「Notchリガンド」の版間の差分

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==Notchシグナル伝達(概要)==
==Notchシグナル伝達(概要)==
 [[Notch]]シグナル伝達は進化的に保存されたシグナル伝達経路であり、様々な発生過程や組織の恒常性を制御し、幹細胞の維持に重要な役割を果たしている。Notchシグナルは隣接細胞間の相互作用によって伝達される。[[細胞膜]]上に発現したNotchレセプターが、隣接細胞上に発現したNotchリガンド(Delta, Jagged)と相互作用することによってシグナルが伝達される。細胞間相互作用によって、隣接細胞間で同じ細胞運命をたどることを抑制することを側方抑制(lateral inhibition)という。Notchシグナルを介した側方抑制により、様々な組織構築過程におけるパターン形成が行われている。また、Notchシグナルは[[細胞増殖]]、[[細胞分化]]、[[細胞死]]を制御することによって、組織構築を制御している1,10,15。
 [[Notch]]シグナル伝達は進化的に保存されたシグナル伝達経路であり、様々な発生過程や組織の恒常性を制御し、幹細胞の維持に重要な役割を果たしている。Notchシグナルは隣接細胞間の相互作用によって伝達される。[[細胞膜]]上に発現したNotchレセプターが、隣接細胞上に発現したNotchリガンド(Delta, Jagged)と相互作用することによってシグナルが伝達される。細胞間相互作用によって、隣接細胞間で同じ細胞運命をたどることを抑制することを側方抑制(lateral inhibition)という。Notchシグナルを介した側方抑制により、様々な組織構築過程におけるパターン形成が行われている。また、Notchシグナルは[[細胞増殖]]、[[細胞分化]]、[[細胞死]]を制御することによって、組織構築を制御している<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。


== 構造==
== 構造==
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#'''DSLモチーフ:DSL(Delta/Serrate/LAG-2)motif'''<br>リガンドタンパク質のN末端側、細胞外ドメインにあるモチーフ。
#'''DSLモチーフ:DSL(Delta/Serrate/LAG-2)motif'''<br>リガンドタンパク質のN末端側、細胞外ドメインにあるモチーフ。
#'''DOSドメイン:DOS(Delta and OSM-11-like)domain'''<br>特殊化された[[EGF]]リピート。DSLドメインとDOSドメインは両方ともNotchレセプターとの相互作用に関与する。
#'''DOSドメイン:DOS(Delta and OSM-11-like)domain'''<br>特殊化された[[EGF]]リピート。DSLドメインとDOSドメインは両方ともNotchレセプターとの相互作用に関与する。
#'''EGFリピート:EGF([[Epidermal growth factor]] (EGF))- like repeat'''<br>NotchレセプターのEGFリピート同様、[[カルシウムイオン]]が結合するものとしないものとがある。EGFリピートの最初の二つのリピートはDSLリガンドがNotchと結合するために必要なドメインである21,25。
#'''EGFリピート:EGF([[Epidermal growth factor]] (EGF))- like repeat'''<br>NotchレセプターのEGFリピート同様、[[カルシウムイオン]]が結合するものとしないものとがある。EGFリピートの最初の二つのリピートはDSLリガンドがNotchと結合するために必要なドメインである<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。
#'''Cysteine-rich ドメイン:Cysteine-rich domain
#'''Cysteine-rich ドメイン:Cysteine-rich domain
#'''膜貫通ドメイン:trans-membrane domain(TMD)
#'''膜貫通ドメイン:trans-membrane domain(TMD)
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 Notchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間での相互作用で、シグナルを伝達する際に起こるtrans-activationと、同一細胞内でのレセプターとリガンドの相互作用によって起こるcis-inhibitionとがある。
 Notchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間での相互作用で、シグナルを伝達する際に起こるtrans-activationと、同一細胞内でのレセプターとリガンドの相互作用によって起こるcis-inhibitionとがある。


#'''trans-activation'''<br>隣接細胞間でおこるtrans-activationは非常によく研究されており、発生過程や成体における幹細胞の維持を制御している。隣接細胞が膜表面上に提示するNotchリガンド(Delta, Jagged)とNotchレセプターが相互作用することによって、Notchレセプターの分解が段階的に進行し、Notchの細胞内ドメインが細胞膜上から核内へと輸送され標的遺伝子の[[プロモーター]]上に結合することで、シグナルが伝達される(詳しくはNotchの頁参照)。
#'''trans-activation'''<br>隣接細胞間でおこるtrans-activationは非常によく研究されており、発生過程や成体における幹細胞の維持を制御している。隣接細胞が膜表面上に提示するNotchリガンド(Delta, Jagged)とNotchレセプターが相互作用することによって、Notchレセプターの分解が段階的に進行し、Notchの細胞内ドメインが細胞膜上から核内へと輸送され標的遺伝子の[[プロモーター]]上に結合することで、シグナルが伝達される(詳しくは[[Notch]]の頁参照)。
#'''cis-inhibition5,29'''<br>同一細胞内におけるNotchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間でおこるtrans-activationとは異なり、Notchシグナルに対して抑制的に働くことから、cis-inhibitionと呼ばれる6,7,8,9,11,16,24。Cis-inhibitionの詳細な機序は不明な点が多いが、同一細胞内においてNotchとリガンドが相互作用することによって、Notchレセプターが細胞内にトラップされる。それによって膜表面上へと発現するNotchレセプターの数が減少することで、隣接細胞間におけるNotchシグナル伝達に抑制的に働くと考えられている。また、cis-inhibitionは一部のNotchシグナル依存的な発生過程に寄与していることが報告されている4,7,8,9。
#'''cis-inhibition'''<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref><br>同一細胞内におけるNotchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間でおこるtrans-activationとは異なり、Notchシグナルに対して抑制的に働くことから、cis-inhibitionと呼ばれる<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed></pubmed></ref>。Cis-inhibitionの詳細な機序は不明な点が多いが、同一細胞内においてNotchとリガンドが相互作用することによって、Notchレセプターが細胞内にトラップされる。それによって膜表面上へと発現するNotchレセプターの数が減少することで、隣接細胞間におけるNotchシグナル伝達に抑制的に働くと考えられている。また、cis-inhibitionは一部のNotchシグナル依存的な発生過程に寄与していることが報告されている<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7 /> <ref name=ref8 /> <ref name=ref9 />。


