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{{box|text= セラミドはスフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合で結合した脂質の一つで、生体膜に存在する。すべてのスフィンゴ脂質の中間体であることから、その合成・代謝は生体膜の脂質組成を決める鍵分子である。また構造上の特徴から、クラスターを形成し膜ドメインを形成する。セラミドドメインの形成により膜の湾曲や膜小胞の輸送が制御され、アポトーシスなどのシグナル伝達のプラットフォームとなる。セラミド代謝の異常は様々な神経変性疾患に認められ、その病態との関連が知られている。}} | {{box|text= セラミドはスフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合で結合した脂質の一つで、生体膜に存在する。すべてのスフィンゴ脂質の中間体であることから、その合成・代謝は生体膜の脂質組成を決める鍵分子である。また構造上の特徴から、クラスターを形成し膜ドメインを形成する。セラミドドメインの形成により膜の湾曲や膜小胞の輸送が制御され、アポトーシスなどのシグナル伝達のプラットフォームとなる。セラミド代謝の異常は様々な神経変性疾患に認められ、その病態との関連が知られている。}} | ||
== | == セラミドとは== | ||
[[生体膜]]は、[[グリセロリン脂質]]、[[中性脂質]]([[コレステロール]]等)、[[スフィンゴ脂質]]などによって構成されている。そのなかで、スフィンゴ脂質は[[スフィンゴシン]]塩基を基本骨格にもつ脂質の総称であり、スフィンゴシン、セラミド、[[スフィンゴ糖脂質]]、[[スフィンゴシン1-リン酸]]、[[セラミド-1-リン酸]]や[[スフィンゴミエリン]]などがある。なかでもセラミドは脳に最も多く認められる他にも、さまざまな臓器に認められる <ref name=Schiffmann2013><pubmed>23792024</pubmed></ref>。 | [[生体膜]]は、[[グリセロリン脂質]]、[[中性脂質]]([[コレステロール]]等)、[[スフィンゴ脂質]]などによって構成されている。そのなかで、スフィンゴ脂質は[[スフィンゴシン]]塩基を基本骨格にもつ脂質の総称であり、スフィンゴシン、セラミド、[[スフィンゴ糖脂質]]、[[スフィンゴシン1-リン酸]]、[[セラミド-1-リン酸]]や[[スフィンゴミエリン]]などがある。なかでもセラミドは脳に最も多く認められる他にも、さまざまな臓器に認められる <ref name=Schiffmann2013><pubmed>23792024</pubmed></ref>。 | ||
[[小胞体]]、[[ミトコンドリア]]でde novo合成されたセラミドは[[ゴルジ体]]内腔においてスフィンゴミエリンや糖鎖の付加された複雑な複合スフィンゴ糖脂質へと変化する<ref name=Yamaji2015><pubmed>25382749</pubmed></ref>。一方で異化代謝経路も存在し、スフィンゴミエリン、スフィンゴ糖脂質の代謝によってもセラミドが生成する (''' | [[小胞体]]、[[ミトコンドリア]]でde novo合成されたセラミドは[[ゴルジ体]]内腔においてスフィンゴミエリンや糖鎖の付加された複雑な複合スフィンゴ糖脂質へと変化する<ref name=Yamaji2015><pubmed>25382749</pubmed></ref>。一方で異化代謝経路も存在し、スフィンゴミエリン、スフィンゴ糖脂質の代謝によってもセラミドが生成する ('''図''')。したがって、これら合成系と分解系の酵素群によって細胞内のセラミド量は時空間的に巧妙に制御されている。 | ||
尚、広義には皮膚のバリア機能を担うセラミドは多様な分子種が存在するが<ref name=Kihara2016><pubmed>27107674</pubmed></ref>、ここでは下記の構造を持つ狭義の意味でのセラミドに内容を絞って解説する。 | 尚、広義には皮膚のバリア機能を担うセラミドは多様な分子種が存在するが<ref name=Kihara2016><pubmed>27107674</pubmed></ref>、ここでは下記の構造を持つ狭義の意味でのセラミドに内容を絞って解説する。 | ||
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セラミドは、スフィンゴシン(sphingosine)と[[脂肪酸]](fatty acid)からなる[[アミド]]化合物である。脂肪酸は[[長鎖脂肪酸]]C16-22、[[極長鎖脂肪酸]]C22-24が多いが、[[ケラチノサイト]]や[[精子]]細胞の分化や成熟においてはC26-36の極長鎖脂肪酸も認められる<ref name=Castro2014><pubmed>24513486</pubmed></ref>。構造上、[[リン脂質]]、スフィンゴミエリン、複合スフィンゴ糖脂質と比べて極性頭部が小さい (水溶性が低い) こと、[[アシル基]]の飽和度が高い (流動性の低い、より硬い膜環境を好む) ことなどがあげられる。 | セラミドは、スフィンゴシン(sphingosine)と[[脂肪酸]](fatty acid)からなる[[アミド]]化合物である。脂肪酸は[[長鎖脂肪酸]]C16-22、[[極長鎖脂肪酸]]C22-24が多いが、[[ケラチノサイト]]や[[精子]]細胞の分化や成熟においてはC26-36の極長鎖脂肪酸も認められる<ref name=Castro2014><pubmed>24513486</pubmed></ref>。構造上、[[リン脂質]]、スフィンゴミエリン、複合スフィンゴ糖脂質と比べて極性頭部が小さい (水溶性が低い) こと、[[アシル基]]の飽和度が高い (流動性の低い、より硬い膜環境を好む) ことなどがあげられる。 | ||
== 生合成・代謝 == | == 生合成・代謝 == | ||
セラミドはde | セラミドはde novo合成あるいは複合スフィンゴ脂質の加水分解によって産生される ('''図''')。[[腫瘍壊死因子]]([[TNF]])や[[Fas]]などによる[[加水分解]]酵素の活性化によるセラミドの産生は数分以内、一方で[[血清]]飢餓、TNF、Fas刺激後のde novo合成にかかる時間は数時間だと考えられている<ref name=Hannun1996><pubmed>8943189</pubmed></ref>。 | ||
=== De novo合成経路 === | === De novo合成経路 === | ||
セラミドは小胞体とミトコンドリアの細胞質側で[[パルミトイルCoA]]と[[L-セリン]]から[[スフィンガニン]]、[[ジヒドロセラミド]]を経て合成される。多くの他の合成酵素がひとつ、ないし二つのアイソフォームを持つのに対して、ジヒドロセラミドを合成する[[セラミドシンターゼ]] (CerS) は[[CerS1]]-[[CerS6|6]]の六つのアイソフォームがあり、合成に利用するアシル基の長さと組織発現が異なっているとこから、それぞれのアシル基/組織特異性が細胞におけるセラミド種の分布の違いと機能を制御している<ref name=Pewzner-Jung2006><pubmed>16793762</pubmed></ref><ref name=Riebeling2003><pubmed>12912983</pubmed></ref>。例えば、CerS1はC18セラミドの合成に特異的であり、[[脳]]、[[筋肉]]のみに発現する。一方、[[CerS2]]は主にC20-26の長鎖セラミドの合成に特異的で、[[髄鞘]]形成時に[[オリゴデンドロサイト]]と[[シュワン細胞]]に最も高い発現を示す。CerS1と異なりCerS2は広く多くの組織に分布する <ref name=Schiffmann2013><pubmed>23792024</pubmed></ref>。 | セラミドは小胞体とミトコンドリアの細胞質側で[[パルミトイルCoA]]と[[L-セリン]]から[[スフィンガニン]]、[[ジヒドロセラミド]]を経て合成される。多くの他の合成酵素がひとつ、ないし二つのアイソフォームを持つのに対して、ジヒドロセラミドを合成する[[セラミドシンターゼ]] (CerS) は[[CerS1]]-[[CerS6|6]]の六つのアイソフォームがあり、合成に利用するアシル基の長さと組織発現が異なっているとこから、それぞれのアシル基/組織特異性が細胞におけるセラミド種の分布の違いと機能を制御している<ref name=Pewzner-Jung2006><pubmed>16793762</pubmed></ref><ref name=Riebeling2003><pubmed>12912983</pubmed></ref>。例えば、CerS1はC18セラミドの合成に特異的であり、[[脳]]、[[筋肉]]のみに発現する。一方、[[CerS2]]は主にC20-26の長鎖セラミドの合成に特異的で、[[髄鞘]]形成時に[[オリゴデンドロサイト]]と[[シュワン細胞]]に最も高い発現を示す。CerS1と異なりCerS2は広く多くの組織に分布する <ref name=Schiffmann2013><pubmed>23792024</pubmed></ref>。 | ||