「キネシン」の版間の差分

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==== KIF3  ====
==== KIF3  ====


 KIF3はKinesin-2ファミリーに属し、細胞質内だけでなく、線毛や鞭毛内の物質輸送(intraflagellar transport)も行っている<ref name="ref12"><pubmed>12415299</pubmed></ref>。KIF3AとKIF3Bは異なった遺伝子から由来し、KAP3(KIF-associated protein 3)と結合してヘテロ三量体(KIF3複合体)を形成し、膜小器官やタンパク質複合体を輸送する<ref name="ref13"><pubmed>8710890</pubmed></ref>。神経細胞では軸索伸長に必要な膜小胞を、フォドリンを介して認識し、輸送する<ref name="ref14"><pubmed>10725338</pubmed></ref>。また、KIF3複合体は、線毛の構成成分をタンパク質複合体として線毛の基部から先端部へ輸送し、線毛の形成と維持に重要な役割を果たしている<ref name="ref15"><pubmed>22285930</pubmed></ref>。さらに、Kif3a及びKif3bホモ欠損マウスの解析により、KIF3が胎児初期のNodeの線毛を形成し、この線毛が回転運動をすることによってNode領域で胎児外液の左方向への流れ(Node流)を作り、これが体の左右軸を決定することが示された<ref name="ref16"><pubmed>9865700</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>10330409</pubmed></ref><ref name="ref18"><pubmed>15907475</pubmed></ref>。近年、KIF3複合体がN-cadherin/β-catenin複合体を形質膜に輸送することで細胞増殖を制御し、腫瘍形成の抑制に働いていることが明らかとなった<ref name="ref19"><pubmed>15834408</pubmed></ref>。  
 KIF3はKinesin-2ファミリーに属し、細胞質内だけでなく、[[wikipedia:ja:繊毛|繊毛]]や[[wikipedia:ja:鞭毛|鞭毛]]内の物質輸送(intraflagellar transport)も行っている<ref name="ref12"><pubmed>12415299</pubmed></ref>。KIF3AとKIF3Bは異なった遺伝子から由来し、KAP3(KIF-associated protein 3)と結合してヘテロ三量体(KIF3複合体)を形成し、膜小器官やタンパク質複合体を輸送する<ref name="ref13"><pubmed>8710890</pubmed></ref>。神経細胞では軸索伸長に必要な膜小胞を、フォドリンを介して認識し、輸送する<ref name="ref14"><pubmed>10725338</pubmed></ref>。また、KIF3複合体は、繊毛の構成成分をタンパク質複合体として線毛の基部から先端部へ輸送し、繊毛の形成と維持に重要な役割を果たしている<ref name="ref15"><pubmed>22285930</pubmed></ref>。さらに、Kif3a及びKif3bホモ欠損マウスの解析により、KIF3が[[wikipedia:ja:胎児|胎児]]初期のnodeの線毛を形成し、この繊毛が回転運動をすることによってnode領域で胎児外液の左方向への流れ(node流)を作り、これが体の左右軸を決定することが示された<ref name="ref16"><pubmed>9865700</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>10330409</pubmed></ref><ref name="ref18"><pubmed>15907475</pubmed></ref>。近年、KIF3複合体がN-cadherin/β-catenin複合体を形質膜に輸送することで細胞増殖を制御し、腫瘍形成の抑制に働いていることが明らかとなった<ref name="ref19"><pubmed>15834408</pubmed></ref>。  


==== KIF4A  ====
==== KIF4A  ====


 KIF4AはKinesin-4ファミリーに属し、主に幼若な神経細胞で発現し、細胞質と核内の両方に存在する<ref name="ref20"><pubmed>7929562</pubmed></ref>。KIF4Aは、脳の発達期において、核内ではPARP-1との結合・解離によりPARP-1の活性を制御することで活動依存的な神経細胞の生存及び細胞死を制御し、一方で細胞質内ではカーゴの輸送を行う<ref name="ref21"><pubmed>16630823</pubmed></ref>。  
 KIF4AはKinesin-4ファミリーに属し、主に幼若な神経細胞で発現し、[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]と[[wikipedia:ja:核|核]]内の両方に存在する<ref name="ref20"><pubmed>7929562</pubmed></ref>。KIF4Aは、脳の発達期において、核内ではPARP-1との結合・解離によりPARP-1の活性を制御することで活動依存的な神経細胞の生存及び[[細胞死]]を制御し、一方で細胞質内ではカーゴの輸送を行う<ref name="ref21"><pubmed>16630823</pubmed></ref>。  


