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代表的な事象関連電位の1つにP300がある。これは、何か注意を払っていた視覚情報が提示された際に、約300ミリ秒後に生じる陽性の振幅変動である<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分は注意の度合いによって振幅が変動するすることが知られており<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>、注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーのスイッチとしての利用が有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。誘発電位の他に代表的な事象関連電位としては、運動準備電位(readiness potential)がある。これは、運動を実行する前から生じる陰性の緩電位である<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今、動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。<br> | 代表的な事象関連電位の1つにP300がある。これは、何か注意を払っていた視覚情報が提示された際に、約300ミリ秒後に生じる陽性の振幅変動である<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分は注意の度合いによって振幅が変動するすることが知られており<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>、注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーのスイッチとしての利用が有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。誘発電位の他に代表的な事象関連電位としては、運動準備電位(readiness potential)がある。これは、運動を実行する前から生じる陰性の緩電位である<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今、動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。<br> | ||
事象関連電位の歴史は古く再現性が確認されていることから、上述したように事象関連電位はある認知機能の指標として用いられることが一般的である。外的または内的要因によって事象関連電位がどのように変化するかを調査することで認知機能のメカニズム解明を図ったり、特定の反応が生じているかを脳活動から判断したりするために事象関連電位は利用されている。 | |||
=== 脳波リズム === | === 脳波リズム === | ||
脳波はその振幅情報だけでなく、その'''律動的なリズム'''も認知機能に関与することが示唆されている。たとえば、運動に関連してμ波リズム(α波とほぼ同一周波数帯域) | 脳波はその振幅情報だけでなく、その'''律動的なリズム'''も認知機能に関与することが示唆されている。たとえば、運動に関連してμ波リズム(α波とほぼ同一周波数帯域)のパワー値が減衰するμサプレッション(Pfurtscheller et al., 1977)という現象がある。このように事象に関連してある周波数帯域のパワー値が減衰する現象を'''事象関連脱同期'''(event-related desynchronization: ERD)と呼び,逆にパワー値が増強する現象を'''事象関連同期'''(event-related synchronization: ERS)と呼ぶ。シンプルに考えればその発生機序は、特定のリズムで活動する神経細胞集団の増加または減少と捉えることができるが、不明な点は多くコンセンサスは得られていない。μサプレッションは複雑な運動や力を必要とする運動ではその振幅が増強することが知られているように、事象関連(脱)同期も事象関連電位同様に心理的要因などによって変化する性質を持つ。周波数解析によって事象に関連する同期振動を分離できることから、脳波は、最も顕著な同期振動がその波形に現れるが、周波数分解することで背景脳波と<br> | ||
近年では、周波数成分の位相情報に注目した'''ネットワーク解析'''が行われるようになってきた。Rodriguezら(1999)<ref name=ref3 />は,ムーニーフェイスと呼ばれる二値化された顔の画像を被験者に提示し、このときの脳波を計測した。時間周波数解析の結果、画像が上下反転して顔と知覚できなかった条件と比較して、顔と知覚できた際にはガンマ波のパワー値が増強し、さらにその位相が大域的に同期することを発見した。つまり、白と黒の空間的広がりをもった視覚刺激が入力され、脳領域ごとに処理された情報が統合されて顔と知覚されたときに脳波リズムが同期していたことが示された。このことから、機能局在性に基づく各脳領域がモジュールとしてネットワークを形成し、各々のリズミカルな活動が同期することで機能的な情報統合を果たすと考えることができる<ref name=ref81><pubmed>11283746</pubmed></ref>。この[[同調性|'''振動同期仮説''']]の立場から、脳活動の振動成分と認知機能との相関について研究されるようになってきた。<br> | 近年では、周波数成分の位相情報に注目した'''ネットワーク解析'''が行われるようになってきた。Rodriguezら(1999)<ref name=ref3 />は,ムーニーフェイスと呼ばれる二値化された顔の画像を被験者に提示し、このときの脳波を計測した。時間周波数解析の結果、画像が上下反転して顔と知覚できなかった条件と比較して、顔と知覚できた際にはガンマ波のパワー値が増強し、さらにその位相が大域的に同期することを発見した。つまり、白と黒の空間的広がりをもった視覚刺激が入力され、脳領域ごとに処理された情報が統合されて顔と知覚されたときに脳波リズムが同期していたことが示された。このことから、機能局在性に基づく各脳領域がモジュールとしてネットワークを形成し、各々のリズミカルな活動が同期することで機能的な情報統合を果たすと考えることができる<ref name=ref81><pubmed>11283746</pubmed></ref>。この[[同調性|'''振動同期仮説''']]の立場から、脳活動の振動成分と認知機能との相関について研究されるようになってきた。<br> |
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