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== 脳神経系における機能 ==
== 脳神経系における機能 ==
 コフィリンのリン酸化・脱リン酸化は、アクチン骨格の動的状態を制御する重要な反応であり、細胞の形態、運動性など様々な細胞応答に関与する。SSH1, SSH2, SSH3はLIMK1, LIMK2とともに脳神経にも発現しており、これらによるコフィリンのアクチン脱重合活性の正と負の制御によって神経突起の伸展・退縮やスパインの形成に関与する。
 コフィリンのリン酸化・脱リン酸化は、アクチン骨格の動的状態を制御する重要な反応であり、細胞の形態、運動性など様々な細胞応答に関与する。SSH1, SSH2, SSH3は[[LIMK1]], [[LIMK2]]とともに脳神経にも発現しており、これらによるコフィリンのアクチン脱重合活性の正と負の制御によって[[神経突起]]の伸展・退縮や[[スパイン]]の形成に関与する。
=== 神経突起の伸展、退縮 ===
=== 神経突起の伸展、退縮 ===
 トリ後根神経節(DRG)細胞の神経突起やラット副腎髄質褐色腫由来のPC12細胞に対するNGFによる神経突起形成において、LIMK1やSSH1、SSH2の発現抑制はどちらも突起伸展を抑制する。また、LIMK1の過剰発現はコフィリンの過度の不活性化により伸展が抑制される<ref name=Endo2003><pubmed>12684437</pubmed></ref><ref name=Endo2007><pubmed>17360713</pubmed></ref> [22][23]。また、マウスDRG細胞に対するセマフォリンによる成長円錐の退縮や大脳皮質細胞に対するミエリン由来のNogo-66による神経突起の退縮の過程では、刺激直後にコフィリンはリン酸化が促進され、その後、SSH1による脱リン酸化が促進することが示されている<ref name=Aizawa2001><pubmed>11276226</pubmed></ref><ref name=Hsieh2006><pubmed>16421320</pubmed></ref> [24][25]。アフリカツメガエルの胚の脊髄神経細胞の初代培養において、培養後初期の4〜8時間ではBMP7の濃度勾配によって神経突起伸展が誘引されるが、一晩培養後の細胞ではBMP7の濃度勾配に対して反発が起こる。初期の突起伸展の誘引はLIMK1に依存しており、一晩培養後の反発への変換にはTRPチャネル依存的なカルシウム流入によるカルシニューリンの活性化、それに続くSSH1の活性化が必要であることが明らかにされた<ref name=Wen2007><pubmed>17606869</pubmed></ref> [26]。微小管関連蛋白質であるneuron navigator 2 (NAV2)のショウジョウバエのホモログであるSickieは、アクチン線維が豊富なキノコ体の神経軸索に局在してRac依存的な軸索の伸長に寄与する。遺伝学的な解析により、SickieはRacの下流で(Pakを介さずに)SSHによるコフィリンの脱リン酸化を促進し、軸索の伸長に寄与することが示された<ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [27]。一方、RacはPakを介してLIMKを活性化し、コフィリンのリン酸化を促進する働きもある。sickieの変異体ではRacによるSSHの活性化が抑制され、LIMKの活性化だけが促進されるため、コフィリンの過剰なリン酸化が起こり、そのためアクチン線維のダイナミクスが低下し、軸索の伸長が阻害されると考えられる[27]。つまり、LIMKによるコフィリンのリン酸化(不活性化)とSSHによるコフィリンの脱リン酸化(活性化)の両方が軸索の伸長におけるアクチン線維のダイナミクスの制御に必要であり、LIMKとSSHの活性の適切なバランスと時空間的な制御が神経突起の伸長と退縮を決定する要因となっていると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref><ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [2][27]。
 トリ[[後根神経節]]([[dorsal root ganglion]], [[DRG]])細胞の神経突起や[[ラット]][[副腎髄質]][[褐色細胞腫]]由来の[[PC12]]細胞に対する[[神経成長因子]]([[nerve growth factor]], [[NGF]])による神経突起形成において、LIMK1やSSH1、SSH2の発現抑制はどちらも突起伸展を抑制する。また、LIMK1の過剰発現はコフィリンの過度の不活性化により伸展が抑制される<ref name=Endo2003><pubmed>12684437</pubmed></ref><ref name=Endo2007><pubmed>17360713</pubmed></ref> [22][23]。また、マウスDRG細胞に対する[[セマフォリン]]による[[成長円錐]]の退縮や[[大脳皮質]]細胞に対する[[ミエリン]]由来の[[Nogo-66]]による神経突起の退縮の過程では、刺激直後にコフィリンはリン酸化が促進され、その後、SSH1による脱リン酸化が促進することが示されている<ref name=Aizawa2001><pubmed>11276226</pubmed></ref><ref name=Hsieh2006><pubmed>16421320</pubmed></ref> [24][25]
 
