「ミオクローヌス」の版間の差分

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 しかし実臨床の場では、本邦で比較的よく認められる成人発症のミオクローヌスてんかんである良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)で出現する皮質振戦のように、不随意運動がミオクローヌスと振戦の両者の特徴をあわせもつ場合<ref name=Ikeda1990><pubmed>2215948</pubmed></ref>8)がある。また、ミオクローヌスジストニア(DYT11)の様にミオクローヌスが運動障害の主たる原因となるが、ジストニアも有するなど複数の不随意運動が併存する疾患<ref name=Kinugawa2009><pubmed>19117361</pubmed></ref>9)もあることにも留意する必要がある。複数の不随意運動が混在あるいは併存していると考えられる場合には、あえて1つにまとめようとせず、観察される不随意運動を出来るだけ正確に記載することが、後々の診断において有用であると考えられる。
 しかし実臨床の場では、本邦で比較的よく認められる成人発症のミオクローヌスてんかんである良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)で出現する皮質振戦のように、不随意運動がミオクローヌスと振戦の両者の特徴をあわせもつ場合<ref name=Ikeda1990><pubmed>2215948</pubmed></ref>8)がある。また、ミオクローヌスジストニア(DYT11)の様にミオクローヌスが運動障害の主たる原因となるが、ジストニアも有するなど複数の不随意運動が併存する疾患<ref name=Kinugawa2009><pubmed>19117361</pubmed></ref>9)もあることにも留意する必要がある。複数の不随意運動が混在あるいは併存していると考えられる場合には、あえて1つにまとめようとせず、観察される不随意運動を出来るだけ正確に記載することが、後々の診断において有用であると考えられる。


 ミオクローヌスと診断後、その原因疾患の精査となる<ref name=Zutt2015></ref>7)。ミオクローヌスはさまざまな疾患や薬剤の副作用などで認められる(表2)<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>10)。また原因疾患の一部では、原因遺伝子も判明している(表3)<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>10)。最近の知見としては、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因はSAMD12などの遺伝子のイントロンにおけるTTTCA あるいは TTTTA リピートの異常伸長であることが本邦から報告された<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>11)。またリピートの異常伸長の程度とてんかん発作の発症年齢が逆相関すること(表現促進現象)も明らかとなった<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>11)。このことは臨床的に報告されていた知見<ref name=Hitomi2012><pubmed>22150818</pubmed></ref>12)を裏付ける結果であった。
 ミオクローヌスと診断後、その原因疾患の精査となる<ref name=Zutt2015></ref>7)。ミオクローヌスはさまざまな疾患や薬剤の副作用などで認められる('''表2''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>10)。また原因疾患の一部では、原因遺伝子も判明している('''表3''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>10)。最近の知見としては、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因はSAMD12などの遺伝子のイントロンにおけるTTTCA あるいは TTTTA リピートの異常伸長であることが本邦から報告された<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>11)。またリピートの異常伸長の程度とてんかん発作の発症年齢が逆相関すること(表現促進現象)も明らかとなった<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>11)。このことは臨床的に報告されていた知見<ref name=Hitomi2012><pubmed>22150818</pubmed></ref>12)を裏付ける結果であった。
 
== 治療 ==
 それぞれの患者の病態に応じて治療を選択する。しかし原因疾患により薬剤難治性のミオクローヌスの場合には多剤併用療法が有用である。非薬物療法としては、難治性のミオクローヌスに対して定位視床腹中間核手術が有効であったとの報告がある。またてんかん発作に伴うミオクローヌスの一部ではてんかん焦点切除術や脳梁離断術などの外科的治療が有効である。当然ながら侵襲的な治療の適応は慎重に判断する必要がある。
 
=== 皮質性ミオクローヌス ===
 各種抗てんかん薬が有効で、多剤併用療法がより効果的である。クロナゼパムやバルプロ酸が広く使用されている。抗てんかん薬のプリミドン、ゾニサミド、新規抗てんかん薬としてはレベチラセタムや抗ミオクローヌス薬であるピラセタムも皮質性ミオクローヌスに有効である。また新規抗てんかん薬であるペランパネルもてんかんおよびも皮質性ミオクローヌスに有効であることが最近報告された<ref name=Oi2019><pubmed>31401489</pubmed></ref>13)。なお持続性部分てんかんと考えられる場合にはてんかん重積状態として治療を行う。
 
