「近赤外線スペクトロスコピー」の版間の差分

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== 基礎 ==
== 基礎 ==


=== 基本原理 ===
=== 基本原理 ===


[[image:図1代表的なNIRS計測方法.png|thumb|300px|'''図1.代表的なNIRS計測方法'''<br>CW、TRSについては本文参照。 PRSでは高周波で変調された光を用い、検出光の強度、[[wikipedia:JA:位相|位相]]、振幅を解析する。I、光強度;Φ、位相; M、振幅 (脳神経外科速報 2012. Vol 22, p.442 からの転載)]]
[[Image:図1代表的なNIRS計測方法.png|thumb|300px|<b>図1.代表的なNIRS計測方法</b><br />CW、TRSについては本文参照。 PRSでは高周波で変調された光を用い、検出光の強度、<!--IWLINK 0-->、振幅を解析する。I、光強度;Φ、位相; M、振幅 (脳神経外科速報 2012. Vol 22, p.442 からの転載)]] [[Image:図2頭部における光伝播と拡張ベア・ランバート則.png|thumb|300px|<b>図2.頭部における光伝播と拡張ベア・ランバート則</b><br />総光路長(L)は光路全体の長さで、散乱により照射・受光間距離ρより長い(βは未知数)。局所脳活動により血流が変化した領域を赤で示した。その領域でのHb濃度変化(ΔC)に由来する吸光度変化(ΔA)は、ΔCと<!--IWLINK 1-->(ε)と部分光路長(partial PL)の積で表わされる。]]  
[[image:図2頭部における光伝播と拡張ベア・ランバート則.png|thumb|300px|'''図2.頭部における光伝播と拡張ベア・ランバート則'''<br>総光路長(L)は光路全体の長さで、散乱により照射・受光間距離ρより長い(βは未知数)。局所脳活動により血流が変化した領域を赤で示した。その領域でのHb濃度変化(ΔC)に由来する吸光度変化(ΔA)は、ΔCと[[wikipedia:JA:モル吸光係数|モル吸光係数]](ε)と部分光路長(partial PL)の積で表わされる。]]


 近赤外光(通常用いられているのは波長700~900 nmの光)は、生体に対して高い透過性を示す。これは、近赤外光は可視光に比べて散乱されにくく、生体物質でこの領域の光を吸収するのは、血液中のヘモグロビン(Hb)や筋肉中の[[wikipedia:JA:ミオグロビン|ミオグロビン]](Mb)、そして[[wikipedia:JA:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]内にある[[wikipedia:JA:チトクロームCオキシダーゼ|チトクロームCオキシダーゼ]](cyt. ox.)などに限られているためである。NIRSは、近赤外光の吸収される度合がHb、 Mbの酸素化-脱酸素化状態、cyt. ox.の酸化-還元状態によって異なることを利用して、生体に近赤外光を照射して照射点から数センチメートル離れたところで体外に現れた光を検出し、その性状を解析してHb濃度変化などを求めるが、単一の方法ではなく複数の異なる計測方法がある(図1)。その中で最も一般的なのは、連続光(continuous wave light)を用いて拡張ベア・ランバート則<ref name=ref4><pubmed>3070170</pubmed></ref>に基づいて、Hbなど光を吸収する物質の濃度変化を求める方法でありCW計測と呼ばれている。拡張ベア・ランバート則は、A(吸光度)= -logI/I<sub>0</sub> = CL + S で表される(図2)。ここでI<sub>0</sub>とIは照射ならびに検出光の光量、はモル吸光係数、Cは光吸収物質の濃度、Lは照射された光が検出されるまでに通った生体内における経路の長さ(光路長;個々の光子は違う経路を通るのでそれらの平均光路長)、Sは主として散乱による光の減衰を示す項で通常定数と見なされている。生体計測では、複数の波長を用いて酸素化Hb (oxy-Hb)、脱酸素化Hb (deoxy-Hb)、両者の和である総Hb (t-Hb)の濃度変化を求めるが、光路長を計測することができないため、得られる信号は濃度変化と光路長の積である。しかし、装置によって用いられている波長や演算式が異なり、さらに演算式によってはモル吸光係数も未知数として取り扱っているものもあり、NIRS信号は物理単位をもたない。従って、NIRS信号は[mM・mm](濃度×長さ)の単位で表現されることもあるが、単位をもたないあるいは任意単位(au)として表現されるのが適切である。
 近赤外光(通常用いられているのは波長700~900 nmの光)は、生体に対して高い透過性を示す。これは、近赤外光は可視光に比べて散乱されにくく、生体物質でこの領域の光を吸収するのは、血液中のヘモグロビン(Hb)や筋肉中の[[wikipedia:JA:ミオグロビン|ミオグロビン]](Mb)、そして[[wikipedia:JA:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]内にある[[wikipedia:JA:チトクロームCオキシダーゼ|チトクロームCオキシダーゼ]](cyt. ox.)などに限られているためである。NIRSは、近赤外光の吸収される度合がHb、 Mbの酸素化-脱酸素化状態、cyt. ox.の酸化-還元状態によって異なることを利用して、生体に近赤外光を照射して照射点から数センチメートル離れたところで体外に現れた光を検出し、その性状を解析してHb濃度変化などを求めるが、単一の方法ではなく複数の異なる計測方法がある(図1)。その中で最も一般的なのは、連続光(continuous wave light)を用いて拡張ベア・ランバート則<ref name="ref4"><pubmed>3070170</pubmed></ref>に基づいて、Hbなど光を吸収する物質の濃度変化を求める方法でありCW計測と呼ばれている。拡張ベア・ランバート則は、A(吸光度)= -logI/I<sub>0</sub> = &#949;CL + S で表される(図2)。ここでI<sub>0</sub>とIは照射ならびに検出光の光量、&#949;はモル吸光係数、Cは光吸収物質の濃度、Lは照射された光が検出されるまでに通った生体内における経路の長さ(光路長;個々の光子は違う経路を通るのでそれらの平均光路長)、Sは主として散乱による光の減衰を示す項で通常定数と見なされている。生体計測では、複数の波長を用いて酸素化Hb (oxy-Hb)、脱酸素化Hb (deoxy-Hb)、両者の和である総Hb (t-Hb)の濃度変化を求めるが、光路長を計測することができないため、得られる信号は濃度変化と光路長の積である。しかし、装置によって用いられている波長や演算式が異なり、さらに演算式によってはモル吸光係数も未知数として取り扱っているものもあり、NIRS信号は物理単位をもたない。従って、NIRS信号は[mM・mm](濃度×長さ)の単位で表現されることもあるが、単位をもたないあるいは任意単位(au)として表現されるのが適切である。


=== 生体における光伝搬特性 ===  
=== 生体における光伝搬特性 ===  

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