「キネシン」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
6行目: 6行目:
== 細胞内物質輸送 ==
== 細胞内物質輸送 ==


[[Image:キネシンー図1|thumb|300px|'''図1 神経細胞における細胞内物質輸送'''(Hirokawa et al.(ref2)より改変)]]
[[Image:キネシンー図1|thumb|300px|'''図1 神経細胞における細胞内物質輸送'''<br>(Hirokawa et al.(ref2)より改変)]]


細胞はその形態形成、及び機能発現に必要なタンパク質を合成した後、多種類の膜小器官あるいはタンパク質複合体として必要とされる部位に適切に送り分けており、この細胞内物質輸送の機構は神経細胞や極性のある上皮細胞のみでなく、あらゆる細胞で細胞機能の重要な基盤となっている。 細胞内物質輸送を担うモータータンパク質には大きく分けて、キネシン、ダイニン、ミオシンの3つがある(図1)(ref2)。
細胞はその形態形成、及び機能発現に必要なタンパク質を合成した後、多種類の膜小器官あるいはタンパク質複合体として必要とされる部位に適切に送り分けており、この細胞内物質輸送の機構は神経細胞や極性のある上皮細胞のみでなく、あらゆる細胞で細胞機能の重要な基盤となっている。 細胞内物質輸送を担うモータータンパク質には大きく分けて、キネシン、ダイニン、ミオシンの3つがある(図1)(ref2)。
12行目: 12行目:


== キネシンスーパーファミリータンパク質(KIFs)の分類 ==
== キネシンスーパーファミリータンパク質(KIFs)の分類 ==
[[Image:キネシンー図2|thumb|300px|'''図2 (A)KIFsの分類 (B)KIFsの構造'''<br>(Hirokawa et al.(ref2)より改変)]]
[[Image:キネシンー図3|thumb|300px|'''図3KIFsのカーゴ認識機構の例'''<br>(A、B、C)KIFsは、多くはアダプター蛋白や足場蛋白を介して間接的に、まれには直接的にカーゴと結合し、輸送する。(Hirokawa et al.(ref2)より改変)]]
[[Image:キネシンー図2|thumb|300px|'''図2 (A)KIFsの分類 (B)KIFsの構造'''<br>(Hirokawa et al.(ref2)より改変)]]


