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58)Frederikse M, Petrides G, Kellner C: Continuation and maintenance electroconvulsive therapy for the treatment of depressive illness: a response to the National Institute for Clinical Excellence report. J ECT 22: 13-17, 2006 | 58)Frederikse M, Petrides G, Kellner C: Continuation and maintenance electroconvulsive therapy for the treatment of depressive illness: a response to the National Institute for Clinical Excellence report. J ECT 22: 13-17, 2006 | ||
=== | ==ECTの副作用== | ||
===致死的副作用=== | |||
ECTによる最も重篤な副作用は死亡であり、概ね5~8万治療回数に1回程度の頻度とされている(8,54,61,62)。これは全身麻酔や歯科麻酔の危険率にほぼ相当するとされる。ECTは1クールで計8回の治療回数とすると、1クールでの死亡リスクは1万クールに1回程度と推測され、主な死因はけいれん直後や回復期の心血管系合併症が多いと考えられる(63,64)。わが国では1998年に非修正型ECT後の嘔吐に基づく窒息による死亡例の報告があり、ECT前管理の重要性が指摘されている(65)。<br> | |||
61) Abrams R : The mortality rate with ECT. Convulsive Ther, 13 :125-127, 1997 | |||
62) Shiwach RS1, Reid WH, Carmody TJ. An analysis of reported deaths following electroconvulsive therapy in Texas, 1993-1998.Psychiatr Serv. 2001 Aug;52(8):1095-7. | |||
63)Ali PB, Tidmarsh MD : Cardiac rupture during electroconvulsive therapy. Anaesthesia, 52 : 884-885, 1997 | |||
64)Levin L, Wambold D, Viguera A et al. : Hemodynamic responses to ECT in a patient to critical aortic stenosis. J ECT, 52 : 884-885, 1997 | |||
65)Zhu B-L, Ishida K, Oritani S et al.: Sudden death following psychiatric electroconvulsive therapy ; a case report. Jpn J Legal Med, 52 : 149-152, 1998 | |||
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.===心血管性合併症=== | |||
ECTは標準的の施行方法では約8秒間の通電を行うが、通電により迷走神経を直接刺激して副交感神経優位となり、発作中は交感神経が、発作終了後には再び副交感神経が優位となる。通電直後の副交感神経優位状態では徐脈、洞停止、血圧低下などが一過性に起こることがあり、発作中の交感神経優位状態では、頻脈・高血圧が起こることがあり間代期が終了するまで持続する(9)。このような短時間の内に急激に生じる生理学的変化に対して、ECT中は麻酔科医によるバイタルモニターと全身管理が必要になる。副交感神経反応抑制には硫酸アトロピン等の抗コリン薬の術前投与が有効である。高血圧に対しては高血圧症を合併症に持つ場合は朝の降圧剤を服用し、必要に応じてジルチアゼム・ニカルジピン等のカルシウム拮抗薬をECT直前か直後に静注する。特に従来からの心血管系合併症を持つ患者では十分な注意が必要である。<br> | |||
===認知機能障害、意識障害=== | |||
ECTの副作用として出現する認知機能障害には発作後錯乱、発作間せん妄、健忘がある(66)。<br> | |||
発作後錯乱は、ECT終了後の麻酔覚醒時に数分から数時間の錯乱状態を示すもので、興奮や焦燥感が強い場合はベンゾジアゼピンや静脈麻酔薬の静注での追加投与が必要となる場合がある。<br> | |||
発作間せん妄は、ECT治療を続けている間、せん妄状態を呈することがあるが、一般的には治療終了とともに速やかに消失するものであり、ECTの継続が望ましい場合はやむを得ず抗精神病薬などでせん妄治療を行う必要がある。<br> | |||
健忘は前向性健忘と逆行性健忘があり、共にECT終了後数日から数週で消失することが多いが、前向性健忘は速やかに回復するのに対し、逆行性健忘は回復に比較的時間がかかることがあり、時にECT治療中や開始直前の記憶は欠けたままのこともある。 | |||
エピソード記憶より意味記憶のほうが、遠隔記憶より近時記憶のほうがが障害されやすい(67)。<br> | |||
認知機能障害の頻度は、片側性より両側性が、刺激強度が低用量より高用量の方が、パルス波よりサイン波の方が、認知障害の頻度が高いとされる(21,68)。その他、治療回数が多い、治療間隔が短い、患者年齢が高い、既存の認知障害の存在は認知機能障害のリスクの増加に関連する。<br> | |||
認知機能障害が出現した時は、電極配置を両側性から片側性への変更する、治療間隔をあける、刺激強度を下げる、認知障害に関与している併用薬を見直す等の対策(54)が行われることが望ましい。<br> | |||
記憶障害はECT中の低酸素と関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要である(69)。またケタミン麻酔は神経保護作用を持ち、認知機能障害を低減する可能性が示唆されている(70.71)。<br> | |||
