「トリプレット病」の版間の差分

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脆弱X症候群 (Fragile X症候群)
脆弱X症候群 (Fragile X症候群)
  Xq27.3に位置するFMR1遺伝子の5’UTRに存在するCGGリピートの異常伸長による疾患で遺伝性の知的機能障害 (IQ < 70)の原因として欧米では最も頻度が高い疾患として知られている。健常者ではリピート長が55以下であるが、特に母方からの伝播に際してリピートが不安定化し、次世代で伸長を認めることがある。患者はリピート長が200以上に伸長した変異アレルを有し、母親が55から200 CGGリピートの前変異 (permutation)を有することが多い。FMR1はRNA結合分子FMRPをコードしている。変異アレルでは伸長したCGGリピートと近傍のFMR1遺伝子プロモーター領域のCpGアイランドが過剰なメチル化修飾を受けるためFMR1遺伝子の発現が抑制され、その結果患者男児ではFMRPの発現が欠乏する。変異アレルを有する男児の大多数また女児の約25%は知的機能障害を有する。他の臨床症状として注意欠陥と多動性、自閉症様症状、長い顔、巨大睾丸などが特徴的である。神経病理学的には側頭葉・後頭葉の大脳皮質神経細胞のスパインの形態や数の異常が報告されている(Irwin et al, 2001).FMRPはグループ1代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)の下流で特定のmRNAの翻訳を抑制しており,FMRPの欠如によるこの翻訳抑制の解除が脆弱X症候群発症に関与するというmGluR説が提唱されている。
Xq27.3に位置するFMR1遺伝子の5’UTRに存在するCGGリピートの異常伸長による疾患で遺伝性の知的機能障害 (IQ < 70)の原因として欧米では最も頻度が高い疾患として知られている。健常者ではリピート長が55以下であるが、特に母方からの伝播に際してリピートが不安定化し、次世代で伸長を認めることがある。患者はリピート長が200以上に伸長した変異アレルを有し、母親が55から200 CGGリピートの前変異 (permutation)を有することが多い。FMR1はRNA結合分子FMRPをコードしている。変異アレルでは伸長したCGGリピートと近傍のFMR1遺伝子プロモーター領域のCpGアイランドが過剰なメチル化修飾を受けるためFMR1遺伝子の発現が抑制され、その結果患者男児ではFMRPの発現が欠乏する。変異アレルを有する男児の大多数また女児の約25%は知的機能障害を有する。他の臨床症状として注意欠陥と多動性、自閉症様症状、長い顔、巨大睾丸などが特徴的である。神経病理学的には側頭葉・後頭葉の大脳皮質神経細胞のスパインの形態や数の異常が報告されている(Irwin et al, 2001).FMRPはグループ1代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)の下流で特定のmRNAの翻訳を抑制しており,FMRPの欠如によるこの翻訳抑制の解除が脆弱X症候群発症に関与するというmGluR説が提唱されている。


Fragile XE症候群
Fragile XE症候群
  Xq28に位置するFMR2遺伝子の5’UTRに存在するCCGリピートの異常伸長による伴性劣性疾患で, 変異アレルではリピート長が200以上に伸長している。このCCGリピートの伸長はFMR1遺伝子のCGGリピートのそれと同じく、女性生殖細胞でおこるものと考えられている。変異アレルではFMR2遺伝子上流のCpGアイランドが過剰なメチル化修飾を受けるためFMR2遺伝子の転写が抑制される。患者は軽度の精神遅滞や学習障害を示す。FMR2タンパクは核内に存在し、転写因子として機能すると考えられているが詳細は不明である。
Xq28に位置するFMR2遺伝子の5’UTRに存在するCCGリピートの異常伸長による伴性劣性疾患で, 変異アレルではリピート長が200以上に伸長している。このCCGリピートの伸長はFMR1遺伝子のCGGリピートのそれと同じく、女性生殖細胞でおこるものと考えられている。変異アレルではFMR2遺伝子上流のCpGアイランドが過剰なメチル化修飾を受けるためFMR2遺伝子の転写が抑制される。患者は軽度の精神遅滞や学習障害を示す。FMR2タンパクは核内に存在し、転写因子として機能すると考えられているが詳細は不明である。


