕在発症前から軽度の障害があり、発症に伴って[[IQ]]換算で5~10点に相当する低下を生じ、(長期入院患者以外では)その後は一定に留まる。 [[抗精神病薬]]が認知機能に対して機能的に意味のある効果を発揮するとはいえない。 | ||
以上のような症状のために、統合失調症は生活の障害と結びつきやすい。さまざまな疾患が生活を障害する程度を数値化した検討において、すべての疾患のなかで統合失調症の急性期が最大の障害をもたらすとされている<ref><pubmed> 23245605 </pubmed></ref>。そのため、統合失調症による社会経済的なコストについての各国のデータを日本の人口に換算すると年間2兆7千億円となり、その内訳は医療費を上回って就労できないことによるところが大きい。 | |||
==診断== | ==診断== | ||
===DSM-5に基づく横断診断 === | ===DSM-5に基づく横断診断 === | ||
DSM-5の基準Aにまとめられているのは、統合失調症の診断のために特徴的な症状、理想的には特異的な症状であり、診断のためのその組み合わせである。妄想、幻覚、まとまりのない会話、ひどくまとまりのないまたは[[緊張病]] | DSM-5の基準Aにまとめられているのは、統合失調症の診断のために特徴的な症状、理想的には特異的な症状であり、診断のためのその組み合わせである。妄想、幻覚、まとまりのない会話、ひどくまとまりのないまたは[[緊張病]]性の行動、陰性症状(情動表出気の減少と意欲欠如)の5症状のうち2領域以上が必要とされる(後二者の組み合わせは不可)。 | ||
従来、自我障害は統合失調症の中核的な症状であり病態であると考えられ、[[DSM-IV]] | 従来、自我障害は統合失調症の中核的な症状であり病態であると考えられ、[[DSM-IV]]までは幻覚妄想のなかで特別な扱いをされていたが、DSM-5ではそのような扱いがなくなった。いっぽう研究においては、精神病理・診断・リスク表現型の点から自我障害の重要性に注目が集まっているという乖離した事態がある。 | ||
基準Bは、機能レベルが病前より著しく低下を求めたもので、仕事・対人関係・自己管理の3領域が挙げられている。人間の脳機能が事物・他人・自己を対象とした3システムで構成されていることに対応している点が重要である。 | |||
===経過についての縦断診断 === | ===経過についての縦断診断 === | ||
統合失調症や[[双極性障害]] | 統合失調症や[[双極性障害]]の経過を、慢性身体疾患になぞらえて臨床病期として捉える考え方がある。統合失調症の状態像を、0期(発症のリスクがある),1期(診断には至らない軽度の症状),2期(初回エピソード),3期(発症後の不完全[[寛解]]や再発),4期(重篤・遷延)などの8段階に分けている。臨床病期は一方向に進むとは限らず、病状に応じて回復があるとされる。2期以降の経過についてDSM-5では、初発 (first episode)・再発 (multiple episodes)・持続性 (continuous)という経過の特定用語 (course specifier)で整理している。 | ||
こうした提唱の背景には、統合失調症の病態が素因・環境/発症/進行の3段階から構成されて進展するという考え方がある。遺伝的にもちあわせた素因と胎児期や幼小児期に経験する環境因を背景として、思春期・青年期の体の変化と環境の[[ストレス]]が加わることで発症に到り、その後の進行は治療により変化しうるという考えである。 | こうした提唱の背景には、統合失調症の病態が素因・環境/発症/進行の3段階から構成されて進展するという考え方がある。遺伝的にもちあわせた素因と胎児期や幼小児期に経験する環境因を背景として、思春期・青年期の体の変化と環境の[[ストレス]]が加わることで発症に到り、その後の進行は治療により変化しうるという考えである。 | ||
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この過程は、対人関係・自我機能・表象機能という人間でとくに発達した脳機能の脆弱性を代償過程が支えていたものが、人間関係と表象操作が複雑化するとともにそれを担う脳機能が発達する思春期から青年期に、複雑化する処理を支えきれなくなることによることが想定できる。 | この過程は、対人関係・自我機能・表象機能という人間でとくに発達した脳機能の脆弱性を代償過程が支えていたものが、人間関係と表象操作が複雑化するとともにそれを担う脳機能が発達する思春期から青年期に、複雑化する処理を支えきれなくなることによることが想定できる。 | ||
