「網膜」の版間の差分

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 AII細胞は、遠位の樹状突起において、桿体型双極細胞から興奮性入力を、[[A17細胞]]など他のアマクリン細胞から抑制性入力を受ける。また、ギャップ結合([[コネキシン36]]、[[コネキシン45|45]])を介して周囲のAII細胞、およびオン型錐体双極細胞と電気的に連絡する<ref name=Mills2001><pubmed>11438934</pubmed></ref>。一方、近位の樹状突起では、オフ型錐体双極細胞とシナプスを形成し、グリシンを放出する。つまりAII細胞は、(オン型)桿体経路から、[[電気シナプス]]を介してオン型錐体経路へと、[[化学シナプス]]を介してオフ型錐体経路へと情報を振り分けている。
 AII細胞は、遠位の樹状突起において、桿体型双極細胞から興奮性入力を、[[A17細胞]]など他のアマクリン細胞から抑制性入力を受ける。また、ギャップ結合([[コネキシン36]]、[[コネキシン45|45]])を介して周囲のAII細胞、およびオン型錐体双極細胞と電気的に連絡する<ref name=Mills2001><pubmed>11438934</pubmed></ref>。一方、近位の樹状突起では、オフ型錐体双極細胞とシナプスを形成し、グリシンを放出する。つまりAII細胞は、(オン型)桿体経路から、[[電気シナプス]]を介してオン型錐体経路へと、[[化学シナプス]]を介してオフ型錐体経路へと情報を振り分けている。


 AII-AII間の電気的結合性はドーパミンによって制御されており、暗時はトレーサーカップリングの結合性が低く、一つのAII細胞に導入したトレーサーで周囲の20細胞ほどが染色されるが、明時には300細胞ほどが染色される<ref name=Bloomfield1997><pubmed>9194323</pubmed></ref>。網膜では、ドーパミン作動性細胞が[[メラトニン]]と共役し、明所視/昼間にはドーパミン濃度が高く、暗所視/夜間には低くなるので(後述)、[[明暗順応]]や[[概日リズム]]との関わりが示唆される。
 AII-AII間の電気的結合性はドーパミンによって制御されており、暗時は[[トレーサーカップリング]]の結合性が低く、一つのAII細胞に導入したトレーサーで周囲の20細胞ほどが染色されるが、明時には300細胞ほどが染色される<ref name=Bloomfield1997><pubmed>9194323</pubmed></ref>。網膜では、ドーパミン作動性細胞が[[メラトニン]]と共役し、明所視/昼間にはドーパミン濃度が高く、暗所視/夜間には低くなるので、[[明暗順応]]や[[概日リズム]]との関わりが示唆される。


==== Wide-field細胞 ====
==== Wide-field細胞 ====
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 [[ハエ]]や魚類、カメ、マウス、[[ウサギ]]、霊長類など多くの動物に共通して、動きの方向と速度に調節性をもつ[[方向選択性神経節細胞]]が存在する。これらの細胞は、特定の方向(選好方向)へ動く物体には強く反応するが、逆の方向(非選好方向)へはほとんど反応しない('''図6A''')。方向選択性神経節細胞は、形態学的、生理学的特徴から二つに大別される。すなわち、内網状層のオン層に樹状突起を伸ばし、遅い動きによく応答する[[オン型細胞]]と、内網状層のオン層とオフ層の二層に樹状突起を伸ばし、速い動きによく応答する[[オンオフ型細胞]]である。オン型細胞は、主に[[副視索核]]や[[視蓋前域]]へ投射し、視野の動きに伴う網膜像の揺動を安定させる反射的な眼球運動の制御に関わる<<ref name=Oyster1972><pubmed>5033683</pubmed></ref><ref name=Yoshida2001><pubmed>11430810</pubmed></ref><ref name=Yonehara2016><pubmed>26711119</pubmed></ref>。オンオフ型は、主に上丘や外側膝状体へと投射し、身体運動(回転や前方への移動など)に伴う視野全体の動き(オプティカルフロー)の処理に関わると考えられている<ref name=Rasmussen2020><pubmed>32750354</pubmed></ref><ref name=Sabbah2017><pubmed>28607486</pubmed></ref>。
 [[ハエ]]や魚類、カメ、マウス、[[ウサギ]]、霊長類など多くの動物に共通して、動きの方向と速度に調節性をもつ[[方向選択性神経節細胞]]が存在する。これらの細胞は、特定の方向(選好方向)へ動く物体には強く反応するが、逆の方向(非選好方向)へはほとんど反応しない('''図6A''')。方向選択性神経節細胞は、形態学的、生理学的特徴から二つに大別される。すなわち、内網状層のオン層に樹状突起を伸ばし、遅い動きによく応答する[[オン型細胞]]と、内網状層のオン層とオフ層の二層に樹状突起を伸ばし、速い動きによく応答する[[オンオフ型細胞]]である。オン型細胞は、主に[[副視索核]]や[[視蓋前域]]へ投射し、視野の動きに伴う網膜像の揺動を安定させる反射的な眼球運動の制御に関わる<<ref name=Oyster1972><pubmed>5033683</pubmed></ref><ref name=Yoshida2001><pubmed>11430810</pubmed></ref><ref name=Yonehara2016><pubmed>26711119</pubmed></ref>。オンオフ型は、主に上丘や外側膝状体へと投射し、身体運動(回転や前方への移動など)に伴う視野全体の動き(オプティカルフロー)の処理に関わると考えられている<ref name=Rasmussen2020><pubmed>32750354</pubmed></ref><ref name=Sabbah2017><pubmed>28607486</pubmed></ref>。


 主な方向選択性形成機構は、スターバースト細胞からの空間非対称な抑制性入力である('''図6B''')。スターバースト細胞と方向選択性細胞とのシナプス結合は、非選好方向側でより多くなっており<ref name=Briggman2011><pubmed>21390125</pubmed></ref>、スターバースト細胞の遠心性方向選択性に応じた方向に対して強い抑制性入力が生じる。マウス網膜では、生後2週目までにシナプスが空間対称から非対称へと再編成が起こることがわかっている<ref name=Yonehara2011><pubmed>21170022</pubmed></ref><ref name=Wei2011><pubmed>21131947</pubmed></ref>。こうしたシナプスの再編成は、視覚経験には依存せず(再編成は開眼前に完了する)、発達期における自発的な神経発火([[retinal wave]])<ref name=Tiriac2022><pubmed>35491255</pubmed></ref>や回路形成のための分子機構が貢献することが見出されてきている<ref name=Wei2011 />。
 主な方向選択性形成機構は、スターバースト細胞からの空間非対称な抑制性入力である('''図6B''')。スターバースト細胞と方向選択性細胞とのシナプス結合は、非選好方向側でより多くなっており<ref name=Briggman2011><pubmed>21390125</pubmed></ref>、スターバースト細胞の遠心性方向選択性に応じた方向に対して強い抑制性入力が生じる。マウス網膜では、生後2週目までにシナプスが空間対称から非対称へと再編成が起こることがわかっている<ref name=Yonehara2011><pubmed>21170022</pubmed></ref><ref name=Wei2011><pubmed>21131947</pubmed></ref>。こうしたシナプスの再編成は、視覚経験には依存せず(再編成は開眼前に完了する)、発達期における自発的な神経発火([[retinal wave]])<ref name=Tiriac2022><pubmed>35491255</pubmed></ref>や回路形成のための分子機構が貢献することが見出されてきている<ref name=Yonehara2016><pubmed>26711119</pubmed></ref>


 一方で、双極細胞からのグルタミン酸入力も方向選択性形成に寄与する。古典的な運動検出器では、速い(一過性型)入力と遅い(持続型)入力素子を仮定し、視覚運動が遅い素子から速い素子の側へと呈示されると、入力遅延が相殺され加算が生じる('''図6C、D''')。スターバースト細胞は、細胞体の近位に持続型、遠位に一過性型の双極細胞から入力を受けるため<ref name=Kim2014><pubmed>24805243</pubmed></ref>、遠心性方向への動きで加算が生じる<ref name=Srivastava2022><pubmed>36346388</pubmed></ref>。この加算過程は動きの速度と入力素子間の距離が対応する必要があるため、速度への調節性が伴う。オン型方向選択性細胞は、同様の加算機構をもつが、双極細胞の空間的な配置が遅い動きに対応している<ref name=Matsumoto2019><pubmed>31564498</pubmed></ref>。また、オンオフ型方向選択性細胞については、接続する双極細胞の特定のタイプ([[T7オン型双極細胞|T7オン型]]、[[T2オフ型双極細胞|T2オフ型]])からのグルタミン酸放出に方向選択性が存在し、かつその選好方向が方向選択性細胞と一致するため、調節性が増強される<ref name=Matsumoto2021><pubmed>34390651</pubmed></ref>。
 一方で、双極細胞からのグルタミン酸入力も方向選択性形成に寄与する。古典的な運動検出器では、速い(一過性型)入力と遅い(持続型)入力素子を仮定し、視覚運動が遅い素子から速い素子の側へと呈示されると、入力遅延が相殺され加算が生じる('''図6C、D''')。スターバースト細胞は、細胞体の近位に持続型、遠位に一過性型の双極細胞から入力を受けるため<ref name=Kim2014><pubmed>24805243</pubmed></ref>、遠心性方向への動きで加算が生じる<ref name=Srivastava2022><pubmed>36346388</pubmed></ref>。この加算過程は動きの速度と入力素子間の距離が対応する必要があるため、速度への調節性が伴う。オン型方向選択性細胞は、同様の加算機構をもつが、双極細胞の空間的な配置が遅い動きに対応している<ref name=Matsumoto2019><pubmed>31564498</pubmed></ref>。また、オンオフ型方向選択性細胞については、接続する双極細胞の特定のタイプ([[T7オン型双極細胞|T7オン型]]、[[T2オフ型双極細胞|T2オフ型]])からのグルタミン酸放出に方向選択性が存在し、かつその選好方向が方向選択性細胞と一致するため、調節性が増強される<ref name=Matsumoto2021><pubmed>34390651</pubmed></ref>。

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