「LIMドメイン含有キナーゼ」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
 LIMKは、[[哺乳類]]ではドメイン構成が同じLIMK1とLIMK2の2種類が存在する。また、LIMドメインをもたないが、キナーゼドメインが、他のキナーゼに比べて高い相同性を示し、LIMKと同様にコフィリンを基質とするTESK1とTESK2が存在しており、広義のLIMKファミリーはこれらも含む<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref>。本項では主にLIMK1とLIMK2について記述する。
 LIMK1とLIMK2は、N末端側にジンクフィンガーモチーフの一つであるLIMドメインを2つもち、続いて、[[PDZドメイン]]、セリン/[[スレオニン]](S/T)リッチ領域、C末端側にキナーゼドメインを有する('''図2''')<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref><ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref>。キナーゼドメインの配列はチロシンキナーゼ様の配列を示すが、キナーゼドメインの12の保存されたサブドメインのうち基質認識に関与するサブドメインVIb(HRDモチーフ)の配列がLIMKでは特徴的であり、実際にはセリン/スレオニンとチロシンの両方の残基をリン酸化することができる<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref>。LIMドメインは、LIMK1のキナーゼドメインを含むC末端領域と結合し、キナーゼ活性を負に制御することが示されている<ref name=Nagata1999><pubmed>10493917</pubmed></ref>。
 LIMK1とLIMK2は、N末端側にジンクフィンガーモチーフの一つであるLIMドメインを2つもち、続いて、[[PDZドメイン]]、セリン/[[スレオニン]](S/T)リッチ領域、C末端側にキナーゼドメインを有する('''図2''')<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref><ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref>。キナーゼドメインの配列はチロシンキナーゼ様の配列を示すが、キナーゼドメインの12の保存されたサブドメインのうち基質認識に関与するサブドメインVIb(HRDモチーフ)の配列がLIMKでは特徴的であり、実際にはセリン/スレオニンとチロシンの両方の残基をリン酸化することができる<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref>。LIMドメインは、LIMK1のキナーゼドメインを含むC末端領域と結合し、キナーゼ活性を負に制御することが示されている<ref name=Nagata1999><pubmed>10493917</pubmed></ref>。


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 [[X線結晶構造解析]]によって、LIMK1のキナーゼドメインは、通常のキナーゼ-基質間の結合領域とは別の領域でもコフィリンと特異的に結合することが示されており<ref name=Hamill2016><pubmed>27153537</pubmed></ref>、この結果はコフィリンがLIMKの主要な基質であることを裏付けている。
 [[X線結晶構造解析]]によって、LIMK1のキナーゼドメインは、通常のキナーゼ-基質間の結合領域とは別の領域でもコフィリンと特異的に結合することが示されており<ref name=Hamill2016><pubmed>27153537</pubmed></ref>、この結果はコフィリンがLIMKの主要な基質であることを裏付けている。


== サブファミリー ==
 limk1, limk2遺伝子は、[[後生生物]]以降で出現する。limk1とlimk2遺伝子は、各々ヒト[[染色体]]の7q11.23と22q12.2に存在する<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref>。limkの[[オーソログ]]は、[[ホヤ]]、[[ウニ]]、[[ショウジョウバエ]]には存在するが、[[酵母]]、[[粘菌]]、[[植物]]、[[線虫]]には存在しない。基質であるコフィリンは酵母を含むこれらの種に存在するが、LIMKファミリーの存在しない生物種でのコフィリンのリン酸化制御の有無は不明である。
LIMKは、哺乳類ではドメイン構成が同じLIMK1とLIMK2の2種類が存在する。また、LIMドメインをもたないが、キナーゼドメインが、他のキナーゼに比べて高い相同性を示し、LIMKと同様にコフィリンを基質とするTESK1とTESK2が存在しており、広義のLIMKファミリーはこれらも含む<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref>。本項では主にLIMK1とLIMK2について記述する。