認知機能障害はECTコース中に生じやすいがECT終了して約2週間経過すると治療前の水準以上となるという報告(72)があり、うつ病そのものによる認知障害はECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、鑑別しなければならない。<br> | |||
副作用としての認知障害を正しく評価するためには、ECT前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の認知機能評価が重要である。<br> | |||
ECTの反復施行による認知機能障害の進行は否定的に考えられており(73)、MRIやCTを用いたECTによる脳構造への障害についてのメタ解析では、脳構造への障害は示されなかった(69)。<br> | |||
66)Beyer JL, Weiner RD, Glenn MD : Electroconvulsive therapy. A programmed test 2 nd, American Psychiatric Press, Washington DC, 1998 | |||
67) Lisanby SH, Maddox JH, Prudic J, Devanand DP, Sackeim HA.The effects of electroconvulsive therapy on memory of autobiographical and public events.Arch Gen Psychiatry. 2000 Jun;57(6):581-90. | |||
68) Weiner RD, Rogers HJ, Davidson JR, et al.: Effects of stimulus parameters on cognitive side effects. Ann N Y Acad Sci 462: 315-325, 1986 | |||
69)Devanand DP, Dwork AJ, Hutchinson ER, et al.: Does ECT alter brain structure? Am J Psychiatry 151: 957-970, 1994 | |||
70) McDaniel WW, Sahota AK, Vyas BV, et al : Ketamine appears associated with better word recall than etomidate after a course of 6 electroconvulsive therapies. J ECT 22 : 103-6, 2006 | |||
71) MacPherson RD, Loo CK. : Cognitive impairment following electroconvulsive therapy--does the choice of anesthetic agent make a difference? J ECT 24 : 52-6, 2008 | |||
72) Semkovska M, McLoughlin DM: Objective cognitive performance associated with electroconvulsive therapy for depression: a systematic review and meta-analysis. Biol Psychiatry 68: 568-577, 2010. | |||
73) Barnes RC, Hussein A, Anderson DN et al : Maintenance electroconvulsive therapy and cognitive function. Br J Psychiatry, 170 : 285-287, 1997 | |||
===その他の合併症=== | |||
その他の合併症では、ECTの通電直後に、けいれん重積、遷延性けいれん、遷延性無呼吸がごくまれに起きることがある。またECTからの覚醒後に出現し数時間持続する副作用として、頭痛、筋肉痛、嘔気は比較的多い(66)。<br> | |||
頭痛は側頭筋の通電による直接刺激や脳循環動態変化によると考えられ、一過性であり、消炎鎮痛剤に反応しやすい。<br> | |||
筋肉痛は通電による筋肉の収縮やサクシニルコリンによる筋線維束性収縮によると考えられ、一過性で消炎鎮痛剤に反応しやすいが、持続性のものではサクシニルコリンの量を減量するか、ベクロニウムなどに変更する。<br> | |||
嘔気は、麻酔薬、けいれん発作、強制換気による胃内空気の影響と考えられる。誤嚥予防に前日の絶飲食と制酸剤による前処置が重要である。<br> | |||
歯科的損傷は、咬筋の収縮により歯や口腔内の損傷が起こり得るため、ECT前の口腔内診察および通電前にバイトブロックを使用することが重要である。<br> | |||
遷延性けいれんは、通常2分未満であるけいれん発作が、3分以上けいれんが続く場合で、筋弛緩薬により運動成分が目立たないことがあり脳波モニターで判断する。初回治療(投与電気量が不明)、ベンゾジアゼピン退薬者、けいれん誘発物質(カフェイン、テオフィリン)やリチウムの同時投与者、てんかんや発作性脳波異常の合併、電解質異常や脳器質疾患の合併で起こりやすい。処置としては、酸素投与を続け、麻酔薬を追加するかミタゾラムやジアゼパムを静脈内投与する。<br> | |||
遅発性けいれんは稀であり、ECT終了後の自発的なけいれんの頻度は一般人口と差がないとされる。<br> | |||
遷延性無呼吸は、サクシニルコリンの代謝障害に伴い、遷延性無呼吸が起こる可能性がある。患者の自発呼吸が安定するまでの陽圧換気が必要となる。<br> | |||
双極性障害患者ではうつ状態に対するECT治療中に躁転することがある(74)。この場合、ECTの抗躁効果を期待してさらにECTを継続する場合と、ECTを終了し薬物療法に変更する場合がある。躁転はECT後の軽度の意識障害による脱抑制との鑑別が難しいことがあり、認知機能や脳波の評価が重要である。<br> | |||
74)Devanand DP, Sackeim HA, Decina P, Prudic J : The development of mania and organic euphoria during ECT, J Clin Psychiatry, 49 : 69-71, 1988 |
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