「間脳の発生」の版間の差分

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== 前脳分節 ==
== 前脳分節 ==
[[ファイル:図1:発生期の間脳の模式図(文献31を改変).png|サムネイル|300px|'''図1. 発生期の間脳の模式図'''<br>文献<ref name=ref31 />を改変]]
[[ファイル:図1:発生期の間脳の模式図(文献40を改変).png|サムネイル|300px|'''図1. 発生期の間脳の模式図'''<br>文献<ref name=ref40 />を改変]]
プロソメア:prosomeres
プロソメア:prosomeres


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=== 基本的神経路 ===
=== 基本的神経路 ===
[[ファイル:図2:トラザメ胚(St.28)の中枢神経系.png|thumb|right|300px|'''図2. トラザメ胚(St.28)の中枢神経系''']]
[[ファイル:図2:トラザメ胚(St.28)の中枢神経系.png|thumb|right|300px|'''図2. トラザメ胚(St.28)の中枢神経系''']]
間脳の発生の進行に伴い、その内部には様々な神経回路が生じる。発生初期には基本的神経路(The early axon scaffold)として、脊椎動物で高度に保存された神経路が形成され、発生後期に作られる多くの神経路の足場としても重要な役割を担う<ref><pubmed> 2351059 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18158094 </pubmed></ref>。これらのうち、間脳では後交連や手綱交連、tract of postoptic commissure(TPOC)などが発生する('''図2''')。後交連は、間脳の後方背側、中脳と接するところに生じ、視蓋前域(プロソメア1)を特徴づける構造となる。手綱交連は間脳の背側で後交連の前方に生じ、視床(プロソメア2)の特徴の一つとなる。これらの交連は円口類の段階から見られるため、脊椎動物の共通祖先の段階ですでに獲得されていた可能性がある。後交連と手綱交連はクジラ類では融合して交連複合体を形成する[40]。後交連やTPOCの形成にはPax6が関わるとされる<ref><pubmed> 9169845 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15514979 </pubmed></ref>。
間脳の発生の進行に伴い、その内部には様々な神経回路が生じる。発生初期には基本的神経路(The early axon scaffold)として、脊椎動物で高度に保存された神経路が形成され、発生後期に作られる多くの神経路の足場としても重要な役割を担う<ref><pubmed> 2351059 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18158094 </pubmed></ref>。これらのうち、間脳では後交連や手綱交連、tract of postoptic commissure(TPOC)などが発生する('''図2''')。後交連は、間脳の後方背側、中脳と接するところに生じ、視蓋前域(プロソメア1)を特徴づける構造となる。手綱交連は間脳の背側で後交連の前方に生じ、視床(プロソメア2)の特徴の一つとなる。これらの交連は円口類の段階から見られるため、脊椎動物の共通祖先の段階ですでに獲得されていた可能性がある。後交連と手綱交連はクジラ類では融合して交連複合体を形成する<ref><pubmed> 17975302 </pubmed></ref>。後交連やTPOCの形成にはPax6が関わるとされる<ref><pubmed> 9169845 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15514979 </pubmed></ref>。


=== 視床ー終脳軸索投射 ===
=== 視床ー終脳軸索投射 ===
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== 間脳の形態に関する最近の考え ==
== 間脳の形態に関する最近の考え ==
間脳の領域構成については、形態学、組織学、そして発生学の観点から様々な研究が行われてきた。Rendahl(1924)は間脳がsynencephalonとposterior/anterior parencephalonに分けられることを指摘している<ref>'''Rendahl H'''<br>Embryologische und morphologische Studien über das Zwischenhirn beim Huhn<br>''Acta Zool 5:241–344.'':1924 [[media:Rendahl Acta Zoologica.pdf|PDF]]</ref>。近年の分子発生学の発展に伴い、ニワトリやマウス、アフリカツメガエル等を用いて、間脳の領域が転写因子などの領域マーカー遺伝子の発現と照らし合わせて調べられ、発生期にみられるプロソメアとの対応関係が示されてきた。synencephalonとposterior/anterior parencephalonはプロソメア1とプロソメア2/3におおよそ対応している。プロソメア1に含まれる領域はさらにprecommissural、juxtacommissural、commissuralの三つの領域に細分されている<ref name=ref8 /><ref name=ref20><pubmed> 22949352 </pubmed></ref>。
間脳の領域構成については、形態学、組織学、そして発生学の観点から様々な研究が行われてきた。Rendahl(1924)は間脳がsynencephalonとposterior/anterior parencephalonに分けられることを指摘している<ref>'''Rendahl H'''<br>Embryologische und morphologische Studien über das Zwischenhirn beim Huhn<br>''Acta Zool 5:241–344.'':1924 [[media:Rendahl Acta Zoologica.pdf|PDF]]</ref>。近年の分子発生学の発展に伴い、ニワトリやマウス、アフリカツメガエル等を用いて、間脳の領域が転写因子などの領域マーカー遺伝子の発現と照らし合わせて調べられ、発生期にみられるプロソメアとの対応関係が示されてきた。synencephalonとposterior/anterior parencephalonはプロソメア1とプロソメア2/3におおよそ対応している。プロソメア1に含まれる領域はさらにprecommissural、juxtacommissural、commissuralの三つの領域に細分されている<ref name=ref12 /><ref name=ref33><pubmed> 22949352 </pubmed></ref>。


