「色覚」の版間の差分

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(図1。色立体:色相、彩度、明度…著作権問題あり、オリジナルを作成予定)
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色弁別の性質は、網膜神経節細胞や外側膝状体など主に低次の視覚系の反対色メカニズムの特徴を反映している<ref name=Derrington1984><pubmed> 6512691 </pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref>(Derrington, Krauskopf, Lennie, 1984; Chaparro et al。, 1993)と考えられている。一方、色の見え、すなわち色に関する知覚は主観的体験であり、脳損傷者により色の見えを失う皮質性色覚異常(cerebral achromatopsia:例えばKennard et al。, 1995)<ref><pubmed></pubmed></ref>を考慮すると脳内の神経信号として形成されていると考えられる(「色選択性細胞」参照)。
色弁別の性質は、網膜神経節細胞や外側膝状体など主に低次の視覚系の反対色メカニズムの特徴を反映している<ref name=Derrington1984><pubmed> 6512691 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8426653 </pubmed></ref>(Derrington, Krauskopf, Lennie, 1984; Chaparro et al。, 1993)と考えられている。一方、色の見え、すなわち色に関する知覚は主観的体験であり、脳損傷者により色の見えを失う皮質性色覚異常(cerebral achromatopsia:例えばKennard et al。, 1995)<ref><pubmed> 7784436 </pubmed></ref>を考慮すると脳内の神経信号として形成されていると考えられる(「色選択性細胞」参照)。


色の見え方にも複数の状態が存在することが知られている。例えば白熱灯下や夕方の外光など、長波長の成分を多く含む光を照明とする場合、色恒常性により白い紙であるという認識(surface color / related color)を得るのと同時に、見かけでは昼間の太陽光の下で見るより赤みを帯びて見えるという感覚(apparent color / unrelated color)も経験する(Arend & Reeves, 1986; Kuriki & Uchikawa, 1996; Foster, 2011)<ref><pubmed></pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref><ref name=Foster2011>。また、同一の光に対し、表面からの反射光として知覚する場合には茶色を知覚するが、光源としか見えない場合にはオレンジを知覚するなど、視対象の認識による影響も受ける(色の見えのモード mode of color appearance; Katz, 1935)<ref><pubmed></pubmed></ref>。いずれも色に関する感覚でありながら、一つの対象物/光に対して同時に異なる知覚を得るということは、各々の感覚を生じさせているメカニズムが多層に存在する指摘とも対応し、知覚の神経基盤を考える際には注意が必要である。
色の見え方にも複数の状態が存在することが知られている。例えば白熱灯下や夕方の外光など、長波長の成分を多く含む光を照明とする場合、色恒常性により白い紙であるという認識(surface color / related color)を得るのと同時に、見かけでは昼間の太陽光の下で見るより赤みを帯びて見えるという感覚(apparent color / unrelated color)も経験する(Arend & Reeves, 1986; Kuriki & Uchikawa, 1996; Foster, 2011)<ref><pubmed> 3772637 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8755788 </pubmed></ref><ref name=Foster2011 />。また、同一の光に対し、表面からの反射光として知覚する場合には茶色を知覚するが、光源としか見えない場合にはオレンジを知覚するなど、視対象の認識による影響も受ける(色の見えのモード mode of color appearance; Katz, 1935)<ref>'''Katz D.'''<br>The world of color.<br> London, United Kingdom: Kegan Paul (1935). </ref>。いずれも色に関する感覚でありながら、一つの対象物/光に対して同時に異なる知覚を得るということは、各々の感覚を生じさせているメカニズムが多層に存在する指摘とも対応し、知覚の神経基盤を考える際には注意が必要である。


色の見えの現象的詳細はリンク先を参照。
色の見えの現象的詳細はリンク先を参照。


== 色覚メカニズム:「3色説」「4色説」と生理学的対応 ==
== 色覚メカニズム:「3色説」「4色説」と生理学的対応 ==
19世紀末から20世紀初頭にかけて対立する学説として存在した。物理学者のThomas Young, Hermann von Helmholtzは、3つの原色(例えば赤、緑、青)の混合により任意の可視光と同じ見え方を作ることができる(条件等色、metamerism)という現象観察の経験に基づく3色説を提案し、光に感受性を持つ細胞が3種類であると考えた(König, 1892)<ref><pubmed></pubmed></ref>。この原理は現在のカラーディスプレイのほとんどが用いている色の表示方法と同一である。一方、生理学者・心理学者のEwald Heringは、赤、緑、青、黄の4色の組み合わせにより任意の色を表現できる知覚的な経験則に基づき4色説を唱えた。赤-緑、あるいは青-黄は同時に知覚されないことから、赤-緑と青-黄を正-負の極性で表現する2軸が張る空間を考えると、任意の色相を表現できる事を提案した。
19世紀末から20世紀初頭にかけて対立する学説として存在した。物理学者のThomas Young, Hermann von Helmholtzは、3つの原色(例えば赤、緑、青)の混合により任意の可視光と同じ見え方を作ることができる(条件等色、metamerism)という現象観察の経験に基づく3色説を提案し、光に感受性を持つ細胞が3種類であると考えた(König, 1892)<ref>'''A. König'''<br>Die Grundempfindungen und ihre Intensitäts-Vertheilung im Spectrum<br>''Sitzungsberichte der Akademie der Wissenschaften zu Berlin'', 29 July 1886, 805–829. [http://www.iscc-archive.org/pdf/KonigTranslation.pdf 英訳版PDF]</ref>。この原理は現在のカラーディスプレイのほとんどが用いている色の表示方法と同一である。一方、生理学者・心理学者のEwald Heringは、赤、緑、青、黄の4色の組み合わせにより任意の色を表現できる知覚的な経験則に基づき4色説を唱えた。赤-緑、あるいは青-黄は同時に知覚されないことから、赤-緑と青-黄を正-負の極性で表現する2軸が張る空間を考えると、任意の色相を表現できる事を提案した。
   
   
(図2:Hering の色相環(複製); MacAdam, 1970<ref><pubmed></pubmed></ref>)
(図2:Hering の色相環(複製); MacAdam, 1970<ref>'''MacAdam, D. L. (Ed.)'''.<br>Sources of color science.<br>''MIT Press.'' Cambridge, MA. 1970</ref>)


一方、生理学的な背景に目を向けると、色覚に関連する光受容器である錐体が3種類であることは3色説を支持している。他方、網膜や外側膝状体で色選択性細胞が示す錐体拮抗型の特性は、錐体応答の加減算により概ね赤―緑、青―黄の色成分に選択的であることから、4色説を支持していると考えられる。すなわち生理学的にはいずれの説も正しかったという見方もできる。
一方、生理学的な背景に目を向けると、色覚に関連する光受容器である錐体が3種類であることは3色説を支持している。他方、網膜や外側膝状体で色選択性細胞が示す錐体拮抗型の特性は、錐体応答の加減算により概ね赤―緑、青―黄の色成分に選択的であることから、4色説を支持していると考えられる。すなわち生理学的にはいずれの説も正しかったという見方もできる。

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