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Keiichikitajo (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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== 発生機序 == | == 発生機序 == | ||
脳内では各神経細胞が'''[[シナプス]]'''を介して情報伝達をおこない、それによって認知機能が実現されているとされる。ある神経細胞の活動電位が軸索を通ってシナプスに達すると、'''[[神経伝達物質]]'''を介して他の神経細胞へと情報が伝達される。この結果としてとしてシナプス後細胞が脱分極ないし過分極するとシナプス後膜に'''シナプス後電位'''が生じる。すると尖樹状突起と細胞体の間で細胞内電流が生じる。これに伴い細胞内電流とは逆方向に細胞外電流が生じ、疑似的な電流双極子を形成する。大脳皮質のニューロン集団が局所的に[[同調性|'''同期''']]して一斉に活動をすると、多数の同一双極子が並ぶことになり、細胞外電流が加重される。この加重された細胞外電流が形成する電場電位の変化を頭皮上から記録したものが脳波とされる。つまり、時空間的に加重されたシナプス後電位を反映していると考えられる。一方、活動電位は持続時間が非常に短いために同期的加重が起こりにくく、ほとんど脳波に寄与しないと考えれらている。このため、脳波はある領域へ入力される信号とその処理を反映していると考えられる。<br> | |||
脳波は神経細胞の電気的な活動を計測することから、神経活動の変化を鋭敏に捉えることが可能である。時間分解能が高い一方で、計測されるまでの過程で空間情報は大きく損なわれることになり、空間分解能が低いという性質を合わせ持つ。シナプス後電位によって生じる細胞外電流は、神経路以外の髄液や頭蓋骨を伝わっていく('''[[体積伝導: volume conduction]]''')。髄液は高い電導性をもつために電流は広範囲に広がってしまうほか、頭蓋骨の低電導性によって大きく信号は減衰される。このために頭皮上で形成される電場は歪み、活動領域の空間情報は大きく劣化することになる。また、頭皮上に表出する電場電位の変化は非常に微細であり、高いS/N比を得るためには計測装置の磁場や漏れ電流などによる外乱ノイズを可能な限り無くすことが望ましい。<br> | |||
== 記録方法 == | == 記録方法 == | ||
=== 導出法 === | === 導出法 === | ||
脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅する差動増幅器によって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する'''共通基準導出(referential/monopolar derivation)'''と、隣り合う電極間で電位差を記録する'''双極導出(bipolar derivation)'''に大別される。そのため共通基準導出は比較的広範囲で生じる空間的変化をみるのに適しており、双極導出は局所的な変化をみるのに適している。<br> | |||
近年のヒト脳イメージング研究では、共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、脳電位の変化を抽出するために余計な電気的変化の生じない位置を基準点とするべきである。心電位や筋電位の混入を避けるために耳朶や鼻尖に基準電極を着けることが多いが、僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じてしまう。差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消されるため、活性化の影響から基準電極に近い探査電極では電位が小さく導出されてしまう。このため、電位変化の空間分布をみる際にはリファレンスの位置をよく考慮するべきであり、必要によっては'''再基準化'''を行うべきである。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、増幅器のための基準点として接地(グラウンド)電極を設ける。グラウンド電極は眼球運動による電位変化が混入しやすい前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである<ref name=ref31>'''柳沢 信夫、 柴崎 浩'''<br>臨床神経生理学<br>''医学書院'':2008</ref>。<br> | 近年のヒト脳イメージング研究では、共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、脳電位の変化を抽出するために余計な電気的変化の生じない位置を基準点とするべきである。心電位や筋電位の混入を避けるために耳朶や鼻尖に基準電極を着けることが多いが、僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じてしまう。差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消されるため、活性化の影響から基準電極に近い探査電極では電位が小さく導出されてしまう。このため、電位変化の空間分布をみる際にはリファレンスの位置をよく考慮するべきであり、必要によっては'''再基準化'''を行うべきである。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、増幅器のための基準点として接地(グラウンド)電極を設ける。グラウンド電極は眼球運動による電位変化が混入しやすい前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである<ref name=ref31>'''柳沢 信夫、 柴崎 浩'''<br>臨床神経生理学<br>''医学書院'':2008</ref>。<br> | ||
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=== 入力抵抗と接触抵抗 === | === 入力抵抗と接触抵抗 === | ||
脳波計測では、脳を生体電源とする回路に探査電極を組み込み、オームの法則から探査電極にかかる電位を測る。しかし実際には生体内部で高い抵抗がかかっているため、探査電極にかかる電圧が生体電源電圧と等しくならない。なおかつこの抵抗は変動することがあるため測定はできず、探査電極にかかる電圧を正しく計測することができない。この生体内の抵抗を無視するために、脳波計の入力端子間における抵抗('''入力抵抗''')を高くする必要がある(おおよそ10MΩ以上)。生体側の抵抗よりも入力抵抗が十分に高ければ、抵抗の両端で生じる電位差を脳で生じた電圧とほぼ等しいとみなすことができる。<br> | |||
生体信号の記録には、銀-塩化銀(Ag/AgCl)電極の電気特性が最も良いといわれていが、脳波計の入力抵抗が十分に高ければ、電極の種類によらず歪のない計測ができるといわれている。電極を頭皮に接地する際には、頭皮との間に導電性のゲルを埋めて電気的に接触させる。この電極と頭皮の間で生じる'''接触抵抗'''は、S/N比の高い脳波計測をするうえで非常に重要になってくる。接触抵抗が高いと閉回路に余計な抵抗が直列接続されることになり信号が減衰してしまうため、頭皮の角質を落とすといった前処理で下げる必要がある。接触抵抗は各電極とグラウンド電極間に交流電流を流した際の電極間抵抗として計測が可能であり、5kΩ以下にすることが望ましいとされる。また、接触抵抗はできるだけ一様に下げることが望ましい。これは電極抵抗の値が揃っていれば差動増幅器(脳波計)の特性によって同相信号が除去されるためであり、電源ラインから混入するノイズの影響を少なくすることができる。<br> | 生体信号の記録には、銀-塩化銀(Ag/AgCl)電極の電気特性が最も良いといわれていが、脳波計の入力抵抗が十分に高ければ、電極の種類によらず歪のない計測ができるといわれている。電極を頭皮に接地する際には、頭皮との間に導電性のゲルを埋めて電気的に接触させる。この電極と頭皮の間で生じる'''接触抵抗'''は、S/N比の高い脳波計測をするうえで非常に重要になってくる。接触抵抗が高いと閉回路に余計な抵抗が直列接続されることになり信号が減衰してしまうため、頭皮の角質を落とすといった前処理で下げる必要がある。接触抵抗は各電極とグラウンド電極間に交流電流を流した際の電極間抵抗として計測が可能であり、5kΩ以下にすることが望ましいとされる。また、接触抵抗はできるだけ一様に下げることが望ましい。これは電極抵抗の値が揃っていれば差動増幅器(脳波計)の特性によって同相信号が除去されるためであり、電源ラインから混入するノイズの影響を少なくすることができる。<br> |
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