「オリゴデンドロサイト前駆細胞」の版間の差分

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=== OPCの増殖 ===  
=== OPCの増殖 ===  


 PDGF-Aは、培養系のみならずin vivoでもOPCに対して強力な増殖因子として働く。これを欠損するマウスではOPCの数が非常に少なくなり、成熟したオリゴデンドロサイトわずかしか見られない[11]。逆に、PDGF-Aを過剰発現させたマウスでは、胎生期のOPCの数が5倍になる。しかし、新生児期に過剰なOPCはアポトーシスにより脱落し、野生型と同程度のオリゴデンドロサイトがみられるようになる[10](Calver et al., 1998)。
 PDGF-Aは、培養系のみならずin vivoでもOPCに対して強力な増殖因子として働く。これを欠損するマウスではOPCの数が非常に少なくなり、成熟したオリゴデンドロサイトわずかしか見られない<ref name=ref11><pubmed>9876175</pubmed></ref>。逆に、PDGF-Aを過剰発現させたマウスでは、胎生期のOPCの数が5倍になる。しかし、新生児期に過剰なOPCはアポトーシスにより脱落し、野生型と同程度のオリゴデンドロサイトがみられるようになる<ref name=ref10><pubmed>9620692</pubmed></ref>。


 一方、OPCの増殖を停止させる細胞内因子としてp27/Kip1が報告されている。p27/Kip1を欠損するマウスから単離されたOPCはオリゴデンドロサイトに分化するものの、増殖が持続する。レトロウイルスベクターを用いてOPCにp27/Kip1を過剰発現させるとG1期とS期の間で細胞周期がとどまり、オリゴデンドロサイトに分化できなくなることが報告されている[36](Durand et al., 1997)[37] (Tikoo et al., 1998)
 一方、OPCの増殖を停止させる細胞内因子としてp27/Kip1が報告されている。p27/Kip1を欠損するマウスから単離されたOPCはオリゴデンドロサイトに分化するものの、増殖が持続する。レトロウイルスベクターを用いてOPCにp27/Kip1を過剰発現させるとG1期とS期の間で細胞周期がとどまり、オリゴデンドロサイトに分化できなくなることが報告されている<ref name=ref36><pubmed>9029151</pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed>9733077</pubmed></ref>


=== オリゴデンドロサイト前駆細胞からオリゴデンドロサイトへの分化とその調節機構 ===  
=== オリゴデンドロサイト前駆細胞からオリゴデンドロサイトへの分化とその調節機構 ===  


 オリゴデンドロサイトの最終分化やミエリン形成は一般的に、神経回路形成が終わった後に始まる。この発生の最終段階には、神経活動が大きな影響を与えている。後根神経節のニューロンをモデルとした実験では、ニューロンの活動により軸索からATPが分泌され、これがアストロサイトに作用する。ATPで刺激を受けたアストロサイトからLIF(leukemia inhibitory factor)が分泌され、これがOPCを刺激して成熟オリゴデンドロサイトとなりミエリン形成が始まる[38](Ishibashi et al., 2006)。また、軸索からはその活動依存的にグルタミン酸も放出される。オリゴデンドロサイトの細胞膜の局所に作用し、Fyn依存性にMBPの翻訳を上昇させ、ミエリン形成を促進する[39](Wake et al., 2011)。
 オリゴデンドロサイトの最終分化やミエリン形成は一般的に、神経回路形成が終わった後に始まる。この発生の最終段階には、神経活動が大きな影響を与えている。後根神経節のニューロンをモデルとした実験では、ニューロンの活動により軸索からATPが分泌され、これがアストロサイトに作用する。ATPで刺激を受けたアストロサイトからLIF(leukemia inhibitory factor)が分泌され、これがOPCを刺激して成熟オリゴデンドロサイトとなりミエリン形成が始まる<ref name=ref38><pubmed>16543131</pubmed></ref>。また、軸索からはその活動依存的にグルタミン酸も放出される。オリゴデンドロサイトの細胞膜の局所に作用し、Fyn依存性にMBPの翻訳を上昇させ、ミエリン形成を促進する<ref name=ref39><pubmed>21817014</pubmed></ref>。


 細胞内因子として注目されている分子としてMAPキナーゼの一つであるERK(extracellular-signal regulated kinase)がある。脊髄背側部のOPCはFGFにより分化することから[27](Chandran et al., 2003)、受容体型チロシンキナーゼの下流分子として注目されている面もある。このうちERK2を神経幹細胞特異的に欠損させると、OPCの増殖や生存には影響がない一方でGalC陽性オリゴデンドロサイトの出現が遅れることから、オリゴデンドロサイトの最終分化のタイミングを調節していると考えられている[40](Fyffe-Maricich et al., 2011)。
 細胞内因子として注目されている分子としてMAPキナーゼの一つであるERK(extracellular-signal regulated kinase)がある。脊髄背側部のOPCはFGFにより分化することから<ref name=ref27><pubmed>14660548</pubmed></ref>、受容体型チロシンキナーゼの下流分子として注目されている面もある。このうちERK2を神経幹細胞特異的に欠損させると、OPCの増殖や生存には影響がない一方でGalC陽性オリゴデンドロサイトの出現が遅れることから、オリゴデンドロサイトの最終分化のタイミングを調節していると考えられている<ref name=ref40><pubmed>21248107</pubmed></ref>。


== 脳の各領域におけるOPCの出現様式 ==
== 脳の各領域におけるOPCの出現様式 ==

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