フリードライヒ失調症 (FRDA)
フリードライヒ失調症 (FRDA)
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2. 機能獲得の機構を介した疾患
2. 機能獲得の機構を介した疾患
(A) ポリグルタミン病
(A) ポリグルタミン病
 トリプレット病のうち9つの疾患については、エクソン内に存在しグルタミン鎖をコードするCAGリピートが異常伸長することからポリグルタミン病とも呼ばれている。これらの疾患における共通の特徴として、伸長ポリグルタミン鎖を有する変異タンパクが患者神経細胞内で凝集体を形成することがしられている。ポリグルタミン病の発症機序には不明な点が多いが、ポリグルタミン鎖の異常伸長はそれぞれの遺伝子産物の折りたたみ構造(コンフォーメーション)に変化をきたし(ミスフォールディング)、異常な折りたたみ構造を呈するタンパクが次第に凝集体として神経細胞内に蓄積すると考えられる。また、ミスフォールディングの結果、それら遺伝子産物が本来有する機能、特に他の分子とのタンパク間相互作用を介した機能に変化をきたし、その結果さまざまな細胞内プロセスに変化をきたし、最終的に神経変性に導くと考えられている。
トリプレット病のうち9つの疾患については、エクソン内に存在しグルタミン鎖をコードするCAGリピートが異常伸長することからポリグルタミン病とも呼ばれている。これらの疾患における共通の特徴として、伸長ポリグルタミン鎖を有する変異タンパクが患者神経細胞内で凝集体を形成することがしられている。ポリグルタミン病の発症機序には不明な点が多いが、ポリグルタミン鎖の異常伸長はそれぞれの遺伝子産物の折りたたみ構造(コンフォーメーション)に変化をきたし(ミスフォールディング)、異常な折りたたみ構造を呈するタンパクが次第に凝集体として神経細胞内に蓄積すると考えられる。また、ミスフォールディングの結果、それら遺伝子産物が本来有する機能、特に他の分子とのタンパク間相互作用を介した機能に変化をきたし、その結果さまざまな細胞内プロセスに変化をきたし、最終的に神経変性に導くと考えられている。


SBMA (球脊髄性筋萎縮症)
SBMA (球脊髄性筋萎縮症)
 アンドロゲンレセプター遺伝子(AR)内のCAGリピートの異常伸長によるX染色体劣性遺伝性の疾患で、緩徐進行性の筋萎縮(特に近位筋)や線維束攣縮を主症状とする。中年期に発症することが多く、筋萎縮・脱力は顔面筋・舌筋・咽頭筋・遠位筋にも広がる。アンドロゲンに対する感受性の軽度低下による女性化乳房、睾丸萎縮、生殖能力の低下も見られる。病理学的には脊髄前角細胞、延髄の下位運動ニュ−ロン、後根神経節細胞の変性が特徴的で、変異アンドロゲンレセプターは神経細胞内で核内封入体を形成する。
アンドロゲンレセプター遺伝子(AR)内のCAGリピートの異常伸長によるX染色体劣性遺伝性の疾患で、緩徐進行性の筋萎縮(特に近位筋)や線維束攣縮を主症状とする。中年期に発症することが多く、筋萎縮・脱力は顔面筋・舌筋・咽頭筋・遠位筋にも広がる。アンドロゲンに対する感受性の軽度低下による女性化乳房、睾丸萎縮、生殖能力の低下も見られる。病理学的には脊髄前角細胞、延髄の下位運動ニュ−ロン、後根神経節細胞の変性が特徴的で、変異アンドロゲンレセプターは神経細胞内で核内封入体を形成する。


