「アルゴノート」の版間の差分

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[[ファイル:Shiomi Argonaute Fig2.png|サムネイル|'''図2. ショウジョウバエとマウスのmiRNA機構とRNA干渉'''<br>ショウジョウバエAGO1とヒトAGO2はエンドヌクレアーぜ活性を持つが、miRNAの中央部分と標的mRNAの対合性が不完全であるためエンドヌクレアーぜ活性を発揮できない(グレー のハサミ)。ヒトAGO2はsiRNAと結合してRNA干渉において 機能することもある。ショウジョウバエAGO2は、RNA干渉に 特化している。]]
[[ファイル:Shiomi Argonaute Fig2.png|サムネイル|'''図2. ショウジョウバエとマウスのmiRNA機構とRNA干渉'''<br>ショウジョウバエAGO1とヒトAGO2はエンドヌクレアーぜ活性を持つが、miRNAの中央部分と標的mRNAの対合性が不完全であるためエンドヌクレアーぜ活性を発揮できない(グレー のハサミ)。ヒトAGO2はsiRNAと結合してRNA干渉において 機能することもある。ショウジョウバエAGO2は、RNA干渉に 特化している。]]


 アルゴノートとは、PAZドメインやPIWIドメインなど特徴的なドメインを持つ一群のタンパク質である('''図1''')。
 アルゴノートとは、[[PAZドメイン]]や[[PIWIドメイン]]など特徴的な[[ドメイン]]を持つ一群のタンパク質である('''図1''')。


 シロイヌナズナ(''Arabidopsis thaliana'')の、ある遺伝子の変異による表現型がアオイガイ(''Argonauta argo'')に似ていたことから、この遺伝子はアルゴノート1(Argonaute 1, AGO1)と名付けられた<ref name=Bohmert1998><pubmed>9427751</pubmed></ref>  [1]。AGO1は植物に限らず多くの生物で保存されている('''表''')。AGO1は、マイクロRNA(microRNA, miRNA)と特異的に結合し、RNA誘導型サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)を形成する<ref name=Kim2009><pubmed>19165215</pubmed></ref><ref name=Guo2010><pubmed>20703300</pubmed></ref><ref name=Bartel2018><pubmed>29570994</pubmed></ref>  [2-4]。RISC内のmiRNAは、高い配列相補性を示す内在性の伝令RNA(mRNA)と対合することによってAGO1を標的mRNAに運び、mRNAの不安定性や翻訳阻害を促進することで、タンパク質合成を抑制する<ref name=Bartel2018><pubmed>29570994</pubmed></ref><ref name=Guo2010><pubmed>20703300</pubmed></ref><ref name=Kim2009><pubmed>19165215</pubmed></ref>  [2-4]('''図2''')。
 [[シロイヌナズナ]](''Arabidopsis thaliana'')の、ある変異体の表現型がアオイガイ(''Argonauta argo'')に似ていたことから、この遺伝子は[[アルゴノート1]]([[Argonaute 1]], [[AGO1]])と名付けられた<ref name=Bohmert1998><pubmed>9427751</pubmed></ref>  [1]。AGO1は植物に限らず多くの生物で保存されている('''表''')。AGO1は、[[マイクロRNA]]([[microRNA]], [[miRNA]])と特異的に結合し、[[RNA誘導型サイレンシング複合体]]([[RNA-induced silencing complex]], [[RISC]])を形成する<ref name=Kim2009><pubmed>19165215</pubmed></ref><ref name=Guo2010><pubmed>20703300</pubmed></ref><ref name=Bartel2018><pubmed>29570994</pubmed></ref>  [2-4]。RISC内のmiRNAは、高い配列相補性を示す内在性の[[伝令RNA]]([[mRNA]])と対合することによってAGO1を標的mRNAに運び、mRNAの不安定化や[[翻訳]]阻害を促進することで、タンパク質合成を抑制する<ref name=Bartel2018><pubmed>29570994</pubmed></ref><ref name=Guo2010><pubmed>20703300</pubmed></ref><ref name=Kim2009><pubmed>19165215</pubmed></ref>  [2-4]('''図2''')。