===Dll1タンパク質のオシレーション(発現振動)===
===Dll1タンパク質のオシレーション(発現振動)===
 哺乳動物の神経発生過程および体節形成過程においてDll1遺伝子は転写活性レベルおよびタンパク質レベルで発現振動している26,27。Dll1の発現は[[bHLH]]型[[抑制性]][[転写因子]][[Hes]]([[Hes1]], [[Hes7]])によって制御されている。Hes遺伝子が自身のネガティブフィードバックにより発現振動を示すため、Hesによる抑制を受けるDll1の発現も振動する。Dll1の発現振動は、神経発生過程では[[神経幹細胞]]の維持に寄与しておりDll1の発現振動がなくなると幹細胞の維持が障害される26,27。体節形成過程ではDll1の発現振動がなくなると時計遺伝子Hesの発現振動がなくなり体節形成および体軸の骨格異常が引き起こされる27。
 哺乳動物の神経発生過程および体節形成過程においてDll1遺伝子は転写活性レベルおよびタンパク質レベルで発現振動している<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>。Dll1の発現は[[bHLH]]型[[抑制性]][[転写因子]][[Hes]]([[Hes1]], [[Hes7]])によって制御されている。Hes遺伝子が自身のネガティブフィードバックにより発現振動を示すため、Hesによる抑制を受けるDll1の発現も振動する。Dll1の発現振動は、神経発生過程では[[神経幹細胞]]の維持に寄与しておりDll1の発現振動がなくなると幹細胞の維持が障害される<ref name=ref26 /> <ref name=ref27 />。体節形成過程ではDll1の発現振動がなくなると時計遺伝子Hesの発現振動がなくなり体節形成および体軸の骨格異常が引き起こされる27。


==DSLリガンドの活性を制御する修飾==
==DSLリガンドの活性を制御する修飾==
 DLSリガンドはタンパクの[[翻訳]]後、様々な修飾を受ける。この修飾過程によって、リガンドの活性が制御されていることが報告されている。
 DLSリガンドはタンパクの[[翻訳]]後、様々な修飾を受ける。この修飾過程によって、リガンドの活性が制御されていることが報告されている。
===糖鎖修飾===
===糖鎖修飾===
 Notchの糖鎖修飾(glycosylation)はリガンドの結合能を改変することで、リガンド活性を制御する上で重要な修飾である20,22,28。DSLリガンドおよびNotchレセプターのEGFリピート中にはO-fucoseやO-glucoseによって修飾される保存された配列があり、これらの糖タンパク質による修飾はNotchシグナルを調整することが報告されている。
 Notchの糖鎖修飾(glycosylation)はリガンドの結合能を改変することで、リガンド活性を制御する上で重要な修飾である<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。DSLリガンドおよびNotchレセプターのEGFリピート中にはO-fucoseやO-glucoseによって修飾される保存された配列があり、これらの糖タンパク質による修飾はNotchシグナルを調整することが報告されている。


糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)
糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)
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===ユビキチン修飾===
===ユビキチン修飾===
 DSLリガンドのユビキチン修飾(ubiquitination)は、リガンドのシグナル活性と細胞膜上の発現を制御する3,12,13,17。これらのリガンドのE3 ligaseは、Neuralized(Neur)やMind bomb(Mib)である。DSLリガンドのユビキチン修飾は、リガンドのエンドサイトーシスを促進することで、Notchシグナルの活性化を制御する(哺乳動物においてはMibのみがその活性を有する)。
 DSLリガンドのユビキチン修飾(ubiquitination)は、リガンドのシグナル活性と細胞膜上の発現を制御する<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。これらのリガンドのE3 ligaseは、Neuralized(Neur)やMind bomb(Mib)である。DSLリガンドのユビキチン修飾は、リガンドのエンドサイトーシスを促進することで、Notchシグナルの活性化を制御する(哺乳動物においてはMibのみがその活性を有する)。


 またエンドサイトーシスだけではなく、ユビキチン修飾によってDSLリガンドの細胞内輸送や分解も制御されている。
 またエンドサイトーシスだけではなく、ユビキチン修飾によってDSLリガンドの細胞内輸送や分解も制御されている。
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 DeltaやJaggedといったNotchリガンドはNotchシグナルを活性化させる役割を果たすため、これらの因子の欠損によって様々な疾患が引き起こされることが知られている。
 DeltaやJaggedといったNotchリガンドはNotchシグナルを活性化させる役割を果たすため、これらの因子の欠損によって様々な疾患が引き起こされることが知られている。


*Alagille syndrome(Jagged1遺伝子における変異)14,19
*Alagille syndrome(Jagged1遺伝子における変異)<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>
*Spondylocostal dysostosis(Dll3遺伝子における変異)2
*Spondylocostal dysostosis(Dll3遺伝子における変異)<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>
*Curb tumor angiogenesis(Dll4遺伝子における変異)18,23<br>
*Curb tumor angiogenesis(Dll4遺伝子における変異)<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref><br>
など
など


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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