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== 補償行動 ==
== 補償行動 ==
 音波は媒質中を伝搬する過程で、吸収・拡散減衰によりその強さが減弱する。さらに、コウモリの発する超音波パルスには指向性がある。そのため、コウモリへ返ってくるエコーの強度は物体との距離・角度によって大きく変動しうる。コウモリは放射パルスの音圧を柔軟に変化させることで、エコーの音圧を一定に保つ<ref name=Hiryu2008><pubmed>18663454</pubmed></ref>
 音波は媒質中を伝搬する過程で、吸収・拡散減衰によりその強さが減弱する。さらに、コウモリの発する超音波パルスには指向性がある。そのため、コウモリへ返ってくるエコーの強度は物体との距離・角度によって大きく変動しうる。コウモリは放射パルスの音圧を柔軟に変化させることで、エコーの音圧を一定に保つ<ref name=Hiryu2008><pubmed>18663454</pubmed></ref>
<ref name=Hiryu2007><pubmed>17407911</pubmed></ref>[23,24]。これをエコー音圧補償と呼ぶ。上述したPLSを示す細胞において、エコー遅延時間同調特性が形成されるためには、エコーの音圧レベルがある一定の値よりも小さくならなくてはならない<ref name=Berkowitz1989 />
<ref name=Hiryu2007><pubmed>17407911</pubmed></ref>[23,24]。これをエコー音圧補償と呼ぶ。上述したPLSを示す細胞において、エコー遅延時間同調特性が形成されるためには、エコーの音圧レベルがある一定の値よりも小さくならなくてはならない<ref name=Berkowitz1989 />[22]。エコー音圧補償行動は、PLSによるエコー遅延同調回路がはたらくために必要であるという仮説がある<ref name=Budenz2018><pubmed>29543882</pubmed></ref>[25]。
[22]。エコー音圧補償行動は、PLSによるエコー遅延同調回路がはたらくために必要であるという仮説がある<ref name=Budenz2018><pubmed>29543882</pubmed></ref>[25]。


 エコー周波数も同様にコウモリと標的の相対速度の変化によって大きく変化しうる。CF-FMコウモリは、放射パルスの周波数を制御することで、飛行によって生じるエコーのドップラーシフトを打ち消し、自身の聴覚感度の良い周波数帯域にエコー周波数を保つ、ドップラーシフト補償行動を行う<ref name=Hiryu2008 /><ref name=Schnitzler1968>'''Schnitzler, H.-U. (1968).'''<br>Die Ultraschall-Ortungslaute der Hufeisen-Fledermäuse (Chiroptera-Rhinolophidae) in verschiedenen Orientierungssituationen. J Comp Physiol A Neuroethol Sens Neural Behav Physiol. 1968;57: 376-408. [[doi:10.1007/bf00303062|[DOI]]]</ref>[23,26]。ドップラーシフト補償行動を行う種には、聴覚の末梢レベルにおいてすでに様々な特殊化が見られる。CF-FMコウモリの放射パルスは第二高調波が最強であり、蝸牛有毛細胞の感度と周波数選択性が第二高調波のCF成分(CF2)に対して非常に高い。この特殊化は聴覚系全体を通じて見られる<ref name=Schnitzler2011 />[4]。CF-FMコウモリであるヒゲコウモリ(Pteronotus parnellii)の聴覚野には、FM音の組み合わせに選択的な反応を示す神経細胞(FM-FMニューロン)や、CF音の組み合わせに選択的な神経細胞(CF/CFニューロン)が存在する。FM-FMニューロンは2つのFM音の時間差に選択的であるため距離計測に、CF/CFニューロンは2つのCF音の周波数差に選択的であるため周波数計測にそれぞれ関わると言われる 。さらに、ドップラーシフトしたエコーのCF2に選択的に反応を示すニューロンが存在し、混雑した環境で獲物となる飛翔昆虫の羽ばたきを検知するのに役立つと考えられている[27]。
 エコー周波数も同様にコウモリと標的の相対速度の変化によって大きく変化しうる。CF-FMコウモリは、放射パルスの周波数を制御することで、飛行によって生じるエコーのドップラーシフトを打ち消し、自身の聴覚感度の良い周波数帯域にエコー周波数を保つ、ドップラーシフト補償行動を行う<ref name=Hiryu2008 /><ref name=Schnitzler1968>'''Schnitzler, H.-U. (1968).'''<br>Die Ultraschall-Ortungslaute der Hufeisen-Fledermäuse (''Chiroptera-Rhinolophidae'') in verschiedenen Orientierungssituationen. J Comp Physiol A Neuroethol Sens Neural Behav Physiol. 1968;57: 376-408. [[doi:10.1007/bf00303062|[DOI]]]</ref>[23,26]。ドップラーシフト補償行動を行う種には、聴覚の末梢レベルにおいてすでに様々な特殊化が見られる。CF-FMコウモリの放射パルスは第二高調波が最強であり、蝸牛有毛細胞の感度と周波数選択性が第二高調波のCF成分(CF2)に対して非常に高い。この特殊化は聴覚系全体を通じて見られる<ref name=Schnitzler2011 />[4]。CF-FMコウモリであるヒゲコウモリ(''Pteronotus parnellii'')の聴覚野には、FM音の組み合わせに選択的な反応を示す神経細胞(FM-FMニューロン)や、CF音の組み合わせに選択的な神経細胞(CF/CFニューロン)が存在する。FM-FMニューロンは2つのFM音の時間差に選択的であるため距離計測に、CF/CFニューロンは2つのCF音の周波数差に選択的であるため周波数計測にそれぞれ関わると言われる 。さらに、ドップラーシフトしたエコーのCF2に選択的に反応を示すニューロンが存在し、混雑した環境で獲物となる飛翔昆虫の羽ばたきを検知するのに役立つと考えられている<ref name=Suga1989><pubmed>2689566</pubmed></ref>[27]。


== エコーロケーションにおける混信対策 ==
== エコーロケーションにおける混信対策 ==

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