===鑑別診断 === | ===鑑別診断 === | ||
臨床的に統合失調症と類似の症状を呈するものに、身体疾患と精神疾患がある('''表1'''、'''2''')。 | 臨床的に統合失調症と類似の症状を呈するものに、身体疾患と精神疾患がある('''表1'''、'''2''')。 | ||
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|[[向精神薬|精神作用物質]]による物質使用障害||[[覚醒剤]]が代表 | |[[向精神薬|精神作用物質]]による物質使用障害||[[覚醒剤]]が代表 | ||
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| | |統合失調症様障害・短期[[精神病性障害]]<br>(<u>編集部コメント:これはまとめて一つの病名でしょうか?</u>)||特徴的な症状の持続が6か月未満、統合失調症に移行することもある。 | ||
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|[[妄想性障害]]||幻聴・幻視がない、妄想の内容が現実生活において起こり得るものである、[[生活機能]]の低下が目立たない。 | |[[妄想性障害]]||幻聴・幻視がない、妄想の内容が現実生活において起こり得るものである、[[生活機能]]の低下が目立たない。 | ||
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|[[双極性障害]] | |[[双極性障害]]・[[統合失調感情障害]]||[[うつ病]]・[[躁病]]エピソードの基準を満たす時期がある。 | ||
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|[[心的外傷後ストレス障害]] ([[PTSD]])||幻覚・妄想に[[心的外傷]]と関連した[[フラッシュバック]]としての側面がある。 | |[[心的外傷後ストレス障害]] ([[PTSD]])||幻覚・妄想に[[心的外傷]]と関連した[[フラッシュバック]]としての側面がある。 | ||
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===検査結果にもとづく診断の現状 === | ===検査結果にもとづく診断の現状 === | ||
統合失調症の脳構造や脳機能を検討して、健常者と差を認めるとする研究は数多い。そうした成果を診療における臨床検査として実用化するためには、群間で有意差を認めるだけでは不十分で、個別のデータについての判断が必要である。Single-subject studyを研究テーマとして取りあげた論文は2010年以降にようやく増え、そこでは80~85%という正判別率の報告が多い。診断基準にもとづいて明確に統合失調症と診断できる患者を対象とし、詳細な検査方法にもとづくデータに入念な解析を行い、健常者との判別を検討した場合にそうした数字であり、他の精神疾患との判別となると数字はかなり低くなる。 | |||
そうした結果となる理由として、統合失調症という疾患概念が一つの実体に対応しているわけではないこと([[統合失調症#疾患概念|疾患概念]].)、縦断的に病態が進展していると考えられること([[統合失調症#経過についての縦断診断|経過についての縦断診断]])、に加えて、精神疾患の研究で得られる[[wj:バイオマーカー|バイオマーカー]]にいくつかの意味がありうることが挙げられる。病態における意義という点からは概念的に、精神疾患への素因を反映する「[[素因指標]]」、精神疾患の発症や罹患を反映する「[[発症指標]]」、発症後の症状の程度を示す「[[状態指標]]」、疾患としての病状の重症度を反映する「[[病状指標]]」に分けることができる。ひとつのバイオマーカーが複数の指標の意義をもつことがあり、一般的には、素因指標と発症指標、状態指標と病状指標はおおむね類似の病態を反映するという仮定のもとに、それぞれtrait markerとstate markerの用語を対応させることが多い。しかし、素因指標と発症指標を同等に取り扱うと非発症者を発症者と混同することになり、また状態指標と病状指標を区別しないと治療による改善可能性についての判断に影響する可能性がある。 | |||
