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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080375 吉川 武男]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080375 吉川 武男]</font><br> | ||
''国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | ''国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月17日 原稿完成日:2015年12月30日 改訂版受付日:2016年11月2日 改訂版完成日:201X年XX月XX日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学)<br> | ||
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* | *[[wj:円錐動脈幹異常|円錐動脈幹異常]]などの[[wj:先天性心疾患|先天性心疾患]] | ||
*[[wj:チアノーゼ|チアノーゼ]] | *[[wj:チアノーゼ|チアノーゼ]] | ||
*[[wj:粘膜下口蓋裂|粘膜下口蓋裂]]や[[wj:口蓋裂|口蓋裂]]などの[[wj:鼻咽腔閉鎖機能不全|鼻咽腔閉鎖機能不全]] | *[[wj:粘膜下口蓋裂|粘膜下口蓋裂]]や[[wj:口蓋裂|口蓋裂]]などの[[wj:鼻咽腔閉鎖機能不全|鼻咽腔閉鎖機能不全]] | ||
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精神疾患に関しては、22q11.2欠失は稀な染色体数変異(rare copy number variants)と呼ばれるもので、統合失調症と診断された患者群の0.2-0.3%、自閉症スペクトラム障害と診断された患者群の0.07%に存在する。研究初期の小規模の統合失調症サンプルではより高率で22q11.2欠失が見つかるとの報告もあったが、最近の大規模研究でこの主張は否定されている<ref name=ref7 /> <ref name=ref13><pubmed>24311552</pubmed></ref>。また、自閉症スペクトラム障害は22q11.2欠失では生じないとの一部研究者の主張も、大規模研究では支持されていない<ref name=ref7 />。 | 精神疾患に関しては、22q11.2欠失は稀な染色体数変異(rare copy number variants)と呼ばれるもので、統合失調症と診断された患者群の0.2-0.3%、自閉症スペクトラム障害と診断された患者群の0.07%に存在する。研究初期の小規模の統合失調症サンプルではより高率で22q11.2欠失が見つかるとの報告もあったが、最近の大規模研究でこの主張は否定されている<ref name=ref7 /> <ref name=ref13><pubmed>24311552</pubmed></ref>。また、自閉症スペクトラム障害は22q11.2欠失では生じないとの一部研究者の主張も、大規模研究では支持されていない<ref name=ref7 />。 | ||
22q11.2重複は健常人では0.08% | 22q11.2重複は健常人では0.08%で見られるが、知的障害、[[発達遅延]]、[[wj:先天性形成異常|先天性形成異常]]を持つものでは0.32%、自閉症スペクトラム障害児では0.28%と健常人よりも有意に高い率で見つかっている<ref name=ref7 />。 | ||
==病態生理== | ==病態生理== | ||
=== | === 染色体異常 === | ||
22q11.2欠失は、[[ヒト]]22番染色体長腕のq11.2領域における1コピーの欠失による。大多数においては3 Mbの欠失、残りは3 Mb 部位の内側にある1.5 Mbや2 Mb欠失、あるいは3 Mbを含みそれ大きな以上の染色体欠失である。これらの領域から離れた部位での欠失も1%以下のケースでみられる<ref name=ref14><pubmed>9106531</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>23245648</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>17028864</pubmed></ref>。22q11.2重複も、欠失と同じ部位での3 Mbあるいはその内側での 1.5 Mb重複として起こる。22q11.2欠失は両親の一方から受け継いだケースがみられるが、新規な遺伝子異常(''de novo'')のケースの方が多い<ref name=ref17><pubmed> 24395195</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>9350810</pubmed></ref>。一方で22q11.2重複は、逆に両親の一方から遺伝して生じる方が新規な遺伝子異常のケースより多いと推定されている<ref name=ref19><pubmed>25118001</pubmed></ref>。欠失や重複の起始点や終着点が同一箇所になるのは、[[low copy repeats]](LCR)と呼ばれる染色体部位でのゲノム再編成によると考えられている。 | 22q11.2欠失は、[[ヒト]]22番染色体長腕のq11.2領域における1コピーの欠失による。大多数においては3 Mbの欠失、残りは3 Mb 部位の内側にある1.5 Mbや2 Mb欠失、あるいは3 Mbを含みそれ大きな以上の染色体欠失である。これらの領域から離れた部位での欠失も1%以下のケースでみられる<ref name=ref14><pubmed>9106531</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>23245648</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>17028864</pubmed></ref>。22q11.2重複も、欠失と同じ部位での3 Mbあるいはその内側での 1.5 Mb重複として起こる。22q11.2欠失は両親の一方から受け継いだケースがみられるが、新規な遺伝子異常(''de novo'')のケースの方が多い<ref name=ref17><pubmed> 24395195</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>9350810</pubmed></ref>。一方で22q11.2重複は、逆に両親の一方から遺伝して生じる方が新規な遺伝子異常のケースより多いと推定されている<ref name=ref19><pubmed>25118001</pubmed></ref>。欠失や重複の起始点や終着点が同一箇所になるのは、[[low copy repeats]](LCR)と呼ばれる染色体部位でのゲノム再編成によると考えられている。 | ||
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ヒトでは、22q11.2欠失・重複領域内にある単一遺伝子のCNVは報告されていないため、個々の遺伝子がどの症状にどのように関与しているかについては、詳細は不明である。ただ、[[TBX1|''TBX1'']]遺伝子の機能欠失型変異を持つ家系は数例報告されており、これらの家系では[[心臓|心]]疾患、[[副甲状腺]]機能低下症、典型的な顔貌、知能発達遅延、自閉症スペクトラム障害、[[広汎性発達障害]]、等が見られることから、''TBX1''の22q11.2欠失症候群における一部の症状への寄与が推定されている<ref name=ref22><pubmed>11748311</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>24637876</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16684884</pubmed></ref>。 | ヒトでは、22q11.2欠失・重複領域内にある単一遺伝子のCNVは報告されていないため、個々の遺伝子がどの症状にどのように関与しているかについては、詳細は不明である。ただ、[[TBX1|''TBX1'']]遺伝子の機能欠失型変異を持つ家系は数例報告されており、これらの家系では[[心臓|心]]疾患、[[副甲状腺]]機能低下症、典型的な顔貌、知能発達遅延、自閉症スペクトラム障害、[[広汎性発達障害]]、等が見られることから、''TBX1''の22q11.2欠失症候群における一部の症状への寄与が推定されている<ref name=ref22><pubmed>11748311</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>24637876</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16684884</pubmed></ref>。 | ||
===iPS細胞を用いた研究=== | |||
22q11.2欠失を持ちかつ統合失調症を発症した患者から[[iPS細胞]]を樹立し、それを分化させた[[ニューロスフェア]]([[神経幹細胞|神経幹]]/[[神経前駆細胞|前駆細胞]]の塊)、[[神経細胞]]、[[グリア細胞|グリア]]系の細胞の解析から得られた知見として、 | |||
#患者由来のニューロスフィアのサイズは健常者と比べて約30%小さい | |||
#このニューロスフィアを神経系の細胞(神経細胞とグリア細胞)に分化誘導したところ、患者由来のニューロスフィアは健常者由来と比べて神経細胞に分化する割合が約10%低く、[[アストロサイト]](グリア細胞の一種)に分化する割合が約10%高い、 | |||
#患者由来のニューロスフィアのサイズ減少には、[[miR-17]]/[[miR-92|92]]のmiRNAや[[miR-106a]]/[[miR-106b|b]]、[[miRNA-185]]の発現低下が関与している、 | |||
#miRNAの異常は、欠失領域にマップされていて成熟miRNAの形成に関与する[[DGCR8]]の影響と考えられる、 | |||
#上記miRNAの発現低下が標的の1つである[[p38α]] ([[MAPK14]])の発現上昇を引き起こし、患者由来のニューロスフィアでみられた分化効率の異常につながると考えらる。実際患者由来のニューロスフィアにおけるp38αの発現量を調べた結果、健常者由来のニューロスフィアに比べて約30%上昇しており、p38の[[阻害剤]]によって患者由来のニューロスフィアの分化効率を改善できた、 | |||
