「重症筋無力症」の版間の差分

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編集の要約なし
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今井 富裕
<div align="right"> 
札幌医科大学保健医療学部大学院末梢神経筋障害学
<font size="+1">[https://researchmap.jp/299739 今井 富裕]</font><br>
札幌医科大学附属病院脳神経内科
''札幌医科大学保健医療学部大学院末梢神経筋障害学<br>札幌医科大学附属病院脳神経内科''<br>(2021年4月より)<br>
(2021年4月より)
''国立病院機構箱根病院神経筋・難病診療センター''
国立病院機構箱根病院神経筋・難病診療センター


英:myasthenia gravis 
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年11月30日 原稿完成日:2020年12月XX日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 脳神経内科)<br>           
</div>
 
英:myasthenia gravis 独:Myasthenia gravis 仏:myasthénie<br>
英略称:MG
英略称:MG


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 このような重症筋無力症の疾患概念が確立するには、1672 年の最初の症例報告から約300年の年月を要している('''表1''')<ref name=Vincent2002><pubmed>12360217</pubmed></ref> [1]。1960 年代に重症筋無力症が運動終板の蛋白を標的とする抗体によって引き起こされることが判明した後、1970年代になって最初に明らかにされた自己抗体はシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor: AChR)を標的抗原とする抗 AChR 抗体である。2001 年には筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscle-specific receptor tyrosine kinase: MuSK)に対する抗体(MuSK 抗体)<ref name=Hoch2001><pubmed>11231638</pubmed></ref>[2]が, 2011年にはLDL受容体関連タンパク質4(low-density lipoprotein receptor-related protein 4に対する抗体(抗Lrp4抗体) <ref name=Higuchi2011><pubmed>21387385</pubmed></ref>[3]が報告された。
 このような重症筋無力症の疾患概念が確立するには、1672 年の最初の症例報告から約300年の年月を要している('''表1''')<ref name=Vincent2002><pubmed>12360217</pubmed></ref> [1]。1960 年代に重症筋無力症が運動終板の蛋白を標的とする抗体によって引き起こされることが判明した後、1970年代になって最初に明らかにされた自己抗体はシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor: AChR)を標的抗原とする抗 AChR 抗体である。2001 年には筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscle-specific receptor tyrosine kinase: MuSK)に対する抗体(MuSK 抗体)<ref name=Hoch2001><pubmed>11231638</pubmed></ref>[2]が, 2011年にはLDL受容体関連タンパク質4(low-density lipoprotein receptor-related protein 4に対する抗体(抗Lrp4抗体) <ref name=Higuchi2011><pubmed>21387385</pubmed></ref>[3]が報告された。


 重症筋無力症 治療の歴史は,1913 年の Sauerbruch et al.の胸腺摘除術に始まる。1934年にWalkerが重症筋無力症に対する抗コリンエステラーゼ薬の有効性を報告し、1970年前半まではこの2つが重症筋無力症治療の主体であった。重症筋無力症が自己免疫疾患であることが明らかになると、1970 年代の後半頃からステロイド薬が投与されるようになった。1980年代になると高用量のステロイド薬を長期に使用する方法が行われるようになり、経口ステロイドの高用量漸増漸減投与法が定着した。重症筋無力症クリーゼ(急性増悪のため呼吸不全に陥り気管内挿管や人工呼吸管理を必要とする状態)などの時には血液浄化療法が併用され,重症筋無力症の死亡率は著明に低下したが、経口ステロイド薬の長期連用による有害事象が問題となってきた。
 重症筋無力症治療の歴史は,1913年のSauerbruch et al.の胸腺摘除術に始まる。1934年にWalkerが重症筋無力症に対する抗コリンエステラーゼ薬の有効性を報告し、1970年前半まではこの2つが重症筋無力症治療の主体であった。重症筋無力症が自己免疫疾患であることが明らかになると、1970 年代の後半頃からステロイド薬が投与されるようになった。1980年代になると高用量のステロイド薬を長期に使用する方法が行われるようになり、経口ステロイドの高用量漸増漸減投与法が定着した。重症筋無力症クリーゼ(急性増悪のため呼吸不全に陥り気管内挿管や人工呼吸管理を必要とする状態)などの時には血液浄化療法が併用され,重症筋無力症の死亡率は著明に低下したが、経口ステロイド薬の長期連用による有害事象が問題となってきた。


