「オリゴデンドロサイト」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
16行目: 16行目:
[[image:図1 成体マウスの脳で見られるオリゴデンドロサイト.png|thumb|300px|'''図1.成体マウスの脳で見られるオリゴデンドロサイト''']]
[[image:図1 成体マウスの脳で見られるオリゴデンドロサイト.png|thumb|300px|'''図1.成体マウスの脳で見られるオリゴデンドロサイト''']]


 オリゴデンドロサイトは、[[wikipedia:es:P%C3%ADo_del_R%C3%ADo_Hortega|Pio Del Rio-Hortega]] が、炭酸銀法と呼ばれる[[鍍銀染色]]法を開発して見出した。当時、すでにニューロンと[[アストロサイト]]は見つかっており、アストロサイトより少ない突起を持つグリア細胞という意味で名前が付けられた<ref name=ref2>'''工藤佳久. (2011)'''<br>脳とグリア細胞 知りたいサイエンス092, ''技術評論社''</ref><ref name=ref3>'''Verkhratsky A, and Butt A.'''<br>Glial Neurobiology, a textbook.<br>''Wiley'', 2007</ref>。現在では、発見されていた当時に考えられていたより多くの突起を持つことが明らかにされている(図1)。
 オリゴデンドロサイトは、[[w:es:P%C3%ADo_del_R%C3%ADo_Hortega|Pio Del Rio-Hortega]] が、炭酸銀法と呼ばれる[[鍍銀染色]]法を開発して見出した。当時、すでにニューロンと[[アストロサイト]]は見つかっており、アストロサイトより少ない突起を持つグリア細胞という意味で名前が付けられた<ref name=ref2>'''工藤佳久. (2011)'''<br>脳とグリア細胞 知りたいサイエンス092, ''技術評論社''</ref><ref name=ref3>'''Verkhratsky A, and Butt A.'''<br>Glial Neurobiology, a textbook.<br>''Wiley'', 2007</ref>。現在では、発見されていた当時に考えられていたより多くの突起を持つことが明らかにされている(図1)。


==発生 ==
==発生 ==
27行目: 27行目:
== 形態 ==
== 形態 ==
=== 組織像 ===  
=== 組織像 ===  
 オリゴデンドロサイトは、[[wikipedia:JA:ヘマトキシリン・エオジン染色法|ヘマトキシリン・エオジン染色法]]や[[ニッスル染色]]による[[wikipedia:ja:光学顕微鏡|光学顕微鏡]]観察では、塩基性色素で濃く染まる丸い核を持つ細胞として認められる<ref name=ref4>[http://pd21.cihbs.niigata-u.ac.jp/show.php/脳の構造と細胞/Oligodendrocyte 新潟大学脳研究所e-learning 神経病理より オリゴデンドロサイト]</ref>。このような細胞は白質に多くみられ、これがintrafascicular oligodendrocye(図1A)と呼ばれるものである。一方、灰白質内でニューロンに密着しているように観察されるものがperineuronal oligodendrocyteである。[[ミクログリア]]もオリゴデンドロサイトと同様にニューロン[[細胞体]]に密着している物が少なからずあるといわれている。これらの細胞を、組織切片上で厳密に同定・区別するには、ミエリンタンパク質をマーカーとした[[in situハイブリダイゼーション法]]や[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察が用いられる<ref name=ref5><pubmed>19390819</pubmed></ref>。ミエリン鞘は、通常は細胞体から伸びる突起の先端に形成されることが多い(後述)。
 オリゴデンドロサイトは、[[wj:ヘマトキシリン・エオジン染色法|ヘマトキシリン・エオジン染色法]]や[[ニッスル染色]]による[[wj:光学顕微鏡|光学顕微鏡]]観察では、塩基性色素で濃く染まる丸い核を持つ細胞として認められる<ref name=ref4>[http://pd21.cihbs.niigata-u.ac.jp/show.php/脳の構造と細胞/Oligodendrocyte 新潟大学脳研究所e-learning 神経病理より オリゴデンドロサイト]</ref>。このような細胞は白質に多くみられ、これがintrafascicular oligodendrocye(図1A)と呼ばれるものである。一方、灰白質内でニューロンに密着しているように観察されるものがperineuronal oligodendrocyteである。[[ミクログリア]]もオリゴデンドロサイトと同様にニューロン[[細胞体]]に密着している物が少なからずあるといわれている。これらの細胞を、組織切片上で厳密に同定・区別するには、ミエリンタンパク質をマーカーとした[[in situハイブリダイゼーション法]]や[[wj:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察が用いられる<ref name=ref5><pubmed>19390819</pubmed></ref>。ミエリン鞘は、通常は細胞体から伸びる突起の先端に形成されることが多い(後述)。


