「依存症」の版間の差分

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#[[関係依存]]<br>ある特定の人物に必要とされることに依存。
#[[関係依存]]<br>ある特定の人物に必要とされることに依存。


 特に物質依存は依存性物質を心身に重大な障害や苦痛を引き起こすほどに使用し、それらの物質に対する耐性や離脱などの問題が生じている精神疾患であり、深刻な社会問題となっている。依存性物質には違法薬物のみでなく[[アルコール依存症|アルコール]]など私たちの日常生活に身近な物質も含まれる。依存性物質の種類としては、中枢神経系抑制薬(アルコール、[[モルヒネ]]、[[睡眠薬]]など)、中枢神経系興奮薬([[メタンフェタミン]]などの[[覚せい剤]]、[[コカイン]]など)あるいは精神異常発現薬([[大麻]]、[[LSD]] など)などがあり、薬理作用の異なる種々の物質が依存を誘発する。
 特に物質依存は依存性物質を心身に重大な障害や苦痛を引き起こすほどに使用し、それらの物質に対する耐性や離脱などの問題が生じている精神疾患であり、深刻な社会問題となっている。依存性物質には違法薬物のみでなく[[アルコール依存症|アルコール]]など私たちの日常生活に身近な物質も含まれる。依存性物質の種類としては、中枢神経系抑制薬(アルコール、[[モルヒネ]]、[[睡眠薬]]など)、中枢神経系興奮薬([[メタンフェタミン]]などの[[覚醒剤]]、[[コカイン]]など)あるいは精神異常発現薬([[大麻]]、[[LSD]] など)などがあり、薬理作用の異なる種々の物質が依存を誘発する。


== 診断基準  ==
== 診断基準  ==
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== 疫学  ==
== 疫学  ==


 平成20年の[[wj:厚生労働省|厚生労働省]]の患者調査によると[[アルコール依存症]]の推計患者数は13100人(総患者数44000人)とされているが、一方で日本の一般人口1億2000万人における調査では約80万人がアルコール依存症であるとされており<ref>'''尾崎米厚、松下幸生、白坂知信、廣 尚典、樋口 進'''<br>わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査<br>''日本アルコール・薬物医学会雑'':2005, 40(5), 455–70</ref>、治療を受けていないアルコール依存症罹患者が多く存在するという点においても大きな問題があると言える。平成19年の[[wj:警察庁|警察庁]]、厚生労働省、[[wj:海上保安庁|海上保安庁]]の調査によると、国内の薬物事犯検挙人数は、覚せい剤12211名、[[麻薬]]・向精神薬が542名、[[アヘン]]が47名、大麻が2375名と報告されている。  
 平成20年の[[wj:厚生労働省|厚生労働省]]の患者調査によると[[アルコール依存症]]の推計患者数は13100人(総患者数44000人)とされているが、一方で日本の一般人口1億2000万人における調査では約80万人がアルコール依存症であるとされており<ref>'''尾崎米厚、松下幸生、白坂知信、廣 尚典、樋口 進'''<br>わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査<br>''日本アルコール・薬物医学会雑'':2005, 40(5), 455–70</ref>、治療を受けていないアルコール依存症罹患者が多く存在するという点においても大きな問題があると言える。平成19年の[[wj:警察庁|警察庁]]、厚生労働省、[[wj:海上保安庁|海上保安庁]]の調査によると、国内の薬物事犯検挙人数は、覚醒剤12211名、[[麻薬]]・向精神薬が542名、[[アヘン]]が47名、大麻が2375名と報告されている。  


