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細 (→従来型ECTの誕生) |
細 (→ECTの適応と禁忌) |
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このようにECTの有効性における作用機序について、いくつかの仮説は提示されているものの、現在までECTの明確な作用機序は明らかにされていない。 | このようにECTの有効性における作用機序について、いくつかの仮説は提示されているものの、現在までECTの明確な作用機序は明らかにされていない。 | ||
== | ==適応と禁忌== | ||
=== | ===適応=== | ||
2015年米国米国精神医学会は「ECTは、安全かつ有効なエビデンスに基づく医療であり、適切に適応を選択された患者のために、適切な資格のある精神科医によって行われるとき、ECTは米国精神医学会によって支持される」という声明を発表している。 | |||
米国精神医学会によるECTの適応<ref name=ref8 />は比較的幅広く、本邦においても2013年に日本精神神経学会ECT検討委員会および日本総合病院精神医学会ECT委員会によりまとめられ本橋らにより報告された「ECTの推奨事項改定版」<ref name=ref22>'''本橋伸高、粟田主一、一瀬邦弘ほか'''<br>電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版<br>''精神神経学雑誌'' 115: 586-600, 2013. </ref>においても比較的幅広い適応となる診断と状況が記載されているが、[[wj:英国国立医療技術評価機構|英国国立医療技術評価機構]]([[wj:英国国立医療技術評価機構|The National Institute of Health and Clinical Excellence]], NICE)ガイドラインでは、ECTは重症うつ病、薬物治療抵抗性ないし重症[[躁病]]、または[[カタトニア]]([[緊張病]])のみに用いられるべきであり、うつ病の予防のための長期治療や統合失調症の一般管理には用いられるべきではないとしている<ref name=ref23>'''NICE'''<br>Guidance on the use of electroconvulsive therapy<br>Technology appraisal guidance [TA59]<br>Published date: 26 April 2003 Last updated: 01 October 2009</ref>。 | |||
また、まだ十分なエビデンスは確立しておらず研究的な一面が存在するものの、難治性[[強迫性障害]]、治療抵抗性で緊急性を要す[[パーキンソン病]]、身体疾患による精神障害、治療抵抗性[[悪性症候群]]、[[慢性疼痛]]の治療にも臨床的に用いられることがあり有効性を認めることがある。 | |||
臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。 | 臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。 | ||
たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や[[拒食]]による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、[[自殺]]企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、[[抗うつ薬]]が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として一次的に実施されることがある。また、薬物療法のリスクや催奇形性が問題となる妊娠、薬物忍容性の乏しい高齢者、薬物療法の副作用や身体合併症などから他の治療よりECTのほうが高い安全性があると個別に判断される場合もECTが考慮される場合がある。 | |||
米国精神医学会によるECTの二次的な適応<ref name=ref8 />としては、薬物療法への強い治療抵抗性があり遷延している場合、薬物治療の忍容性が低く十分な薬物療法が行えずECTの忍容性が優れる場合、薬物治療中の精神症状や身体状態の悪化により迅速で確実な治療反応が必要な場合などが挙げられており、薬物治療抵抗性または不忍容のうつ病、躁病、統合失調症でもECTの適応が検討されることがある。 | |||
統合失調症では、同様に治療抵抗性で生命にかかわるような緊張病や[[昏迷状態]]、精神症状による著しい焦燥感・興奮・[[錯乱]]がある場合、強い[[自殺|希死念慮]]がある場合等に適応が検討されることがある。 | |||
また、いずれの疾患でもECTが効果的であった過去の治療歴、患者本人のECTの希望は治療方針の決定において重要となる。 | また、いずれの疾患でもECTが効果的であった過去の治療歴、患者本人のECTの希望は治療方針の決定において重要となる。 | ||
=== | ===禁忌=== | ||
米国精神医学会は、ECT導入に際しての絶対的禁忌はないとしながらも、リスクが増す状態として相対的禁忌を定義している<ref name=ref8 />。 | |||
パルス波治療器であるサイマトロンの添付文書では、これらが反映され原則として禁忌となる疾患や状態として、 | |||
# | #最近起きた[[wj:心筋梗塞|心筋梗塞]]、[[wj:不安定狭心症|不安定狭心症]]、[[wj:非代償性うっ血性心不全|非代償性うっ血性心不全]]、重度の[[wj:心臓弁膜症|心臓弁膜症]]のような不安定で重度の[[wj:心血管系疾患|心血管系疾患]] | ||
# | #血圧上昇により破裂する可能性のある[[wj:動脈瘤|動脈瘤]]または[[wj:血管奇形|血管奇形]] | ||
# | #[[脳腫瘍]]その他の脳占拠性病変により生じる頭蓋内圧亢進、 | ||
# | #最近起きた[[脳梗塞]] | ||
# | #重度の[[wj:慢性閉塞性肺疾患|慢性閉塞性肺疾患]]、[[wj:喘息|喘息]]、[[wj:肺炎|肺炎]]のような呼吸器系疾患 | ||
#米国麻酔学会水準4または5と評価される状態(ECTにより脳出血後まもない患者では再出血の危険性がある、発作による[[交感神経系]]の活性化による血圧上昇、頻脈により最近起きた心筋梗塞患者では[[wj:心室性不整脈|心室性不整脈]]や[[wj:心破裂|心破裂]]の危険性がある、修正型ECTは麻酔下において治療が行われるため麻酔危険度を設定する必要がある) | |||
が挙げられている。 | |||
またECTとの併用禁忌として近年パーキンソン病治療などに用いられている[[深部脳刺激]]([[deep brain stimulation]]: [[DBS]])装置が埋め込まれている場合が挙げられている。 | |||
==ECTの有効性とその特徴== | ==ECTの有効性とその特徴== |