=== 微細形態 ===  
=== 微細形態 ===  
[[image:図2 成体マウス脊髄で見られるオリゴデンドロサイト(OL)とアストロサイト(AS).png|thumb|300px|'''図2.成体[[wikipedia:ja:マウス|マウス]][[脊髄]]で見られるオリゴデンドロサイト(OL)とアストロサイト(AS)'''<br>OLのは、ミエリンと連続性があり、また電子密度も高い。ASには[[中間径フィラメント]]が含まれている(矢頭)。下は、OLの細胞質の拡大。層板状の[[粗面小胞体]]と腔のやや広い[[Golgi装置]]がみられる。]]
[[image:図2 成体マウス脊髄で見られるオリゴデンドロサイト(OL)とアストロサイト(AS).png|thumb|300px|'''図2.成体[[wj:マウス|マウス]][[脊髄]]で見られるオリゴデンドロサイト(OL)とアストロサイト(AS)'''<br>OLのは、ミエリンと連続性があり、また電子密度も高い。ASには[[中間径フィラメント]]が含まれている(矢頭)。下は、OLの細胞質の拡大。層板状の[[粗面小胞体]]と腔のやや広い[[Golgi装置]]がみられる。]]


 電子顕微鏡観察に基づく典型的なオリゴデンドロサイトは、細胞質も[[wikipedia:JA:核|核]]も電子密度が高く暗調である(図2)。ゴルジ装置、粗面小胞体、[[微小管]]はよく発達しており(図1B)、[[中心体#構造および性質|中心小体]]がみられることもある。しかし、アストロサイトでみられる[[wikipedia:JA:グリコーゲン|グリコーゲン]]顆粒や中間径フィラメントは、オリゴデンドロサイトは持たないとされている。オリゴデンドロサイトには、ミエリンを形成しないものがあることやミエリンを形成していても、細胞体から離れたところに位置するため、ミエリンの有無は必ずしも微細形態上の特徴とはならない。核内の異染色質および正染色質ともに暗調であること、粗面小胞体が層板状に見られること、ゴルジ装置は比較的大きい腔を持つことなどが形態的特徴である(図2B)。一方、ミエリン形成を始めたばかりのオリゴデンドロサイトは、電子密度は低く明調である<ref name=ref6>'''Peters A, Palay SL, Webster H de F'''<br>Fine structure of the nervous system. 3rd ed., <br>[[Oxford Univ. Press]], 1991</ref><ref name=ref7>'''森司郎'''<br>稀突起膠細胞、小膠細胞.「神経:人体組織学8」(橋本、山元 編)<br>''朝倉書店'', 1984, pp117-132.</ref>。
 電子顕微鏡観察に基づく典型的なオリゴデンドロサイトは、細胞質も[[wj:核|核]]も電子密度が高く暗調である(図2)。ゴルジ装置、粗面小胞体、[[微小管]]はよく発達しており(図1B)、[[中心体#構造および性質|中心小体]]がみられることもある。しかし、アストロサイトでみられる[[wj:グリコーゲン|グリコーゲン]]顆粒や中間径フィラメントは、オリゴデンドロサイトは持たないとされている。オリゴデンドロサイトには、ミエリンを形成しないものがあることやミエリンを形成していても、細胞体から離れたところに位置するため、ミエリンの有無は必ずしも微細形態上の特徴とはならない。核内の異染色質および正染色質ともに暗調であること、粗面小胞体が層板状に見られること、ゴルジ装置は比較的大きい腔を持つことなどが形態的特徴である(図2B)。一方、ミエリン形成を始めたばかりのオリゴデンドロサイトは、電子密度は低く明調である<ref name=ref6>'''Peters A, Palay SL, Webster H de F'''<br>Fine structure of the nervous system. 3rd ed., <br>[[Oxford Univ. Press]], 1991</ref><ref name=ref7>'''森司郎'''<br>稀突起膠細胞、小膠細胞.「神経:人体組織学8」(橋本、山元 編)<br>''朝倉書店'', 1984, pp117-132.</ref>。