==== KIF5  ====
==== KIF5  ====


 KIF5はKinesin-1ファミリーに属し、kinesin light chains(KLCs)と複合体を形成する。KIF5にはKIF5A、KIF5B、KIF5Cの3つのアイソフォームがあるが、発現場所、発現量はそれぞれ異なる。KIF5Bは全身に発現しているのに対し、KIF5A、KIF5Cは神経特異的に発現している<ref name="ref22"><pubmed>10964943</pubmed></ref>。これらは各々、異なるアダプター蛋白や足場蛋白を介して様々な膜小胞、ライソソーム、ミトコンドリアなどのカーゴを輸送する<ref name="ref23"><pubmed>9456325</pubmed></ref><ref name="ref24"><pubmed>9657148</pubmed></ref>が、互いに類似の機能も持ち、一部の機能は相補的である。KIF5による輸送の例として、神経軸索では、アルツハイマー病に関与するAPPの輸送や<ref name="ref25"><pubmed>11740561</pubmed></ref>、syntabulinをアダプター蛋白としたsyntaxin 1の輸送などがある<ref name="ref26"><pubmed>17611281</pubmed></ref>。また、近年、KIF5によるミトコンドリアの輸送にCa2+濃度依存的な制御が働いていることが示された<ref name="ref27"><pubmed>19135897</pubmed></ref>。一方、樹状突起では、GRIP1を介したAMPA受容体サブユニットGluR2の輸送や<ref name="ref28"><pubmed>11986669</pubmed></ref>、HAP1(huntingtin-associated protein 1)を介したGABA受容体の輸送<ref name="ref29"><pubmed>20152113</pubmed></ref>、さらにはmRNA・タンパク質複合体(mRNP complex)の輸送<ref name="ref30"><pubmed>15312650</pubmed></ref>を担っている。また、KIF5Aの遺伝子変異は遺伝性痙性対麻痺を引き起こすことが知られている<ref name="ref31"><pubmed>12355402</pubmed></ref>。  
 KIF5はKinesin-1ファミリーに属し、kinesin light chains(KLCs)と複合体を形成する。KIF5にはKIF5A、KIF5B、KIF5Cの3つのアイソフォームがあるが、発現場所、発現量はそれぞれ異なる。KIF5Bは全身に発現しているのに対し、KIF5A、KIF5Cは神経特異的に発現している<ref name="ref22"><pubmed>10964943</pubmed></ref>。これらは各々、異なる[[アダプター蛋白質]]や[[足場蛋白質]]を介して様々な膜小胞、[[wikipedia:ja:リソソーム|リソソーム]]リソソーム、ミトコンドリアなどのカーゴを輸送する<ref name="ref23"><pubmed>9456325</pubmed></ref><ref name="ref24"><pubmed>9657148</pubmed></ref>が、互いに類似の機能も持ち、一部の機能は相補的である。KIF5による輸送の例として、神経軸索では、[[アルツハイマー病]]に関与する[[アミロイド前駆体タンパク質]](APP)の輸送や<ref name="ref25"><pubmed>11740561</pubmed></ref>、[[シンタブリン]](syntabulin)をアダプター蛋白とした[[シンタキシン]](syntaxin) 1の輸送などがある<ref name="ref26"><pubmed>17611281</pubmed></ref>。また、近年、KIF5によるミトコンドリアの輸送にCa<sup>2+</sup>濃度依存的な制御が働いていることが示された<ref name="ref27"><pubmed>19135897</pubmed></ref>。一方、樹状突起では、GRIP1を介したAMPA受容体サブユニットGluR2の輸送や<ref name="ref28"><pubmed>11986669</pubmed></ref>、HAP1(huntingtin-associated protein 1)を介したGABA受容体の輸送<ref name="ref29"><pubmed>20152113</pubmed></ref>、さらにはmRNA・タンパク質複合体(mRNP complex)の輸送<ref name="ref30"><pubmed>15312650</pubmed></ref>を担っている。また、KIF5Aの遺伝子変異は[[遺伝性痙性対麻痺]]を引き起こすことが知られている<ref name="ref31"><pubmed>12355402</pubmed></ref>。  


==== KIF13A  ====
==== KIF13A  ====


 KIF13AはKinesin-3ファミリーに属し、AP-1複合体を介してマンノース-6-リン酸受容体に結合し、これを含む小胞をゴルジ装置から形質膜へ輸送する<ref name="ref32"><pubmed>11106728</pubmed></ref>。  
 KIF13AはKinesin-3ファミリーに属し、[[AP-1複合体]]を介して[[マンノース-6-リン酸受容体]]に結合し、これを含む小胞をゴルジ装置から[[形質膜]]へ輸送する<ref name="ref32"><pubmed>11106728</pubmed></ref>。  


==== KIF16B  ====
==== KIF16B  ====


 KIF16BはKinesin-3ファミリーに属し、Rab14を介してFGF受容体をゴルジ装置からエンドソームへ輸送することによって、胎児の発生期における初期胚形成に重要な働きを持つ<ref name="ref33"><pubmed>21238925</pubmed></ref>。  
 KIF16BはKinesin-3ファミリーに属し、[[Rab]]14を介して[[FGF受容体]]をゴルジ装置から[[エンドソーム]]へ輸送することによって、胎児の発生期における初期胚形成に重要な働きを持つ<ref name="ref33"><pubmed>21238925</pubmed></ref>。  


