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染色体8pは、5つの人種にわたって複数のグループから連鎖が報告されてきた<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。Stefanssonらは、110例の患者を含む33家系を用いて連鎖解析を行い、8p12-21にLOD値<sup>脚注2</sup>)2.53を得た<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>)。その領域(5cM)からマイクロサテライトマーカーを75kb<sup>脚注3</sup>)間隔で選び、さらに感受性領域を絞り込んだ。その結果、600 kbにわたる2つのハプロタイプが複数の家系で共有されていた。その領域にコードされていた遺伝子がneuregulin-1 (NRG1)であった<ref name=ref16 />。彼らはNRG1上に同定された181の一塩基置換(single nucleotide polymorphism: SNP)について、394例の患者と478例の対照をタイピングしたが、いくつかのSNPで弱い有意差がみられたものの、どれもアミノ酸置換を伴わないものやスプライスサイトからはずれたものであった。しかし、ハプロタイプ解析では5’端の12のSNPと4つのマイクロサテライトマーカーからなるハプロタイプに有意差が見られ、これを統合失調症のリスクハプロタイプ(オッズ比2.2)であると報告した。NRG1は、中枢神経を含む多くの臓器で発現しており、胎生期には神経細胞のmigration<sup>脚注4</sup>)に影響を与える。成人の神経系では、NMDA受容体を含む神経伝達物質受容体の発現や活性化に影響している<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref>。Stefanssonらは、さらにNRG1とNRG1受容体遺伝子であるErb4のノックアウトマウス<sup>脚注5</sup>)のヘテロ接合体を調べ、自発運動量の亢進やPPIの障害を報告した<ref name=ref57><pubmed></pubmed></ref>。さらに、NRG1のヘテロ接合体ではNMDA受容体密度が16%低下していることを確認した。 | 染色体8pは、5つの人種にわたって複数のグループから連鎖が報告されてきた<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。Stefanssonらは、110例の患者を含む33家系を用いて連鎖解析を行い、8p12-21にLOD値<sup>脚注2</sup>)2.53を得た<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>)。その領域(5cM)からマイクロサテライトマーカーを75kb<sup>脚注3</sup>)間隔で選び、さらに感受性領域を絞り込んだ。その結果、600 kbにわたる2つのハプロタイプが複数の家系で共有されていた。その領域にコードされていた遺伝子がneuregulin-1 (NRG1)であった<ref name=ref16 />。彼らはNRG1上に同定された181の一塩基置換(single nucleotide polymorphism: SNP)について、394例の患者と478例の対照をタイピングしたが、いくつかのSNPで弱い有意差がみられたものの、どれもアミノ酸置換を伴わないものやスプライスサイトからはずれたものであった。しかし、ハプロタイプ解析では5’端の12のSNPと4つのマイクロサテライトマーカーからなるハプロタイプに有意差が見られ、これを統合失調症のリスクハプロタイプ(オッズ比2.2)であると報告した。NRG1は、中枢神経を含む多くの臓器で発現しており、胎生期には神経細胞のmigration<sup>脚注4</sup>)に影響を与える。成人の神経系では、NMDA受容体を含む神経伝達物質受容体の発現や活性化に影響している<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref>。Stefanssonらは、さらにNRG1とNRG1受容体遺伝子であるErb4のノックアウトマウス<sup>脚注5</sup>)のヘテロ接合体を調べ、自発運動量の亢進やPPIの障害を報告した<ref name=ref57><pubmed></pubmed></ref>。さらに、NRG1のヘテロ接合体ではNMDA受容体密度が16%低下していることを確認した。 | ||
染色体6pは、6p25-24<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>、6p23-22<ref name=ref19 /> <ref name=ref20 /> <ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>、6p21- | 染色体6pは、6p25-24<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>、6p23-22<ref name=ref19 /> <ref name=ref20 /> <ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>、6p21-24<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref>と多数の連鎖が報告されてきた。Straubらは、270家系1425名を用いて連鎖解析を行い、6p22.3に連鎖の最大LOD値2.22をみとめた<ref name=ref24 />。さらに、6p22領域の20のマーカーを用いてtransmission disequilibrium test (TDT)を行ったところ、単独でもハプロタイプ<sup>脚注6</sup>)でもこの領域にあるdystrobrevin-binding protein 1(dysbindin, DTNBP1)上にあるマーカーが有意に統合失調症と関連していた<ref name=ref59><pubmed></pubmed></ref>。DTNBP1はdystrophin<sup>脚注7</sup>)タンパク質複合体の1つで、脳内のPSD (postsynaptic densities)タンパク質と相互作用してNMDA受容体の活性を調節している。 | ||
