「エンドサイトーシス」の版間の差分
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
| (同じ利用者による、間の4版が非表示) | |||
| 1行目: | 1行目: | ||
吉田知史・河野洋幸・高森茂雄(同志社大学脳科学研究科・神経膜分子機能部門) | |||
英:endocytosis 独:Endozytose 仏:endocytose | 英:endocytosis 独:Endozytose 仏:endocytose | ||
| 12行目: | 7行目: | ||
== エンドサイトーシスとは == | == エンドサイトーシスとは == | ||
=== 種類 === | === 種類 === | ||
エンドサイトーシスは飲作用 (pinocytosis)と食作用 (phagocytosis)に大別される。 | |||
==== 飲作用 ==== | ==== 飲作用 ==== | ||
直径約150 | 直径約150 ナノメートル以下の小さな小胞を利用して、細胞外の栄養成分や受容体などのタンパク質を細胞内に取り込む機構である。飲作用はさらに、クラスリン依存的エンドサイトーシス、クラスリン非依存的エンドサイトーシス、カベオリン依存的および非依存的エンドサイトーシスなどに分類される。また、飲作用の特殊な形式としてマクロピノサイトーシス (macropinocytosis)があり、これは直径数マイクロメートルの比較的大きな小胞 (マクロピノソーム)を形成することによって、細胞外溶液や分子を細胞内に取り込む。細胞外液中の物質を細胞内に取り込む機構としてのエンドサイトーシスの他に、開口放出(エキソサイトーシス)によって形質膜に挿入された小胞膜成分を回収する機構があり、これを補償性エンドサイトーシス(compensatory endocytosis)と呼ぶ。 | ||
==== 食作用 ==== | ==== 食作用 ==== | ||
直径数~10マイクロメートルの食胞(ファゴソーム)と呼ばれる大きな小胞によって、病原体や死細胞などを細胞内に取り込み、その後、取り込んだ物を分解・除去する重要な機構である。 | 直径数~10マイクロメートルの食胞(ファゴソーム)と呼ばれる大きな小胞によって、病原体や死細胞などを細胞内に取り込み、その後、取り込んだ物を分解・除去する重要な機構である。 | ||
いずれの場合も、エンドサイトーシスで作られた小胞には液胞型プロトンATPアーゼ (Vacuolar-type H+ ATPase:V-ATPase)が備わっており、ATP加水分解によって生じるエネルギーを使ってプロトンを内腔へと輸送し、小胞内を酸性化させる(pHを下げる)ことが機能的に重要である。例えば、多くの細胞表面受容体は、リガンド(ホルモンや成長因子など)と結合した状態で小胞と共にエンドサイトーシスされ、その後小胞内が酸性化すると、リガンドと受容体の結合が弱まり、リガンドが離れる。この機構により、受容体は再利用(再び形質膜へと運搬)され、リガンドはエンドソームーリソソーム系により分解される。また、シナプス前終末で補償性エンドサイトーシスによって再合成されたシナプス小胞では、V-ATPaseが作るプロトンの電気化学勾配によって小胞型神経伝達物質輸送体が駆動され、神経伝達物質が小胞内部に濃縮される。これにより、持続的なシナプス伝達が可能となる。 | |||
=== 関与するタンパク質群 === | === 関与するタンパク質群 === | ||
エンドサイトーシスの開始から完了までには複数の段階があり、それぞれの過程に重要な働きをする多くのタンパク質が同定されている。エンドサイトーシスの様式によって異なるタンパク質が関与する場合と、多くのエンドサイトーシス様式に共通の機能を果たすタンパク質に分けられるが、その境界は必ずしも明確ではない。以下に、エンドサイトーシス様式別に関与するタンパク質とそれらの機能を概説する。 | エンドサイトーシスの開始から完了までには複数の段階があり、それぞれの過程に重要な働きをする多くのタンパク質が同定されている。エンドサイトーシスの様式によって異なるタンパク質が関与する場合と、多くのエンドサイトーシス様式に共通の機能を果たすタンパク質に分けられるが、その境界は必ずしも明確ではない。以下に、エンドサイトーシス様式別に関与するタンパク質とそれらの機能を概説する。 | ||
| 27行目: | 22行目: | ||