=== 突起の数 ===  
=== 突起の数 ===  
 オリゴデンドロサイトが見いだされた当時は、突起のすべてを含む細胞の全体像を染めだすことが難しかったため、突起の少ない神経膠細胞ということでこの名前が付けられた。見出された当初から、細胞によって伸ばす突起の数が異なることが指摘されており、伸ばす突起の数が多い方からI型からIV型に分類されていた<ref name=ref1><pubmed>20846325</pubmed></ref>。一方、1980年代の後半から、オリゴデンドロサイトに[[wikipedia:JA:蛍光|蛍光]]色素や[[wikipedia:JA:西洋わさび|西洋わさび]][[wikipedia:JA:ペルキシダーゼ|過酸化酵素]](horseradish peroxidase; HRP)を細胞内注入することで、その全体像が明らかにされるようになってきた<ref name=ref7 />。また、電子顕微鏡観察でミエリン形成オリゴデンドロサイトを三次元再構築することによっても同様に明らかにされた。最近では、[[GFP]]や[[wikipedia:JA:LacZ|LacZ]]などのレポータータンパク質をミエリンタンパク質の[[プロモーター]]で発現させることにより、その全体像が示されている。これらの解析の結果、一つのオリゴデンドロサイトは1本から40~50本の[[軸索]]に対してミエリンを形成し、平均して15の突起を伸ばしていることが明らかにされた<ref name=ref4 /><ref name=ref8><pubmed>8300897</pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed>8441812</pubmed></ref>。したがって、当初考えられていたより多い突起を伸ばしていることが示された。中には突起を伸ばさず[[シュワン細胞]]のように細胞体が軸索に取り巻いて髄鞘を形成するものがあることも明らかにされた<ref name=ref9><pubmed>8441812</pubmed></ref>。
 オリゴデンドロサイトが見いだされた当時は、突起のすべてを含む細胞の全体像を染めだすことが難しかったため、突起の少ない神経膠細胞ということでこの名前が付けられた。見出された当初から、細胞によって伸ばす突起の数が異なることが指摘されており、伸ばす突起の数が多い方からI型からIV型に分類されていた<ref name=ref1><pubmed>20846325</pubmed></ref>。一方、1980年代の後半から、オリゴデンドロサイトに[[wj:蛍光|蛍光]]色素や[[wj:西洋わさび|西洋わさび]][[wj:ペルキシダーゼ|過酸化酵素]](horseradish peroxidase; HRP)を細胞内注入することで、その全体像が明らかにされるようになってきた<ref name=ref7 />。また、電子顕微鏡観察でミエリン形成オリゴデンドロサイトを三次元再構築することによっても同様に明らかにされた。最近では、[[GFP]]や[[wj:LacZ|LacZ]]などのレポータータンパク質をミエリンタンパク質の[[プロモーター]]で発現させることにより、その全体像が示されている。これらの解析の結果、一つのオリゴデンドロサイトは1本から40~50本の[[軸索]]に対してミエリンを形成し、平均して15の突起を伸ばしていることが明らかにされた<ref name=ref4 /><ref name=ref8><pubmed>8300897</pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed>8441812</pubmed></ref>。したがって、当初考えられていたより多い突起を伸ばしていることが示された。中には突起を伸ばさず[[シュワン細胞]]のように細胞体が軸索に取り巻いて髄鞘を形成するものがあることも明らかにされた<ref name=ref9><pubmed>8441812</pubmed></ref>。
 
 
=== マーカー分子 ===
=== マーカー分子 ===
 オリゴデンドロサイトはミエリン形成をおこなうことから、ミエリンタンパク質やミエリンに含まれる[[wikipedia:JA:脂質|脂質]]を特異的に発現する。したがって、そのような分子がマーカーとなりうる。
 オリゴデンドロサイトはミエリン形成をおこなうことから、ミエリンタンパク質やミエリンに含まれる[[wj:脂質|脂質]]を特異的に発現する。したがって、そのような分子がマーカーとなりうる。
 