 ショウジョウバエのRNA干渉(RNA interference, RNAi)の中核因子として同定されたアルゴノートは、ショウジョウバエのAGO1や線虫(''Caenorhabditis elegans'')のRDE1(AGO1ホモログ)と高い相同性を示したことから、アルゴノート2(AGO2)と名付けられた<ref name=Hammond2001><pubmed>11498593</pubmed></ref>  [5]。AGO2は、RNA干渉において機能する小分子RNAであるsmall interfering RNA(siRNA)とRISCを形成する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>[6-8]('''図2''')。RISC内のsiRNAは、高い配列相補性を示すRNAと対合することによってAGO2を標的RNA(mRNAに限らない)に運び<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>[6-8]、標的RNAを切断することで遺伝子発現や機能を抑制する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>  [6-8]。
 [[ショウジョウバエ]]の[[RNA干渉]]([[RNA interference]], [[RNAi]])の中核因子として同定されたアルゴノートは、ショウジョウバエのAGO1や[[線虫]](''Caenorhabditis elegans'')の[[RDE1]](AGO1ホモログ)と高い相同性を示したことから、[[アルゴノート2]]([[AGO2]])と名付けられた<ref name=Hammond2001><pubmed>11498593</pubmed></ref>  [5]。AGO2は、RNA干渉において機能する小分子RNAである[[small interfering RNA]]([[siRNA]])とRISCを形成する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>[6-8]('''図2''')。RISC内のsiRNAは、高い配列相補性を示すRNAと対合することによってAGO2を標的RNA(mRNAに限らない)に運び、それを切断することで遺伝子発現や機能を抑制する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>  [6-8]。


 ショウジョウバエの雄の生殖幹細胞維持に必須な因子として同定されたP-element wimpy testis(Piwi)は、配列相同性からアルゴノートのパラログであると報告された<ref name=Cox1998><pubmed>9851978</pubmed></ref>[9]。ショウジョウバエはPiwiパラログを3つ持ち、Piwi以外の2つはAubergine、アルゴノート3(AGO3)と名付けられている<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref>  [10, 11]('''表''')。Piwi同様、Aubergine、AGO3の発現も生殖組織に限られており、恒常的に発現するAGO1やAGO2と区別するために、PIWIサブファミリーメンバーと呼ばれる<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref> [10, 11]。PIWIサブファミリーメンバーのガイドRNAは、PIWI-interacting RNA(piRNA)と称される<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref>  [10, 11]。piRNAの多くはトランスポゾンと高い配列相補性を示す。PIWIメンバーは、標的トランスポゾンの転写産物(RNA)を細胞質で切断する、あるいは核でトランスポゾンの転写を阻害することによってその発現を抑制する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>[6-8]。
 ショウジョウバエの雄の[[生殖幹細胞]]維持に必須な因子として同定された[[P-element wimpy testis]]([[Piwi]])は、配列相同性からアルゴノートのパラログであると報告された<ref name=Cox1998><pubmed>9851978</pubmed></ref>[9]。ショウジョウバエはPiwiパラログを3つ持ち、Piwi以外の2つは[[Aubergine]]、[[アルゴノート3]]([[AGO3]])と名付けられている<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref>  [10, 11]('''表''')。Piwi同様、Aubergine、AGO3の発現も生殖組織に限られており、全身に発現するAGO1やAGO2と区別するために、PIWIサブファミリーと呼ばれる<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref> [10, 11]。PIWIサブファミリーのガイドRNAは、PIWI-interacting RNA(piRNA)と称される<ref name=Siomi2011><pubmed>21427766</pubmed></ref><ref name=Yamashiro2018><pubmed>29281264</pubmed></ref>  [10, 11]。piRNAの多くはトランスポゾンと高い配列相補性を示す。PIWIサブファミリーは、標的トランスポゾンの転写産物(RNA)を細胞質で切断する、あるいは[[核]]でトランスポゾンの転写を阻害することによってその発現を抑制する<ref name=Liu2004><pubmed>15284456</pubmed></ref><ref name=Meister2004><pubmed>15260970</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2005><pubmed>16287716</pubmed></ref>[6-8]。


 アルゴノートを持つ細菌も存在する。細菌のアルゴノートの中には、小分子RNAではなく、小分子DNAをガイドとするものがある。また、RNAを標的とするものと、DNAを標的とするものがある<ref name=Lisitskaya2018><pubmed>30514832</pubmed></ref>[12]。
 アルゴノートを持つ[[細菌]]も存在する。細菌のアルゴノートの中には、小分子RNAではなく、小分子DNAをガイドとするものがある。また、RNAを標的とするものと、DNAを標的とするものがある<ref name=Lisitskaya2018><pubmed>30514832</pubmed></ref>[12]。


== サブファミリー==
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