「視覚性トップダウン型注意とボトムアップ型注意」の版間の差分

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[[image:topdownbottomup1.png|thumb|300px|'''図1.ボトムアップ型注意とトップダウン型注意''']]
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 注意には2種類のメカニズムが存在すると考えられており、刺激検出課題<ref name=ref31><pubmed>7367577</pubmed></ref>や視覚探索課題<ref name=ref8><pubmed>9046562</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>20507828</pubmed></ref> を用いた研究によって注意メカニズムの性質を考える上で重要な知見が与えられてきた。
 [[注意]]には2種類のメカニズムが存在すると考えられており、[[刺激検出課題]]<ref name=ref31><pubmed>7367577</pubmed></ref>や[[視覚探索課題]]<ref name=ref8><pubmed>9046562</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>20507828</pubmed></ref> を用いた研究によって注意メカニズムの性質を考える上で重要な知見が与えられてきた。


 2種類の注意メカニズムのうち1つはボトムアップ型注意(bottom-up attention)と呼ばれるものであり、複数刺激のなかで1つの刺激が周囲の刺激と顕著に異なる場合や<ref name=ref7><pubmed>2756067</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>8249312</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed> 7351125</pubmed></ref>、視覚刺激が突然出現した場合<ref name=ref31><pubmed>7367577</pubmed></ref>、その刺激に対して注意が受動的に惹きつけられる。例えば、視覚探索課題において目標(正立した‘L’字型の刺激)を探すとき、多数の青色の妨害刺激のなかで橙色の目標刺激が一つだけ存在するような状況であれば、目標刺激が目立つ(ポップアウトする)ために容易に見つけ出すことができる(図1A)。もう一つはトップダウン型注意(top-down attention)と呼ばれるものであり、選ぶべき刺激について事前知識をもっている場合、能動的にバイアスをかけることによって目的とする刺激を選択することができる。例えば、さまざまな形・色をした刺激が混在しているために目標刺激(正立した‘L’を目標刺激)が目立たない状況であっても、目標の位置や刺激特徴に注意を向けることによって見出すことができる(図1B)。
 2種類の注意メカニズムのうち1つは[[ボトムアップ型注意]](bottom-up attention)と呼ばれるものであり、複数刺激のなかで1つの刺激が周囲の刺激と顕著に異なる場合や<ref name=ref7><pubmed>2756067</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>8249312</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed> 7351125</pubmed></ref>、視覚刺激が突然出現した場合<ref name=ref31><pubmed>7367577</pubmed></ref>、その刺激に対して注意が受動的に惹きつけられる。


 視覚探索課題において「呈示される刺激の数」と「目標を見出すまでの時間」の関係性は、2種類の注意機構の重要な性質を明らかにする(図1C)。目標刺激が目立たない条件では視野内に存在する刺激総数の増加にともなって探索時間が増大するが(図1C、実線)、目標刺激が目立つ条件のときは目標刺激を見出すまでに要する探索時間が視野内の刺激の総数に依らずにほぼ一定になる(破線)。このような結果は、ボトムアップ型注意による選択はすべての刺激(すなわち視野全体)に対して並列的に働くが、トップダウン型注意による選択は個々の刺激に対して逐次的に働くことを示唆している<ref name=ref26><pubmed> 7351125</pubmed></ref>。  
 例えば、視覚探索課題において目標(正立した‘L’字型の刺激)を探すとき、多数の青色の妨害刺激のなかで橙色の目標刺激が一つだけ存在するような状況であれば、目標刺激が目立つ(ポップアウトする)ために容易に見つけ出すことができる('''図1A''')。
 
 もう一つは[[トップダウン型注意]](top-down attention)と呼ばれるものであり、選ぶべき刺激について事前知識をもっている場合、能動的にバイアスをかけることによって目的とする刺激を選択することができる。例えば、さまざまな形・色をした刺激が混在しているために目標刺激(正立した‘L’を目標刺激)が目立たない状況であっても、目標の位置や刺激特徴に注意を向けることによって見出すことができる('''図1B''')。
 
 視覚探索課題において「呈示される刺激の数」と「目標を見出すまでの時間」の関係性は、2種類の注意機構の重要な性質を明らかにする('''図1C''')。目標刺激が目立たない条件では視野内に存在する刺激総数の増加にともなって[[探索時間]]が増大するが('''図1C'''、実線)、目標刺激が目立つ条件のときは目標刺激を見出すまでに要する探索時間が視野内の刺激の総数に依らずにほぼ一定になる(破線)。このような結果は、ボトムアップ型注意による選択はすべての刺激(すなわち視野全体)に対して並列的に働くが、トップダウン型注意による選択は個々の刺激に対して逐次的に働くことを示唆している<ref name=ref26><pubmed> 7351125</pubmed></ref>。  