#死後脳解析においても、健常者の死後脳と比べて患者の死後脳(統合失調症群)では神経細胞のマーカーである[[MAP2]]遺伝子の発現量の低下と、アストロサイトのマーカーである[[GFAP]]遺伝子の発現量の上昇がみられた、 | |||
等が報告されている<ref><pubmed>27801899</pubmed></ref>。 | |||
=== 病態動物モデル=== | === 病態動物モデル=== | ||
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[[Sept5|''Sept5'']]欠損マウスは、社会行動に選択的な異常を示す<ref name=ref21 /> <ref name=ref30><pubmed>22589251</pubmed></ref>。認知機能の重要な要素である[[作業記憶]]は、''Tbx1''欠損28および''Dgcr8''欠損<ref name=ref31><pubmed>24904170</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>23719809</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>18469815</pubmed></ref>で異常を呈する。 | [[Sept5|''Sept5'']]欠損マウスは、社会行動に選択的な異常を示す<ref name=ref21 /> <ref name=ref30><pubmed>22589251</pubmed></ref>。認知機能の重要な要素である[[作業記憶]]は、''Tbx1''欠損28および''Dgcr8''欠損<ref name=ref31><pubmed>24904170</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>23719809</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>18469815</pubmed></ref>で異常を呈する。 | ||
22q11.2重複については、ヒト22q11.2ゲノム領域を含んだ[[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|BAC]]([[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|bacterial artificial chromosome]])クローンを用いて[[トランスジェニックマウス]]を作成し、複数遺伝子を過剰発現させた場合の解析が進んでいる<ref name=ref5 />。''SEPT5''、[[GP1BB|''GP1BB'']]、''TBX1''、[[GNB1|''GNB1L'']]を含む200 kbのヒト22q11.2相当部位を過剰発現させたマウスでは、[[抗精神薬]] | 22q11.2重複については、ヒト22q11.2ゲノム領域を含んだ[[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|BAC]]([[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|bacterial artificial chromosome]])クローンを用いて[[トランスジェニックマウス]]を作成し、複数遺伝子を過剰発現させた場合の解析が進んでいる<ref name=ref5 />。''SEPT5''、[[GP1BB|''GP1BB'']]、''TBX1''、[[GNB1|''GNB1L'']]を含む200 kbのヒト22q11.2相当部位を過剰発現させたマウスでは、[[抗精神薬]](<u>編集部コメント:向精神薬か、抗精神病薬のいずれかと思います。</u>)で抑えられる活動量亢進を示し、[[社会行動]]の低下がみられた<ref name=ref34><pubmed>16365290</pubmed></ref>。その隣接部位190 kbの染色体領域は、[[TXNRD2|''TXNRD2'']]、[[COMT|''COMT'']]、[[ARVCF|''ARVCF'']]を含み、この部位の過剰発現は[[作業記憶]]を選択的に障害した<ref name=ref35><pubmed>19617637</pubmed></ref>。これらの遺伝子の過剰発現が、さまざまな精神疾患のいろいろな側面に関与していると推定されている。 | ||
==治療== | ==治療== | ||
現時点で22q11. | 現時点で22q11.2欠失・重複自体の治療法はないが、症候群内の個々の症状に対してはさまざまな治療法が施されている。心臓疾患は修復外科手術により生存率が高まり、胸腺欠如は[[wj:胸腺|胸腺]][[wj:移植|移植]]手術によって機能が回復し、[[wikipedia:ja:細菌|細菌]][[wikipedia:ja:感染症|感染症]]は[[wikipedia:ja:抗生物質|抗生物質]]で対処できる。[[wj:副甲状腺|副甲状腺]]機能低下症に起因する[[wikipedia:ja:低カルシウム血症|低カルシウム血症]]は、[[wikipedia:ja:ビタミンD|ビタミンD]]や[[カルシウム]]サプリメントで補正される。精神症状には[[向精神薬]]等が用いられる。認知機能の遅れや[[知的障害]]、[[学習困難]]に対しては、専門機関、専門家による療育プログラムが施行されている。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |