「分離脳」の版間の差分

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 この離断症候群の中でも最も多くの関心を集め、研究が行われてきたのが左右の大脳半球をつなぐ最大の交連繊維である脳梁が、全面的あるいは部分的に切断された分離脳(split brain)の患者である。分離脳患者に認められる左右大脳半球間の情報伝達が損なわれることによって生じる諸症状は半球離断症候群と呼ばれている。脳梁が損傷する原因としては、外科手術による人為的切断、脳血管障害による切断、脳外傷や変性疾患等による切断、先天的な脳梁の形成不全(脳梁欠損)等があるが、主に1930~60年代にかけて、難治性てんかんの症状の軽減を目的に実施された脳梁離断術(corpus callosotomy)を受けた患者の研究が有名であり、それだけを狭義の分離脳という場合もある<ref name=Gilot1975><pubmed>1985</pubmed></ref>[2]。
 この離断症候群の中でも最も多くの関心を集め、研究が行われてきたのが左右の大脳半球をつなぐ最大の交連繊維である脳梁が、全面的あるいは部分的に切断された分離脳(split brain)の患者である。分離脳患者に認められる左右大脳半球間の情報伝達が損なわれることによって生じる諸症状は半球離断症候群と呼ばれている。脳梁が損傷する原因としては、外科手術による人為的切断、脳血管障害による切断、脳外傷や変性疾患等による切断、先天的な脳梁の形成不全(脳梁欠損)等があるが、主に1930~60年代にかけて、難治性てんかんの症状の軽減を目的に実施された脳梁離断術(corpus callosotomy)を受けた患者の研究が有名であり、それだけを狭義の分離脳という場合もある<ref name=Gilot1975><pubmed>1985</pubmed></ref>[2]。


[[ファイル:Yamashita Split Brain Fig1.png|サムネイル|'''図1. 脳梁の構造'''<br>左が吻側。]]
== 脳梁の構造 ==
== 脳梁の構造 ==
 脳梁は左右大脳半球の内側面にあり、両者を広く結ぶ白質束である。全長は成人では約8cmで、約2億~2億5千万本の交連繊維から構成されており、前部から順に脳梁吻 (rostrum)、脳梁膝(genu)、脳梁幹(trunk), 脳梁膨大(splenium)に区分される(図1)。脳梁幹は体部(body)とも呼ばれ、前方幹(anterior body: AB)、前方中央幹(anterior midbody: AM)、後方幹(posterior midbody; PM)、峡部(isthmus: I)の4つにさらに分けられる。
 脳梁は左右大脳半球の内側面にあり、両者を広く結ぶ白質束である。全長は成人では約8cmで、約2億~2億5千万本の交連繊維から構成されており、前部から順に脳梁吻 (rostrum)、脳梁膝(genu)、脳梁幹(trunk), 脳梁膨大(splenium)に区分される('''図1''')。脳梁幹は体部(body)とも呼ばれ、前方幹(anterior body: AB)、前方中央幹(anterior midbody: AM)、後方幹(posterior midbody; PM)、峡部(isthmus: I)の4つにさらに分けられる。


 脳梁の大部分は前大脳動脈から分かれる脳梁周囲動脈によって還流されているが、脳梁膨大の後方部は後大脳動脈の分枝から還流されている。左右大脳半球を連絡する交連繊維には前交連、後交連、海馬交連などがあるが、脳梁が最も主要な機能を担っていると考えられている。脳梁の部位と、そこを通る神経線維が結合する脳の部位は、ある程度位置的に対応しており、脳梁前部(脳梁吻・膝)は左右の前頭前野を、中部(脳梁幹)は左右の側頭葉・頭頂葉領域を、後部(脳梁膨大)は左右の視覚野を結ぶ線維からなっており、それぞれの機能に応じた情報が伝達されていることが分離脳研究によって明らかにされた<ref name=Ughwanogho2022>'''Ughwanogho, U.O., Taber, K.H., & Chiou-Tan, F.Y. (2022).'''<br>Special anatomy series: Updates in structural, functional, and clinical relevance of the corpus callosum: What new imaging techniques have revealed. The Journal of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine. 5(3). 81-89. [DOI: 10.4103/jisprm.JISPRM-000159]" </ref>[3]。
 脳梁の大部分は前大脳動脈から分かれる脳梁周囲動脈によって還流されているが、脳梁膨大の後方部は後大脳動脈の分枝から還流されている。左右大脳半球を連絡する交連繊維には前交連、後交連、海馬交連などがあるが、脳梁が最も主要な機能を担っていると考えられている。脳梁の部位と、そこを通る神経線維が結合する脳の部位は、ある程度位置的に対応しており、脳梁前部(脳梁吻・膝)は左右の前頭前野を、中部(脳梁幹)は左右の側頭葉・頭頂葉領域を、後部(脳梁膨大)は左右の視覚野を結ぶ線維からなっており、それぞれの機能に応じた情報が伝達されていることが分離脳研究によって明らかにされた<ref name=Ughwanogho2022>'''Ughwanogho, U.O., Taber, K.H., & Chiou-Tan, F.Y. (2022).'''<br>Special anatomy series: Updates in structural, functional, and clinical relevance of the corpus callosum: What new imaging techniques have revealed. The Journal of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine. 5(3). 81-89. [DOI: 10.4103/jisprm.JISPRM-000159]" </ref>[3]。

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