 
==== ガラクトセレブロシドとスルファチド ====
==== ガラクトセレブロシドとスルファチド ====


 ミエリンは脂質に富み、乾燥重量の70 – 85%前後が脂質であるといわれている。[[ガラクトセレブロシド]](GalC)はその代表で、[[セラミド]]の1-ヒドロキシ残基に[[wikipedia:JA:ガラクトース|ガラクトース]]が結合したものである。ミエリン形成前のいわゆるPro-oligodendrocyte(ミエリン前駆細胞の事でしょうか?)の段階から発現している。GalCの発現は、[[wikipedia:JA:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]O1により認識される。また、GalCのガラクトースの4位の[[wikipedia:JA:ヒドロキシ基|ヒドロキシ基]]に[[wikipedia:JA:硫酸|硫酸]]基が結合したものが、[[スルファチド]](Sulf)でこれもミエリン膜に豊富に存在する。Sulfはモノクローナル抗体O4により認識される。Sulfが発現する前の[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]も、このO4抗体により認識されるが、この[[wikipedia:JA:抗原|抗原]]はSulfではなくいまだにその実態は明らかになっていない。GalCの合成にかかわる酵素として[[セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ]](CGT, EC 2.4.1.45)が、Sulfの合成にかかわるものとしてセレブロシドスルフォトランスフェラーゼ(CST, EC 2.8.2.11)がある<ref name=ref10>ミエリンの脂質に関するサイト<br>http://www.glycoforum.gr.jp/science/glycogenes/10/10J.html</ref>。
 ミエリンは脂質に富み、乾燥重量の70 – 85%前後が脂質であるといわれている。[[ガラクトセレブロシド]](GalC)はその代表で、[[セラミド]]の1-ヒドロキシ残基に[[wj:ガラクトース|ガラクトース]]が結合したものである。ミエリン形成前のいわゆるPro-oligodendrocyte(ミエリン前駆細胞の事でしょうか?)の段階から発現している。GalCの発現は、[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]O1により認識される。また、GalCのガラクトースの4位の[[wj:ヒドロキシ基|ヒドロキシ基]]に[[wj:硫酸|硫酸]]基が結合したものが、[[スルファチド]](Sulf)でこれもミエリン膜に豊富に存在する。Sulfはモノクローナル抗体O4により認識される。Sulfが発現する前の[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]も、このO4抗体により認識されるが、この[[wj:抗原|抗原]]はSulfではなくいまだにその実態は明らかになっていない。GalCの合成にかかわる酵素として[[セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ]](CGT, EC 2.4.1.45)が、Sulfの合成にかかわるものとしてセレブロシドスルフォトランスフェラーゼ(CST, EC 2.8.2.11)がある<ref name=ref10>ミエリンの脂質に関するサイト<br>http://www.glycoforum.gr.jp/science/glycogenes/10/10J.html</ref>。


==== ミエリンタンパク質 ====
==== ミエリンタンパク質 ====
 主なミエリンタンパク質として[[ミエリン・プロテオリピッドタンパク質]](myelin proteolipid protein; PLP)と[[ミエリン塩基性タンパク質]](myelin basic protein; MBP)がある。PLPは、中枢神経系のミエリンに特異的に発現する(PLPのmRNAは[[末梢神経系]]でも発現が認められる)。4回膜貫通型タンパク質であり細胞外ドメインでミエリン膜どうしの相互作用に関わるとされている。MBPは、ミエリン膜の裏打ちタンパク質であり多くのスプライスバリアントが知られている。PLPまたはMBPの遺伝子が変異した自然発症ミュータントマウスでは、ミエリンの形成がみられない<ref name=ref11><pubmed>1709560</pubmed></ref>。このほか、ミエリンに豊富に含まれるタンパク質としては[[cyclicnucleotide phosphodiesterase]] (CNPase)、[[myelin-associated oligodendrocyte basic protein]] (MOBP)、[[myelin oligodendrocyte glycoprotein]] (MOG)、[[myelin-associated glycoprotein]] (MAG)などがある。成熟脳において、これらのミエリンタンパク質や脂質はミエリン膜に局在することが多く、免疫組織化学染色法では細胞体の検出は難しい。 細胞体の検出には、これらミエリンタンパク質や上記の脂質合成にかかわる酵素(CGTやCST)の[[wikipedia:JA:mRNA|mRNA]]を検出する[[In situハイブリダイゼーション法]]がしばしば用いられている。
 主なミエリンタンパク質として[[ミエリン・プロテオリピッドタンパク質]](myelin proteolipid protein; PLP)と[[ミエリン塩基性タンパク質]](myelin basic protein; MBP)がある。PLPは、中枢神経系のミエリンに特異的に発現する(PLPの[[mRNA]]は[[末梢神経系]]でも発現が認められる)。4回膜貫通型タンパク質であり細胞外ドメインでミエリン膜どうしの相互作用に関わるとされている。MBPは、ミエリン膜の裏打ちタンパク質であり多くのスプライスバリアントが知られている。PLPまたはMBPの遺伝子が変異した自然発症ミュータントマウスでは、ミエリンの形成がみられない<ref name=ref11><pubmed>1709560</pubmed></ref>。このほか、ミエリンに豊富に含まれるタンパク質としては[[cyclicnucleotide phosphodiesterase]] (CNPase)、[[myelin-associated oligodendrocyte basic protein]] (MOBP)、[[myelin oligodendrocyte glycoprotein]] (MOG)、[[myelin-associated glycoprotein]] (MAG)などがある。成熟脳において、これらのミエリンタンパク質や脂質はミエリン膜に局在することが多く、免疫組織化学染色法では細胞体の検出は難しい。 細胞体の検出には、これらミエリンタンパク質や上記の脂質合成にかかわる酵素(CGTやCST)のmRNAを検出する[[In situハイブリダイゼーション法]]がしばしば用いられている。