クラスリン依存的エンドサイトーシスは、形質膜から小胞が出芽する際に、クラスリン被覆の形成が伴うもので、その開始点の形成および膜の変形 (nucleation)、積荷タンパク質(cargoタンパク質)の選別 (cargo selection)、クラスリン被覆小胞の形成 (clathrin assembly)、膜の切断 (scission)、クラスリン被覆の除去 (uncoating)といった段階を経て完了する。これらの段階には、Bin/Amphiphysin/Rvs (BAR)ドメインタンパク質、Epidermal Growth Factor Receptor Pathway Substrate 15 (EPS15)、Intersectin、アダプタータンパク質複合体 (AP complex)、Clathrin、Dynamin、Auxilin、synaptojanin、HSC70など、さまざまなタンパク質が関与している<ref name=McMahon2011><pubmed>21779028</pubmed></ref>。 | クラスリン依存的エンドサイトーシスは、形質膜から小胞が出芽する際に、クラスリン被覆の形成が伴うもので、その開始点の形成および膜の変形 (nucleation)、積荷タンパク質(cargoタンパク質)の選別 (cargo selection)、クラスリン被覆小胞の形成 (clathrin assembly)、膜の切断 (scission)、クラスリン被覆の除去 (uncoating)といった段階を経て完了する。これらの段階には、Bin/Amphiphysin/Rvs (BAR)ドメインタンパク質、Epidermal Growth Factor Receptor Pathway Substrate 15 (EPS15)、Intersectin、アダプタータンパク質複合体 (AP complex)、Clathrin、Dynamin、Auxilin、synaptojanin、HSC70など、さまざまなタンパク質が関与している<ref name=McMahon2011><pubmed>21779028</pubmed></ref>。 | ||
===== | ===== EPS15・Intersectin ===== | ||
EPS15およびIntersectinは、いずれも足場 (scaffold)タンパク質として知られている。これらは、エンドサイトーシスの起点となる場=endocytic hot spotに集積し、クラスリン被覆形成までに必要な他のエンドサイトーシス関連分子を局所に集める役割を果たしている。 | |||
===== BARドメインタンパク質 ===== | ===== BARドメインタンパク質 ===== | ||
| 47行目: | 42行目: | ||
==== クラスリン非依存的エンドサイトーシスに関与するタンパク質 ==== | ==== クラスリン非依存的エンドサイトーシスに関与するタンパク質 ==== | ||
クラスリン非依存的エンドサイトーシスに関与するタンパク質は、クラスリン依存的エンドサイトーシスで働くタンパク質と一部異なっている。以下に、クラスリン非依存的エンドサイトーシスにおいて中心的な役割を果たすタンパク質群を挙げる。 | |||
===== Caveolin ===== | ===== Caveolin ===== | ||
「カベオラ」と呼ばれるフラスコ状の膜陥入構造を介して、クラスリン被覆を伴わないエンドサイトーシスが起こる。この過程には、膜内在タンパク質であるカベオリン (caveolin)が関与しており、カベオリンがオリゴマー化することによって細胞膜ドメインが形成され、そこでエンドサイトーシスが起こる。 | 「カベオラ」と呼ばれるフラスコ状の膜陥入構造を介して、クラスリン被覆を伴わないエンドサイトーシスが起こる。この過程には、膜内在タンパク質であるカベオリン (caveolin)が関与しており、カベオリンがオリゴマー化することによって細胞膜ドメインが形成され、そこでエンドサイトーシスが起こる。 | ||
===== | ===== Actin・CDC42・Formins ===== | ||
クラスリン非依存的エンドサイトーシスでは、細胞膜を裏打ちするアクチン (Actin)の重合が形質膜の陥入および小胞の形成を促進する。シナプス小胞のエンドサイトーシスにおいても、アクチン重合の重要性が指摘されている<ref name=Delvendahl2016><pubmed>27146271</pubmed></ref><ref name=Soykan2017><pubmed>28231467</pubmed></ref>。CDC42 (Cell Division Cycle 42)は、Rhoファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質 (Rho GTPase)であり、クラスリン非依存的エンドサイトーシスにおけるアクチン重合の重要な制御因子である。ForminsはRho GTPaseのエフェクターとして機能する | |||
===== AP-3 ===== | ===== AP-3 ===== | ||
AP-3はクラスリン非依存的エンドサイトーシスで作られた小胞に含まれる積荷分子の選択を制御している。ヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome)や、その病態モデルであるmochaマウスでは、AP-3のサブユニットの欠失により、細胞内小胞輸送が障害される。特に中枢神経系では、シナプス小胞タンパク質のソーティング異常によるドーパミン放出の低下などに起因する神経機能障害が報告されている<ref name=Jain2023><pubmed>37812725</pubmed></ref><ref name=Silm2019><pubmed>31003725</pubmed></ref>。 | |||
