「手と眼の協調運動」の版間の差分

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 ここまでの知見をまとめると、眼制御系は腕制御系と密接に関連し、腕の目標位置、推定最終位置、オンライン推定腕位置といった情報を基に、眼球運動生成・抑制の調節を行っていると考えられる。特に腕運動制御の内部モデル(フォワードモデル)を用いた予測的な眼球運動生成は、腕運動にとって有益な情報を取得することにつながる機能的な眼と腕の協調関係と解釈される。
 ここまでの知見をまとめると、眼制御系は腕制御系と密接に関連し、腕の目標位置、推定最終位置、オンライン推定腕位置といった情報を基に、眼球運動生成・抑制の調節を行っていると考えられる。特に腕運動制御の内部モデル(フォワードモデル)を用いた予測的な眼球運動生成は、腕運動にとって有益な情報を取得することにつながる機能的な眼と腕の協調関係と解釈される。


 一方、眼球運動が腕制御系に与える影響についても、これまで検討されてきた。眼制御系は運動指令生成に加えて、視覚情報取得という側面を持ちうる。それゆえ、眼から腕への影響を検討する際には、その影響が視覚情報変化(網膜信号、retinal signals)に由来するのか、あるいはそれ以外の眼制御系に関連した信号(網膜外信号、extra-retinal signals)に由来するのか、分けて議論する必要がある。網膜信号が腕運動に影響を与えることは必然であり、視覚目標を注視することで腕運動の正確性は向上する(たとえば、文献<ref name=Prablanc1979><pubmed>518932</pubmed></ref>[19])。対して、網膜外信号が腕運動に寄与する可能性については、眼と腕の運動最終位置が相関するという知見から支持されてきた<ref name=Levine1979><pubmed>488202</pubmed></ref><ref name=Adam1993><pubmed>8285077</pubmed></ref><ref name=Epelboim1995><pubmed>8560808</pubmed></ref><ref name=Epelboim1997><pubmed>9373691</pubmed></ref><ref name=Flanders1999><pubmed>10333004</pubmed></ref>[20–24]。また、Dunker錯視、Müller-Lyer錯視といった錯視刺激を利用して眼球運動の最終位置を変化させた場合、腕運動の到達位置は、錯視刺激による直接的な影響から推定される場所よりも、目の最終位置(視線)に近くなることが報告されている<ref name=Binsted1999><pubmed>10442411</pubmed></ref><ref name=Soechting2001><pubmed>11160517</pubmed></ref>[25; 26]。これらの結果は、眼の最終位置が腕運動の目標表現として利用されている点を示唆する。また、眼の最終位置だけでなく、眼球運動の大きさが、同時に行う腕運動の最終位置あるいは初期加速度に影響を与えることも報告されている<ref name=van Donkelaar1997><pubmed>9243599</pubmed></ref><ref name=van Donkelaar1998><pubmed>9674585</pubmed></ref>[27; 28]。以上の知見は、眼球位置情報・眼球運動情報といった網膜外信号が、腕運動制御系に利用され、眼と腕が共通の場所に向かうように協調関係が築かれていることを示唆する。一方、網膜外信号(特に自己受容感覚に基づく目の位置情報)が腕運動に与える影響は非常に小さく、その機能的な貢献度については古くより議論の対象となっている(たとえば文献<ref name=Prablanc1979 />[19])。加えて、上述の錯視刺激を用いた実験などでは、視覚刺激が直接腕運動に与える影響を考慮しきれていない部分もあり(たとえば、Dunker錯視に利用される背景視覚運動刺激が直接的に腕運動に与える影響など<ref name=Gomi2008><pubmed>19095435</pubmed></ref>[29])、実験的な問題点も残されている。
 一方、眼球運動が腕制御系に与える影響についても、これまで検討されてきた。眼制御系は運動指令生成に加えて、視覚情報取得という側面を持ちうる。それゆえ、眼から腕への影響を検討する際には、その影響が視覚情報変化(網膜信号、retinal signals)に由来するのか、あるいはそれ以外の眼制御系に関連した信号(網膜外信号、extra-retinal signals)に由来するのか、分けて議論する必要がある。網膜信号が腕運動に影響を与えることは必然であり、視覚目標を注視することで腕運動の正確性は向上する(たとえば、文献<ref name=Prablanc1979><pubmed>518932</pubmed></ref>[19])。対して、網膜外信号が腕運動に寄与する可能性については、眼と腕の運動最終位置が相関するという知見から支持されてきた<ref name=Levine1979><pubmed>488202</pubmed></ref><ref name=Adam1993><pubmed>8285077</pubmed></ref><ref name=Epelboim1995><pubmed>8560808</pubmed></ref><ref name=Epelboim1997><pubmed>9373691</pubmed></ref><ref name=Flanders1999><pubmed>10333004</pubmed></ref>[20–24]。また、Dunker錯視、Müller-Lyer錯視といった錯視刺激を利用して眼球運動の最終位置を変化させた場合、腕運動の到達位置は、錯視刺激による直接的な影響から推定される場所よりも、目の最終位置(視線)に近くなることが報告されている<ref name=Binsted1999><pubmed>10442411</pubmed></ref><ref name=Soechting2001><pubmed>11160517</pubmed></ref>[25; 26]。これらの結果は、眼の最終位置が腕運動の目標表現として利用されている点を示唆する。また、眼の最終位置だけでなく、眼球運動の大きさが、同時に行う腕運動の最終位置あるいは初期加速度に影響を与えることも報告されている<ref name=vanDonkelaar1997><pubmed>9243599</pubmed></ref><ref name=vanDonkelaar1998><pubmed>9674585</pubmed></ref>[27; 28]。以上の知見は、眼球位置情報・眼球運動情報といった網膜外信号が、腕運動制御系に利用され、眼と腕が共通の場所に向かうように協調関係が築かれていることを示唆する。一方、網膜外信号(特に自己受容感覚に基づく目の位置情報)が腕運動に与える影響は非常に小さく、その機能的な貢献度については古くより議論の対象となっている(たとえば文献<ref name=Prablanc1979 />[19])。加えて、上述の錯視刺激を用いた実験などでは、視覚刺激が直接腕運動に与える影響を考慮しきれていない部分もあり(たとえば、Dunker錯視に利用される背景視覚運動刺激が直接的に腕運動に与える影響など<ref name=Gomi2008><pubmed>19095435</pubmed></ref>[29])、実験的な問題点も残されている。


== 目と手の協調機構を支える神経基盤 ==
== 目と手の協調機構を支える神経基盤 ==

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