 [[アフリカツメガエル]][[胚]]の[[脊髄]]神経細胞の[[初代培養]]において、培養後初期の4〜8時間では[[骨形成タンパク質7]] ([[bone morphogenic protein 7]], [[BMP7]])の濃度勾配によって神経突起伸展が誘引されるが、一晩培養後の細胞ではBMP7の濃度勾配に対して反発が起こる。初期の突起伸展の誘引はLIMK1に依存しており、一晩培養後の反発への変換には[[TRPチャネル]]依存的な[[カルシウム]]流入によるカルシニューリンの活性化、それに続くSSH1の活性化が必要であることが明らかにされた<ref name=Wen2007><pubmed>17606869</pubmed></ref> [26]
 
 [[微小管]]関連タンパク質である[[neuron navigator 2]] ([[NAV2]])のショウジョウバエのホモログである[[Sickie]]は、アクチン線維が豊富な[[キノコ体]]の神経軸索に局在して[[Rac]]依存的な軸索の伸長に寄与する。遺伝学的な解析により、SickieはRacの下流で(Pakを介さずに)SSHによるコフィリンの脱リン酸化を促進し、軸索の伸長に寄与することが示された<ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [27]。一方、RacはPakを介してLIMKを活性化し、コフィリンのリン酸化を促進する働きもある。sickieの変異体ではRacによるSSHの活性化が抑制され、LIMKの活性化だけが促進されるため、コフィリンの過剰なリン酸化が起こり、そのためアクチン線維のダイナミクスが低下し、軸索の伸長が阻害されると考えられる[27]。つまり、LIMKによるコフィリンのリン酸化(不活性化)とSSHによるコフィリンの脱リン酸化(活性化)の両方が軸索の伸長におけるアクチン線維のダイナミクスの制御に必要であり、LIMKとSSHの活性の適切なバランスと時空間的な制御が神経突起の伸長と退縮を決定する要因となっていると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref><ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [2][27]。
 
=== スパイン形態の制御 ===
=== スパイン形態の制御 ===
 海馬スライス培養を用いた解析から長期抑制(LTD)の誘導によってスパイン後膜が細長く縮小する形態変化が見出されるが、これに対し、コフィリンのN末端のリン酸化ペプチドを細胞に導入してSSHの活性を抑制するとその形態変化が抑制されることが示された<ref name=Zhou2004><pubmed>15572107</pubmed></ref>[28]。また、大脳皮質神経細胞や皮質のスライス培養におけるAMPA受容体を介した興奮性シナプス後電流(excitatory postsynaptic current; EPSC)や長期増強(LTP)の発生にSSH1が必要であることが示された<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [29][20]。その分子機構として、SSH1はコフィリンの活性化によるアクチン骨格の再構築を介してAMPA受容体をスパインへ輸送することに寄与することが示されている<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [20][29]。エフリンAはチロシンキナーゼ型受容体のEph Aを介して樹状突起のスパインを細長い形態へと変化させることが見出され、その過程は、Eph Aからのシグナルがカルシニューリンを介したSSH1の活性化とコフィリンの活性化によって引き起こされることが示された<ref name=Zhou2012><pubmed>22282498</pubmed></ref> [30]。また、NMDAの刺激により海馬神経細胞の樹状突起の成熟したマッシュルーム様の形態をしたスパインが縮小するが、これにはβ-アレスチン-2がコフィリンと結合してスパインへコフィリンを輸送することが必要であること、β-アレスチン-2とともにスパインへ移行したSSH1は、コフィリンを脱リン酸化してスパインのリモデリングに寄与することが示された<ref name=Pontrello2012><pubmed> 22308427</pubmed></ref> [31]。
 海馬[[スライス]]培養を用いた解析から[[長期抑制]] ([[long-term depression]], [[LTD]])の誘導によってスパイン後膜が細長く縮小する形態変化が見出されるが、これに対し、コフィリンのN末端のリン酸化ペプチドを細胞に導入してSSHの活性を抑制するとその形態変化が抑制されることが示された<ref name=Zhou2004><pubmed>15572107</pubmed></ref>[28]。また、大脳皮質神経細胞や皮質のスライス培養における[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介した[[興奮性シナプス後電流]] ([[excitatory postsynaptic current]], [[EPSC]])や[[長期増強]]([[long-term potentiation]], [[LTP]])の発生にSSH1が必要であることが示された<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [29][20]。その分子機構として、SSH1はコフィリンの活性化によるアクチン骨格の再構築を介してAMPA型グルタミン酸受容体をスパインへ輸送することに寄与することが示されている<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [20][29]
 
 [[エフリンA]]は[[チロシンキナーゼ型受容体]]の[[EphA]]を介して樹状突起のスパインを細長い形態へと変化させることが見出され、その過程は、EphAからのシグナルがカルシニューリンを介したSSH1の活性化とコフィリンの活性化によって引き起こされることが示された<ref name=Zhou2012><pubmed>22282498</pubmed></ref> [30]。また、NMDAの刺激により海馬神経細胞の樹状突起の成熟した茸様の形態をしたスパインが縮小するが、これにはβ-アレスチン-2がコフィリンと結合してスパインへコフィリンを輸送することが必要であること、β-アレスチン-2とともにスパインへ移行したSSH1は、コフィリンを脱リン酸化してスパインのリモデリングに寄与することが示された<ref name=Pontrello2012><pubmed> 22308427</pubmed></ref> [31]。


== 神経細胞以外の細胞応答 ==
== 神経細胞以外の細胞応答 ==

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