 抗てんかん薬のフェニトインは皮質性ミオクローヌスに有効だが、長期的には進行性ミオクローヌスてんかんの1つであるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病において平均寿命を短縮し認知機能低下を来たすことが報告されており長期使用には慎重を要する<ref name=Eldridge1983><pubmed>6137660</pubmed></ref>14)。カルバマゼピンも一般に皮質性ミオクローヌス有効だが、増悪例も報告されている。ガバペンチンもBAFMEの増悪例が報告されている<ref name=Striano2007><pubmed>17645541</pubmed></ref>15)。
 
=== 皮質下性ミオクローヌス ===
 クロナゼパム、バルプロ酸、ピラセタム、プリミドンなどの有効性も一部の皮質下性ミオクローヌスで報告されている.
 
=== 脊髄性ミオクローヌス ===
 クロナゼパム、カルバマゼピン、バクロフェンなどが有効である.一般に原疾患の治療が基本となる.
 
== 病態生理 ==
 ミオクローヌスの分類には、病態生理による分類が比較的よく用いられる(表4)。大脳皮質の異常によるものは皮質性ミオクローヌス、基底核や脳幹部などの異常によるものを皮質下性ミオクローヌス、脊髄由来のものを脊髄性ミオクローヌスと分類する。実際には,皮質性ミオクローヌスと皮質下性ミオクローヌスは共存することが多い。また,器質性の疾患を伴わない心因性ミオクローヌスも存在する<ref name=Terada1995><pubmed>7608681</pubmed></ref>16).
 
=== 皮質性ミオクローヌス ===
大脳皮質一次感覚運動野の神経細胞の異常により生じる。非常に持続時間の短い不規則な筋収縮で、姿勢時や運動時に出現しやすく,しばしば刺激過敏性を認める。“てんかん性ミオクローヌス”と病態生理的に考えられ、てんかん発作をともなうものも多い。
 