 現在、わが国の重症筋無力症診療ガイドラインでは、経口ステロイドを少量におさえ、他の免疫抑制剤や免疫グロブリンや血液浄化療法を早期から併用することによって、できるだけ早く治療目標に到達することを試みる方針が推奨されている<ref name=日本神経学会2014>'''日本神経学会(監修)(2014).'''<br>「重症筋無力症診療ガイドライン」作成委員会(編集).重症筋無力症診療ガイドライン2014,南江堂</ref>[4]。しかしながら、依然として治療目標に到達できない症例が一定数以上存在するため、分子標的薬を中心とした新薬の開発が進んでいる。
 現在、わが国の重症筋無力症診療ガイドラインでは、経口ステロイドを少量におさえ、他の免疫抑制剤や免疫グロブリンや血液浄化療法を早期から併用することによって、できるだけ早く治療目標に到達することを試みる方針が推奨されている<ref name=日本神経学会2014>'''日本神経学会(監修)(2014).'''<br>「重症筋無力症診療ガイドライン」作成委員会(編集).重症筋無力症診療ガイドライン2014,南江堂</ref>[4]。しかしながら、依然として治療目標に到達できない症例が一定数以上存在するため、分子標的薬を中心とした新薬の開発が進んでいる。
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| 1950年代||呼吸管理の発展
| 1950年代||呼吸管理の発展
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| 1960年||MG は運動終板の蛋白に対する抗体でおきる
| 1960年||重症筋無力症は運動終板の蛋白に対する抗体でおきる
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| 1962年||&alpha;-ブンガロトキシン が神経筋接合部に結合する
| 1962年||&alpha;-ブンガロトキシンが神経筋接合部に結合する
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| 1964年||MG では微小終板電位が減少する
| 1964年||重症筋無力症では微小終板電位が減少する
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| 1971年||&alpha;-ブンガロトキシン がシビレエイの AChRに結合
| 1971年||&alpha;-ブンガロトキシンがシビレエイの AChRに結合
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| 1973年||MG では&alpha;-ブンガロトキシン 結合部位が減少
| 1973年||重症筋無力症では&alpha;-ブンガロトキシン 結合部位が減少
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| 1973年||AChR で免疫することで実験的 MG の作製に成功
| 1973年||AChRで免疫することで実験的重症筋無力症の作製に成功
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| 1975年||患者 IgG により passive transfer 成功
| 1975年||患者IgGによりpassive transfer成功
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| 1970年代||免疫抑制剤、血漿交換
| 1970年代||免疫抑制剤、血漿交換
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| 2000年||タクロリムスが保険適応となる(胸腺摘除術後・ ステロイド抵抗性の MG)
| 2000年||タクロリムスが保険適応となる(胸腺摘除術後・ ステロイド抵抗性の MG)
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| 2001年||MG の新しい抗体:抗MuSK 抗体の発見
| 2001年||重症筋無力症の新しい抗体:抗MuSK 抗体の発見
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| 2006年 ||シクロスポリンが保険適応となる(胸腺摘除術後・ステロイド抵抗性の MG)
| 2006年 ||シクロスポリンが保険適応となる(胸腺摘除術後・ステロイド抵抗性の MG)
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| 2009年||タクロリムスの適応拡大(重症筋無力症すべてに適応)
| 2009年||タクロリムスの適応拡大(重症筋無力症すべてに適応)
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| 2011年||MG の新しい抗体:抗Lrp4 抗体の発見
| 2011年||重症筋無力症の新しい抗体:抗Lrp4 抗体の発見
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| 2011年||免疫グロブリンが保険適応となる
| 2011年||免疫グロブリンが保険適応となる
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| 2017年||全身型MGに対してエクリズマブ保険適応取得。
| 2017年||全身型重症筋無力症に対してエクリズマブ保険適応取得。
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