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担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | ||
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{{box| | {{box|text= 一段落程度の抄録をお願い致します。}} | ||
==Notchとは== | ==Notchとは== | ||
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==構造== | ==構造== | ||
[[image:Notch_fig2.png|350px|thumb|'''図2.哺乳動物Notch1タンパク分子の構造'''<br>Notch1は、細胞外領域から順番に、(1)EGFリピート、(2)LNR (Lin12-Notch repeat)、(3)NRR(negative regulatory region)、(4)膜貫通ドメイン、(5)RAMドメイン、(6)アンキリンリピート、(7)核移行ドメイン、(8)PESTドメインにより構成される大きな分子である。]] | [[image:Notch_fig2.png|350px|thumb|'''図2.哺乳動物Notch1タンパク分子の構造'''<br>Notch1は、細胞外領域から順番に、(1)EGFリピート、(2)LNR (Lin12-Notch repeat)、(3)NRR(negative regulatory region)、(4)膜貫通ドメイン、(5)RAMドメイン、(6)アンキリンリピート、(7)核移行ドメイン、(8)PESTドメインにより構成される大きな分子である。]] | ||
Notchは1回膜貫通型タンパク質である。 | |||
巨大な分子構造を持つNotchタンパク質には生物種間で保存された幾つかのモチーフがある。細胞外領域(N末端側)から列記する(図2)<ref name=ref3 /><ref name=ref13 />。 | 巨大な分子構造を持つNotchタンパク質には生物種間で保存された幾つかのモチーフがある。細胞外領域(N末端側)から列記する(図2)<ref name=ref3 /><ref name=ref13 />。 | ||
#'''[[EGF]]リピート ([[epidermal growth factor]] (EGF)-like repeats)''' | #'''[[EGF]]リピート ([[epidermal growth factor]] (EGF)-like repeats)''' Notchレセプターの細胞外ドメインには、29〜36個のタンデムにつながったEGFリピートがあり、この領域でリガンドと相互作用する。隣接細胞間とのシグナル伝達(''trans''-interactions)は、11番目と12番目のEGFリピートによってなされる。また、同一細胞内におけるリガンド分子との相互作用(''cis''-inhibition)においては、24〜29番目のEGFリピートを介して起こる。EGFリピートの多くは[[カルシウムイオン]]と結合することが知られているが、これらのカルシウムイオンはNotchレセプターの構造やリガンド分子との親和性を制御することによって、シグナル伝達効率を制御していると考えられている<ref name=ref5><pubmed>18296446</pubmed></ref><ref name=ref17><pubmed>14712268</pubmed></ref>。 | ||
#'''LNR(Lin12-Notch repeat)''' | #'''LNR(Lin12-Notch repeat)''' EGFリピートの後に続くリピート配列。NRRに含まれる。 | ||
#'''NRR (negative regulatory region)''' | #'''NRR (negative regulatory region)''' LNR(Lin12-Notch repeat)およびHDドメイン(heterodimerization domain)より成る。リガンドがない状態でレセプターが活性化するのを抑制している。 | ||
#'''膜貫通ドメイン (transmembrane domain; TMD)''' | #'''膜貫通ドメイン (transmembrane domain; TMD)''' | ||
#'''RAMドメイン (RBPjκ association module domain)''' | #'''RAMドメイン (RBPjκ association module domain)''' 核内へ運ばれた後、DNA結合タンパク質であるCSL(CBF1/RBPjκ/Su(H)/Lag-1)に強く結合する領域。 | ||
#'''アンキリンリピート (ankyrin repeats, ANK domain)''' | #'''アンキリンリピート (ankyrin repeats, ANK domain)''' 7つのアンキリン配列が連なった領域。CSLと結合しコアクチベーターであるMastermind/Lag-3をリクルートする。 | ||
#'''核移行配列 (nuclear localization sequences, NLS)''' | #'''核移行配列 (nuclear localization sequences, NLS)''' | ||