==== その他のマーカー ====
==== その他のマーカー ====
51行目: 51行目:


== 機能 ==
== 機能 ==
 オリゴデンドロサイトの機能は、軸索の[[伝導]]速度を高めることにある。オリゴデンドロサイトはその特殊化した[[細胞膜]]を軸索に巻き付けてミエリンを形成し、一種の[[wikipedia:ja絶縁体|絶縁体]]を形成する。そして、その継ぎ目である[[ランビエ絞輪]]でのみ活動電位を生じさせることにより跳躍伝導を引き起こす。この20年の間に、オリゴデンドロサイトが絶縁体を形成するのみならず、ランビエの絞輪に[[イオンチャネル]]のクラスター化を誘導する働きがあることが明らかになった。チャネルの局在の点からもランビエの絞輪以外で活動電位が生じにくいことがわかる<ref name=ref1><pubmed>20846325</pubmed></ref><ref name=ref2 />。
 オリゴデンドロサイトの機能は、軸索の[[伝導]]速度を高めることにある。オリゴデンドロサイトはその特殊化した[[細胞膜]]を軸索に巻き付けてミエリンを形成し、一種の[[wj絶縁体|絶縁体]]を形成する。そして、その継ぎ目である[[ランビエ絞輪]]でのみ活動電位を生じさせることにより跳躍伝導を引き起こす。この20年の間に、オリゴデンドロサイトが絶縁体を形成するのみならず、ランビエの絞輪に[[イオンチャネル]]のクラスター化を誘導する働きがあることが明らかになった。チャネルの局在の点からもランビエの絞輪以外で活動電位が生じにくいことがわかる<ref name=ref1><pubmed>20846325</pubmed></ref><ref name=ref2 />。