染色体13q22-34も、複数のグループが連鎖を報告している<ref name=ref12 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。Chumakovらは、フランス系カナダ人の統合失調症213例と対照241例を用いて、13q34から5 Mb<sup>脚注3</sup>)にわたって191個のSNPについて関連地図を作成した<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref>。この領域に、統合失調症と関連を示したSNPの連続が65 kbと1400 kbにわたる2つの領域Bin A, Bin B<sup>脚注8</sup>)として検出された。183名ずつのロシア人患者・対照を用いて再検した結果、65 kbのBin Aにおける2つのSNPが再び有意な関連を示した。このBin AからG72遺伝子<sup>脚注9</sup>)が同定された<ref name=ref26 />。Yeast two hybrid法により、G72はD-amino acid oxidase(DAAO)と相互作用をすることが判明した。DAAOはD-serineの酸化酵素であるが、D-serineは脳内に内在していて<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>、NMDA受容体をアロステリック<sup>脚注10</sup>)に活性化する。かつて、D-serineの不足が統合失調症で予測され、D-serineの患者への投与が試みられ、統合失調症の症状が改善したと報告された<ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。2003年になって、統合失調症で血清中D-serineが対照より減少していることも報告された<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>)。Chumakovらは、さらにDAAOの4つのSNPも統合失調症と関連していることを報告した<ref name=ref26 />。G72とDAAOのリスクSNPを同時に持った個体のオッズ比(5.02)は、それぞれを単独に持った個体のオッズ比(1.89および1.04)の相加値を上回っていた。これは、12q24にコードされているDAAO遺伝子と、13q34のG72遺伝子が相乗的作用して統合失調症発症に寄与していると解釈され、個別遺伝子の独立した効果だけでなくepistatic<sup>脚注11</sup>)な効果も関与していることが推察された。 | 染色体13q22-34も、複数のグループが連鎖を報告している<ref name=ref12 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。Chumakovらは、フランス系カナダ人の統合失調症213例と対照241例を用いて、13q34から5 Mb<sup>脚注3</sup>)にわたって191個のSNPについて関連地図を作成した<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref>。この領域に、統合失調症と関連を示したSNPの連続が65 kbと1400 kbにわたる2つの領域Bin A, Bin B<sup>脚注8</sup>)として検出された。183名ずつのロシア人患者・対照を用いて再検した結果、65 kbのBin Aにおける2つのSNPが再び有意な関連を示した。このBin AからG72遺伝子<sup>脚注9</sup>)が同定された<ref name=ref26 />。Yeast two hybrid法により、G72はD-amino acid oxidase(DAAO)と相互作用をすることが判明した。DAAOはD-serineの酸化酵素であるが、D-serineは脳内に内在していて<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>、NMDA受容体をアロステリック<sup>脚注10</sup>)に活性化する。かつて、D-serineの不足が統合失調症で予測され、D-serineの患者への投与が試みられ、統合失調症の症状が改善したと報告された<ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。2003年になって、統合失調症で血清中D-serineが対照より減少していることも報告された<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>)。Chumakovらは、さらにDAAOの4つのSNPも統合失調症と関連していることを報告した<ref name=ref26 />。G72とDAAOのリスクSNPを同時に持った個体のオッズ比(5.02)は、それぞれを単独に持った個体のオッズ比(1.89および1.04)の相加値を上回っていた。これは、12q24にコードされているDAAO遺伝子と、13q34のG72遺伝子が相乗的作用して統合失調症発症に寄与していると解釈され、個別遺伝子の独立した効果だけでなくepistatic<sup>脚注11</sup>)な効果も関与していることが推察された。 |