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== 長期シナプス可塑性および長期記憶形成におけるCREBの機能 == | == 長期シナプス可塑性および長期記憶形成におけるCREBの機能 == | ||
神経系におけるCREBの生理機能は、様々な生物種において様々なCREB機能阻害実験によって解析されている<ref><pubmed>9530494</pubmed></ref>[20] | 神経系におけるCREBの生理機能は、様々な生物種において様々なCREB機能阻害実験によって解析されている<ref><pubmed>9530494</pubmed></ref>[20]。[[アメフラシ]]においてエラ引き込み反射の長期増強には長期促通(long-term facilitation)と呼ばれる長期シナプス可塑性が関与しているが、この時、神経細胞に抗CREB抗体やデコイとなるCRE配列を注入すると長期促通が阻害される<ref><pubmed>2141668</pubmed></ref><ref><pubmed>9428516</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]においては、ドミナントネガティブ型CREBを過剰発現させることによってCREBの機能阻害を引き起こすと、匂いと電気ショックの連合学習後に短期記憶は獲得できるものの、長期記憶は障害される<ref><pubmed>7923376</pubmed></ref>[23]。同様に、CREB欠損マウスにおける文脈依存的な恐怖条件付け課題では短期記憶は形成されるが長期記憶に障害があることが報告されている<ref><pubmed>7923378</pubmed></ref>。ラットを用いた空間学習課題の実験では、CREBのアンチセンスオリゴを[[海馬]]に局所注入してCREBの発現を抑制すると、短期記憶は正常に形成されるが、長期記憶には障害が生じる<ref><pubmed>9122258</pubmed></ref>。 | ||
マウスやラットにおいて海馬神経細胞におけるシナプスの[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)は海馬依存的な学習および記憶形成に重要な役割を果たしていると考えられている。特に、数時間以上持続する後期LTP(late-phase LTP)は長期記憶形成との関連が強く示唆されている。海馬神経細胞に活性化型CREBを発現させると、通常は後期LTPが起きない刺激条件でも後期LTPが成立することから、CREBあるいはCREBによって発現制御される遺伝子産物は海馬における後期LTPの成立に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Barco2002/>。 | |||
== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||
CREBは長期記憶以外にも多様な神経機能において中核的役割を果しており、その機能破綻は様々な疾患の原因となりうる。CREBはCBPあるいはp300を介して転写調節を行うが、CBP/p300の変異はヒトの精神運動発達障害を伴うRubinstein-Taybi症候群の原因となることが明らかになっている<ref><pubmed>7630403</pubmed></ref>[26]。また、ポリグルタミン病早期における病態の一つは、CREB依存的転写の阻害である可能性が指摘されている<ref><pubmed> 10958659 </pubmed></ref>[27]。また、アルコール中毒やコカインなどの薬物中毒となる過程においてもCREBによる転写調節が役割を果たしていることが動物実験において示されている<ref><pubmed> 15982754 </pubmed></ref>[28]。さらには、鬱病の治療薬である抗うつ剤の多くはCREB活性を上昇させることが示されており、鬱病におけるCREBの転写活性の低下の可能性が示唆されている<ref><pubmed> 12486182</pubmed></ref>[29]。しかし逆に、動物実験において側坐核などの特定の神経核においてCREB活性を強制的に上昇させた場合に鬱様の行動が惹起されることから<ref><pubmed>11549750</pubmed></ref>[30]、正常な脳機能を保つためには適切なレベルのCREB依存的な転写調節が必要であると考えられる。 | CREBは長期記憶以外にも多様な神経機能において中核的役割を果しており、その機能破綻は様々な疾患の原因となりうる。CREBはCBPあるいはp300を介して転写調節を行うが、CBP/p300の変異はヒトの精神運動発達障害を伴うRubinstein-Taybi症候群の原因となることが明らかになっている<ref><pubmed>7630403</pubmed></ref>[26]。また、ポリグルタミン病早期における病態の一つは、CREB依存的転写の阻害である可能性が指摘されている<ref><pubmed> 10958659 </pubmed></ref>[27]。また、アルコール中毒やコカインなどの薬物中毒となる過程においてもCREBによる転写調節が役割を果たしていることが動物実験において示されている<ref><pubmed> 15982754 </pubmed></ref>[28]。さらには、鬱病の治療薬である抗うつ剤の多くはCREB活性を上昇させることが示されており、鬱病におけるCREBの転写活性の低下の可能性が示唆されている<ref><pubmed> 12486182</pubmed></ref>[29]。しかし逆に、動物実験において側坐核などの特定の神経核においてCREB活性を強制的に上昇させた場合に鬱様の行動が惹起されることから<ref><pubmed>11549750</pubmed></ref>[30]、正常な脳機能を保つためには適切なレベルのCREB依存的な転写調節が必要であると考えられる。 |