== オーソログ 種間の保存性 ==
 limk1, limk2遺伝子は、後生生物以降で出現する。limk1とlimk2遺伝子は、各々ヒト染色体の7q11.23と22q12.2に存在する<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref>。limkのオーソログは、ホヤ、ウニ、ショウジョウバエには存在するが、酵母、粘菌、植物、線虫には存在しない。基質であるコフィリンは酵母を含むこれらの種に存在するが、LIMKファミリーの存在しない生物種でのコフィリンのリン酸化制御の有無は不明である。
== 組織発現分布 ==
== 組織発現分布 ==
LIMK1の組織発現分布は、発生過程の脳に高発現していることが特徴であるが、体全体にもユビキタスに発現している<ref name=Mori1997><pubmed>9149099</pubmed></ref>。LIMK2は、体全体にユビキタスに発現しており、広くLIMK1と重なった発現分布である。また、精巣など一部の組織で細胞種特異的なスプライシング変異体の発現があることが示されている<ref name=Mori1997><pubmed>9149099</pubmed></ref><ref name=Acevedo2006><pubmed>16399995</pubmed></ref>。遺伝子欠損マウスの表現型から、limk1遺伝子欠損マウスでは脳神経系に異常がみられることや、limk1とlimk2遺伝子の両方を欠損したマウスでは症状が重篤化することなど、ある程度発現分布と一致した結果が報告されている<ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。
 LIMK1の組織発現分布は、発生過程の[[脳]]に高発現していることが特徴であるが、体全体にもユビキタスに発現している<ref name=Mori1997><pubmed>9149099</pubmed></ref>。LIMK2は、体全体にユビキタスに発現しており、広くLIMK1と重なった発現分布である。また、精巣など一部の組織で細胞種特異的な[[スプライシング変異体]]の発現があることが示されている<ref name=Mori1997><pubmed>9149099</pubmed></ref><ref name=Acevedo2006><pubmed>16399995</pubmed></ref>。limk1遺伝子欠損マウスでは脳神経系に異常がみられることや、limk1とlimk2遺伝子の両方を欠損したマウスでは症状が重篤化することなど、ある程度発現分布と一致した結果が報告されている<ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。
== 細胞内局在 ==
== 細胞内局在 ==
 LIMK1とLIMK2は共に、培養細胞に発現させた場合、間期の細胞では細胞質に拡散して存在し、特徴的な局在は見られない<ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。しかし、培養細胞の接着斑、紡錘体、中心体、ゴルジ体に局在するとの報告もある<ref name=Foletta2004><pubmed>15023529</pubmed></ref><ref name=Sumi2006><pubmed>16455074</pubmed></ref><ref name=Salvarezza2009><pubmed>18987335</pubmed></ref>。また、核移行シグナルと核外移行シグナル配列をもち、核内外をシャトルしている<ref name=Yang1999><pubmed>10051454</pubmed></ref>。アクチンやコフィリンも核内に存在し、コフィリンは核内のアクチン線維のターンオーバーや凝集に関与することが知られているが<ref name=Ono2007 />、LIMKの核内における役割は不明である。分裂期では、LIMK1はLarge tumor suppressor kinase 1 (LATS1)と相互作用し収縮環に局在する<ref name=Yang2004><pubmed>15220930</pubmed></ref>。海馬神経細胞では、LIMK1はN末端付近のCys残基がパルミトイル化され樹状突起のスパインに局在することが示されている<ref name=George2015><pubmed>25884247</pubmed></ref>。
 LIMK1とLIMK2は共に、[[培養細胞]]に発現させた場合、[[間期]]の細胞では[[細胞質]]に拡散して存在し、特徴的な局在は見られない<ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。しかし、[[接着斑]]、[[紡錘体]]、[[中心体]]、[[ゴルジ体]]に局在するとの報告もある<ref name=Foletta2004><pubmed>15023529</pubmed></ref><ref name=Sumi2006><pubmed>16455074</pubmed></ref><ref name=Salvarezza2009><pubmed>18987335</pubmed></ref>。また、核移行シグナルと核外移行シグナル配列をもち、核内外をシャトルしている<ref name=Yang1999><pubmed>10051454</pubmed></ref>。アクチンやコフィリンも核内に存在し、コフィリンは核内のアクチン線維のターンオーバーや凝集に関与することが知られているが<ref name=Ono2007 />、LIMKの核内における役割は不明である。[[分裂期]]では、LIMK1は[[large tumor suppressor kinase 1]] ([[LATS1]])と相互作用し[[収縮環]]に局在する<ref name=Yang2004><pubmed>15220930</pubmed></ref>。[[海馬]]神経細胞では、LIMK1はN末端付近の[[システイン]]残基が[[パルミトイル化]]され[[樹状突起]]の[[スパイン]]に局在することが示されている<ref name=George2015><pubmed>25884247</pubmed></ref>。


