「むずむず脚症候群」の版間の差分

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 プラミペキソールの主な副作用として、[[嘔気]]、[[傾眠]]、[[頭痛]]、胃部不快感(6.9%)、さらに、高用量を服用した場合には、前兆なく突然眠りに落ちてしまう[[突発的睡眠]]や[[衝動制御障害]]の報告があるので、これらに対する注意が必要である37),38) <ref name=Inoue2010><pubmed>20451927</pubmed></ref><ref name=Mierau1992><pubmed>1356788</pubmed></ref> 。また、プラミペキソールは未変化体が腎排出性のため、重度の腎障害患者への投与は原則禁忌である。他方ロチゴチンは、肝排泄性のため、腎機能への配慮は必要ないものの、貼付部位の発赤・かゆみに中止すべきである。
 プラミペキソールの主な副作用として、[[嘔気]]、[[傾眠]]、[[頭痛]]、胃部不快感(6.9%)、さらに、高用量を服用した場合には、前兆なく突然眠りに落ちてしまう[[突発的睡眠]]や[[衝動制御障害]]の報告があるので、これらに対する注意が必要である37),38) <ref name=Inoue2010><pubmed>20451927</pubmed></ref><ref name=Mierau1992><pubmed>1356788</pubmed></ref> 。また、プラミペキソールは未変化体が腎排出性のため、重度の腎障害患者への投与は原則禁忌である。他方ロチゴチンは、肝排泄性のため、腎機能への配慮は必要ないものの、貼付部位の発赤・かゆみに中止すべきである。


 ドパミン受容体作動薬によるむずむず脚症候群治療において、もっとも注意すべきなのは、長期服用下でむずむず脚症候群症状の発現が2時間以上早まり、症状の増悪、ならびに症状発現部位が拡大する[[症状促進現象]] (augmentation)を生じる危険性がある点である39) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> 。表2に症状促進現象の診断基準を記す40) <ref name=Garcia-Borreguero2007a><pubmed>17544323</pubmed></ref> 。
 ドパミン受容体作動薬によるむずむず脚症候群治療において、もっとも注意すべきなのは、長期服用下でむずむず脚症候群症状の発現が2時間以上早まり、症状の増悪、ならびに症状発現部位が拡大する[[オーグメンテーション]] (augmentation、症状促進現象)を生じる危険性がある点である39) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> 。表2にオーグメンテーションの診断基準を記す40) <ref name=Garcia-Borreguero2007a><pubmed>17544323</pubmed></ref> 。


 その発現メカニズムとして、ドパミン作動薬投与によるシナプス後膜のD2受容体のdown regulation、短時間作用のドパミン作動薬での血中濃度の変動性、ドパミン神経活動の[[概日リズム|概日変動]]などが考えられている41,42,43) <ref name=Garcia-Borreguero2007><pubmed>17580331</pubmed></ref><ref name=Paulus2006><pubmed>16987735</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> が、症状促進現象の動物モデルが作成されていないためか、その病態は確定されていない。症状促進現象は治療を阻害する重要な副作用であり、プラミペキソールではその発現頻度は8~56%と報告されており44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 、日本人患者においては本剤の投与量が多いこと(0.375㎎/日以上)がその発現リスク上昇と関連していると考えられている43))<ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> 。安易にドパミン作動薬の用量を増加させることは症状促進現象発現リスクを高めるので、慎重を期するべきである44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 。症状の発現時刻を考慮して、一日量は増やさず、分割投与や服用時刻を前進させるといった対応を行うのも一法である45) <ref name=Inoue2010b><pubmed>19962941</pubmed></ref> 。また、症状促進現象を生じる症例では血清フェリチン値が比較的低水準にあるという報告もあり、これも治療管理上の注意点になるだろう。
 その発現メカニズムとして、ドパミン作動薬投与による[[シナプス後膜]]のD2受容体のdown regulation、短時間作用のドパミン作動薬での血中濃度の変動性、ドパミン神経活動の[[概日リズム|概日変動]]などが考えられている41,42,43) <ref name=Garcia-Borreguero2007><pubmed>17580331</pubmed></ref><ref name=Paulus2006><pubmed>16987735</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> が、オーグメンテーションの動物モデルが作成されていないためか、その病態は確定されていない。オーグメンテーションは治療を阻害する重要な副作用であり、プラミペキソールではその発現頻度は8~56%と報告されており44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 、日本人患者においては本剤の投与量が多いこと(0.375㎎/日以上)がその発現リスク上昇と関連していると考えられている43))<ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> 。安易にドパミン作動薬の用量を増加させることはオーグメンテーション発現リスクを高めるので、慎重を期するべきである44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 。症状の発現時刻を考慮して、一日量は増やさず、分割投与や服用時刻を前進させるといった対応を行うのも一法である45) <ref name=Inoue2010b><pubmed>19962941</pubmed></ref> 。また、オーグメンテーションを生じる症例では血清フェリチン値が比較的低水準にあるという報告もあり、これも治療管理上の注意点になるだろう。


 半減期の長いロチゴチンは、プラミペキソールに比べて症状促進現象をきたすリスクは明らかに低いが46) <ref name=Winkelmann2018><pubmed>29756335</pubmed></ref> 、用量が多いと発現リスクは上昇していくので注意すべきである。
 半減期の長いロチゴチンは、プラミペキソールに比べてオーグメンテーションをきたすリスクは明らかに低いが46) <ref name=Winkelmann2018><pubmed>29756335</pubmed></ref> 、用量が多いと発現リスクは上昇していくので注意すべきである。


