「ヒアルロン酸」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:Oohashi Hyalronic acid Fig1.jpg|サムネイル|400px|'''図1. ヒアルロン酸とヒアルロン酸合成酵素'''<br>文献<ref name=Kobayashi2020 />9より改変]]
 ヒアルロン酸は、[[w:Karl Meyer (biochemist)|カール・マイヤー]]とジョン・パルマーによって1934年に牛の[[硝子体]]から発見された。[[N-アセチルグルコサミン]](GlcNAc)と[[グルクロン酸]](GlcA)の繰り返し単位から構成されており、これらの単位は交互に&beta;-1,3と&beta;-1,4結合で連結されている('''図1A''')。この2糖繰り返しのポリマーは、分子量が非常に高く、10<sup>5</sup>から10<sup>7</sup>Daの範囲である[1]<ref name=Itano2008><pubmed>18390876</pubmed></ref>。
 ヒアルロン酸は、[[w:Karl Meyer (biochemist)|カール・マイヤー]]とジョン・パルマーによって1934年に牛の[[硝子体]]から発見された。[[N-アセチルグルコサミン]](GlcNAc)と[[グルクロン酸]](GlcA)の繰り返し単位から構成されており、これらの単位は交互に&beta;-1,3と&beta;-1,4結合で連結されている('''図1A''')。この2糖繰り返しのポリマーは、分子量が非常に高く、10<sup>5</sup>から10<sup>7</sup>Daの範囲である[1]<ref name=Itano2008><pubmed>18390876</pubmed></ref>。


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== 機能・疾患とのかかわり ==
== 機能・疾患とのかかわり ==
 ヒアルロン酸は脳の細胞外マトリックスの主要な構成成分である。Has1 KO、Has2 cKOおよびHas3 KOマウスは、いずれも[[てんかん]]様活動を示す。このうち、Has3 KOマウスはてんかん発作の頻度が最も高く、[[海馬]]のヒアルロン酸マトリックスの著しい減少を示した[15]<ref name=Arranz2014><pubmed>24790187</pubmed></ref>。ちなみに、このHas3 KOマウスではペリニューロナルネット形成には影響を及ぼさずに細胞外空間が減少した。その高い水和力のため、ヒアルロン酸の欠乏は脳の細胞外空間容積の減少をもたらす。細胞外空間容積の減少は、主に[[エファプス]]相互作用の増強と細胞外[[カリウム]]濃度の上昇により、てんかん様活動を促進すると考察している。Mukhinaらが、海馬におけるヒアルロン酸の消化が出生後早期にけいれんを引き起こすかどうか試したところ、ヒアルロニダーゼの投与が新生児動物において[[聴覚]]誘発性けいれんを促進することが示された。ヒアルロン酸を酵素消化した後の海馬組織の[[トランスクリプトーム]]解析では、[[炎症]]反応に関連するタンパク質の遺伝子発現が増加していることが明らかになった[16]<ref name=Balashova2019><pubmed>31632233</pubmed></ref>。
 ヒアルロン酸は脳の細胞外マトリックスの主要な構成成分である。Has1 KO、Has2 cKOおよびHas3 KOマウスは、いずれも[[てんかん]]様活動を示す。このうち、Has3 KOマウスはてんかん発作の頻度が最も高く、[[海馬]]のヒアルロン酸マトリックスの著しい減少を示した[15]<ref name=Arranz2014><pubmed>24790187</pubmed></ref>。ちなみに、このHas3 KOマウスではペリニューロナルネット形成には影響を及ぼさずに細胞外空間が減少した。その高い水和力のため、ヒアルロン酸の欠乏は脳の細胞外空間容積の減少をもたらす。細胞外空間容積の減少は、神経細胞間での電場を介した相互作用(いわゆる[[エファプス相互作用]])の増強と、細胞外[[カリウム]]濃度の上昇により、てんかん様活動を促進すると考察している。Mukhinaらが、海馬におけるヒアルロン酸の消化が出生後早期にけいれんを引き起こすかどうか試したところ、ヒアルロニダーゼの投与が新生児動物において[[聴覚]]誘発性けいれんを促進することが示された。ヒアルロン酸を酵素消化した後の海馬組織の[[トランスクリプトーム]]解析では、[[炎症]]反応に関連するタンパク質の遺伝子発現が増加していることが明らかになった[16]<ref name=Balashova2019><pubmed>31632233</pubmed></ref>。


 関連した研究として、ヒアルロン酸が[[グルタミン酸]]のクリアランスを促進することで興奮性シグナルを遮断するのに役立つことが報告された。[[ヒアルロニダーゼ]]処理は[[ラット]]海馬培養においてニューロンを活性化し、グルタミン酸興奮毒性によるニューロン損傷を引き起こした。さらに、グリア型[[グルタミン酸トランスポーター1]] ([[GLT1]])をアストロサイトの細胞プロセスにリクルートする分子として[[CD44]]は除外され、その代わり3つのヒアルロン酸合成酵素アイソフォームすべての関与が示された[17]<ref name=Hayashi2019><pubmed>31188471</pubmed></ref>。過剰な細胞外グルタミン酸は、[[興奮毒性]]によるニューロン損傷を引き起こし多くの精神疾患に関与することが知られており、ヒアルロン酸がグルタミン酸のクリアランス促進に働くことは興味深い研究結果である。
 関連した研究として、ヒアルロン酸が[[グルタミン酸]]のクリアランスを促進することで興奮性シグナルを遮断するのに役立つことが報告された。[[ヒアルロニダーゼ]]処理は[[ラット]]海馬培養においてニューロンを活性化し、グルタミン酸興奮毒性によるニューロン損傷を引き起こした。さらに、グリア型[[グルタミン酸トランスポーター1]] ([[GLT1]])をアストロサイトの細胞プロセスにリクルートする分子として[[CD44]]は除外され、その代わり3つのヒアルロン酸合成酵素アイソフォームすべての関与が示された[17]<ref name=Hayashi2019><pubmed>31188471</pubmed></ref>。過剰な細胞外グルタミン酸は、[[興奮毒性]]によるニューロン損傷を引き起こし多くの精神疾患に関与することが知られており、ヒアルロン酸がグルタミン酸のクリアランス促進に働くことは興味深い研究結果である。