== 細胞機能 ==
== 細胞機能 ==
=== アクチン骨格再構築における機能とRho経路による活性制御 ===
=== アクチン骨格再構築における機能とRho経路による活性制御 ===
 主な働きは、アクチン切断・脱重合因子であるコフィリンの3番目のセリン残基をリン酸化することで不活性化し、アクチン線維の切断・脱重合を抑制してアクチン骨格構造を安定化し、アクチン重合を促進することである(図1)<ref name=Arber1998><pubmed>9655397</pubmed></ref><ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。アクチン骨格構造の動態制御は多くの細胞活動の基盤であり、LIMKは様々な細胞機能において重要な制御機能を担っている。LIMKは複数のシグナル経路で活性が制御されることが明らかにされている<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。最も主要な経路として、LIMKは低分子量Gタンパク質Rhoファミリーの下流で活性化される。LIMKはRhoAの下流因子であるROCK、RacとCdc42の下流因子であるPAK、Cdc42の下流因子であるMRCKαによってキナーゼドメイン内の活性化ループの508番目のスレオニン(LIMK2では505番目)がリン酸化され活性化される<ref name=Edwards1999><pubmed>10559936</pubmed></ref><ref name=Maekawa1999><pubmed>10436159</pubmed></ref><ref name=Ohashi2000><pubmed>10652353</pubmed></ref><ref name=Sumi2001><pubmed>11340065</pubmed></ref>。RhoA-ROCK経路によるLIMKの活性化は収縮性のアクトミオシンであるストレスファイバーの形成を促進し、Rac1やCdc42の下流でPAKによって活性化される場合には、細胞の辺縁で突出するひだ状のアクチン構造であるラメリポディア(葉状仮足)の形成に寄与する。このように、LIMKはRhoファミリーの下流で他のシグナルの分子群と共役して、様々なアクチン骨格構造の形成に関与する<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。一方、Rho経路を介さずにLIMKの活性を制御するタンパク質や、LIMKの発現や分解を制御する多くの因子が見出されている(表2)<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref><ref name=BenZablah2021><pubmed>34440848</pubmed></ref>。
 主な働きは、コフィリンの3番目のセリン残基をリン酸化することで不活性化し、アクチン線維の切断・脱重合を抑制してアクチン骨格構造を安定化し、アクチン重合を促進することである('''図1''')<ref name=Arber1998><pubmed>9655397</pubmed></ref><ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。アクチン骨格構造の動態制御は多くの細胞活動の基盤であり、LIMKは様々な細胞機能において重要な制御機能を担っている。
 
 LIMKは複数のシグナル経路で活性が制御されることが明らかにされている<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。最も主要な経路として、LIMKは低分子量Gタンパク質Rhoファミリーの下流で活性化される。LIMKは[[RhoA]]の下流因子である[[ROCK]]、[[Rac]]と[[Cdc42]]の下流因子である[[PAK]]、Cdc42の下流因子である[[myotonic dystrophy kinase-related Cdc42-binding kinase α]] ([[MRCKα]])によってキナーゼドメイン内の活性化ループの508番目のスレオニン(LIMK2では505番目)がリン酸化され活性化される<ref name=Edwards1999><pubmed>10559936</pubmed></ref><ref name=Maekawa1999><pubmed>10436159</pubmed></ref><ref name=Ohashi2000><pubmed>10652353</pubmed></ref><ref name=Sumi2001><pubmed>11340065</pubmed></ref>。RhoA-ROCK経路によるLIMKの活性化は収縮性の[[アクトミオシン]]であるストレスファイバーの形成を促進し、Rac1やCdc42の下流でPAKによって活性化される場合には、細胞の辺縁で突出するひだ状のアクチン構造であるラメリポディア(葉状仮足)の形成に寄与する。このように、LIMKはRhoファミリーの下流で他のシグナルの分子群と共役して、様々なアクチン骨格構造の形成に関与する<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。一方、Rho経路を介さずにLIMKの活性を制御するタンパク質や、LIMKの発現や分解を制御する多くの因子が見出されている(表2)<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref><ref name=BenZablah2021><pubmed>34440848</pubmed></ref>。
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|+表2. LIMKの制御因子
|+表2. LIMKの制御因子