「大脳皮質」の版間の差分
細 →連合野 |
細編集の要約なし |
||
| (同じ利用者による、間の10版が非表示) | |||
| 2行目: | 2行目: | ||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br> | ||
''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br> | ''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2015年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br> | |||
DOI:<selfdoi /> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ | |||
</div> | </div> | ||
| 13行目: | 11行目: | ||
== 旧皮質/古皮質/中間皮質/新皮質 == | == 旧皮質/古皮質/中間皮質/新皮質 == | ||
[[発生学]]的な観点から、大脳皮質を[[等皮質]][[isocortex]]と[[不等皮質]][[allocortex]]に分類する。等皮質は発生過程において一度は6層形成を行う大脳皮質を指し、6層構造を一度もとらないものを不等皮質という。等皮質は発生学的に新しく、新皮質neocortexともよばれる。不等皮質は、[[古皮質]][[paleocortex]]([[嗅球]]、[[梨状葉前皮質]]など)と[[原皮質]][[archicortex]]([[アンモン角]]、[[歯状回]]、[[海馬台]]、[[脳梁灰白層]]、[[中隔]]など)に分類される。等皮質と不等皮質の中間的性質をもつ皮質を[[中間皮質]][[mesocortex]]([[帯状回]]、[[帯状回峡]]、[[海馬傍回]]など)といい、両者の移行部に存在する。 | [[発生学]]的な観点から、大脳皮質を[[等皮質]][[isocortex]]と[[不等皮質]][[allocortex]]に分類する。等皮質は発生過程において一度は6層形成を行う大脳皮質を指し、6層構造を一度もとらないものを不等皮質という。等皮質は発生学的に新しく、新皮質neocortexともよばれる。不等皮質は、[[古皮質]][[paleocortex]]([[嗅球]]、[[梨状葉前皮質]]など)と[[原皮質]][[archicortex]]([[アンモン角]]、[[歯状回]]、[[海馬台]]、[[脳梁灰白層]]、[[中隔]]など)に分類される。等皮質と不等皮質の中間的性質をもつ皮質を[[中間皮質]][[mesocortex]]([[帯状回]]、[[帯状回峡]]、[[海馬傍回]]など)といい、両者の移行部に存在する。 | ||
== 層構造 == | == 層構造 == | ||
| 26行目: | 21行目: | ||
* 第5層([[内錐体層]]):大型錐体細胞からなる層で、[[線条体]]、[[赤核]]、[[橋核]]、[[オリーブ核]]、[[脊髄]]など皮質下核へ出力する。運動野の第5層から、[[脳幹]]の[[運動性脳神経核]]([[皮質核路]][[corticobulbar tract]])や[[脊髄]][[前角]]([[皮質脊髄路]][[corticospinal tract]])に投射する。視覚野の第5層からは[[上丘]]([[皮質視蓋路]])へ、聴覚野の第5層からは[[下丘]]([[皮質下丘路]])へ投射する。 | * 第5層([[内錐体層]]):大型錐体細胞からなる層で、[[線条体]]、[[赤核]]、[[橋核]]、[[オリーブ核]]、[[脊髄]]など皮質下核へ出力する。運動野の第5層から、[[脳幹]]の[[運動性脳神経核]]([[皮質核路]][[corticobulbar tract]])や[[脊髄]][[前角]]([[皮質脊髄路]][[corticospinal tract]])に投射する。視覚野の第5層からは[[上丘]]([[皮質視蓋路]])へ、聴覚野の第5層からは[[下丘]]([[皮質下丘路]])へ投射する。 | ||
* 第6層([[多形細胞層]]):さまざまな形と大きさの[[紡錘形細胞]]からなる。この層のニューロンは軸索を視床へ投射する視床への出力層である。 | * 第6層([[多形細胞層]]):さまざまな形と大きさの[[紡錘形細胞]]からなる。この層のニューロンは軸索を視床へ投射する視床への出力層である。 | ||
== 脳葉と機能局在 == | == 脳葉と機能局在 == | ||
