「進行性核上性麻痺」の版間の差分

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== 病態 ==
== 病態 ==
=== 病理所見 ===
=== 病理所見 ===
 肉眼的には脳幹部被蓋、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核などが萎縮し、組織学的に上記部位の神経細胞脱落及びグリオーシスを示す<ref name=Steele1964><pubmed>14107684</pubmed></ref> 。これらの部位を含み広範に神経細胞、グリア細胞、neuropilに異常にリン酸化したタウタンパク質が蓄積する<ref name=Litvan8558176><pubmed>8558176</pubmed></ref><ref name=Yoshida2014><pubmed>25124031</pubmed></ref> 。タウタンパク質はヒトでは微小管結合領域が3つのリピート(3R)タウと4つのリピート(4R)タウが存在するが、PSPでは4Rタウが優位に蓄積する。タウタンパク質は神経細胞内では神経原線維変化 Neurofibrillary tangle (NFT)という形態で蓄積し(図1)、アストロサイトでは細胞体近位部に房状に蓄積するため房付き星状細胞(tufted astrocyte)と呼ばれ、PSPに特異的な病理所見とされる<ref name=Komori1998><pubmed>9797005</pubmed></ref> (図2)。またサルコシル不溶性の脳抽出物のタウ分子量はPSPでは33kDa、 PSPとの鑑別が問題となる大脳皮質基底核変性症 Corticobasal degeneration (CBD)では37kDaであり、生化学的にも大脳皮質基底核変性症と区別されている<ref name=Arai2004><pubmed>14705114</pubmed></ref> 。
 肉眼的には脳幹部被蓋、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核などが萎縮し、組織学的に上記部位の神経細胞脱落及びグリオーシスを示す<ref name=Steele1964><pubmed>14107684</pubmed></ref> 。これらの部位を含み広範に神経細胞、グリア細胞、neuropilに異常にリン酸化したタウタンパク質が蓄積する<ref name=Litvan8558176><pubmed>8558176</pubmed></ref><ref name=Yoshida2014><pubmed>25124031</pubmed></ref> 。タウタンパク質はヒトでは微小管結合領域が3つのリピート(3R)タウと4つのリピート(4R)タウが存在するが、PSPでは4Rタウが優位に蓄積する。タウタンパク質は神経細胞内では神経原線維変化 Neurofibrillary tangle (NFT)という形態で蓄積し('''図1''')、アストロサイトでは細胞体近位部に房状に蓄積するため房付き星状細胞(tufted astrocyte)と呼ばれ、PSPに特異的な病理所見とされる<ref name=Komori1998><pubmed>9797005</pubmed></ref> ('''図2''')。またサルコシル不溶性の脳抽出物のタウ分子量はPSPでは33kDa、 PSPとの鑑別が問題となる大脳皮質基底核変性症 Corticobasal degeneration (CBD)では37kDaであり、生化学的にも大脳皮質基底核変性症と区別されている<ref name=Arai2004><pubmed>14705114</pubmed></ref> 。


 わが国の70剖検例の報告によれば、PSPの病理学的な病変分布は大きく3群に分かれ、典型的な分布は73%、淡蒼球、視床下核、黒質に限局したタウ病変を認める群は18%、 大脳皮質に左右差を伴うタウ病理を認める群が9%とされ、各々臨床像との関連が示唆されている<ref name=Yoshida2014><pubmed>25124031</pubmed></ref> 。
 わが国の70剖検例の報告によれば、PSPの病理学的な病変分布は大きく3群に分かれ、典型的な分布は73%、淡蒼球、視床下核、黒質に限局したタウ病変を認める群は18%、 大脳皮質に左右差を伴うタウ病理を認める群が9%とされ、各々臨床像との関連が示唆されている<ref name=Yoshida2014><pubmed>25124031</pubmed></ref> 。


[[ファイル:Aiba PSP Fig1.png|サムネイル|
図1
'''図1. 黒質の神経細胞に4Rタウ陽性の神経原線維変化(neurofibrillary tangles, NFT)'''<br>
黒質の神経細胞に4Rタウ陽性の神経原線維変化(neurofibrillary tangles、 NFT)が形成される。RD4免疫染色 
RD4免疫染色。吉田眞理先生(愛知医科大学)提供]]
吉田眞理先生(愛知医科大学)提供


[[ファイル:Aiba PSP Fig2.png|サムネイル|
図2
'''図2. 4Rタウ陽性の房付き星状細胞(tufted astrocyte)'''<br>
大脳皮質、被殻や尾状核、脳幹部被蓋などのアストロサイトに4Rタウ陽性の房付き星状細胞(tufted astrocyte)が出現する。RD4免疫染色
大脳皮質、被殻や尾状核、脳幹部被蓋などのアストロサイトにが出現する。RD4免疫染色<br>。
吉田眞理先生(愛知医科大学)提供
吉田眞理先生(愛知医科大学)提供]]


=== 異常タウタンパク質の伝播 ===
=== 異常タウタンパク質の伝播 ===
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== 検査 ==
== 検査 ==
=== 形態画像 ===
=== 形態画像 ===
 脳MRIでは、脳幹特に中脳被蓋部の萎縮、第3脳室の拡大、前頭葉の萎縮などを特徴とする<ref name=Whitwell2017><pubmed>28500751</pubmed></ref><ref name=Sakurai2017><pubmed>28386688</pubmed></ref> 。決め手となるのは、MRIの正中矢状断像における中脳被蓋部の萎縮で、中脳被蓋の最も吻側がハチドリの嘴様に見えることから‘humming bird appearance’と呼ばれている。また小脳歯状核遠心系の障害を反映し、上小脳脚の萎縮を認める。これらPSPの特徴的な所見は初期に認めないことも多い点、また臨床病型によっては進行期においても認めない場合がある点に留意する<ref name=Sakurai2017><pubmed>28386688</pubmed></ref> 。
 脳MRIでは、脳幹特に中脳被蓋部の萎縮、第3脳室の拡大、前頭葉の萎縮などを特徴とする('''図3''')<ref name=Whitwell2017><pubmed>28500751</pubmed></ref><ref name=Sakurai2017><pubmed>28386688</pubmed></ref> 。決め手となるのは、MRIの正中矢状断像における中脳被蓋部の萎縮で、中脳被蓋の最も吻側がハチドリの嘴様に見えることから‘humming bird appearance’と呼ばれている。また小脳歯状核遠心系の障害を反映し、上小脳脚の萎縮を認める。これらPSPの特徴的な所見は初期に認めないことも多い点、また臨床病型によっては進行期においても認めない場合がある点に留意する<ref name=Sakurai2017><pubmed>28386688</pubmed></ref> 。


図3 PSPのM R I(81歳男性 発症3年4か月時 全経過4年の病理診断例)
[[ファイル:Aiba PSP Fig3.png|サムネイル|
A:正中矢状断像にて中脳被蓋吻側が萎縮し、‘humming bird appearance’を呈する(矢印)
'''図3. PSPのMRI'''<br>81歳男性 発症3年4か月時 全経過4年の病理診断例<br>
B: 冠状断像にて上小脳脚の萎縮(矢頭)を認める
A:正中矢状断像にて中脳被蓋吻側が萎縮し、‘humming bird appearance’を呈する(矢印)<br>
B: 冠状断像にて上小脳脚の萎縮(矢頭)を認める]]
   
   
=== 機能画像 ===
=== 機能画像 ===

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