 こうした知見を基に、現在では、成体の羊膜類、両生類、魚類の間脳は後ろから視蓋前域(Pretectum)、視床(Thalamus)、視床前域(Prethalamus)に分けられており、これらはそれぞれプロソメア1、2、3の背側要素(翼板)に対応している<ref name=ref1 /><ref name=ref2 /><ref name=ref6 /><ref name=ref7 /><ref name=ref8 /><ref name=ref20 /><ref><pubmed> 10195307 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10342441 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11567052 </pubmed></ref>。これらの構成は解剖学の教科書に見られる形態学的単位と対応しない場合がある。例えば従来の考えでは視蓋前域と松果体は共に視床上部に含まれているが、後者では視蓋前域(プロソメア1)と松果体(プロソメア2)は異なる領域である。また、腹側視床と視床(背側視床)は視床前域と視床という名称に変更されている<ref name=ref2 />。最近の比較形態学的研究や発生学的研究ではプロソメアに基づくモデルが使われる場合が多いようである。プロソメアはPuellesとRubensteinによって発表されてから、間脳から終脳をカバーする大規模な分節として、菱脳のロンボメアと同じく重要な脳分節として捉えられてきた。現在では、プロソメア1から3の三つの領域については、その存在が多くの研究者によって認められている。ただし、プロソメア3より前方にあるコンパートメントについては、現在も議論が続けられている(以下参照)。
 こうした知見を基に、現在では、成体の羊膜類、両生類、魚類の間脳は後ろから視蓋前域(Pretectum)、視床(Thalamus)、視床前域(Prethalamus)に分けられており、これらはそれぞれプロソメア1、2、3の背側要素(翼板)に対応している<ref name=ref1 /><ref name=ref2 /><ref name=ref10 /><ref name=ref11 /><ref name=ref12 /><ref name=ref33 /><ref><pubmed> 10195307 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10342441 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11567052 </pubmed></ref>。これらの構成は解剖学の教科書に見られる形態学的単位と対応しない場合がある。例えば従来の考えでは視蓋前域と松果体は共に視床上部に含まれているが、後者では視蓋前域(プロソメア1)と松果体(プロソメア2)は異なる領域である。また、腹側視床と視床(背側視床)は視床前域と視床という名称に変更されている<ref name=ref2 />。最近の比較形態学的研究や発生学的研究ではプロソメアに基づくモデルが使われる場合が多いようである。プロソメアはPuellesとRubensteinによって発表されてから、間脳から終脳をカバーする大規模な分節として、菱脳のロンボメアと同じく重要な脳分節として捉えられてきた。現在では、プロソメア1から3の三つの領域については、その存在が多くの研究者によって認められている。ただし、プロソメア3より前方にあるコンパートメントについては、現在も議論が続けられている(以下参照)。