==ボトムアップ型注意の神経基盤になると考えられる文脈依存的な周辺抑制==
==ボトムアップ型注意の神経基盤になると考えられる文脈依存的な周辺抑制==
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[[image:topdownbottomup3.png|thumb|300px|'''図3.刺激特徴に対する注意を用いた行動課題''']]
[[image:topdownbottomup3.png|thumb|300px|'''図3.刺激特徴に対する注意を用いた行動課題''']]


 V[[1野]]、V[[2野]]、V[[4野]]、MT野などの視覚野では、ニューロンの[[受容野]]内に視覚刺激が呈示されることによって視覚性応答が生じる。通常、受容野外に視覚刺激を単独で呈示しても(受容野の定義から)視覚性応答が生じることはない。しかしながら、受容野内に刺激を呈示しながら、受容野外に別の刺激を同時に呈示すると、受容野外刺激によって視覚性応答が修飾されることが見出されている<ref name=ref1><pubmed>3885829</pubmed></ref>。新たに見出された周辺の受容野構造と区別するため、従来から報告されていた受容野は古典的受容野(classical receptive field)と呼ばれる。
 [[V1野]][[V2野]][[V4野]]、[[MT野]]などの[[視覚野]]では、[[ニューロン]]の[[受容野]]内に視覚刺激が呈示されることによって視覚性応答が生じる。通常、受容野外に視覚刺激を単独で呈示しても(受容野の定義から)視覚性応答が生じることはない。しかしながら、受容野内に刺激を呈示しながら、受容野外に別の刺激を同時に呈示すると、受容野外刺激によって視覚性応答が修飾されることが見出されている<ref name=ref1><pubmed>3885829</pubmed></ref>。新たに見出された周辺の受容野構造と区別するため、従来から報告されていた受容野は[[古典的受容野]](classical receptive field)と呼ばれる。
 
 KnierimとVan Essenは、注視課題を遂行している[[サル]]のV1野から単一ニューロン活動を記録し、古典的受容野内の刺激に対する応答が古典的受容野外の刺激よってどのような修飾効果を受けるかを調べた<ref name=ref11><pubmed>1588394</pubmed></ref>。実験では、単独の線分刺激が受容野内刺激として、その周囲をとりまくように多数の線分刺激が受容野外刺激として呈示された(図2)。多くのV1ニューロンでは受容野外刺激による修飾効果は[[抑制性]]に作用した([[周辺抑制]]、surround suppression)、すなわち1つだけの刺激を受容野内にしたときに神経活動強度が最大となり('''図2A''')、周辺刺激を追加すると神経活動は減弱する('''図2B, C''')。さらに詳しく調べると、その抑制効果は受容野内刺激と受容野外刺激の方位(傾き)が同じであるときに最大('''図2B''')、直交するときに最小となる傾向を示した('''図2C''')。すなわち、受容野内刺激と受容野外刺激の方位コントラストが小さい(非ポップアウト)条件にくらべて、方位コントラストが大きい(ポップアウト)条件ではニューロン応答が相対的に強くなった。このような周辺抑制の効果はトップダウン型注意が起こり得ない麻酔下の[[動物]]においても観察されることから、ボトムアップ型注意を生じさせるための潜在的な神経基盤になっていると考えられている<ref name=ref18><pubmed>10022475</pubmed></ref>。受容野外刺激の特徴よってニューロン活動に対する影響が変わるため、このような修飾作用を[[文脈依存性]](contextual modulation)と呼ぶこともある。
 
 V1野以外の領野でも、色(V4野)や動き(MT野)の特徴次元で古典的受容野内外にコントラストがある場合、同様の周辺抑制効果が生じる<ref name=ref23><pubmed> 2213146</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed> 3944614</pubmed></ref>。