 キネシンは、ATPを加水分解しながら、微小管に沿ってカーゴ(荷物)を輸送する。キネシンは遺伝子ファミリーを形成しており、キネシンスーパーファミリータンパク質(kinesin superfamily proteins, KIFs)と呼ばれ、哺乳類(マウス、ヒト)で45種類の遺伝子が同定されているが、mRNAスプライシングなどによる複数のアイソフォームの存在により、タンパク質としてはもっと多くの種類が存在する。KIFsは15個のファミリーから成り、分子内のモーター領域の存在部位によりN-KIFs(N末)、M-KIFs(中央)、C-KIFs(C末)に分けられる(図2)(ref2)。一般に、N-KIFsは微小管+(プラス)端へ、C-KIFsは微小管-(マイナス)端方向への輸送を行っており、M-KIFsは微小管の脱重合に関与している(ref1)。N-KIFsとC-KIFsはモーター領域(motor domain)、ストーク領域(stalk domain)、テイル領域(tail domain)より成り、モーター領域のアミノ酸配列の相同性は30~60%であるが、その他の部位のアミノ酸配列は各KIFsに特徴的で、多様性に富んでいる。モーター領域には微小管結合部位とATP結合部位があり、一般に、テイル領域(まれにストーク領域)が特異的なカーゴの認識や結合に関与している。各々KIFsは、多くはアダプター蛋白や足場蛋白を介して間接的に、まれには直接的にカーゴと結合し、これを輸送する(図3)(表1)(ref1)。カーゴとの結合・解離の制御には、リン酸化、Rab GTPase活性、Ca2+シグナリングによる制御が知られている(図4)(ref1)。
 キネシンは、ATPを加水分解しながら、微小管に沿ってカーゴ(荷物)を輸送する。キネシンは遺伝子ファミリーを形成しており、キネシンスーパーファミリータンパク質(kinesin superfamily proteins, KIFs)と呼ばれ、哺乳類(マウス、ヒト)で45種類の遺伝子が同定されているが、mRNAスプライシングなどによる複数のアイソフォームの存在により、タンパク質としてはもっと多くの種類が存在する。KIFsは15個のファミリーから成り、分子内のモーター領域の存在部位によりN-KIFs(N末)、M-KIFs(中央)、C-KIFs(C末)に分けられる(図2)(ref2)。一般に、N-KIFsは微小管+(プラス)端へ、C-KIFsは微小管-(マイナス)端方向への輸送を行っており、M-KIFsは微小管の脱重合に関与している(ref1)。N-KIFsとC-KIFsはモーター領域(motor domain)、ストーク領域(stalk domain)、テイル領域(tail domain)より成り、モーター領域のアミノ酸配列の相同性は30~60%であるが、その他の部位のアミノ酸配列は各KIFsに特徴的で、多様性に富んでいる。モーター領域には微小管結合部位とATP結合部位があり、一般に、テイル領域(まれにストーク領域)が特異的なカーゴの認識や結合に関与している。各々KIFsは、多くはアダプター蛋白や足場蛋白を介して間接的に、まれには直接的にカーゴと結合し、これを輸送する(図3)(表1)(ref1)。カーゴとの結合・解離の制御には、リン酸化、Rab GTPase活性、Ca2+シグナリングによる制御が知られている(図4)(ref1)。
54行目: 62行目:
 これまで、KIFsには、単なる細胞内物質輸送からでは想像できない、より多岐にわたる、生命活動に必須の生理学的意義を持つことが明らかになってきた。しかし、依然としてまだ多くのKIFsはそのカーゴや機能が明らかにされていない。さらに、KIFsによるカーゴの認識、結合、解離の詳細な機序もまだ不明の点が多い。言い換えれば、細胞にとって必須であるイオンチャネルや受容体などのタンパク質には、その細胞内動態及び輸送が未知であるものが多い。これらの解明は、細胞機能を理解する上で非常に重要である。さらに、いかにして同一のKIFが異なるカーゴの輸送を行っているか、また、いかにして同一のカーゴが異なる複数のKIFsに振り分けられているのか、これらの制御機構の解明も待たれる。近年、KIFsは、脳神経疾患をはじめとする様々な疾患との関連が示唆されており、病態解明や治療法の開発も含め、今後のさらなる研究が期待される。
 これまで、KIFsには、単なる細胞内物質輸送からでは想像できない、より多岐にわたる、生命活動に必須の生理学的意義を持つことが明らかになってきた。しかし、依然としてまだ多くのKIFsはそのカーゴや機能が明らかにされていない。さらに、KIFsによるカーゴの認識、結合、解離の詳細な機序もまだ不明の点が多い。言い換えれば、細胞にとって必須であるイオンチャネルや受容体などのタンパク質には、その細胞内動態及び輸送が未知であるものが多い。これらの解明は、細胞機能を理解する上で非常に重要である。さらに、いかにして同一のKIFが異なるカーゴの輸送を行っているか、また、いかにして同一のカーゴが異なる複数のKIFsに振り分けられているのか、これらの制御機構の解明も待たれる。近年、KIFsは、脳神経疾患をはじめとする様々な疾患との関連が示唆されており、病態解明や治療法の開発も含め、今後のさらなる研究が期待される。


図の説明(脚注)
図1
神経細胞における細胞内物質輸送
(Hirokawa et al.(ref2)より改変)


図2
(A)KIFsの分類
(B)KIFsの構造
(Hirokawa et al.(ref2)より改変)


図3
図3

案内メニュー