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例えばM錐体に問題のある[[異常3色覚]]は、日本語では「[[2型異常3色覚]]」と呼ばれ、英語ではdeuteranomalous person または deuteranomalous vision と呼ばれる。異常3色覚の場合、3錐体のうち1つの錐体の感度ピークが他の錐体に近いため弁別能が相対的に低いことが原因、と考えられている。S錐体に関連する3型の色覚異常は非常に稀で、0.002-0.007%の比率と言われている。色覚異常として最も多いのが1型または2型の2色覚、1型または2型の異常3色覚の4タイプで、日本人男性の約5%と言われている。これは決して少ない数ではなく、1クラス40人の教室で男子が半数の20人と仮定すると、そのうち1人は上記の色覚異常の1つに当てはまるという比率である。 | 例えばM錐体に問題のある[[異常3色覚]]は、日本語では「[[2型異常3色覚]]」と呼ばれ、英語ではdeuteranomalous person または deuteranomalous vision と呼ばれる。異常3色覚の場合、3錐体のうち1つの錐体の感度ピークが他の錐体に近いため弁別能が相対的に低いことが原因、と考えられている。S錐体に関連する3型の色覚異常は非常に稀で、0.002-0.007%の比率と言われている。色覚異常として最も多いのが1型または2型の2色覚、1型または2型の異常3色覚の4タイプで、日本人男性の約5%と言われている。これは決して少ない数ではなく、1クラス40人の教室で男子が半数の20人と仮定すると、そのうち1人は上記の色覚異常の1つに当てはまるという比率である。 | ||
色覚異常(2色覚/異常3色覚)は[[wj:遺伝子|遺伝子]]の[[wj:X染色体|X染色体]]が持つ遺伝子によって決められる伴性遺伝であり、遺伝子型によって色覚の型も特定できる<ref><pubmed> 3485310 </pubmed></ref> | 色覚異常(2色覚/異常3色覚)は[[wj:遺伝子|遺伝子]]の[[wj:X染色体|X染色体]]が持つ遺伝子によって決められる伴性遺伝であり、遺伝子型によって色覚の型も特定できる<ref><pubmed> 3485310 </pubmed></ref>。優性なX染色体を持たない場合に発現するため、X染色体を1つしかもたない男性に多く発生する。男児はY染色体を父親から受け継ぐため、父親が色覚異常の場合でも母親から正常3色覚のX染色体を受け継げば正常3色覚になる。女児の場合、父親のX染色体を受け継ぐが、母親からもX染色体を受け継ぐため劣性遺伝子の抑制により、本人は色覚異常とならず保因者となる場合が多い<ref>'''岡部正隆'''<br>色覚の多様性と視覚バリアフリーなプレゼンテーション<br>''細胞工学'', 2002 [https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree.html URL]</ref>。 | ||
学校での定期健康診断における色覚検査は2003年まで全児童を対象に行われていたが、個人の差別やいじめに繋がる場合があるなど、社会的な問題が指摘されたため検査の義務が撤廃された。一方、色覚検査が行われなかった期間、日常的には大きな問題に直面しなかったことにより、異常3色覚者の若者が就職時に自分の色覚を突然知らされ、職業選択の変更を余儀なくされるなどの不利益も発生している。1794年に初めて自身の2型2色覚に関する現象観察を学会で講演(色覚に関する最初の学術的発表と言われ,1798年にその内容が論文誌に収録された<ref>'''Dalton, John'''<br>Extraordinary facts relating to the vision of colours: with observations<br>''Memoirs of the Literary and Philosophical Society of Manchester.'' 5: 28–45, 1798</ref>した英国の化学者[[wj:ジョン・ドルトン|John Dalton]] (1766-1844) も、20代半ばになるまで自分の色覚が他者と異なることを自覚しなかったという。社会的にセンシティブな事柄である反面、日常の生活の中では気づきにくい現象である事も、色覚異常の問題を難しくしている大きな特徴の一つである。 | 学校での定期健康診断における色覚検査は2003年まで全児童を対象に行われていたが、個人の差別やいじめに繋がる場合があるなど、社会的な問題が指摘されたため検査の義務が撤廃された。一方、色覚検査が行われなかった期間、日常的には大きな問題に直面しなかったことにより、異常3色覚者の若者が就職時に自分の色覚を突然知らされ、職業選択の変更を余儀なくされるなどの不利益も発生している。1794年に初めて自身の2型2色覚に関する現象観察を学会で講演(色覚に関する最初の学術的発表と言われ,1798年にその内容が論文誌に収録された<ref>'''Dalton, John'''<br>Extraordinary facts relating to the vision of colours: with observations<br>''Memoirs of the Literary and Philosophical Society of Manchester.'' 5: 28–45, 1798</ref>した英国の化学者[[wj:ジョン・ドルトン|John Dalton]] (1766-1844) も、20代半ばになるまで自分の色覚が他者と異なることを自覚しなかったという。社会的にセンシティブな事柄である反面、日常の生活の中では気づきにくい現象である事も、色覚異常の問題を難しくしている大きな特徴の一つである。 | ||