 KnierimとVan Essenは、注視課題を遂行している[[サル]]のV1野から単一ニューロン活動を記録し、古典的受容野内の刺激に対する応答が古典的受容野外の刺激よってどのような修飾効果を受けるかを調べた<ref name=ref11><pubmed>1588394</pubmed></ref>。実験では、単独の線分刺激が受容野内刺激として、その周囲をとりまくように多数の線分刺激が受容野外刺激として呈示された(図2)。多くのV1ニューロンでは受容野外刺激による修飾効果は[[抑制性]]に作用した(周辺抑制、surround suppression)、すなわち1つだけの刺激を受容野内にしたときに神経活動強度が最大となり(図2A)、周辺刺激を追加すると神経活動は減弱する(図2B, C)。さらに詳しく調べると、その抑制効果は受容野内刺激と受容野外刺激の方位(傾き)が同じであるときに最大(図2B)、直交するときに最小となる傾向を示した(図2C)。すなわち、受容野内刺激と受容野外刺激の方位コントラストが小さい(非ポップアウト)条件にくらべて、方位コントラストが大きい(ポップアウト)条件ではニューロン応答が相対的に強くなった。このような周辺抑制の効果はトップダウン型注意が起こり得ない麻酔下の[[動物]]においても観察されることから、ボトムアップ型注意を生じさせるための潜在的な神経基盤になっていると考えられている<ref name=ref18><pubmed>10022475</pubmed></ref>。受容野外刺激の特徴よってニューロン活動に対する影響が変わるため、このような修飾作用を文脈依存性(contextual modulation)と呼ぶこともある。
 また周辺抑制の効果は視覚野だけではなく、[[頭頂連合野]]にある[[LIP野]]<ref name=ref9><pubmed> 20861383</pubmed></ref>[[前頭連合野]]にある[[FEF野]]<ref name=ref5><pubmed>22933810</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>14749315</pubmed></ref>にも存在し、ポップアウトする刺激に対してニューロン活動が強くなる。しかしながら、これらの領野では刺激特徴に対する選択性が乏しいため、ポップアウト刺激に対するニューロン活動の増大は視覚野からの入力を反映していると考えられる。むしろLIP野やFEF野における周辺抑制は、ポップアウト刺激への活動増強と非ポップアウト刺激への活動減衰による活動強度コントラストを生じさせるために重要な役割を果たしている<ref name=ref16><pubmed>24068752</pubmed></ref>。なおポップアウト刺激を無視するような課題訓練を行うと、ポップアウト刺激に対するLIPニューロンの活動増強が弱まることが報告されている<ref name=ref10><pubmed>16819520</pubmed></ref>


 V1野以外の領野でも、色(V4野)や動き(MT野)の特徴次元で古典的受容野内外にコントラストがある場合、同様の周辺抑制効果が生じる<ref name=ref23><pubmed> 2213146</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed> 3944614</pubmed></ref>。また周辺抑制の効果は視覚野だけではなく、[[頭頂連合野]]にあるLIP野<ref name=ref9><pubmed> 20861383</pubmed></ref>や[[前頭連合野]]にあるFEF野<ref name=ref5><pubmed>22933810</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>14749315</pubmed></ref>にも存在し、ポップアウトする刺激に対してニューロン活動が強くなる。しかしながら、これらの領野では刺激特徴に対する選択性が乏しいため、ポップアウト刺激に対するニューロン活動の増大は視覚野からの入力を反映していると考えられる。むしろLIP野やFEF野における周辺抑制は、ポップアウト刺激への活動増強と非ポップアウト刺激への活動減衰による活動強度コントラストを生じさせるために重要な役割を果たしている<ref name=ref16><pubmed>24068752</pubmed></ref>。なおポップアウト刺激を無視するような課題訓練を行うと、ポップアウト刺激に対するLIPニューロンの活動増強が弱まることが報告されている<ref name=ref10><pubmed>16819520</pubmed></ref>
<u>(編集部コメント:図3の引用位置をご指示ください)</u>


==ニューロン活動に生じるトップダウン型注意の効果==
==ニューロン活動に生じるトップダウン型注意の効果==
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 視覚性のトップダウン型注意は注意を向けるべき対象が特定の空間位置(spatial attention)、もしくは特定の刺激特徴(feature-based attention)であるかに応じて2種類に大別することができるが、ニューロン活動レベルで初めて明確に示されたのは空間性注意の効果である。
 視覚性のトップダウン型注意は注意を向けるべき対象が特定の空間位置(spatial attention)、もしくは特定の刺激特徴(feature-based attention)であるかに応じて2種類に大別することができるが、ニューロン活動レベルで初めて明確に示されたのは空間性注意の効果である。