#'''PEST配列 (proline/glutamic acid/serine/threonine-rich motives, PEST)''' | #'''PEST配列 (proline/glutamic acid/serine/threonine-rich motives, PEST)''' 分解促進配列。NICDの安定性を制御する。 | ||
==Notchレセプターの種類== | ==Notchレセプターの種類== | ||
ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)では1種類のNotchレセプター(Notch)があるのに対し、[[線虫]]([[Caenorhabditis elegans]])では2種類のNotchレセプター([[LIN12]], [[GLP1]])、[[哺乳類]]では4種類のNotchパラログ([[Notch1]]-[[Notch4|4]])が報告されている。 | |||
==機能== | ==機能== | ||
=== | ===活性化とプロセシング=== | ||
Notchレセプターの活性化にはタンパク質分解過程が連続的に起こることが重要である<ref name=ref3 /> <ref name=ref11 />。 | Notchレセプターの活性化にはタンパク質分解過程が連続的に起こることが重要である<ref name=ref3 /> <ref name=ref11 />。 | ||
#'''S1 cleavage: Furin cleavage''' | #'''S1 cleavage: Furin cleavage''' Notchレセプタータンパク質が[[翻訳]]され細胞膜へと輸送される間に、Notchタンパク質は[[ゴルジ装置]]へと運ばれ、[[Furin]]によって最初の切断をうける。この過程によってNotchレセプターはS1(site1)部分で半分に切断される。切り出された二つの領域は、HDドメインにて非共有結合によって結合したヘテロ二量体を形成する。ヘテロ二量体となったNotchレセプターは細胞表面へと輸送され、細胞外ドメインを外に出してリガンド分子との相互作用に備える。 | ||
#'''S2 cleavage: [[ADAM]] cleavage''' | #'''S2 cleavage: [[ADAM]] cleavage''' Notchレセプターと隣接細胞上のリガンドとの相互作用は、[[ADAM]]([[a disintegrin and metaloprotease]])タンパク質分解酵素による切断を誘導する。ADAMタンパク質分解酵素による切断は、S2領域で起こる。この領域はNRRドメインによって普段は奥まった場所に位置しており保護されている。この切断のプロセスはNotchシグナル伝達において重要なステップである。 | ||
#'''S3/S4 cleavage: γ-secretase cleavage''' | #'''S3/S4 cleavage: γ-secretase cleavage''' ADAMタンパク質分解酵素によるNotchレセプターの細胞外領域における切断は、次に[[γセクレターゼ]]による分解を誘導する。これによって生じた膜に繋がれたNotchの細胞内ドメインは、Notch extracellular truncation(NEXT)と呼ばれる。γセクレターゼは膜内タンパク質分解酵素であり<ref name=ref22><pubmed>15326347</pubmed></ref>、NEXTを膜貫通ドメイン(TMD)のS3およびS4の領域で切断する。γセクレターゼの切断が起こらないと、NICDの核内への輸送は起こらない。NICDは核内へと運ばれた後、[[RBPj]]/[[CSL]]と結合し、コアクチベーターと複合体を形成して、[[転写因子]]群の転写を活性化する。 | ||
===標的遺伝子=== | |||
哺乳動物の神経系におけるNotchシグナルの標的遺伝子は、[[bHLH]]型[[抑制性]]転写因子をコードする[[HESファミリー|Hesファミリー]]遺伝子([[Hes1]], [[Hes5]])<ref name=ref15><pubmed>10205173</pubmed></ref>および[[Hes-related]]遺伝子([[Hey1]], [[Hey2]])<ref name=ref19><pubmed>12947105</pubmed></ref>が報告されている。Hesファミリー遺伝子は神経[[分化]]を誘導する[[プロニューラル遺伝子]]([[Ascl1]]や[[Neurogenin]])の発現や機能を抑制することによって、幹細胞がニューロンへと分化しないように機能している。また、[[BLBP]]([[brain lipid-binding protein]])もNotchシグナルによって直接制御されていることが報告されている<ref name=ref1><pubmed>15879553</pubmed></ref>。 | |||
=== | ===神経発生における役割=== | ||
哺乳動物の神経発生においてNotchシグナルは、[[神経幹細胞]]の維持に重要な機能を果たしている。また発生過程の網膜において[[ミュラーグリア]]への運命決定に寄与するなど、[[グリア細胞]]の運命決定にもNotchが寄与している。 | |||
