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側頭葉優位の萎縮を呈するSD例ではその脳萎縮に左右差がある事が多い。左優位萎縮では一般物品についての意味記憶障害を呈する例、右優位萎縮では人物についての意味記憶障害、相貌認知障害、視覚対象認知障害を呈しやすく、SDの概念はこの両方を含む<ref name=Snowden1996></ref>[3]。この様な意味記憶障害に沿った概念の整理と並行して、言語の障害に注目した臨床像の整理も進められた。まず初期に言語障害が前景に立ち認知症を欠く症例を緩徐進行性失語(slowly progressive aphasia without generalized dementia)とする概念が提唱され<ref name=Mesulam1982><pubmed>7114808</pubmed></ref>[6]、次いで、発症二年以内に言語以外の認知機能や行動に異常を認めないとする原発性進行性失語(primary progressive aphasia: PPA)とまとめた概念が提唱された<ref name=Mesulam2001><pubmed>11310619</pubmed></ref>[7]。PPAには三亜型としてnon-fluent progressive aphasia、logopenic progressive aphasiaとともにSDが設定されていたが<ref name=Gorno-Tempini2004><pubmed>14991811</pubmed></ref>[8]、その後、SDから物品呼称の障害と単語理解の障害を有する例だけを抽出して「意味性亜型PPA(semantic variant primary progressive aphasia: svPPA)」と設定しなおした。これが現在のPPAの分類である<ref name=Gorno-Tempini2011><pubmed>21325651</pubmed></ref>[9]。 | 側頭葉優位の萎縮を呈するSD例ではその脳萎縮に左右差がある事が多い。左優位萎縮では一般物品についての意味記憶障害を呈する例、右優位萎縮では人物についての意味記憶障害、相貌認知障害、視覚対象認知障害を呈しやすく、SDの概念はこの両方を含む<ref name=Snowden1996></ref>[3]。この様な意味記憶障害に沿った概念の整理と並行して、言語の障害に注目した臨床像の整理も進められた。まず初期に言語障害が前景に立ち認知症を欠く症例を緩徐進行性失語(slowly progressive aphasia without generalized dementia)とする概念が提唱され<ref name=Mesulam1982><pubmed>7114808</pubmed></ref>[6]、次いで、発症二年以内に言語以外の認知機能や行動に異常を認めないとする原発性進行性失語(primary progressive aphasia: PPA)とまとめた概念が提唱された<ref name=Mesulam2001><pubmed>11310619</pubmed></ref>[7]。PPAには三亜型としてnon-fluent progressive aphasia、logopenic progressive aphasiaとともにSDが設定されていたが<ref name=Gorno-Tempini2004><pubmed>14991811</pubmed></ref>[8]、その後、SDから物品呼称の障害と単語理解の障害を有する例だけを抽出して「意味性亜型PPA(semantic variant primary progressive aphasia: svPPA)」と設定しなおした。これが現在のPPAの分類である<ref name=Gorno-Tempini2011><pubmed>21325651</pubmed></ref>[9]。 | ||
svPPAとSDとの違いは二点ある。一つは、SDには初期から人物の意味記憶障害による相貌認知障害を呈する例が含まれるが、svPPAでは初期から視知覚性の障害が顕著な例は含まれない。二つ目は、svPPAの診断は、原発性進行性失語(primary progressive aphasia)の診断基準を満たすことが前提となるため、病初期に失語が最も目立つ症状でなければならず、顕著な行動異常があった場合は除外される。そのため初期に行動異常がある程度目立つ場合は、SDと診断できてもsvPPAとは診断できない。これらの違いのためSD症例のうちsvPPAと診断される症例はごく一部である<ref name=池田学2013>池田学、一美奈緒子、橋本衛: 進行性失語の概念と診断。高次脳機能研究 2013; 33: 304-309</ref>[10]。右優位側頭葉萎縮例では人物の意味記憶障害、相貌認知障害、視覚対象認知障害、行動異常を呈しやすいので、結果的にsvPPAの基準を満たしにくい。右側頭葉優位萎縮例の臨床像はright-temporal lobe syndrome(右側頭葉症候群)と呼ばれる<ref name=Miller2014 | svPPAとSDとの違いは二点ある。一つは、SDには初期から人物の意味記憶障害による相貌認知障害を呈する例が含まれるが、svPPAでは初期から視知覚性の障害が顕著な例は含まれない。二つ目は、svPPAの診断は、原発性進行性失語(primary progressive aphasia)の診断基準を満たすことが前提となるため、病初期に失語が最も目立つ症状でなければならず、顕著な行動異常があった場合は除外される。そのため初期に行動異常がある程度目立つ場合は、SDと診断できてもsvPPAとは診断できない。これらの違いのためSD症例のうちsvPPAと診断される症例はごく一部である<ref name=池田学2013>池田学、一美奈緒子、橋本衛: 進行性失語の概念と診断。高次脳機能研究 2013; 33: 304-309</ref>[10]。右優位側頭葉萎縮例では人物の意味記憶障害、相貌認知障害、視覚対象認知障害、行動異常を呈しやすいので、結果的にsvPPAの基準を満たしにくい。右側頭葉優位萎縮例の臨床像はright-temporal lobe syndrome(右側頭葉症候群)と呼ばれる<ref name=Miller2014>Miller BL: The clinical syndrome of svPPA. In: Miller BL。 Frontotemporal dementia. New York: Oxford University Press、 2014; 47-65.</ref>[11]。 | ||
SDとsvPPAという異なる用語があるのは、症状のどの側面に注目すべきと考えるかという研究者の見解の違いによる。SDは、意味記憶障害という中核の症状は言語的要素だけではなく、相貌や物体の認識における問題として出現し、それが言葉の意味の障害より先行する場合がある事などから、「言語」よりも本質的には「記憶」の障害と考える立場から提唱されている<ref name=Snowden1996></ref>[3]。svPPAは、PPAという失語を中心に考える「言語の障害による認知症状態(language-based dementia <ref name=Mesulam2003><pubmed>14561797</pubmed></ref> [12])」という概念の一亜型である。 | |||
== 診断 == | == 診断 == |