[[ヒト]]では大脳皮質の表面にある明瞭な3つの[[脳溝]]である[[外側溝]][[lateral sulcus]]、[[中心溝]][[central sulcus]]、[[頭頂後頭溝]] [[parieto-occipital sulcus]]を基準に、[[大脳半球]]を[[前頭葉]]、[[頭頂葉]]、[[後頭葉]]、[[側頭葉]]の4葉と、これらの奥に隠れている[[島]]が区分される。さらに大脳半球の内側面には[[脳梁]][[corpus callosum]]があり、これを取り囲むように[[帯状溝]][[cingulate sulcus]]や[[側副溝]][[collateral sulcus]]などの脳溝が走行している。これらの溝と脳梁の間の大脳皮質を[[辺縁葉]]と呼ぶ。それぞれの脳葉の脳回には名称が与えられ、機能局在との関連でしばしば用いられる('''図3''')。 | [[ヒト]]では大脳皮質の表面にある明瞭な3つの[[脳溝]]である[[外側溝]][[lateral sulcus]]、[[中心溝]][[central sulcus]]、[[頭頂後頭溝]] [[parieto-occipital sulcus]]を基準に、[[大脳半球]]を[[前頭葉]]、[[頭頂葉]]、[[後頭葉]]、[[側頭葉]]の4葉と、これらの奥に隠れている[[島]]が区分される。さらに大脳半球の内側面には[[脳梁]][[corpus callosum]]があり、これを取り囲むように[[帯状溝]][[cingulate sulcus]]や[[側副溝]][[collateral sulcus]]などの脳溝が走行している。これらの溝と脳梁の間の大脳皮質を[[辺縁葉]]と呼ぶ。それぞれの脳葉の脳回には名称が与えられ、機能局在との関連でしばしば用いられる('''図3''')。 | ||
* [[前頭葉]][[frontal lobe]]は中心溝の前部で、その先端部を[[前頭極]]という。他の動物種に比べてヒトで著しく発達している脳葉である。中心前回に[[一次運動野]] | * [[前頭葉]][[frontal lobe]]は中心溝の前部で、その先端部を[[前頭極]]という。他の動物種に比べてヒトで著しく発達している脳葉である。中心前回に[[一次運動野]]があり、[[弁蓋部]]に[[ブローカの運動性言語中枢]]がある。一次運動野の前方には[[運動前野]]、[[補足運動野]]、[[帯状皮質運動野]]からなる[[高次運動野]]があり、一次運動野に投射して運動の開始、企画、作業手順を制御する。 | ||
* [[頭頂葉]][[parietal lobe]]は中心溝と頭頂後頭溝の間の領域で、その前縁にあたる[[中心後回]]に[[一次体性感覚野]]がある。頭頂間溝を境に[[上頭頂小葉]]と[[下頭頂小葉]] | * [[頭頂葉]][[parietal lobe]]は中心溝と頭頂後頭溝の間の領域で、その前縁にあたる[[中心後回]]に[[一次体性感覚野]]がある。頭頂間溝を境に[[上頭頂小葉]]と[[下頭頂小葉]]が分けられる。下頭頂小葉の前方が[[縁上回]]、後方が[[角回]]で、聴覚性や視覚性の[[言語中枢]]が存在する。[[上頭頂小葉]]は、自己周囲の空間の定位に関わる。 | ||
* [[後頭葉]][[occipital lobe]]は頭頂後頭溝の後部で、その先端部を[[後頭極]]という。[[鳥距溝]]を挟む上下の脳回は[[有線領]]ともよばれ、ここに一次視覚野が存在する。 | * [[後頭葉]][[occipital lobe]]は頭頂後頭溝の後部で、その先端部を[[後頭極]]という。[[鳥距溝]]を挟む上下の脳回は[[有線領]]ともよばれ、ここに一次視覚野が存在する。 | ||
* [[側頭葉]][[temporal lobe]]は外側溝より下部で、先端部を[[側頭極]]という。外側溝に面する側頭葉の上面に[[横側頭回]]があり、ここに[[一次聴覚野]] | * [[側頭葉]][[temporal lobe]]は外側溝より下部で、先端部を[[側頭極]]という。外側溝に面する側頭葉の上面に[[横側頭回]]があり、ここに[[一次聴覚野]]が存在する。側頭葉の内側面には[[海馬傍回]]とその先端の膨らんだ[[鈎]][[uncus]]を観察できる。[[海馬傍回]]の奥に[[海馬]]([[海馬体]])があり、海馬ではアンモン角と歯状回が海馬台に乗っている。鈎の内部には[[扁桃体]]が存在する。 | ||
* 島[[insula]]は外側溝の深部に隠れた皮質で、外側溝を広げて奥を観察すると縦に走る[[島皮質]][[insular cortex]]が見える。 | * 島[[insula]]は外側溝の深部に隠れた皮質で、外側溝を広げて奥を観察すると縦に走る[[島皮質]][[insular cortex]]が見える。 | ||
* [[辺縁葉]][[limbic lobe]]は脳梁と帯状溝や側副溝の間に位置する古い皮質で、帯状回や海馬傍回を含む。 | * [[辺縁葉]][[limbic lobe]]は脳梁と帯状溝や側副溝の間に位置する古い皮質で、帯状回や海馬傍回を含む。 | ||