 Bushnellらはサルの頭頂連合野(area 7)からニューロン活動を記録しながら、次の行動課題を行なわせた<ref name=ref2><pubmed>7288463</pubmed></ref>。サルが小さな点刺激を注視しているときに、周辺視野に別の点刺激が呈示される。周辺刺激は記録しているニューロンの受容野内に呈示される。行動課題は2種類あり、一つの課題では注視している刺激が予測できないタイミングで暗くなるので、それを検出してレバー動作で報告する。もう一方の課題では、注視刺激または周辺刺激のいずれかが暗くなるので、それを検出してレバー動作で報告する。2つの課題条件は別の試行ブロックで行なわれるが、どちらの課題条件であるかは容易に判断できる状況であった。このため、前者の課題条件ではサルの注意は注視点のみに、後者の課題条件では注視点だけでなく周辺刺激にも注意が向けられる。実験の結果、周辺刺激も暗くなる条件では、注視刺激のみが暗くなる条件に比べてニューロン活動が増大していた。試行開始から刺激が暗くなるまでの期間は、どちらの課題条件においても呈示される視覚刺激と要求される行動が同一であるため、ニューロン活動の増大は周辺刺激の位置に向けられた空間性注意によるものだと考えられた。  
 Bushnellらはサルの頭頂連合野([[7野]])からニューロン活動を記録しながら、次の行動課題を行なわせた<ref name=ref2><pubmed>7288463</pubmed></ref>。サルが小さな点刺激を注視しているときに、周辺視野に別の点刺激が呈示される。周辺刺激は記録しているニューロンの受容野内に呈示される。行動課題は2種類あり、一つの課題では注視している刺激が予測できないタイミングで暗くなるので、それを検出してレバー動作で報告する。もう一方の課題では、注視刺激または周辺刺激のいずれかが暗くなるので、それを検出してレバー動作で報告する。2つの課題条件は別の試行ブロックで行なわれるが、どちらの課題条件であるかは容易に判断できる状況であった。このため、前者の課題条件ではサルの注意は注視点のみに、後者の課題条件では注視点だけでなく周辺刺激にも注意が向けられる。実験の結果、周辺刺激も暗くなる条件では、注視刺激のみが暗くなる条件に比べてニューロン活動が増大していた。試行開始から刺激が暗くなるまでの期間は、どちらの課題条件においても呈示される視覚刺激と要求される行動が同一であるため、ニューロン活動の増大は周辺刺激の位置に向けられた空間性注意によるものだと考えられた。  


 空間位置ではなく、形や色などの刺激特徴に対する注意によってもニューロン活動に影響が生じることが知られている。Motterはサルに線分の傾きを判断させる行動課題を行わせ、V4野からニューロン活動を記録した<ref name=ref15><pubmed>8158264</pubmed></ref>。課題は、色の付いた小さなスポット刺激を固視することにより開始され、続いて注視点の周りに色と傾きの属性をもった複数の線分刺激が現れる(図4)。さらに注視を続けると2つの線分刺激を残して他の刺激は消えるが、サルは注視点と同じ色をもった線分の傾きを検出し、行動課題で報告しなければならない。複数刺激が呈示されてから刺激数が減じられるまでの期間を、受容野内刺激の色が注視点の色(注意を向けるべき色)と一致する条件(図4、match)と一致しない条件(non-match)で比較したところ、前者ではニューロン活動が顕著に増大していた。この課題では、どの位置にある線分刺激が残存するかは予測できないので、2つの条件間におけるニューロン活動の差異は空間位置ではなく色に対する注意によって生じたものと判断された。
 空間位置ではなく、形や色などの刺激特徴に対する注意によってもニューロン活動に影響が生じることが知られている。Motterはサルに線分の傾きを判断させる行動課題を行わせ、V4野からニューロン活動を記録した<ref name=ref15><pubmed>8158264</pubmed></ref>。課題は、色の付いた小さなスポット刺激を固視することにより開始され、続いて注視点の周りに色と傾きの属性をもった複数の線分刺激が現れる('''図4''')。さらに注視を続けると2つの線分刺激を残して他の刺激は消えるが、サルは注視点と同じ色をもった線分の傾きを検出し、行動課題で報告しなければならない。複数刺激が呈示されてから刺激数が減じられるまでの期間を、受容野内刺激の色が注視点の色(注意を向けるべき色)と一致する条件('''図4'''、match)と一致しない条件(non-match)で比較したところ、前者ではニューロン活動が顕著に増大していた。この課題では、どの位置にある線分刺激が残存するかは予測できないので、2つの条件間におけるニューロン活動の差異は空間位置ではなく色に対する注意によって生じたものと判断された。


