「精神疾患の診断・統計マニュアル (DSM)」の版間の差分

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==DSM-Ⅲ==
==DSM-Ⅲ==
 そのような背景の中、操作的診断基準を採用した診断分類DSM-IIIが1980年に公表された。1988年には初めてDSM-III-R日本語版も発表され<ref name=髙橋三郎1988>髙橋三郎(訳). DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル. 医学書院, 1988</pubmed></ref>9)、DSM-IIIの発表が精神科診断における転機となった。DSM-IIIでは、精神疾患の原因が明らかとされていない中で病因論を排除し、主として症候・徴候・経過にもとづく操作的診断基準によって疾患カテゴリーを定めることで、精神科診断の信頼性を確保しようとした。それとともに、精神医学を医学の中に残すために精神医学もまた身体医学と同じく診断推論や薬物療法を利用できるという医学的モデルを適用した。
 そのような背景の中、操作的診断基準を採用した診断分類DSM-IIIが1980年に公表された。1988年には初めてDSM-III-R日本語版も発表され<ref name=髙橋三郎1988>'''髙橋三郎(訳)(1988).'''<br>DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル. 医学書院</pubmed></ref>9)、DSM-IIIの発表が精神科診断における転機となった。DSM-IIIでは、精神疾患の原因が明らかとされていない中で病因論を排除し、主として症候・徴候・経過にもとづく操作的診断基準によって疾患カテゴリーを定めることで、精神科診断の信頼性を確保しようとした。それとともに、精神医学を医学の中に残すために精神医学もまた身体医学と同じく診断推論や薬物療法を利用できるという医学的モデルを適用した。


 病因論を排除し、操作的診断基準により信頼性を確保したDSM-IIIは精神医学領域に幅広く浸透し、臨床のみならず、教育、研究それぞれの分野に多くの恩恵をもたらした<ref name=黒木俊秀2012>黒木俊秀. DSMと現代の精神医学-どこから来て、どこへ向かうのか. 神庭重信, 松下正明・編. 専門医のための精神科リュミエール30 精神医学の思想.中山書店, 2012.</pubmed></ref>10)。
 病因論を排除し、操作的診断基準により信頼性を確保したDSM-IIIは精神医学領域に幅広く浸透し、臨床のみならず、教育、研究それぞれの分野に多くの恩恵をもたらした<ref name=黒木俊秀2012>'''黒木俊秀 (2012).'''<br>DSMと現代の精神医学-どこから来て、どこへ向かうのか. 神庭重信, 松下正明・編. 専門医のための精神科リュミエール30 精神医学の思想. 中山書店</pubmed></ref>10)。
臨床においては、病因論を排除したDSMを共通言語として用いることにより、精神医学に携わる異なる立場の専門家同士が議論を行うことが可能となった。また、医学的モデルを適用することで身体医学と同様のアルゴリズム法、パターン認識法、仮説演繹法といった診断推論を利用できるようになり<ref name=北村秀明 精神科診断学のあるべき方向性-DSMの立場から. (2016). 精神科診断, 9, 46-52.</pubmed></ref>11)、その診断過程が明確となった。
臨床においては、病因論を排除したDSMを共通言語として用いることにより、精神医学に携わる異なる立場の専門家同士が議論を行うことが可能となった。また、医学的モデルを適用することで身体医学と同様のアルゴリズム法、パターン認識法、仮説演繹法といった診断推論を利用できるようになり<ref name=北村秀明2016>'''北村秀明 (2016).'''<br>精神科診断学のあるべき方向性-DSMの立場から. 精神科診断 9: 46-52.</ref>11)、その診断過程が明確となった。


 また、教育においてもDSMは格好の教材となった。DSMが各疾患の中核および疾患カテゴリーを規定することにより、初学者が精神疾患について系統的に学ぶことが可能となり、さらに上述の通り、明確となった診断過程についても学ぶことが可能となった。
 また、教育においてもDSMは格好の教材となった。DSMが各疾患の中核および疾患カテゴリーを規定することにより、初学者が精神疾患について系統的に学ぶことが可能となり、さらに上述の通り、明確となった診断過程についても学ぶことが可能となった。

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