| 41行目: | 35行目: | ||
== 顆粒皮質/無顆粒皮質 == | == 顆粒皮質/無顆粒皮質 == | ||
感覚性皮質では、視床からの入力層である内顆粒層が発達し顆粒皮質granular cortexと呼ばれる。一方、一次運動野や運動前野などの運動性皮質ではこの層の発達が悪く、無顆粒皮質agranular cortexと呼ばれる。 | |||
== 連合野 == | == 連合野 == | ||
上記の機能局在な明瞭な皮質領域を除くと、ヒトでは大脳皮質の約2/3にも相当する広い領域が残され、これらの領域を[[連合野]] | 上記の機能局在な明瞭な皮質領域を除くと、ヒトでは大脳皮質の約2/3にも相当する広い領域が残され、これらの領域を[[連合野]][association area]]という。連合野は、感覚情報の高度な統合による認知、複数の感覚の総合、感覚と運動の統合、過去の経験([[記憶]])と関連、[[随意運動]]、[[情動行動]]、[[言語機能]]、[[精神機能]]、[[作業記憶]]([[ワーキングメモリー]])などより高次な脳機能を具現化している皮質領域である。連合野の特徴は、[[髄鞘]]化が最も遅く始まり、進化するにつれて大脳皮質全体に占める比率が大きくなり、ヒトでその比率は最大となっている。 | ||
ヒトでは[[前頭連合野]]が発達し、その中心となる[[前頭前野]]([[前頭前皮質]])は一次運動野と一次感覚性皮質以外の全ての新皮質と相互に連絡し、[[側頭連合野]]や[[頭頂連合野]]からの情報を統合して、前頭前野は行動の企画や順序立て、結果の予測と行動抑制、状況に応じた行動の切り替えなどの遂行機能から、観念的思考、推論、判断、評価などの高次な認知機能に関わる。前頭前野の背外側部はワーキングメモリーに関わる。腹側部の[[前頭眼窩皮質]]は、[[視床背内側核]]を介して扁桃体・中隔・側頭葉極などの大脳辺縁系と連絡し、[[情動]]・[[動機づけ]]機能とそれに基づく意思決定過程に関わる。前頭前野は理性が[[本能]](大脳辺縁系)を制御して逸脱した行動を抑制している。 | ヒトでは[[前頭連合野]]が発達し、その中心となる[[前頭前野]]([[前頭前皮質]])は一次運動野と一次感覚性皮質以外の全ての新皮質と相互に連絡し、[[側頭連合野]]や[[頭頂連合野]]からの情報を統合して、前頭前野は行動の企画や順序立て、結果の予測と行動抑制、状況に応じた行動の切り替えなどの遂行機能から、観念的思考、推論、判断、評価などの高次な認知機能に関わる。前頭前野の背外側部はワーキングメモリーに関わる。腹側部の[[前頭眼窩皮質]]は、[[視床背内側核]]を介して扁桃体・中隔・側頭葉極などの大脳辺縁系と連絡し、[[情動]]・[[動機づけ]]機能とそれに基づく意思決定過程に関わる。前頭前野は理性が[[本能]](大脳辺縁系)を制御して逸脱した行動を抑制している。 | ||
| 51行目: | 45行目: | ||
側脳室を取りまく古い辺縁葉([[帯状回]]、[[海馬傍回]]、[[内嗅領皮質]]、前頭眼窩野、側頭極など)と、これと線維結合を持つ皮質下核(海馬体、扁桃体、側坐核、中隔、[[視床前核]]、[[乳頭体]]などの[[視床下部]]、[[中心灰白質]]、[[網様体]])を合わせて[[大脳辺縁系]][[limbic system]]という。大脳辺縁系は、本能に結びついた行動([[飲食行動]]、[[性行動]]、[[群居本能]])や、[[恐怖]]、[[快・不快]]、[[攻撃]]、[[闘争]]、[[逃避]]などの情動(身体的・感情的な反応)に深く関与し、動物の生存維持に重要である。大脳辺縁系は、視床下部の[[自律神経機能]]や[[内分泌]]機能を介して[[情動反応]]を表出する。 | 側脳室を取りまく古い辺縁葉([[帯状回]]、[[海馬傍回]]、[[内嗅領皮質]]、前頭眼窩野、側頭極など)と、これと線維結合を持つ皮質下核(海馬体、扁桃体、側坐核、中隔、[[視床前核]]、[[乳頭体]]などの[[視床下部]]、[[中心灰白質]]、[[網様体]])を合わせて[[大脳辺縁系]][[limbic system]]という。大脳辺縁系は、本能に結びついた行動([[飲食行動]]、[[性行動]]、[[群居本能]])や、[[恐怖]]、[[快・不快]]、[[攻撃]]、[[闘争]]、[[逃避]]などの情動(身体的・感情的な反応)に深く関与し、動物の生存維持に重要である。大脳辺縁系は、視床下部の[[自律神経機能]]や[[内分泌]]機能を介して[[情動反応]]を表出する。 | ||
== | == 参考文献 == | ||
脳神経ペディア:「解剖」と「機能」が見える・つながる事典(渡辺雅彦著)、羊土社、2017年。 | |||
ヒトに至る脳の進化、小林靖、脳神経科学(伊藤正男監修)42-52ページ、三輪書店、2003年。 | |||