== 視床下部と終脳に関する発生基盤 ==
== 視床下部と終脳に関する発生基盤 ==
 視床下部は、前脳の前方腹側で発生するが、他の間脳領域(プロソメア1〜3)とは発現する遺伝子の種類が異なる例が多い。視床下部は少なくともその一部は神経管の腹側の要素(基板)であると考えられており、基板を特徴づける''Shh''の発現が見られる。ただし''Shh''は視床下部の全域に発現するわけではない。また、転写因子である''Nkx2.1''が発現していることも視床下部の特徴である<ref><pubmed> 1811929 </pubmed></ref>。この遺伝子は実際に前脳腹側の形成に関わっている<ref><pubmed> 8557195 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。そして、視床下部領域と終脳とを合わせたものをひとつのコンパートメントと捉える考えが、プロソメアモデルを提唱したPuellesらの研究グループから出されている<ref name=ref2 /><ref name=ref31><pubmed> 25852489 </pubmed></ref>('''図1''')。この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。このモデルでは発生期の前脳は間脳(プロソメア1〜3)とsecondary procencephalonに分化するとされる。つまり、従来のモデルでは視床下部は間脳に含まれるが、このモデルでは視床下部はsecondary procencephalonに含まれる。前脳が後方の「間脳」と前方の「secondary procencephalon」にわかれるとする形態発生学的な根拠として、「間脳」領域の発生は腹側にある脊索の影響を受け、「secondary procencephalon」は脊索前板(prechordal plate)の影響を受けることが挙げられる。このモデルに従うなら、secondary procencephalonの背側部分が終脳で、その腹側部分が視床下部となり、同時に視床下部が神経管の最も前方の領域となる<ref name=ref31 />。secondary procencephalonはさらにhypotyalamo-telencephalic prosomere 1と2(HP1とHP2)に細分されている。HP1が後方でHP2が前方である。視床下部はHP1に含まれる部分がpeduncular hypothalamus(PHy)、HP2に含まれる部分がterminal hypothalamus(THy)と名付けられている(図1:発生期の間脳の模式図)。終脳ではHP1が外套(Pallium)と外套下部(subpallium)の多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。さらに真骨魚類では終脳と視床下部の間にあるoptic recess region(視交叉陥凹部;目の網膜も含む)を一つのユニットとして認め、secondary procencephalonを三つのパートに分ける考えも出されている<ref><pubmed> 25736911 </pubmed></ref>。
 視床下部は、前脳の前方腹側で発生するが、他の間脳領域(プロソメア1〜3)とは発現する遺伝子の種類が異なる例が多い。視床下部は少なくともその一部は神経管の腹側の要素(基板)であると考えられており、基板を特徴づける''Shh''の発現が見られる。ただし''Shh''は視床下部の全域に発現するわけではない。また、転写因子である''Nkx2.1''が発現していることも視床下部の特徴である<ref><pubmed> 1811929 </pubmed></ref>。この遺伝子は実際に前脳腹側の形成に関わっている<ref><pubmed> 8557195 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。そして、視床下部領域と終脳とを合わせたものをひとつのコンパートメントと捉える考えが、プロソメアモデルを提唱したPuellesらの研究グループから出されている<ref name=ref2 /><ref name=ref40><pubmed> 25852489 </pubmed></ref>('''図1''')。この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。このモデルでは発生期の前脳は間脳(プロソメア1〜3)とsecondary procencephalonに分化するとされる。つまり、従来のモデルでは視床下部は間脳に含まれるが、このモデルでは視床下部はsecondary procencephalonに含まれる。前脳が後方の「間脳」と前方の「secondary procencephalon」にわかれるとする形態発生学的な根拠として、「間脳」領域の発生は腹側にある脊索の影響を受け、「secondary procencephalon」は脊索前板(prechordal plate)の影響を受けることが挙げられる。このモデルに従うなら、secondary procencephalonの背側部分が終脳で、その腹側部分が視床下部となり、同時に視床下部が神経管の最も前方の領域となる<ref name=ref40 />。secondary procencephalonはさらにhypotyalamo-telencephalic prosomere 1と2(HP1とHP2)に細分されている。HP1が後方でHP2が前方である。視床下部はHP1に含まれる部分がpeduncular hypothalamus(PHy)、HP2に含まれる部分がterminal hypothalamus(THy)と名付けられている(図1:発生期の間脳の模式図)。終脳ではHP1が外套(Pallium)と外套下部(subpallium)の多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。さらに真骨魚類では終脳と視床下部の間にあるoptic recess region(視交叉陥凹部;目の網膜も含む)を一つのユニットとして認め、secondary procencephalonを三つのパートに分ける考えも出されている<ref><pubmed> 25736911 </pubmed></ref>。


