「フェロモン受容体」の版間の差分

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==== シグナル伝達 ====
==== シグナル伝達 ====
 V1Rを介したフェロモンの受容メカニズムとして、以下のようなシグナル伝達機構が考えられている2<ref name=Munger2009/>。フェロモン分子がV1Rに結合するとGαi2を含む三量体Gタンパク質が活性化される。それに伴い遊離したGβ2γ2サブユニットがホスホリパーゼCβ2(PLCβ2)を活性化する。PLCβ2はホスファチジルイノシトール二リン酸を加水分解してジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール三リン酸(PI3)を産生する。この下流として2種類のシグナル伝達機構が考えられている。1つ目はDAGがTRPC2チャネルに結合することでチャネルが開口してNa+やCa2+が細胞内に流入して脱分極が引き起される経路である<ref><pubmed>14642279</pubmed></ref>13。もう一つはDAGがDAGリパーゼによって加水分解されアラキドン酸が産生し、アラキドン酸がCa2+感受性チャネルに結合することでCa2+が細胞内に流入することで脱分極が引き起こされる経路である<ref><pubmed>12351717</pubmed></ref><ref><pubmed>20147653</pubmed></ref>14,15。このような細胞内シグナル伝達を経て、V1Rが受け取ったフェロモン情報は電気信号へと変換される。
 V1Rを介したフェロモンの受容メカニズムとして、以下のようなシグナル伝達機構が考えられている2<ref name=Munger2009/>。フェロモン分子がV1Rに結合するとGαi2を含む三量体Gタンパク質が活性化される。それに伴い遊離したGβ2γ2サブユニットがホスホリパーゼCβ2(PLCβ2)を活性化する。PLCβ2はホスファチジルイノシトール二リン酸を加水分解してジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール三リン酸(PI3)を産生する。この下流として2種類のシグナル伝達機構が考えられている。1つ目はDAGがTRPC2チャネルに結合することでチャネルが開口してNa<sup>+</sup>やCa<sup>2+</sup>が細胞内に流入して脱分極が引き起される経路である<ref><pubmed>14642279</pubmed></ref>13。もう一つはDAGがDAGリパーゼによって加水分解されアラキドン酸が産生し、アラキドン酸がCa<sup>2+</sup>感受性チャネルに結合することでCa<sup>2+</sup>が細胞内に流入することで脱分極が引き起こされる経路である<ref><pubmed>12351717</pubmed></ref><ref><pubmed>20147653</pubmed></ref>14,15。このような細胞内シグナル伝達を経て、V1Rが受け取ったフェロモン情報は電気信号へと変換される。
 V1Rを発現する鋤鼻神経細胞は一次中枢である副嗅球の口吻側に投射しており、副嗅球でシナプスを介して二次神経に信号が伝わる。二次神経は、扁桃体内側核や分界上床核へと軸索を伸ばし、その後、視床下部などの高次脳領域へ情報が伝達されていく<ref><pubmed>16953793</pubmed></ref>16。
 V1Rを発現する鋤鼻神経細胞は一次中枢である副嗅球の口吻側に投射しており、副嗅球でシナプスを介して二次神経に信号が伝わる。二次神経は、扁桃体内側核や分界上床核へと軸索を伸ばし、その後、視床下部などの高次脳領域へ情報が伝達されていく<ref name=Dulac2006><pubmed>16953793</pubmed></ref>16。


==== 機能 ====
==== 機能 ====
 V1Rは低分子の揮発性フェロモンや、ステロイドなどの不揮発性フェロモンを受容する。揮発性フェロモン受容の例として、オスとメス両方のマウスの尿中に含まれる2-heptanoneはV1Rb2によって受容され、メスの発情期を延長させる<ref name=Boschat2002/>9。ステロイド受容の例として、発情期のメスマウスの尿中に含まれるエストロゲン硫化物は、V1rj2とV1rj3に受容される<ref name=Haga2014><pubmed>25073926</pubmed></ref>17。エストロゲン硫化物を塗った卵巣除去メスに対しては、オスはマウント行動を示さない。一方、非発情期のメス尿とエストロゲン硫化物を同時に塗った場合は、オスのマウントが促進される。これらのことから、オスはメス特異的なシグナルと発情状態を示すシグナルを同時に受容した場合に性行動が促進されることが示唆される<ref name=Haga2014/>17。
 V1Rは低分子の揮発性フェロモンや、ステロイドなどの不揮発性フェロモンを受容する。揮発性フェロモン受容の例として、オスとメス両方のマウスの尿中に含まれる2-heptanoneはV1Rb2によって受容され、メスの発情期を延長させる<ref name=Boschat2002/>9。ステロイド受容の例として、発情期のメスマウスの尿中に含まれるエストロゲン硫化物は、V1rj2とV1rj3に受容される<ref name=Haga2014><pubmed>25073926</pubmed></ref>17。エストロゲン硫化物を塗った卵巣除去メスに対しては、オスはマウント行動を示さない。一方、非発情期のメス尿とエストロゲン硫化物を同時に塗った場合は、オスのマウントが促進される。これらのことから、オスはメス特異的なシグナルと発情状態を示すシグナルを同時に受容した場合に性行動が促進されることが示唆される<ref name=Haga2014/>17。
 Puntaらは、2つのV1Rクレードを含む16種類のV1R遺伝子群を欠損させたマウスを作製したところ、このマウスでは母親の攻撃行動やオスの性行動が消失することを見出した。これらの行動を引き起こすのに必要なフェロモン受容体が、欠損した16種のV1R遺伝子群に含まれていると考えられる<ref><pubmed>12214233</pubmed></ref>18。
 Puntaらは、2つのV1Rクレードを含む16種類のV1R遺伝子群を欠損させたマウスを作製したところ、このマウスでは母親の攻撃行動やオスの性行動が消失することを見出した。これらの行動を引き起こすのに必要なフェロモン受容体が、欠損した16種のV1R遺伝子群に含まれていると考えられる<ref><pubmed>12214233</pubmed></ref>18。
 Isogaiらは、マウスにおいて、初期応答遺伝子Egr1を鋤鼻神経活動の指標とし、同種および他種生物由来の様々な刺激に対する鋤鼻神経応答プロファイルを作成した。その結果、V1Rは同種だけでなく異種生物由来のシグナル(カイロモン)も受容することが示されている<ref><pubmed>21937988</pubmed></ref>19。
 Isogaiらは、マウスにおいて、初期応答遺伝子Egr1を鋤鼻神経活動の指標とし、同種および他種生物由来の様々な刺激に対する鋤鼻神経応答プロファイルを作成した。その結果、V1Rは同種だけでなく異種生物由来のシグナル(カイロモン)も受容することが示されている<ref name=Isogai2011><pubmed>21937988</pubmed></ref>19。


=== 鋤鼻受容体 V2R ===
=== 鋤鼻受容体 V2R ===
==== 発見の経緯 ====
==== 発見の経緯 ====

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