[[ファイル:Ishihara 1.PNG|サムネイル|''図6. 石原表の例''<br> | |||
色覚の検査は、色の弁別を調べる方法がとられる。一次検査として[[石原式仮性同色表]](Ishihara’s pseudo iso-chromatic plates、通称:[[石原表]](Ishihara plates))が用いられることが多い。石原表は軽度の異常3色覚も検出できる検出力の高さを持つ反面、偽陽性を含む率も高い(約5%)ことが指摘されている<ref><pubmed> 9390366 </pubmed></ref>。従って、他の色覚検査法である[[Farnsworth-Munsell 100-hue test|Farnsworth-Munsell (FM) 100-hue test]] | [[ファイル:Ishihara 1.PNG|サムネイル|250px|'''図6. 石原表の例'''<br>Wikipediaより。]] | ||
色覚の検査は、色の弁別を調べる方法がとられる。一次検査として[[石原式仮性同色表]](Ishihara’s pseudo iso-chromatic plates、通称:[[石原表]](Ishihara plates))<ref>Ishihara S.<br>Tests for color-blindness<br>Handaya, Tokyo, Hongo Harukicho, 1917</ref>が用いられることが多い。石原表は軽度の異常3色覚も検出できる検出力の高さを持つ反面、偽陽性を含む率も高い(約5%)ことが指摘されている<ref><pubmed> 9390366 </pubmed></ref>。従って、他の色覚検査法である[[Farnsworth-Munsell 100-hue test|Farnsworth-Munsell (FM) 100-hue test]]<ref>'''Farnsworth, D.'''<br>The Farnsworth-Munsell 100-hue and dichotomous tests for color vision<br>JOSA, 33(10), 568-578, 1943.</ref>または<ref><pubmed> 5936523 </pubmed></ref>といった色相順序判断、赤と緑を混色し黄色と等色する[[レイリー均等]]<ref>'''Rayleigh, L.'''<br>Experiments on Colour<br>''Nature'': 1881, 25, 64-66, [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/6/6e/Rayleigh_1881.pdf PDF]</ref>とよばれる等色検査など複数種の検査の結果を総合することで最終的な色覚型の診断をする必要があることが知られている。 | |||
一方で、2色覚者/異常3色覚者でも、十分な照度と観察時間の下では正常3色覚者と同じ色名で物体色を回答することができる場合がある<ref><pubmed> 316449 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7941411 </pubmed></ref>。観察時間や明るさ等の条件が厳しくなると色名呼称が困難になることから<ref>'''Uchikawa, K.'''<br>Categorical color perception of color normal and deficient observers.<br>''Optical Review,'': 2014, 21(6), 911-918</ref>、長期間の無意識な訓練により、桿体の信号を部分的に利用するなど、何らかの手がかりを用いて3色覚者と同じ色名に結びつける方法を獲得していると考えられている。 | 一方で、2色覚者/異常3色覚者でも、十分な照度と観察時間の下では正常3色覚者と同じ色名で物体色を回答することができる場合がある<ref><pubmed> 316449 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7941411 </pubmed></ref>。観察時間や明るさ等の条件が厳しくなると色名呼称が困難になることから<ref>'''Uchikawa, K.'''<br>Categorical color perception of color normal and deficient observers.<br>''Optical Review,'': 2014, 21(6), 911-918</ref>、長期間の無意識な訓練により、桿体の信号を部分的に利用するなど、何らかの手がかりを用いて3色覚者と同じ色名に結びつける方法を獲得していると考えられている。 |