== 魚類の間脳の形態と発生 ==
== 魚類の間脳の形態と発生 ==


 魚類(条鰭魚類)の間脳の発生過程では,マウスや他の脊椎動物と同様にプロソメア1〜3と視床下部の領域が分化する.しかしながら,その後に分化していく神経核については他の脊椎動物には見られないようなものが出現する.その代表的なものが、間脳の腹側に発生するPG複合体(preglomerular complex)である。この神経核は発生期に視床などの間脳翼板領域の細胞が移動してくることによってできると考えられている<ref><pubmed> 17230016 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22586363 </pubmed></ref>。この神経核複合体からの軸索は哺乳類の視床の神経核のように終脳外套に投射している<ref><pubmed> 16134137 </pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed> 22247053 </pubmed></ref>。しかしその投射先は哺乳類の新皮質(背側外套)とは必ずしも相同ではないらしい。
 魚類(条鰭魚類)の間脳の発生過程では,マウスや他の脊椎動物と同様にプロソメア1〜3と視床下部の領域が分化する.しかしながら,その後に分化していく神経核については他の脊椎動物には見られないようなものが出現する.その代表的なものが、間脳の腹側に発生するPG複合体(preglomerular complex)である。この神経核は発生期に視床などの間脳翼板領域の細胞が移動してくることによってできると考えられている<ref><pubmed> 17230016 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22586363 </pubmed></ref>。この神経核複合体からの軸索は哺乳類の視床の神経核のように終脳外套に投射している<ref><pubmed> 16134137 </pubmed></ref><ref name=ref45><pubmed> 22247053 </pubmed></ref>。しかしその投射先は哺乳類の新皮質(背側外套)とは必ずしも相同ではないらしい。


== 間脳発生機構の起源 ==
== 間脳発生機構の起源 ==
 発生期の間脳に存在するZliはこれまで調べられてきた脊椎動物の多くの種において、脳形成に関わるオーガナイザーとして重要な役割を担っている。Zliに相同な構造は、脊椎動物の姉妹群であるナメクジウオやホヤでは認められないものの、脊索動物の外群に当たる半索動物のギボシムシ(最近では半索動物と棘皮動物の類縁性が指摘され、これらは歩帯動物Ambulacrariaというクレードを構成する)でZliでのShhの発現に関わるエンハンサーの存在を示唆するデータが得られている<ref><pubmed> 22422262 </pubmed></ref><ref><pubmed> 27064252 </pubmed></ref>。そうであれば、このオーガナイザーの起源は歩帯動物と脊索動物の分岐以前に遡ることになる。
 発生期の間脳に存在するZliはこれまで調べられてきた脊椎動物の多くの種において、脳形成に関わるオーガナイザーとして重要な役割を担っている。Zliに相同な構造は、脊椎動物の姉妹群であるナメクジウオやホヤでは認められないものの、脊索動物の外群に当たる半索動物のギボシムシ(最近では半索動物と棘皮動物の類縁性が指摘され、これらは歩帯動物Ambulacrariaというクレードを構成する)でZliでのShhの発現に関わるエンハンサーの存在を示唆するデータが得られている<ref><pubmed> 22422262 </pubmed></ref><ref><pubmed> 27064252 </pubmed></ref>。そうであれば、このオーガナイザーの起源は歩帯動物と脊索動物の分岐以前に遡ることになる。


