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Yasuosakuma (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==機能 == | ==機能 == | ||
内側視索前野は自律機能の最高中枢と呼ばれてきた<ref name=Swanson1999><pubmed>10643453</pubmed></ref> | 内側視索前野は自律機能の最高中枢と呼ばれてきた<ref name=Swanson1999><pubmed>10643453</pubmed></ref>。視床下部と共に古くは前額断で第三脳室に隣接する第三脳室室傍域、隣接して脳弓の内側を占める領域、より外側の領域がそれぞれ副交感・交感機能に関与するとされた<ref name=CROSBY1969>CROSBY, E. C. & SHOWERS, M. J. C. 1969. Comparative anatomy of the preoptic and hypothalamic areas. In: HAYMAKER, W., ANDERSON, E. & NAUTA, W. J. H. (eds.) The Hypothalamus. Springfield, Il: Charles C. Thomas. </ref>(Crosby & Showers, 1969)。循環、呼吸、排尿、消化、体温調節、内分泌、生殖、代謝など体温・循環調節など古典的な自律機能に加え、睡眠、ストレス反応、歩行運動の歩調取り、雌雄の生殖行動や社会的慰撫行動など、情動・行動要素の調節に内側視索前野が関わる報告がある。 | ||
===循環=== | ===循環=== | ||
血中アンギオテンシンの増加や大動脈弓圧受容器の除神経により、血圧が上昇する。脳室周囲器官の一つである脳弓下器官の破壊あるいは脳弓下器官からMnPOへの投射の切断によりアンギオテンシンの作用は消失するが、圧受容器の除神経の効果は影響を受けない。正中視索前核の破壊により、二つの昇圧効果は共に失われる <ref name=Saper1983><pubmed>6198025</pubmed></ref> | 血中アンギオテンシンの増加や大動脈弓圧受容器の除神経により、血圧が上昇する。脳室周囲器官の一つである脳弓下器官の破壊あるいは脳弓下器官からMnPOへの投射の切断によりアンギオテンシンの作用は消失するが、圧受容器の除神経の効果は影響を受けない。正中視索前核の破壊により、二つの昇圧効果は共に失われる <ref name=Saper1983><pubmed>6198025</pubmed></ref>。 | ||
===呼吸=== | ===呼吸=== | ||
視交叉より吻側の視索前野の電気刺激は古くはRansonらが示したように浅く緩徐な呼吸を起こし、尾側の刺激が深く、急速な呼吸を起すのと対照的な効果を持つ<ref name=Ranson1935>RANSON, S. W., KABAT, H. & MAGOUN, H. W. 1935. Autonomic responses to electrical stimulation of hypothalamus, preoptic region and septum. Arch Neur Psych, 33, 467-77.</ref> | 視交叉より吻側の視索前野の電気刺激は古くはRansonらが示したように浅く緩徐な呼吸を起こし、尾側の刺激が深く、急速な呼吸を起すのと対照的な効果を持つ<ref name=Ranson1935>RANSON, S. W., KABAT, H. & MAGOUN, H. W. 1935. Autonomic responses to electrical stimulation of hypothalamus, preoptic region and septum. Arch Neur Psych, 33, 467-77.</ref>。 | ||
===排尿=== | ===排尿=== | ||
排尿中枢は古典的には脳幹の橋に存在する。橋排尿中枢の下行性コルチコトロピン放出ホルモン陽性ニューロンにはγアミノ酪酸(GABA)作動性内側視索前野ニューロンが投射しており、発情雄マウスの尿によるマーキング行動を起す<ref name=Hou2016><pubmed>27662084</pubmed></ref> | 排尿中枢は古典的には脳幹の橋に存在する。橋排尿中枢の下行性コルチコトロピン放出ホルモン陽性ニューロンにはγアミノ酪酸(GABA)作動性内側視索前野ニューロンが投射しており、発情雄マウスの尿によるマーキング行動を起す<ref name=Hou2016><pubmed>27662084</pubmed></ref>。シナプスを乗り越えて神経に感染するpseudorabies virusによる逆行性標識により内側視索前野から膀胱に至る下行性投射が示された(ラットとネコ)<ref name=deGroat1998><pubmed>9638955</pubmed></ref>。テンジクネズミとネコで、仙腰随から内側視索前野の前交連腹側に上行性の直接投射があり、排尿や生殖に関わる骨盤臓器からの下腹神経、骨盤神経、陰部神経からの感覚入力を伝えている<ref name=Klop2009><pubmed>19733632</pubmed></ref>。 | ||
===生殖内分泌調節=== | ===生殖内分泌調節=== | ||