さらに中枢神経系において、[[Zli]]、[[Isthmus]](<u>編集部コメント:日本語はあるでしょう。</u>)、[[底板]]、[[蓋板]]といった領域の境界を形成する構造の形成にも機能していることが報告されている<ref name=ref2><pubmed>16728479</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>15068793</pubmed></ref>。 | |||
====神経幹細胞維持==== | |||
==== | 隣接細胞が発現する[[Delta]]によって活性化されたNotchレセプターは、細胞膜上でレセプターのタンパク質が切り出され、細胞内ドメイン(NICD: Notch intracellular domain)が核内へと移行しNotchシグナルが活性化される。NICDの過剰発現により神経幹細胞からのニューロン分化は抑制される。また、Notchシグナルが活性化された細胞においては、bHLH型抑制性転写因子Hes1、Hes5が発現し、これらの因子がプロニューラル遺伝子の発現や機能を抑制することによって、幹細胞の未分化性を維持している<ref name=ref10><pubmed>7909512</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>11399758</pubmed></ref> <ref name=ref19 />。 | ||
====グリア細胞分化==== | |||
==== | [[神経幹細胞]]から神経細胞が分化した後、Notchシグナルは[[グリア]]細胞の分化に寄与していることが報告されている。発生過程の[[網膜]]においてHes1の過剰発現によりミュラーグリアの産生が亢進されるのに対して、Hes1の[[ドミナントネガティブ]]による機能阻害によって、産生されるグリアの数が減少する<ref name=ref6><pubmed>10839357</pubmed></ref>。またHes5の過剰発現、欠損による実験においても同様の結果が報告されている<ref name=ref9><pubmed>10821751</pubmed></ref>。 | ||
== | ==疾患との関連== | ||
Notchシグナル伝達は発生過程および成体の幹細胞維持において重要な機能を果たしているため、このシグナル伝達における欠陥は様々な疾患を引き起こすことが知られている。 | Notchシグナル伝達は発生過程および成体の幹細胞維持において重要な機能を果たしているため、このシグナル伝達における欠陥は様々な疾患を引き起こすことが知られている。 | ||
(<u>編集部コメント:箇条書きになっていたものを表に致しました。ご確認ください。また、それぞれ簡単にどのように関連しているかをいただければと思います。</u>) | |||
発生過程における疾患<ref name=ref7><pubmed>16025100</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>12668592</pubmed></ref> | {| class="wikitable" | ||
* | |+表. Notchシグナル伝達が関与する疾患 | ||
* | |- | ||
* | | '''発生過程における疾患'''<ref name=ref7><pubmed>16025100</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>12668592</pubmed></ref> | ||
* | *[[アラジール症候群]] | ||
* | *[[wj:ファロー四徵症|ファロー四徵症]] | ||
*[[wj:合指症|合指症]] | |||
*[[wj:脊椎肋骨異骨症|脊椎肋骨異骨症]] | |||
*[[wj:家族性大動脈弁弁膜症|家族性大動脈弁弁膜症]] | |||
|- | |||
| '''成体における疾患'''<ref name=ref12><pubmed>16508299</pubmed></ref> | |||
*[[皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症]] ([[Cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy]], [[CADASIL]]) | |||
*癌<ref name=ref14><pubmed>17183313</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>17183323</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>15959515</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>15326347</pubmed></ref>(<u>編集部コメント:白血病はガンに分類されないかと思います。</u>) | |||
**[[wj:T細胞急性リンパ芽球性白血病|T細胞急性リンパ芽球性白血病]] | |||
**[[wj:大腸ガン|大腸ガン]] | |||
**Curb tumor angiogenesis (<u>編集部コメント:日本語訳をお願い致します</u>) | |||
|} | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |