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== 構造 == | == 構造 == | ||
哺乳類Rheb1タンパク質は184アミノ酸、Rheb2は183アミノ酸から構成される。結晶構造解析の結果から、他の多くの低分子量Gタンパク質と同様、[[GTP]]結合型と[[GDP]] | 哺乳類Rheb1タンパク質は184アミノ酸、Rheb2は183アミノ酸から構成される。結晶構造解析の結果から、他の多くの低分子量Gタンパク質と同様、[[GTP]]結合型と[[GDP]]結合型で微細に構造が変化することが明らかとなっている('''図1''')。GDP/GTPサイクルによる活性状態の切り替えや、活性調整タンパク質およびエフェクタータンパク質との相互作用に関わるスイッチ1領域およびスイッチ2領域についてはRasタンパク質とよく似た構造を有している。しかし、Rasと比較すると、Rhebの[[GTPase]]活性は低く、GTP結合型を維持しやすいことが示されている<ref name=Yu2005><pubmed>15728574</pubmed></ref>。また、C末端には[[CAAXモチーフ]]が存在し、[[脂質]]修飾を受けることが示唆される。実際に、Rhebは[[ファルネシル化]]され、主に[[リソソーム]]膜上に移行する<ref name=Hanker2010><pubmed>19838215</pubmed></ref>。 | ||
== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
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=== 活性調節 === | === 活性調節 === | ||
Rhebは、他の低分子量Gタンパク質と同様にGTPと結合し活性型となり、自身が持つGTPase活性によりGTPをGDPに変換することで不活性型であるGDP結合型とへと変化する。RhebのGTPase activating protein(GAP)として知られているタンパク質として[[tuberous sclerosis complex1|tuberous sclerosis complex (Tsc) 1]], [[Tsc2]]がある<ref name=Pan2004><pubmed>15102439</pubmed></ref>。Tsc1/2はヘテロ2量体を形成しGAPとして機能する。一方、結合したGDPを乖離させ、GTPを結合させる機能を持つグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide-exchanging factor; GEF)タンパク質は未だ同定されていない。また、Rhebの活性化にはファルネシル化による膜アンカーが必須と考えられており<ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref><ref name=Sancak2007><pubmed>17386266</pubmed></ref>、ファルネシル化を受けない変異型Rhebは下流シグナルを活性化しない。 | Rhebは、他の低分子量Gタンパク質と同様にGTPと結合し活性型となり、自身が持つGTPase活性によりGTPをGDPに変換することで不活性型であるGDP結合型とへと変化する。RhebのGTPase activating protein(GAP)として知られているタンパク質として[[tuberous sclerosis complex1|tuberous sclerosis complex (Tsc) 1]], [[Tsc2]]がある<ref name=Pan2004><pubmed>15102439</pubmed></ref>。Tsc1/2はヘテロ2量体を形成しGAPとして機能する。一方、結合したGDPを乖離させ、GTPを結合させる機能を持つグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide-exchanging factor; GEF)タンパク質は未だ同定されていない。また、Rhebの活性化にはファルネシル化による膜アンカーが必須と考えられており<ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref><ref name=Sancak2007><pubmed>17386266</pubmed></ref>、ファルネシル化を受けない変異型Rhebは下流シグナルを活性化しない。 | ||
[[ファイル:Shimada Rheb Fig.png|サムネイル|''' | [[ファイル:Shimada Rheb Fig.png|サムネイル|'''図2. Rhebの活性化調節と下流シグナルの模式図'''<br>Rhebはファルネシル化修飾を受け、膜上に移行したのち、GTP結合型に変換され活性化する。Tsc1/2複合体はRhebに対するGAPタンパク質として機能することでGDP結合型への変換を促し不活性化を促進する。<br>Rhebの活性化に伴い、様々な下流シグナルが活性化する。ここでは代表的なものとしてmTORC1を示すが、これまでに多様な下流シグナル因子が明らかとなっている。]] | ||
=== エフェクター === | === エフェクター === | ||
Rhebのエフェクタータンパク質としては[[mTORC1]]が代表的である。GTP結合型RhebはmTORと直接結合し活性化させる<ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref>。また、活性型Rhebは[[FK506結合タンパク質38]] ([[FK506 binding protein 38]]; [[FKBP38]])との結合、あるいは[[ホスホリパーゼD1]](PLD1)との結合を通じてもmTORC1の活性化を促進していると考えられている<ref name=Bai2007><pubmed>17991864</pubmed></ref><ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref>。mTORは[[リボソームタンパク質S6キナーゼ]]([[S6K]])をリン酸化し、活性化する。S6Kは活性化することでタンパク質の翻訳を促進する。また、mTORは[[eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1]] ([[4E-BP1]]または[[EIF4EBP1]])を[[リン酸化]]することで不活性化する。4E-BP1はタンパク質[[翻訳]]開始因子[[eIF4F]]のネガティブレギュレーターであるため、4E-BP1の不活性化はタンパク質の合成を促進することになる。これらの機能を通じてmTORは細胞の成長や増殖、タンパク質合成を促進することが知られているが(''' | Rhebのエフェクタータンパク質としては[[mTORC1]]が代表的である。GTP結合型RhebはmTORと直接結合し活性化させる<ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref>。また、活性型Rhebは[[FK506結合タンパク質38]] ([[FK506 binding protein 38]]; [[FKBP38]])との結合、あるいは[[ホスホリパーゼD1]](PLD1)との結合を通じてもmTORC1の活性化を促進していると考えられている<ref name=Bai2007><pubmed>17991864</pubmed></ref><ref name=Heard2014><pubmed>24863881</pubmed></ref>。mTORは[[リボソームタンパク質S6キナーゼ]]([[S6K]])をリン酸化し、活性化する。S6Kは活性化することでタンパク質の翻訳を促進する。また、mTORは[[eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1]] ([[4E-BP1]]または[[EIF4EBP1]])を[[リン酸化]]することで不活性化する。4E-BP1はタンパク質[[翻訳]]開始因子[[eIF4F]]のネガティブレギュレーターであるため、4E-BP1の不活性化はタンパク質の合成を促進することになる。これらの機能を通じてmTORは細胞の成長や増殖、タンパク質合成を促進することが知られているが('''図2''')、Rhebの活性化はmTORC1活性化を通じて細胞の増殖などを引き起こすことが明らかとなっている。 | ||
mTORC1以外にもRhebにより制御されるシグナルタンパク質は幾つか知られている。例として、[[p21活性化キナーゼ]] ([[p21 activated kinase 2]]; [[PAK2]])は、活性化型Rheb依存的かつmTORC1非依存的にリン酸化を受け活性化される<ref name=Alves2015><pubmed>26412398</pubmed></ref>。また、[[シンテニン]]]([[Syntenin]])もRhebと結合することが明らかとなっている。シンテニンは[[PDZドメイン]]を有する[[アダプタータンパク質]]で、様々なシグナルカスケード因子と結合しシグナルの活性を調節することが知られている。シンテニンはGDP結合型Rhebとより結合しやすく、シンテニンとRhebが結合することで両者ともに[[プロテアソーム]]による分解を受ける。そのため、GTP型Rhebが増えるとシンテニンと結合して分解されるRhebが減少するため、結果的にシンテニンが増加し、シンテニンに依存したシグナルの増強が起きる<ref name=Sugiura2015><pubmed>25880340</pubmed></ref>。 | mTORC1以外にもRhebにより制御されるシグナルタンパク質は幾つか知られている。例として、[[p21活性化キナーゼ]] ([[p21 activated kinase 2]]; [[PAK2]])は、活性化型Rheb依存的かつmTORC1非依存的にリン酸化を受け活性化される<ref name=Alves2015><pubmed>26412398</pubmed></ref>。また、[[シンテニン]]]([[Syntenin]])もRhebと結合することが明らかとなっている。シンテニンは[[PDZドメイン]]を有する[[アダプタータンパク質]]で、様々なシグナルカスケード因子と結合しシグナルの活性を調節することが知られている。シンテニンはGDP結合型Rhebとより結合しやすく、シンテニンとRhebが結合することで両者ともに[[プロテアソーム]]による分解を受ける。そのため、GTP型Rhebが増えるとシンテニンと結合して分解されるRhebが減少するため、結果的にシンテニンが増加し、シンテニンに依存したシグナルの増強が起きる<ref name=Sugiura2015><pubmed>25880340</pubmed></ref>。 | ||