==== KIF17  ====
==== KIF17  ====


 KIF17はKinesin-2ファミリーに属し、樹状突起でMint1(LIN10)を含む足場蛋白複合体を介してNMDA受容体サブユニットのNR2Bに結合し、これを輸送する<ref name="ref34"><pubmed>10846156</pubmed></ref>。また、カーゴの解離には、CaMKⅡαによるKIF17のリン酸化が重要である<ref name="ref35"><pubmed>18066053</pubmed></ref>。近年、遺伝子改変マウスの解析により、KIF17は単にNMDA受容体を輸送するだけでなく、転写因子CREBのリン酸化を介してKIF17及びNR2B mRNAsの転写を促進し、記憶・学習を制御していることが明らかとなった。KIF17を過剰発現させたマウスでは、空間及び作業記憶の向上が見られ<ref name="ref36"><pubmed>12391294</pubmed></ref>、一方で、Kif17ホモ欠損マウスでは、海馬依存的記憶の障害が認められた<ref name="ref37"><pubmed>21521616</pubmed></ref>。また、KIF17はNR2AとNR2Bの発現量を異なる機序で制御し、シナプスの機能や可塑性に重要な働きをしていることが示された<ref name="ref37"><pubmed>21521616</pubmed></ref>。  
 KIF17はKinesin-2ファミリーに属し、樹状突起で[[Mint1]](LIN10)を含む足場蛋白複合体を介してNMDA型グルタミン酸受容体サブユニットのNR2Bに結合し、これを輸送する<ref name="ref34"><pubmed>10846156</pubmed></ref>。また、カーゴの解離には、[[CaMKⅡ]]αによるKIF17の[[リン酸化]]が重要である<ref name="ref35"><pubmed>18066053</pubmed></ref>。近年、遺伝子改変マウスの解析により、KIF17は単にNMDA受容体を輸送するだけでなく、[[wikipedia:ja:転写因子|転写因子]][[CREB]]のリン酸化を介してKIF17及びNR2B mRNAsの転写を促進し、[[記憶]]・[[学習]]を制御していることが明らかとなった。KIF17を過剰発現させたマウスでは、[[空間記憶|空間]]及び[[作業記憶]]の向上が見られ<ref name="ref36"><pubmed>12391294</pubmed></ref>、一方で、Kif17ホモ欠損マウスでは、[[海馬]]依存的記憶の障害が認められた<ref name="ref37"><pubmed>21521616</pubmed></ref>。また、KIF17はNR2AとNR2Bの発現量を異なる機序で制御し、シナプスの機能や可塑性に重要な働きをしていることが示された<ref name="ref37"><pubmed>21521616</pubmed></ref>。  


==== KIF26A  ====
==== KIF26A  ====


 KIF26AはKIF26BとともにKinesin-11ファミリーに属し、ATPase活性や運動能を持たないユニークなKIFsである<ref name="ref38"><pubmed>19914172</pubmed></ref>。KIF26Aは、GDNF/Retシグナル伝達系の抑制因子として働くことによって腸管神経細胞の増殖を制御し、腸管の発達・形成に必須の働きを持つ<ref name="ref38"><pubmed>19914172</pubmed></ref>。  
 KIF26AはKIF26BとともにKinesin-11ファミリーに属し、ATPase活性や運動能を持たないユニークなKIFsである<ref name="ref38"><pubmed>19914172</pubmed></ref>。KIF26Aは、[[GDNF]]/[[Ret]]シグナル伝達系の抑制因子として働くことによって腸管神経細胞の増殖を制御し、腸管の発達・形成に必須の働きを持つ<ref name="ref38"><pubmed>19914172</pubmed></ref>。  


==== C-KIFs(KIFC1、KIFC2、KIFC3) ====
==== C-KIFs(KIFC1、KIFC2、KIFC3) ====


 C-KIFsにはKIFC1、KIFC2、KIFC3の3つがあり、Kinesin-14A及び14Bファミリーに属する。これらC-KIFsは、微小管の-端方向へ動く性質を持つ。KIFC1は多様な組織で発現し、細胞分裂に関与している。KIFC2は主に樹状突起に局在し、多胞体様の膜小器官を輸送している<ref name="ref39"><pubmed>9115736</pubmed></ref>。KIFC3は腎上皮細胞(MDCK細胞)で頂上部形質膜へ向けAnnexinⅩⅢbを含む膜小胞を輸送している<ref name="ref40"><pubmed>11581287</pubmed></ref>。  
 C-KIFsにはKIFC1、KIFC2、KIFC3の3つがあり、Kinesin-14A及び14Bファミリーに属する。これらC-KIFsは、微小管の-端方向へ動く性質を持つ。KIFC1は多様な組織で発現し、細胞分裂に関与している。KIFC2は主に樹状突起に局在し、多胞体様の膜小器官を輸送している<ref name="ref39"><pubmed>9115736</pubmed></ref>。KIFC3は[[wikipedia:ja:腎|腎]]上皮細胞(MDCK細胞)で頂上部形質膜へ向け[[Annexin]]ⅩⅢbを含む膜小胞を輸送している<ref name="ref40"><pubmed>11581287</pubmed></ref>。  


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