ハンチントン病(HD)
ハンチントン病(HD)
 ハンチンチン蛋白N末端部に存在するポリグルタミン鎖をコードするHtt遺伝子内CAGリピートの異常伸長による疾患で、患者は主に中年期に発症し、舞踏病(不随意運動の一種)に加えて、記銘力障害、人格変化、うつなどの症状を示し、平均10年から15年で死に至る。神経病理学的には尾状核と被殻の著名な萎縮が特徴的で、GABA作動性の投射細胞である中型有棘神経細胞(medium spiny neuron)が最も変性に陥りやすい細胞とされる。2次的に線条体から投射を受ける淡蒼球も変性し、また大脳皮質の萎縮も認められるが、小脳プルキンエ細胞は一般的には保たれる。
ハンチンチン蛋白N末端部に存在するポリグルタミン鎖をコードするHtt遺伝子内CAGリピートの異常伸長による疾患で、患者は主に中年期に発症し、舞踏病(不随意運動の一種)に加えて、記銘力障害、人格変化、うつなどの症状を示し、平均10年から15年で死に至る。神経病理学的には尾状核と被殻の著名な萎縮が特徴的で、GABA作動性の投射細胞である中型有棘神経細胞(medium spiny neuron)が最も変性に陥りやすい細胞とされる。2次的に線条体から投射を受ける淡蒼球も変性し、また大脳皮質の萎縮も認められるが、小脳プルキンエ細胞は一般的には保たれる。
20歳以下で発症する若年型HDは全体の5-10%を占め、成人型で観察される症状とはやや臨床像が異なり、重篤な精神機能障害や小脳症状なども認められる。若年型HDの患者では通常,CAG反復数が60回超のHTTアレルが認められる.
20歳以下で発症する若年型HDは全体の5-10%を占め、成人型で観察される症状とはやや臨床像が異なり、重篤な精神機能障害や小脳症状なども認められる。若年型HDの患者では通常,CAG反復数が60回超のHTTアレルが認められる.
 ハンチンチン蛋白の生理機能については不明な点が多いが、タンパク間相互作用を介するHEAT リピート構造を多数有することから、多彩な生理機能に関与する足場(scaffold)タンパクであると考えられている。
 ハンチンチン蛋白の生理機能については不明な点が多いが、タンパク間相互作用を介するHEAT リピート構造を多数有することから、多彩な生理機能に関与する足場(scaffold)タンパクであると考えられている。


脊髄小脳変性症 (SCAs)と歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症 (DRPLA)
脊髄小脳変性症 (SCAs)と歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症 (DRPLA)
  SCA及びDRPLAは小脳及びそれに関連する神経路の変性を主体とする変性疾患で、臨床的には中年期に発症することが多く小脳失調や構音障害などの症状が共通して認められ、臨床症状だけでは鑑別が困難なことも多い。
SCA及びDRPLAは小脳及びそれに関連する神経路の変性を主体とする変性疾患で、臨床的には中年期に発症することが多く小脳失調や構音障害などの症状が共通して認められ、臨床症状だけでは鑑別が困難なことも多い。
DRPLA 
DRPLA 
本邦に多い常染色体優性遺伝性疾患である。表現促進現象が認められ、中年期に発症する患者では運動失調・アテトーゼ様不随意運動・認知症を主症状とする脊髄小脳変性症、20才以下の若年発症型ではミオクローヌス・てんかん・精神遅滞を主症状とするミオクローヌスてんかんの臨床像を示す。若年発症型の大部分は父親からの遺伝である。神経病理学的には歯状核赤核系及び淡蒼球外節ルイ体系の変性を主体とする。変異アレルではアトロフィン1(atrophin 1)をコードするDRPLA遺伝子エクソン5に存在するCAGリピートが異常伸長している。アトロフィン1は標的遺伝子の転写を負に制御するコリプレッサーの1つで、ポリグルタミン鎖の伸長によりその機能が障害され、神経変性に導くものと考えられている。
本邦に多い常染色体優性遺伝性疾患である。表現促進現象が認められ、中年期に発症する患者では運動失調・アテトーゼ様不随意運動・認知症を主症状とする脊髄小脳変性症、20才以下の若年発症型ではミオクローヌス・てんかん・精神遅滞を主症状とするミオクローヌスてんかんの臨床像を示す。若年発症型の大部分は父親からの遺伝である。神経病理学的には歯状核赤核系及び淡蒼球外節ルイ体系の変性を主体とする。変異アレルではアトロフィン1(atrophin 1)をコードするDRPLA遺伝子エクソン5に存在するCAGリピートが異常伸長している。アトロフィン1は標的遺伝子の転写を負に制御するコリプレッサーの1つで、ポリグルタミン鎖の伸長によりその機能が障害され、神経変性に導くものと考えられている。
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