「スリングショット」の版間の差分

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== スリングショットとは ==
== スリングショットとは ==
 最初、ショウジョウバエの羽の毛や背の剛毛の形態異常の変異体の原因遺伝子として同定された。変異体では剛毛の先が二股に分かれるY字型の形状をもつことからslingshotと名付けられた<ref name=Niwa2002><pubmed>11832213</pubmed></ref> [1]。この遺伝子は、二重特異性ホスファターゼ(Dual-specificity phosphatase)に属するタンパク質脱リン酸化酵素をコードしていた。また、剛毛の形態異常はアクチン骨格の制御因子の変異に起因する例が知られており、slingshot変異細胞ではアクチンの過重合がみられることから、SSHの基質の候補としてアクチン線維の切断・脱重合因子であり、脱リン酸化によって活性化されるコフィリンが推測された。その可能性は哺乳類の培養細胞を用いて検討され、コフィリンがSSHの基質であることが明らかにされた[1]。ショウジョウバエにおけるssh遺伝子の機能不全は、毛だけではなく、上皮組織、個眼などでアクチンの過重合を伴う形態異常を示す。コフィリンのリン酸化酵素であるLIMキナーゼ (LIMK)を過剰発現させてもアクチンの過重合が生じるが、LIMKとSSHを共発現させると過重合がなくなることから、SSHはコフィリン脱リン酸化酵素であることが支持された<ref name=Niwa2002><pubmed>11832213</pubmed></ref> [1]。
 最初、ショウジョウバエの羽の毛や背の剛毛の形態異常の変異体の原因遺伝子として同定された。変異体では剛毛の先が二股に分かれるY字型の形状をもつことからslingshotと名付けられた<ref name=Niwa2002><pubmed>11832213</pubmed></ref> [1]。この遺伝子は、二重特異性ホスファターゼ(Dual-specificity phosphatase)に属するタンパク質脱リン酸化酵素をコードしていた。また、剛毛の形態異常はアクチン骨格の制御因子の変異に起因する例が知られており、slingshot変異細胞ではアクチンの過重合がみられることから、SSHの基質の候補としてアクチン線維の切断・脱重合因子であり、脱リン酸化によって活性化されるコフィリンが推測された。その可能性は哺乳類の培養細胞を用いて検討され、コフィリンがSSHの基質であることが明らかにされた[1]。ショウジョウバエにおけるssh遺伝子の機能不全は、毛だけではなく、上皮組織、個眼などでアクチンの過重合を伴う形態異常を示す。コフィリンのリン酸化酵素であるLIMキナーゼ (LIMK)を過剰発現させてもアクチンの過重合が生じるが、LIMKとSSHを共発現させると過重合がなくなることから、SSHはコフィリン脱リン酸化酵素であることが支持された<ref name=Niwa2002><pubmed>11832213</pubmed></ref> [1]。
 
[[ファイル:Ohashi LIMK Fig1.png|サムネイル|'''図1. コフィリンのリン酸化・脱リン酸化によるアクチン骨格のダイナミクス制御]]
 コフィリンは、哺乳類では非筋肉型コフィリン(別名n-cofilin、cofilin-1)、筋肉型コフィリン(別名m-cofilin、cofilin-2)、Actin depolymerizing factor(ADF)(別名デストリン(Destrin))の3種類が存在し、同様の機能をもち、同様のリン酸化制御を受ける<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref> [2]。本項ではこれらを総称してコフィリンと表記する。ショウジョウバエではssh遺伝子は1種類であるが、哺乳類では類似した3種類の遺伝子が存在している(ssh1, ssh2, ssh3)。それら全て、コフィリンに対する脱リン酸化活性を有する。
 コフィリンは、哺乳類では非筋肉型コフィリン(別名n-cofilin、cofilin-1)、筋肉型コフィリン(別名m-cofilin、cofilin-2)、Actin depolymerizing factor(ADF)(別名デストリン(Destrin))の3種類が存在し、同様の機能をもち、同様のリン酸化制御を受ける<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref> [2]。本項ではこれらを総称してコフィリンと表記する。ショウジョウバエではssh遺伝子は1種類であるが、哺乳類では類似した3種類の遺伝子が存在している(ssh1, ssh2, ssh3)。それら全て、コフィリンに対する脱リン酸化活性を有する。


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[[ファイル:Ohashi SSH Fig2.png|サムネイル|'''図2. SSHファミリーの構造と機能制御に関与する部位'''<br>リン酸化を受けるセリン残基、アクチン線維との結合部位、リン酸化コフィリン認識部位、SQSTM1/p62結合部位をSSH1に示す。 A: Aドメイン、B: Bドメイン、P: ホスファターゼドメイン、S: セリンリッチドメイン]]
[[ファイル:Ohashi SSH Fig2.png|サムネイル|'''図2. SSHファミリーの構造と機能制御に関与する部位'''<br>リン酸化を受けるセリン残基、アクチン線維との結合部位、リン酸化コフィリン認識部位、SQSTM1/p62結合部位をSSH1に示す。 A: Aドメイン、B: Bドメイン、P: ホスファターゼドメイン、S: セリンリッチドメイン]]
== サブファミリーと構造 ==
== サブファミリーと構造 ==
 SSHは、哺乳類で類似した3種類のSSH1, SSH2, SSH3が存在しファミリーを形成している。各々、スプライシングバリアントが存在し、一番長い転写産物をSSH1L, SSH2L, SSH3Lと区別する場合があるが[1]、本項ではこれら一番長いものをSSH1, SSH2, SSH3と表記する。それらはN末端側にA, Bと名付けられたファミリー間で保存された領域があり、続いてフォスファターゼドメインを持つ('''図2''')。フォスファターゼドメインは、リン酸化されたチロシン残基とセリン/スレオニン残基の両方を脱リン酸化する二重特異性脱リン酸化酵素に類似した配列を有している。SSH1がコフィリンに対する脱リン酸化活性を発揮するためにはN末端のA,Bドメインが必要である<ref name=Kurita2008><pubmed>18809681</pubmed></ref> [4]。フォスファターゼドメインに続くC末端側は、SSH1, SSH2とSSH3では異なり、SSH1とSSH2はC末端付近にリン酸化修飾を受けるセリンに富む短い領域が存在するが、SSH3はそれらに比べてC末端領域は短く、セリンに富む短い領域は存在しない<ref name=Mizuno2013></ref> [2]。
 SSHは、哺乳類で類似した3種類のSSH1, SSH2, SSH3が存在しファミリーを形成している。各々、スプライシングバリアントが存在し、一番長い転写産物をSSH1L, SSH2L, SSH3Lと区別する場合があるが[1]、本項ではこれら一番長いものをSSH1, SSH2, SSH3と表記する。それらはN末端側にA, Bと名付けられたファミリー間で保存された領域があり、続いてフォスファターゼドメインを持つ('''図2''')。フォスファターゼドメインは、リン酸化されたチロシン残基とセリン/スレオニン残基の両方を脱リン酸化する二重特異性脱リン酸化酵素に類似した配列を有している。SSH1がコフィリンに対する脱リン酸化活性を発揮するためにはN末端のA,Bドメインが必要である<ref name=Kurita2008><pubmed>18809681</pubmed></ref> [4]。フォスファターゼドメインに続くC末端側は、SSH1, SSH2とSSH3では異なり、SSH1とSSH2はC末端付近にリン酸化修飾を受けるセリンに富む短い領域が存在するが、SSH3はそれらに比べてC末端領域は短く、セリンに富む短い領域は存在しない<ref name=Mizuno2013></ref> [2]。

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