 なお、刺激特徴への注意と空間性注意が同時に作用した場合は、それぞれの注意効果が線形和されてニューロン活動上に生じることが報告されている<ref name=ref27><pubmed>10376597</pubmed></ref>。
 なお、刺激特徴への注意と空間性注意が同時に作用した場合は、それぞれの注意効果が線形和されてニューロン活動上に生じることが報告されている<ref name=ref27><pubmed>10376597</pubmed></ref>。
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 視覚領野のニューロンは、受容野内の刺激に空間性注意が向けられるとニューロン活動が増強する。このような活動変化はトップダウン型注意による視覚領野への修飾効果を見ているのであって、そのようなトップダウン型注意を生じさせている起源については説明を与えない。領野間の神経連絡が数多く存在する脳において、トップダウン型注意の発生源を正確に同定することは非常に難しい問題であるが、重要な示唆を与える研究成果がいくつか報告されている。
 視覚領野のニューロンは、受容野内の刺激に空間性注意が向けられるとニューロン活動が増強する。このような活動変化はトップダウン型注意による視覚領野への修飾効果を見ているのであって、そのようなトップダウン型注意を生じさせている起源については説明を与えない。領野間の神経連絡が数多く存在する脳において、トップダウン型注意の発生源を正確に同定することは非常に難しい問題であるが、重要な示唆を与える研究成果がいくつか報告されている。


 MooreとArmstrongは、この問題について理解を進めるため、大脳皮質におけるサッカード眼球運動の高次中枢として知られている前頭眼野(the frontal eye field, FEF)に着目した<ref name=ref14><pubmed>12540901</pubmed></ref>。FEF野は、V4などの視覚領野と直接的な神経連絡があり、眼球運動を伴わない空間性注意課題においてもニューロン活動が変化することが報告されている<ref name=ref12><pubmed>9274825</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>18304489 </pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>16221858</pubmed></ref>。MooreとArmstrongが、V4ニューロンの視覚応答を記録しながらFEF野に電気刺激を与えたところ、V4野の視覚応答は電気刺激によって増強された。この結果は、V4野に対してFEF野がトップダウン型注意の修飾元になっている可能性を示す。
 MooreとArmstrongは、この問題について理解を進めるため、大脳皮質におけるサッカード眼球運動の高次中枢として知られている[[前頭眼野]](the frontal eye field, FEF)に着目した<ref name=ref14><pubmed>12540901</pubmed></ref>。FEF野は、V4などの視覚領野と直接的な神経連絡があり、眼球運動を伴わない空間性注意課題においてもニューロン活動が変化することが報告されている<ref name=ref12><pubmed>9274825</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>18304489 </pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>16221858</pubmed></ref>。MooreとArmstrongが、V4ニューロンの視覚応答を記録しながらFEF野に電気刺激を与えたところ、V4野の視覚応答は電気刺激によって増強された。この結果は、V4野に対してFEF野がトップダウン型注意の修飾元になっている可能性を示す。


 さらにMonosovらは、視覚探索課題における目標位置の情報がFEF野において生成されている可能性について論じている<ref name=ref13><pubmed>18304489 </pubmed></ref>。彼らは、単一ニューロン活動(スパイク発火頻度)だけでなく、local field potential(LPF)も同時に記録し、それぞれの神経信号において目標刺激と妨害刺激が区別される時間を推定した。LPFは電極近傍に存在するニューロン群へのシナプス入力を、スパイク発火活動がニューロンの出力を反映すると考えられている。刺激に対する視覚応答はLPFがスパイク発火活動に先行したが、逆に目標位置に関する情報はLPFよりもスパイク発火活動が先行した。この結果は、FEF野内で視覚刺激情報から目標位置情報が生成されていることが示唆され、空間性注意の発生部位の一つとなっている可能性が考えられた。
 さらにMonosovらは、視覚探索課題における目標位置の情報がFEF野において生成されている可能性について論じている<ref name=ref13><pubmed>18304489 </pubmed></ref>。彼らは、単一ニューロン活動(スパイク発火頻度)だけでなく、[[local field potential]]([[LPF]])も同時に記録し、それぞれの神経信号において目標刺激と妨害刺激が区別される時間を推定した。LPFは電極近傍に存在するニューロン群へのシナプス入力を、スパイク発火活動がニューロンの出力を反映すると考えられている。刺激に対する視覚応答はLPFがスパイク発火活動に先行したが、逆に目標位置に関する情報はLPFよりもスパイク発火活動が先行した。この結果は、FEF野内で視覚刺激情報から目標位置情報が生成されていることが示唆され、空間性注意の発生部位の一つとなっている可能性が考えられた。


==ボトムアップ型注意とトップダウン型注意の相互作用==
==ボトムアップ型注意とトップダウン型注意の相互作用==
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<references />
<references />


<u>(編集部コメント:以下の文献の引用位置をご指示下さい。)</u>


'''Bruce CJ, and Goldberg ME.'''<br>
'''Bruce CJ, and Goldberg ME.'''<br>

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