皮質性ミオクローヌスはさらに3種類の亜型に分類される。刺激過敏性があり、体性感覚、聴覚、視覚刺激などで誘発される場合は皮質反射性ミオクローヌス、刺激に無関係に自発的に生じているものを自発性皮質性ミオクローヌス、自発性であっても身体の一部に限局し、持続性にミオクローヌスが生じている場合には持続性部分てんかんと分類している。皮質性ミオクローヌスをきたす疾患としては、進行性ミオクローヌスてんかん、BAFME、Creutzfeldt-Jakob病、無酸素脳症後のミオクローヌス(Lance-Adams症候群)、皮質基底核変性症などの各種変性疾患、各種代謝性脳症などがある('''表2''')。このうちCreutzfeldt-Jakob病、Lance-Adams症候群などでは皮質下性ミオクローヌスも呈する。
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|+表2. ミオクローヌスの原因(文献10から改変引用)
|+表2. ミオクローヌスの原因(文献10から改変引用)
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| 局所性中枢神経障害に伴うミオクローヌス|| 脳血管障害、腫瘍、外傷、脊髄外傷
| 局所性中枢神経障害に伴うミオクローヌス|| 脳血管障害、腫瘍、外傷、脊髄外傷
|}
|}
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|+表3. ミオクローヌスの原因(文献10から改変引用)
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! 疾患名 !! 原因遺伝子
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| '''ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病''' || EPM1 (CSTB)
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| '''赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群 (MERRF)''' || tRNA
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| '''ハンチントン病''' || IT15 (Huntingtin)
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| '''歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症''' (DRPLA) || Atrophin1
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| '''ラフォラ病''' || EPM2A, EPM2B
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| '''神経細胞内セロイドリポフスチン症''' (NCL) ||
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| type 2 (late infantile type) || CLN2 (TPP1)
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| type 3 (juvenile type) || CLN3
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| type 4 (adult type) || CLN4
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| type 5 (late infantile Finnish variant type) || CLN5
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| type 6 (variant late infantile type) || CLN6
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| '''ゴーシェ病''' || GBA
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| '''シアリドーシス''' || NEU1
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| '''GM2ガングリオシドーシス''' || HEXA
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| '''クロイツフェルト・ヤコブ病''' (一部) || プリオン蛋白遺伝子
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| '''若年ミオクロニーてんかん''' (一部)  || EFHC1
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| '''良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん''' (一部)  || SAMD12
|}
== 治療 ==
 それぞれの患者の病態に応じて治療を選択する。しかし原因疾患により薬剤難治性のミオクローヌスの場合には多剤併用療法が有用である。非薬物療法としては、難治性のミオクローヌスに対して定位視床腹中間核手術が有効であったとの報告がある。またてんかん発作に伴うミオクローヌスの一部ではてんかん焦点切除術や脳梁離断術などの外科的治療が有効である。当然ながら侵襲的な治療の適応は慎重に判断する必要がある。
=== 皮質性ミオクローヌス ===
 各種抗てんかん薬が有効で、多剤併用療法がより効果的である。クロナゼパムやバルプロ酸が広く使用されている。抗てんかん薬のプリミドン、ゾニサミド、新規抗てんかん薬としてはレベチラセタムや抗ミオクローヌス薬であるピラセタムも皮質性ミオクローヌスに有効である。また新規抗てんかん薬であるペランパネルもてんかんおよびも皮質性ミオクローヌスに有効であることが最近報告された<ref name=Oi2019><pubmed>31401489</pubmed></ref>13)。なお持続性部分てんかんと考えられる場合にはてんかん重積状態として治療を行う。
 抗てんかん薬のフェニトインは皮質性ミオクローヌスに有効だが、長期的には進行性ミオクローヌスてんかんの1つであるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病において平均寿命を短縮し認知機能低下を来たすことが報告されており長期使用には慎重を要する<ref name=Eldridge1983><pubmed>6137660</pubmed></ref>14)。カルバマゼピンも一般に皮質性ミオクローヌス有効だが、増悪例も報告されている。ガバペンチンもBAFMEの増悪例が報告されている<ref name=Striano2007><pubmed>17645541</pubmed></ref>15)。
=== 皮質下性ミオクローヌス ===
 クロナゼパム、バルプロ酸、ピラセタム、プリミドンなどの有効性も一部の皮質下性ミオクローヌスで報告されている.
=== 脊髄性ミオクローヌス ===
 クロナゼパム、カルバマゼピン、バクロフェンなどが有効である.一般に原疾患の治療が基本となる.
== 病態生理 ==
 ミオクローヌスの分類には、病態生理による分類が比較的よく用いられる(表4)。大脳皮質の異常によるものは皮質性ミオクローヌス、基底核や脳幹部などの異常によるものを皮質下性ミオクローヌス、脊髄由来のものを脊髄性ミオクローヌスと分類する。実際には,皮質性ミオクローヌスと皮質下性ミオクローヌスは共存することが多い。また,器質性の疾患を伴わない心因性ミオクローヌスも存在する<ref name=Terada1995><pubmed>7608681</pubmed></ref>16)。
=== 皮質性ミオクローヌス ===
 大脳皮質一次感覚運動野の神経細胞の異常により生じる。非常に持続時間の短い不規則な筋収縮で、姿勢時や運動時に出現しやすく,しばしば刺激過敏性を認める。“てんかん性ミオクローヌス”と病態生理的に考えられ、てんかん発作をともなうものも多い。
 皮質性ミオクローヌスはさらに3種類の亜型に分類される。刺激過敏性があり、体性感覚、聴覚、視覚刺激などで誘発される場合は皮質反射性ミオクローヌス、刺激に無関係に自発的に生じているものを自発性皮質性ミオクローヌス、自発性であっても身体の一部に限局し、持続性にミオクローヌスが生じている場合には持続性部分てんかんと分類している。皮質性ミオクローヌスをきたす疾患としては、進行性ミオクローヌスてんかん、BAFME、Creutzfeldt-Jakob病、無酸素脳症後のミオクローヌス(Lance-Adams症候群)、皮質基底核変性症などの各種変性疾患、各種代謝性脳症などがある('''表2''')。このうちCreutzfeldt-Jakob病、Lance-Adams症候群などでは皮質下性ミオクローヌスも呈する。


=== 皮質下性ミオクローヌス ===
=== 皮質下性ミオクローヌス ===

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