==病態生理== | ==病態生理== | ||
===病態生理のさまざまなレベル=== | ===病態生理のさまざまなレベル=== | ||
統合失調症について得られているバイオマーカーの結果を、[[wj:メタ解析|メタ解析]]における effect size として比較すると,認知機能障害(言語性記憶1.41,注意機能1.16)>神経生理指標(MMN成分振幅 0.99,P300 成分振幅 0.85)>脳機能画像([[前頭葉]]賦活 0.81,前頭葉安静 0.65)>脳構造画像(右[[海馬]] 0.58,左[[上側頭回]] 0.55),という順となる。異なる研究領域で得られた effect size を比較することには統計学的な問題があるが,おおまかには統合失調症で認められる所見の健常者からの隔たりの程度は「認知機能>神経生理機能>脳機能画像>脳構造画像」の順になるというもので,複雑な機能であるほど変化が大きいことを示している。 | |||
===脳構造=== | ===脳構造=== | ||
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===神経生理=== | ===神経生理=== | ||
[[事象関連電位]]と呼ばれる[[脳波]]で臨床神経生理についての病態を検討すると、[[P50]]成分や[[プレパルスインヒビション]] (pre-pulse inhibition; PPI) | [[事象関連電位]]と呼ばれる[[脳波]]で臨床神経生理についての病態を検討すると、[[P50]]成分や[[プレパルスインヒビション]] (pre-pulse inhibition; PPI)(<u>編集部コメント:PPIが正しく定義されているかご確認ください</u>)のような刺激のフィルタ機能を反映する指標は、リスク期から所見が認められ、発症後もあまり変化がない。これと対照的に、刺激のある程度高次な処理を反映するMMN(<u>編集部コメント:何の略でしょうか?</u>)成分は、慢性期になって初めて所見として認められるようになる。この両者の中間の変化を示すのがP300成分やN100成分であり、前駆期になって明らかとなる所見が慢性期になって進行する。 | ||
このように、事象関連電位の所見は「P50成分・PPI → P300成分・N100成分 → MMN成分」という順で進行する。それぞれの成分が表わす意味を考えると、これは機能の障害が「フィルタ機能 → 感覚処理 → 高次処理」という順で進むことを示している。そうした機能を担う脳部位として、「[[視床]] → [[感覚野]] → [[連合野]] | このように、事象関連電位の所見は「P50成分・PPI → P300成分・N100成分 → MMN成分」という順で進行する。それぞれの成分が表わす意味を考えると、これは機能の障害が「フィルタ機能 → 感覚処理 → 高次処理」という順で進むことを示している。そうした機能を担う脳部位として、「[[視床]] → [[感覚野]] → [[連合野]]」という順が想定できる。統合失調症の病態生理の進展をおおまかに表わしたものと考えられ、「素因として視床の障害にもとづくフィルタ機能の障害があり、そこに感覚野における障害が加わることで発症に至り、さらに連合野における障害が進展することで慢性化へと到る」という進展である。 | ||
===情報処理=== | ===情報処理=== | ||
| 153行目: | 153行目: | ||
臨床的には、すべての統合失調症患者に抗精神病薬が有効なわけではなく、少なくとも一部の患者には効果がかなり薄い。そのことからは、ドーパミン系の過活性という病態を伴わない患者が少なくとも一部はいることが想定される。 | 臨床的には、すべての統合失調症患者に抗精神病薬が有効なわけではなく、少なくとも一部の患者には効果がかなり薄い。そのことからは、ドーパミン系の過活性という病態を伴わない患者が少なくとも一部はいることが想定される。 | ||
=== | ===遺伝子=== | ||
遺伝子研究においては日進月歩の成果が次々と報告されているが、いずれの遺伝子についても統合失調症のリスクを多くても2倍程度に増すという影響のものであり、神経疾患について目覚ましい成果が挙がっていることと対照的な状況にある。これはひとつには統合失調症が多因子遺伝によると想定されていることから予想されるものであるが、臨床的にみても均質とは想定されない統合失調症という疾患概念を対象として行った検討の結果であるという、より根本的な問題がある。 | |||