 マウスの視神経では、同一の軸索がオリゴデンドロサイトのない[[網膜]]内では細くオリゴデンドロサイトの存在する[[視神経]]に入ると太くなることや、X線照射によりオリゴデンドロアイトを壊した視神経では軸索が太くならないことなどから、軸索径を増大させるという可能性が示唆されている<ref name=ref13><pubmed>7514208</pubmed></ref>。軸索径が大きくなると伝導速度は大きくなることはよくわかっている。このように、オリゴデンドロサイトは2つの異なったメカニズムで、伝導速度を高めて神経機能に深くかかわっている。
 マウスの視神経では、同一の軸索がオリゴデンドロサイトのない[[網膜]]内では細くオリゴデンドロサイトの存在する[[視神経]]に入ると太くなることや、X線照射によりオリゴデンドロアイトを壊した視神経では軸索が太くならないことなどから、軸索径を増大させるという可能性が示唆されている<ref name=ref13><pubmed>7514208</pubmed></ref>。軸索径が大きくなると伝導速度は大きくなることはよくわかっている。このように、オリゴデンドロサイトは2つの異なったメカニズムで、伝導速度を高めて神経機能に深くかかわっている。
58行目: 58行目:
== 付録 ==
== 付録 ==
=== 網膜とオリゴデンドロサイト・ミエリン形成 ===
=== 網膜とオリゴデンドロサイト・ミエリン形成 ===
 [[網膜]]と[[視神経]]は[[前脳胞]]に由来する構造であることから、[[中枢神経系]]に含まれる。視神経は、解剖学では便宜上[[脳神経]]のひとつとして[[末梢神経]]といっしょに扱われることがあるが、厳然として中枢神経の一部である。したがって視神経における髄鞘形成細胞はオリゴデンドロサイトである。一方、マウスや[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含む多くの[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳動物]]網膜にはオリゴデンドロサイトは無く、網膜の視神経線維層の軸索は[[無髄線維]]である。一方、哺乳動物でも[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]や、[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]以下の[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]の網膜にはオリゴデンドロサイトが存在し、視神経線維層の軸索もコンパクトなミエリンにより髄鞘化されている。視神経や網膜のオリゴデンドロサイトは、末梢神経の[[髄鞘形成細胞]]([[シュワン細胞]])では発現しない[[PLP]]を強く発現し、またそれ以外のミエリンタンパク質の発現も見られる<ref name=ref15><pubmed>21872683</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed>7691736</pubmed></ref>。網膜のオリゴデンドロサイトは、前脳に由来し視神経を通って網膜に移動してくる<ref name=ref17><pubmed>9714145</pubmed></ref><ref name=ref18><pubmed>20371817</pubmed></ref>。主に視神経線維層と[[神経節細胞層]]に位置し、少数のものは[[内網状層]]にもみられる。[[ニワトリ]]の網膜のミエリンは、脳や脊髄のものと比べると層板形成が薄い傾向にある。このような種差は、視神経の網膜側末端(optic nerve head)の構造的・分子的な違いに由来すると考えられているが、詳細は明らかにされていない。またその存在の意義についても、不明な点が多い。
 [[網膜]]と[[視神経]]は[[前脳胞]]に由来する構造であることから、[[中枢神経系]]に含まれる。視神経は、解剖学では便宜上[[脳神経]]のひとつとして[[末梢神経]]といっしょに扱われることがあるが、厳然として中枢神経の一部である。したがって視神経における髄鞘形成細胞はオリゴデンドロサイトである。一方、マウスや[[wj:ヒト|ヒト]]を含む多くの[[wj:哺乳類|哺乳動物]]網膜にはオリゴデンドロサイトは無く、網膜の視神経線維層の軸索は[[無髄線維]]である。一方、哺乳動物でも[[wj:ウサギ|ウサギ]]や、[[wj:鳥類|鳥類]]以下の[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]の網膜にはオリゴデンドロサイトが存在し、視神経線維層の軸索もコンパクトなミエリンにより髄鞘化されている。視神経や網膜のオリゴデンドロサイトは、末梢神経の[[髄鞘形成細胞]]([[シュワン細胞]])では発現しない[[PLP]]を強く発現し、またそれ以外のミエリンタンパク質の発現も見られる<ref name=ref15><pubmed>21872683</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed>7691736</pubmed></ref>。網膜のオリゴデンドロサイトは、前脳に由来し視神経を通って網膜に移動してくる<ref name=ref17><pubmed>9714145</pubmed></ref><ref name=ref18><pubmed>20371817</pubmed></ref>。主に視神経線維層と[[神経節細胞層]]に位置し、少数のものは[[内網状層]]にもみられる。[[ニワトリ]]の網膜のミエリンは、脳や脊髄のものと比べると層板形成が薄い傾向にある。このような種差は、視神経の網膜側末端(optic nerve head)の構造的・分子的な違いに由来すると考えられているが、詳細は明らかにされていない。またその存在の意義についても、不明な点が多い。


 最近になって、ミエリン様構造が海産[[wikipedia:JA:無脊椎動物|無脊椎動物]]にも存在することが報告されており、驚異的な伝導速度の形成にかかわると考えられている<ref name=ref19><pubmed>21674501</pubmed></ref>。
 最近になって、ミエリン様構造が海産[[wj:無脊椎動物|無脊椎動物]]にも存在することが報告されており、驚異的な伝導速度の形成にかかわると考えられている<ref name=ref19><pubmed>21674501</pubmed></ref>。


付記; Neuroglia(Kettenmann and Ransom Editors)第3版が2012年のうちに出版される予定であり、そこにはより詳細な記載が含まれている。
付記; Neuroglia(Kettenmann and Ransom Editors)第3版が2012年のうちに出版される予定であり、そこにはより詳細な記載が含まれている。

案内メニュー