===α2δリガンド===
===α2δリガンド===
 興奮性神経終末において、[[電位依存性カルシウムチャネル]]の[[α2δサブユニット]]に結合し、[[興奮性神経伝達物質]]の遊離を抑制し、GABA系の活動を上昇させる。当初、α2δリガンドの中で、[[ガバペンチン]]のむずむず脚症候群に対する有効性がMellickら47) <ref name=Mellick1996><pubmed>8723380</pubmed></ref> により報告されたが、半減期や生体利用効率の問題を考慮してガバペンチンのプロドラッグである[[ガバペンチンエナカルビル]](Gabapentin enacarbil; GEn)や[[プレガバリン]](日本では保険適応外)が治療に導入されている48)49)<ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref><ref name=Inoue2013><pubmed>23121149</pubmed></ref> 。
 興奮性神経終末において、[[電位依存性カルシウムチャネル]]の[[α2δサブユニット]]に結合し、[[興奮性神経伝達物質]]の遊離を抑制し、GABA系の活動を上昇させる。当初、α2δリガンドの中で、[[ガバペンチン]]のむずむず脚症候群に対する有効性がMellickら47) <ref name=Mellick1996><pubmed>8723380</pubmed></ref> により報告されたが、半減期や生体利用効率の問題を考慮してガバペンチンのプロドラッグである[[ガバペンチンエナカルビル]](Gabapentin enacarbil; GEn)や[[プレガバリン]](日本では保険適応外)が治療に導入されている48)49)<ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref><ref name=Inoue2013><pubmed>23121149</pubmed></ref> 。


 この群の薬剤使用下では、眠気・めまいといった副作用が生じる可能性に注意すべきだが、ドパミン作動薬のような症状促進現象リスクは否定的である。また、この群の薬剤は周期性四肢運動の抑制性ではドパミン作動薬に劣るものの、睡眠の安定化作用において優れている。ガバペンチンエナカルビルないしプレガバリンも未変化体が腎排泄性であるため、腎障害を有する患者では減量もしくは投与を避ける必要がある。プラミペキソールとプレガバリンの効果の同等性を証明した研究でのプレガバリン用量は300㎎/日とかなり高い49) <ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref> 。
 この群の薬剤使用下では、眠気・めまいといった副作用が生じる可能性に注意すべきだが、ドパミン作動薬のようなオーグメンテーションリスクは否定的である。また、この群の薬剤は周期性四肢運動の抑制性ではドパミン作動薬に劣るものの、睡眠の安定化作用において優れている。ガバペンチンエナカルビルないしプレガバリンも未変化体が腎排泄性であるため、腎障害を有する患者では減量もしくは投与を避ける必要がある。プラミペキソールとプレガバリンの効果の同等性を証明した研究でのプレガバリン用量は300㎎/日とかなり高い49) <ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref> 。


 これに比べて日本国内で適応を得ているガバペンチンエナカルビルの量は600㎎とかなり低い(もちろんプレガバリンと等力価ではないが)ので、ドパミン作動薬に比べると有効性は低い。われわれが国内のプラセボ対照二重盲検比較試験データを結合して、ガバペンチンエナカルビルの有効例の特性を検討した研究では、家族歴があること、血清フェリチン値が正常であること、先行するドパミン作動薬による治療歴が存在することが本剤の有効性と関連していた<ref name=Inoue2021><pubmed>34329897</pubmed></ref> 50)。しかしながら、効果が若干劣るというデメリットを抱えながらも、症状促進現象リスクが決定的に低いことから、全世界的には治療の第一ラインをα2δリガンドにするという流れが出来つつある<ref name=Garcia-Borreguero2018><pubmed>29602660</pubmed></ref> 51)。
 これに比べて日本国内で適応を得ているガバペンチンエナカルビルの量は600㎎とかなり低い(もちろんプレガバリンと等力価ではないが)ので、ドパミン作動薬に比べると有効性は低い。われわれが国内のプラセボ対照二重盲検比較試験データを結合して、ガバペンチンエナカルビルの有効例の特性を検討した研究では、家族歴があること、血清フェリチン値が正常であること、先行するドパミン作動薬による治療歴が存在することが本剤の有効性と関連していた<ref name=Inoue2021><pubmed>34329897</pubmed></ref> 50)。しかしながら、効果が若干劣るというデメリットを抱えながらも、オーグメンテーションリスクが決定的に低いことから、全世界的には治療の第一ラインをα2δリガンドにするという流れが出来つつある<ref name=Garcia-Borreguero2018><pubmed>29602660</pubmed></ref> 51)。


 症状促進現象を避ける上では、血清フェリチン値を定期的に測定し、50-75μg/l以上を保つことが必要である。ドパミン作動薬使用下で症状促進現象が生じた場合には、分割投与や投与時刻の前進、α2δリガンドの投与を考慮する。International restless legs syndrome study group (IRLSSG)の治療アルゴリズム52) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> )(表2)では、症状促進現象重症例では、ドパミン系薬剤の休薬(10日間程度)、ロチゴチン、α2δリガンド、[[オピオイド]]製剤(わが国では保険適応外)などを検討すべきとされている。
 オーグメンテーションを避ける上では、血清フェリチン値を定期的に測定し、50-75μg/l以上を保つことが必要である。ドパミン作動薬使用下でオーグメンテーションが生じた場合には、分割投与や投与時刻の前進、α2δリガンドの投与を考慮する。International restless legs syndrome study group (IRLSSG)の治療アルゴリズム52) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> )(表2)では、オーグメンテーション重症例では、ドパミン系薬剤の休薬(10日間程度)、ロチゴチン、α2δリガンド、[[オピオイド]]製剤(わが国では保険適応外)などを検討すべきとされている。


===その他===
===その他===

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