そうした制約がありながらも、神経細胞なかでも[[シナプス]]に関連した遺伝子の関与が示唆されることが多いのは、ある意味では驚くべきことである。このことは、統合失調症の病因・病態として神経細胞なかでもそのシナプスの役割が大きいことを示すとともに、臨床的に定義された統合失調症という疾患概念がある程度は妥当であることを示している。 | |||
そのなかで最近指摘されているのは、統合失調症に関連するとされる遺伝子のなかで、他の精神疾患と共通する遺伝子が多いことである。このことは、統合失調症などの精神疾患の病因・病態が精神疾患に共通する疾患非特異的な過程と、個別の精神疾患ごとの疾患特異的な過程とで重層的に構成されていることを示していると理解することができる。 | |||
==治療== | ==治療== | ||
| 174行目: | 174行目: | ||
#感情や意欲の症状などの陰性症状の改善を目指す精神賦活作用の三種類である。 | #感情や意欲の症状などの陰性症状の改善を目指す精神賦活作用の三種類である。 | ||
それぞれの作用は、およそドーパミン系・[[ノルアドレナリン]]系・セロトニン系と関連するとされている。個々の抗精神病薬はさまざまな神経伝達物質への作用を合わせもっているので、それに応じて臨床作用のプロフィールが異なることになる。(<u>編集部コメント:この辺、具体的な化合物名とともに御記述いただいてもと思います</u>) | |||
抗精神病作用についての当事者の実感は、「どうしてもあることに捉われて気持ちが過敏になることがなくなる」「頭が忙しくなくなる」「忘れることはできないが、それだけにのめりこむことが無くなる」というものである。その効果は「気分が巻きこまれず無関心となり、行動や自律神経機能に影響しなくなる」という体験で、幻覚や妄想に捉われなくなっていく。精神症状学において幻覚や妄想は[[知覚]]や思考の症状に分類されるが、その病態は知覚や思考の領域に留まらず、気分が巻き込まれて無関心でいられなくなるという情動の領域、さらにそれが行為や自律神経機能に影響するという行動の領域にまで及んでおり、その点が変化していく。 | 抗精神病作用についての当事者の実感は、「どうしてもあることに捉われて気持ちが過敏になることがなくなる」「頭が忙しくなくなる」「忘れることはできないが、それだけにのめりこむことが無くなる」というものである。その効果は「気分が巻きこまれず無関心となり、行動や自律神経機能に影響しなくなる」という体験で、幻覚や妄想に捉われなくなっていく。精神症状学において幻覚や妄想は[[知覚]]や思考の症状に分類されるが、その病態は知覚や思考の領域に留まらず、気分が巻き込まれて無関心でいられなくなるという情動の領域、さらにそれが行為や自律神経機能に影響するという行動の領域にまで及んでおり、その点が変化していく。 | ||
こうした治療で幻覚や妄想がいったん改善しても、抗精神病薬をその後も継続しないと、数年で60~80%の患者が再発するが、治療継続によりでその再発率が減少する(維持療法)。この維持療法の継続については、初発の場合には1年、再発を繰返している場合には5年という目安が提唱されているが、個人差も大きい。 | |||
この維持療法の継続(アドヒアランス)は、統合失調症治療の課題である。アドヒアランスが低い理由には、その意義や重要性についての知識がない、精神症状のために服薬を忘れやすい、効果や副作用の個人差に合わせた調節が不十分、副作用のために服薬を望まない、妊娠・出産・授乳への影響の不安、服薬中止から病状悪化までに間隔がある、服薬の効果が目に見えず実感できない、などのことがある。 | この維持療法の継続(アドヒアランス)は、統合失調症治療の課題である。アドヒアランスが低い理由には、その意義や重要性についての知識がない、精神症状のために服薬を忘れやすい、効果や副作用の個人差に合わせた調節が不十分、副作用のために服薬を望まない、妊娠・出産・授乳への影響の不安、服薬中止から病状悪化までに間隔がある、服薬の効果が目に見えず実感できない、などのことがある。 | ||
| 202行目: | 202行目: | ||
#地域社会のなかで日常生活を送れるよう配慮すると、合併症や続発症が少ない | #地域社会のなかで日常生活を送れるよう配慮すると、合併症や続発症が少ない | ||
という指摘がある。 | という指摘がある。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||