 間脳のプロソメア領域の起源については、現生脊椎動物の系統のうち、最も初期に分岐したとされる円口類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)において研究が進んでいる。発生期のヤツメウナギ前脳では、プロソメアを規定する遺伝子発現(''Pax6''、''Pax3/7''、''Lhx''などの相同遺伝子)が見られ、Zliには''Shh''に相同な遺伝子(''HhB'')が発現しており、視床下部の原基では''Nkx2.1''の相同遺伝子の発現が見られる。それらの領域から発生する神経要素も他の脊椎動物のものと対応している<ref><pubmed> 19729892 </pubmed></ref>。そして円口類のもう一つの系統であるヌタウナギでも、遺伝子の発現様式が他の脊椎動物やヤツメウナギとよく似ていることが明らかとなっている<ref><pubmed> 26878236 </pubmed></ref>。このことから、脊椎動物の歴史において、円口類と顎口類(Gnathostomes)の分岐以前の段階で間脳のプロソメアを規定する分子基盤は成立していたと考えられる。円口類と顎口類の祖先が分岐したのはおよそ5億年前であることから、脊椎動物の間脳発生機構の起源は極めて古いといえる。ただし、間脳に入出力する神経路は動物ごとに多かれ少なかれ相違が見られる。例えば視覚系については、哺乳類以外の羊膜類では視神経は間脳の腹側でほぼ全てが交叉し(全交叉)、視神経は視床と中脳の視蓋に入力する(視神経の多くは視蓋に入力する)。そして視蓋から出た神経が視床の神経核(円形核)に入り、そこからの軸索が終脳の背側脳室稜(dorsal ventricular ridge: DVR)に投射する。一方、哺乳類では、視神経は間脳の腹側で完全には交叉しない(部分交叉あるいは半交叉)。ただし哺乳類でもクジラ類の視神経は全交叉あるいはそれに近い形態となる<ref>'''Ridgway SH'''<br>The central nervous system of the bottlenose dolphin. In: Leatherwood, S., Reeves, R.R. (Eds.), The Bottlenose Dolphin. pp. 69–97.<br>''Academic Press, San Diego, CA'':1990</ref>。視神経は間脳の外側膝状体と中脳の上丘(視蓋に相同な領域)に入力し、外側膝状体からの軸索は新皮質の一次視覚野に投射する。このとき、視神経が部分交叉する哺乳類(食肉目や霊長目)では右目由来と左目由来の外側膝状体の軸索は混じり合うこと無く視覚野に入力し、眼優位性カラム(ocular domincance column)を形成する。視覚系のみならず、聴覚系の投射様式も哺乳類と鳥類・爬虫類では異なっている。魚類でも異なる感覚の求心性投射は終脳の特定の場所に局在しているが<ref name=ref27 />、その投射領域は羊膜類とは異なる可能性がある。つまり、間脳はその発生メカニズムが確立された後、その基本形を維持しつつも、進化の過程で系統ごとに様々な改変がなされてきたと考えられる。
 間脳のプロソメア領域の起源については、現生脊椎動物の系統のうち、最も初期に分岐したとされる円口類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)において研究が進んでいる。発生期のヤツメウナギ前脳では、プロソメアを規定する遺伝子発現(''Pax6''、''Pax3/7''、''Lhx''などの相同遺伝子)が見られ、Zliには''Shh''に相同な遺伝子(''HhB'')が発現しており、視床下部の原基では''Nkx2.1''の相同遺伝子の発現が見られる。それらの領域から発生する神経要素も他の脊椎動物のものと対応している<ref><pubmed> 19729892 </pubmed></ref>。そして円口類のもう一つの系統であるヌタウナギでも、遺伝子の発現様式が他の脊椎動物やヤツメウナギとよく似ていることが明らかとなっている<ref><pubmed> 26878236 </pubmed></ref>。このことから、脊椎動物の歴史において、円口類と顎口類(Gnathostomes)の分岐以前の段階で間脳のプロソメアを規定する分子基盤は成立していたと考えられる。円口類と顎口類の祖先が分岐したのはおよそ5億年前であることから、脊椎動物の間脳発生機構の起源は極めて古いといえる。ただし、間脳に入出力する神経路は動物ごとに多かれ少なかれ相違が見られる。例えば視覚系については、哺乳類以外の羊膜類では視神経は間脳の腹側でほぼ全てが交叉し(全交叉)、視神経は視床と中脳の視蓋に入力する(視神経の多くは視蓋に入力する)。そして視蓋から出た神経が視床の神経核(円形核)に入り、そこからの軸索が終脳の背側脳室稜(dorsal ventricular ridge: DVR)に投射する。一方、哺乳類では、視神経は間脳の腹側で完全には交叉しない(部分交叉あるいは半交叉)。ただし哺乳類でもクジラ類の視神経は全交叉あるいはそれに近い形態となる<ref>'''Ridgway SH'''<br>The central nervous system of the bottlenose dolphin. In: Leatherwood, S., Reeves, R.R. (Eds.), The Bottlenose Dolphin. pp. 69–97.<br>''Academic Press, San Diego, CA'':1990</ref>。視神経は間脳の外側膝状体と中脳の上丘(視蓋に相同な領域)に入力し、外側膝状体からの軸索は新皮質の一次視覚野に投射する。このとき、視神経が部分交叉する哺乳類(食肉目や霊長目)では右目由来と左目由来の外側膝状体の軸索は混じり合うこと無く視覚野に入力し、眼優位性カラム(ocular domincance column)を形成する。視覚系のみならず、聴覚系の投射様式も哺乳類と鳥類・爬虫類では異なっている。魚類でも異なる感覚の求心性投射は終脳の特定の場所に局在しているが<ref name=ref45 />、その投射領域は羊膜類とは異なる可能性がある。つまり、間脳はその発生メカニズムが確立された後、その基本形を維持しつつも、進化の過程で系統ごとに様々な改変がなされてきたと考えられる。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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