== 依存症の脳内メカニズム  ==
== 依存症の脳内メカニズム  ==
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 オピオイド受容体の[[μオピオイド受容体|μサブタイプ]]は、アルコールによる報酬、耐性、離脱に関連している。近年のPET研究によると、アルコール依存症患者の脳内腹側線条体におけるμオピオイド受容体が増加しており、その増加はアルコールの渇望感と関連することが報告されている<ref><pubmed>15630073</pubmed></ref>。また断酒中のアルコール依存症患者における[[前帯状皮質]]のオピオイド受容体と渇望感との相関も認められている<ref><pubmed>19595579</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存症患者の線条体におけるドーパミン合成能やドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>[[受容体]]結合能とアルコールに対する渇望が相関している<ref><pubmed>16055774</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存患者において腹側線条体の[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン受容体<sub>1B</sub>]]受容体(5-HT<sub>1B</sub>)の結合能が上昇していることも報告されている<ref><pubmed>20172504</pubmed></ref>。  
 オピオイド受容体の[[μオピオイド受容体|μサブタイプ]]は、アルコールによる報酬、耐性、離脱に関連している。近年のPET研究によると、アルコール依存症患者の脳内腹側線条体におけるμオピオイド受容体が増加しており、その増加はアルコールの渇望感と関連することが報告されている<ref><pubmed>15630073</pubmed></ref>。また断酒中のアルコール依存症患者における[[前帯状皮質]]のオピオイド受容体と渇望感との相関も認められている<ref><pubmed>19595579</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存症患者の線条体におけるドーパミン合成能やドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>[[受容体]]結合能とアルコールに対する渇望が相関している<ref><pubmed>16055774</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存患者において腹側線条体の[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン受容体<sub>1B</sub>]]受容体(5-HT<sub>1B</sub>)の結合能が上昇していることも報告されている<ref><pubmed>20172504</pubmed></ref>。  


==== 覚せい剤 ====
==== 覚醒剤 ====


 覚せい剤は主に脳内ドーパミン[[神経終末]]に作用し、[[シナプス]]間隙におけるドーパミン量を増加させることによって薬理作用を出現させる。覚せい剤の使用は長期にわたり脳内ドーパミン神経終末に障害を及ぼすことが脳神経画像研究から明らかになっている。たとえば、覚せい剤乱用者では、大脳基底核におけるドーパミンD<sub>2</sub>受容体が減少しており、ドーパミンD<sub>2</sub>受容体と[[眼窩前頭皮質]]における局所糖代謝率が関連して<ref><pubmed>11729018</pubmed></ref>、薬物依存症患者の線条体におけるドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体利用率が健常者より低下しており、この低下が患者の衝動性と負の相関関係にあることが報告されている<ref><pubmed>19940168</pubmed></ref>  
 覚醒剤は主に脳内ドーパミン[[神経終末]]に作用し、[[シナプス]]間隙におけるドーパミン量を増加させることによって薬理作用を出現させる。覚醒剤の使用は長期にわたり脳内ドーパミン神経終末に障害を及ぼすことが脳神経画像研究から明らかになっている。たとえば、覚醒剤乱用者では、大脳基底核におけるドーパミンD<sub>2</sub>受容体が減少しており、ドーパミンD<sub>2</sub>受容体と[[眼窩前頭皮質]]における局所糖代謝率が関連して<ref><pubmed>11729018</pubmed></ref>、薬物依存症患者の線条体におけるドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体利用率が健常者より低下しており、この低下が患者の衝動性と負の相関関係にあることが報告されている<ref><pubmed>19940168</pubmed></ref>  


 また、覚せい剤は[[セロトニン神経系]]にも作用する。PET研究により、覚せい剤使用経験者の脳内[[セロトニン#.E3.82.BB.E3.83.AD.E3.83.88.E3.83.8B.E3.83.B3.E3.83.88.E3.83.A9.E3.83.B3.E3.82.B9.E3.83.9D.E3.83.BC.E3.82.BF.E3.83.BC|セロトニントランスポーター]](5-hydroxytryptamine transporter: 5-HTT)の密度が健常者よりも低下していること、その低下が彼らの攻撃性の強さと相関していることが報告されている<ref><pubmed>16389202</pubmed></ref>。  
 また、覚醒剤は[[セロトニン神経系]]にも作用する。PET研究により、覚醒剤使用経験者の脳内[[セロトニン#.E3.82.BB.E3.83.AD.E3.83.88.E3.83.8B.E3.83.B3.E3.83.88.E3.83.A9.E3.83.B3.E3.82.B9.E3.83.9D.E3.83.BC.E3.82.BF.E3.83.BC|セロトニントランスポーター]](5-hydroxytryptamine transporter: 5-HTT)の密度が健常者よりも低下していること、その低下が彼らの攻撃性の強さと相関していることが報告されている<ref><pubmed>16389202</pubmed></ref>。  


 また断薬後も数年の間は脳内活性型[[ミクログリア]]の密度が健常者よりも上昇しており、このことが神経障害の継続に関連している可能性も示されている<ref><pubmed>18509037</pubmed></ref>。  
 また断薬後も数年の間は脳内活性型[[ミクログリア]]の密度が健常者よりも上昇しており、このことが神経障害の継続に関連している可能性も示されている<ref><pubmed>18509037</pubmed></ref>。  

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