雌ラット内側視索前野のGABA作動性ニューロンにエストロゲン受容体が発現している<ref name=Herbison1991><pubmed>19215454</pubmed></ref> | 雌ラット内側視索前野のGABA作動性ニューロンにエストロゲン受容体が発現している<ref name=Herbison1991><pubmed>19215454</pubmed></ref>。パルブアルブミン陽性のGABA作動性ニューロンが内側中隔から内側視索前野吻側・対角帯野に分布<ref name=Smith2005><pubmed>15802181</pubmed></ref>し、上述のGnRHニューロンの分布<ref name=Schwanzel-Fukuda1989><pubmed>2645530</pubmed></ref>と重なる。また内側視索前野のGABAA受容体はエストロゲンにより発現が増す<ref name=Herbison1997><pubmed>9370195</pubmed></ref>。GnRHニューロンはクロライドトランスポーターの発現パターン(NKCC1>KCC2)から、細胞内クロライドイオン濃度が高く、GABA<sub>A</sub>受容体活性化で興奮し、GnRH分泌を起す<ref name=Watanabe2009><pubmed>19357366</pubmed></ref>ことと相まって、GABAの生殖内分泌調節への関与を示唆している。 | ||
一方、エストロゲン作用をGnRHニューロンに伝え、排卵時の黄体形成ホルモンの一過性大量分泌に関わることが臨床例<ref name=deRoux2003><pubmed>12944565</pubmed></ref><ref name=Seminara2003><pubmed>14573733</pubmed></ref> | 一方、エストロゲン作用をGnRHニューロンに伝え、排卵時の黄体形成ホルモンの一過性大量分泌に関わることが臨床例<ref name=deRoux2003><pubmed>12944565</pubmed></ref><ref name=Seminara2003><pubmed>14573733</pubmed></ref>を通じて詳細が判明している分子にGPR54リガンドであるキスペプチンがある<ref name=Oakley2009><pubmed>19770291</pubmed></ref>。キスペプチンニューロンは前腹側傍室核に分布するエストロゲン受容体陽性ニューロン<ref name=Orikasa2002><pubmed>11854469</pubmed></ref> (Orikasa et al., 2002) と重なると考えられる。GnRHニューロン膜上にキスペプチン受容体GPR54が存在する<ref name=Parhar2004><pubmed>15155576</pubmed></ref>。なお、視床下部弓状核のエストロゲン受容体陽性キスペプチンニューロンはGnRHの律動的分泌により、下垂体前葉ゴナドトローフ細胞のGnRH受容体を維持するとされる<ref name=Wakabayashi2010><pubmed>20181609</pubmed></ref>。 | ||
===生殖行動=== | ===生殖行動=== | ||
内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref> | 内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref>、雄<ref name=Agmo1997><pubmed>9385085</pubmed></ref>の性行動の調節に関わる。雄ラットでは内側視索前野の電気凝固<ref name=Larsson1964><pubmed>14152848</pubmed></ref>、あるいは興奮性神経毒による内側視索前野の神経細胞の脱落により、性行動の動機付け要素motivational componentと実行要素excutive componentの双方が消失する。一方、雌ラットでは内側視索前野の破壊により雌が雄を避けられる条件では性行動が消失するが、避けられない条件では性行動、特にロードーシス行動が存続することが報じられてきた<ref name=Whitney1986><pubmed>3964425</pubmed></ref>。興奮性神経毒による神経細胞の脱落<ref name=Hoshina1994><pubmed>8037867</pubmed></ref>と微少ナイフによる下行性通過線維の選択的切断<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>により、内側視索前野から雌型性行動の動機付け要素を促進する回路と実行要素を抑制する回路が起始していることが示されている。実行要素であるロードーシス行動は、特に分界条由来の通過線維を除去した状態でのこの部位の電気刺激により強く抑制される<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> 。この抑制は腹側被蓋野の電気刺激により得られる効果と同一の大きさと時間経過で得られる<ref name=Hasegawa1991><pubmed>1805265</pubmed></ref>ことから、内側視索前野に起こり腹側被蓋野に終わるエストロゲン感受性下行性ニューロン<ref name=Hasegawa1993><pubmed>8518936</pubmed></ref>が関わる。逆行性興奮閾値から、このニューロンの軸索の興奮性がエストロゲンにより低下することが示されている。この現象はエストロゲンによるBKチャネルの発現増加による<ref name=Nishimura2008><pubmed>17962348</pubmed></ref> (Nishimura et al., 2008)。雄、あるいは生直後の性ホルモン投与により雄型の脳を持ちロードーシス行動を示さない雌では、エストロゲンの効果は見られない。ロードーシス行動の促進回路である視床下部腹内側核から中脳中心灰白質への投射軸索においては、エストロゲンにより興奮性が高まり、逆行性興奮閾値が低下する。内側視索前野から腹側被蓋野への投射と同じく、エストロゲンが効くのはロードーシス行動を起す雌あるいは生直後去勢雄に限られる<ref name=Sakuma1984><pubmed>6737296</pubmed></ref> (Sakuma, 1984)。つまり行動の抑制回路の脱抑制と促進回路の興奮が同時に起こることが、ロードーシス行動の発現に必要である。 | ||
===母性行動・育仔行動=== | ===母性行動・育仔行動=== |
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