===== ダイナミン ===== | ===== ダイナミン ===== | ||
| 64行目: | 59行目: | ||
=== 関与する脂質 === | === 関与する脂質 === | ||
エンドサイトーシス過程においては、上記に挙げた細胞質タンパク質だけでなく、脂質の代謝、とりわけPI(4,5)P2の代謝によっても厳密に制御されている。特に、クラスリン依存的エンドサイトーシスにおけるPI(4,5)P2の役割はよく知られている。膜上に一過的に合成されたPI(4,5)P2はそれと高い親和性をもつ多くのBARドメインタンパク質の形質膜への集積を誘導し、そこでエンドサイトーシスを惹起する。形質膜で合成されたPI(4,5)P2は、その後クラスリン被覆小胞に移行し、ホスファチジルイノシトール脱リン酸化酵素 (SacIやsynaptojaninなど)によって分解されることで、クラスリンの脱被覆が生じ、エンドサイトーシスが完了する。特に神経細胞のシナプス前終末においては、PI(4,5)P2の生合成にはphosphatidylinositol phosphate kinase type Iγ (PIPKIγ)、分解にはsynaptojaninが主に関与している。これら遺伝子の欠損マウス由来の神経細胞では、シナプス小胞のエンドサイトーシスが顕著に遅延する<ref name= | エンドサイトーシス過程においては、上記に挙げた細胞質タンパク質だけでなく、脂質の代謝、とりわけPI(4,5)P2の代謝によっても厳密に制御されている。特に、クラスリン依存的エンドサイトーシスにおけるPI(4,5)P2の役割はよく知られている。膜上に一過的に合成されたPI(4,5)P2はそれと高い親和性をもつ多くのBARドメインタンパク質の形質膜への集積を誘導し、そこでエンドサイトーシスを惹起する。形質膜で合成されたPI(4,5)P2は、その後クラスリン被覆小胞に移行し、ホスファチジルイノシトール脱リン酸化酵素 (SacIやsynaptojaninなど)によって分解されることで、クラスリンの脱被覆が生じ、エンドサイトーシスが完了する。特に神経細胞のシナプス前終末においては、PI(4,5)P2の生合成にはphosphatidylinositol phosphate kinase type Iγ (PIPKIγ)、分解にはsynaptojaninが主に関与している。これら遺伝子の欠損マウス由来の神経細胞では、シナプス小胞のエンドサイトーシスが顕著に遅延する<ref name=Di Paolo2004><pubmed>15386003</pubmed></ref><ref name=Wenk2001><pubmed>11604140</pubmed></ref>。これらの実験結果は、エンドサイトーシスには、細胞質タンパク質に加えて、シナプス局所での脂質代謝が重要な役割をはたしている。 | ||
== シナプス前終末 == | == シナプス前終末 == | ||
| 78行目: | 73行目: | ||
=== 超高速エンドサイトーシス === | === 超高速エンドサイトーシス === | ||
刺激から50~100ミリ秒以内にシナプス小胞の回収が完了する超高速エンドサイトーシスの存在が、線虫の神経筋接合部やラットの海馬神経初代培養細胞で報告された<ref name=Watanabe2013><pubmed>24015355</pubmed></ref><ref name= | 刺激から50~100ミリ秒以内にシナプス小胞の回収が完了する超高速エンドサイトーシスの存在が、線虫の神経筋接合部やラットの海馬神経初代培養細胞で報告された<ref name=Watanabe2013><pubmed>24015355</pubmed></ref><ref name=Watanabe2013><pubmed>24305055</pubmed></ref>。このエンドサイトーシスはクラスリン非依存的であり、F-アクチンなどが駆動因子として関与する<ref name=Watanabe2013><pubmed>24305055</pubmed></ref>。弱い刺激かつ生理学的温度下(34-37 ºC)で放出されるシナプス小胞のほとんどがこのエンドサイトーシス機構によって回収されるといった報告もある<ref name=Soykan2017><pubmed>28231467</pubmed></ref>。超高速エンドサイトーシスによって回収された小胞膜は、数秒後シナプス終末内のエンドソームに融合し、その後、活動依存的バルクエンドサイトーシスによって生み出されるELVと同様に、クラスリン依存的エンドサイトーシスに関わるタンパク質群の働きによって、エンドソームからシナプス小胞が再生される<ref name=Watanabe2014><pubmed>25296249</pubmed></ref>。 | ||
=== シナプス小胞以外のエンドサイトーシス === | === シナプス小胞以外のエンドサイトーシス === | ||