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[[転写調節因子]]としての機能を通じて、個体レベルでの多様な生理現象に関与する。 | [[転写調節因子]]としての機能を通じて、個体レベルでの多様な生理現象に関与する。 | ||
=== 転写調節 === | === 転写調節 === | ||
最も基本的な分子機能は、転写因子としての役割である。適切なパートナーと安定なヘテロ二量体を形成した後、標的遺伝子の[[プロモーター]]や[[エンハンサー]]領域に存在する[[E-boxコンセンサス配列]](主にCACGTGまたはその周辺配列)に特異的に結合する<ref name=Wu2016 /><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>('''図2''')。結合後、C末端領域などを介して[[コアクチベーター]](例:[[サイクリックAMP応答因子結合タンパク質]] ([[cAMP responsive element binding protein-binding protein]], [[CBP]]/[[p300]]) | 最も基本的な分子機能は、転写因子としての役割である。適切なパートナーと安定なヘテロ二量体を形成した後、標的遺伝子の[[プロモーター]]や[[エンハンサー]]領域に存在する[[E-boxコンセンサス配列]](主にCACGTGまたはその周辺配列)に特異的に結合する<ref name=Wu2016 /><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>('''図2''')。結合後、C末端領域などを介して[[コアクチベーター]](例:[[サイクリックAMP応答因子結合タンパク質-結合タンパク質]] ([[cAMP responsive element binding protein-binding protein]], [[CBP]]/[[p300]])と[[nuclear receptor coactivator 1]] ([[NCOA1]])/[[steroid receptor coactivator 1]] ([[SRC-1]]))やコリプレッサー(例: [[nuclear receptor corepressor 2]] ([[NCOR2]])/[[silencing mediator of retinoic acid and thyroid hormone receptor]] ([[SMRT]]))をリクルートすることにより、ヒストンの[[アセチル化]]・[[脱アセチル化]]などの[[クロマチン]]修飾を誘導し、標的遺伝子の転写効率を精密に正または負に制御する<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>。 | ||
=== パートナー選択性と標的遺伝子特異性 === | === パートナー選択性と標的遺伝子特異性 === | ||
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===シグナル伝達経路とのクロストーク === | ===シグナル伝達経路とのクロストーク === | ||
NPASファミリーの活動は、他の細胞内シグナル伝達経路と密接に連携している。例えば、NPAS4の発現は神経活動に伴う[[カルシウム]]流入によって厳密に制御されており <ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref>、[[カルシウム/カルモジュリン依存的タンパク質リン酸化酵素]]や[[転写因子]] ([[cAMP response element-binding protein]] | NPASファミリーの活動は、他の細胞内シグナル伝達経路と密接に連携している。例えば、NPAS4の発現は神経活動に伴う[[カルシウム]]流入によって厳密に制御されており <ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref>、[[カルシウム/カルモジュリン依存的タンパク質リン酸化酵素]] ([[Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase|Ca<sup>2+</sup>/calmodulin-dependent protein kinase]], [[CaMK]])や[[転写因子]] ([[cAMP response element-binding protein]], [[CREB]]と[[myocyte enhancer factor 2]] ([[MEF2]]))がNPAS4遺伝子の発現制御に関与している<ref name=Sun2016><pubmed>26987258</pubmed></ref>。また、NPAS2の活性は概日時計のフィードバックループや代謝産物によって調節される<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Eckel-Mahan2013><pubmed>23303907</pubmed></ref>。このように、NPASファミリーは様々な細胞内外の刺激に応答し、それを転写レベルの変化へと変換する重要な結節点として機能している。 | ||
==NPAS1== | ==NPAS1== | ||
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== NPAS2 == | == NPAS2 == | ||
=== 組織分布 === | === 組織分布 === | ||
中枢神経系では、[[概日リズム]]の中枢である[[視交叉上核]]([[suprachiasmatic nucleus]], [[SCN]])に加えて、大脳皮質、[[海馬]]、[[線条体]]などの[[前脳]]領域で広く発現している<ref name=Reick2001 /> | 中枢神経系では、[[概日リズム]]の中枢である[[視交叉上核]]([[suprachiasmatic nucleus]], [[SCN]])に加えて、大脳皮質、[[海馬]]、[[線条体]]などの[[前脳]]領域で広く発現している<ref name=Reick2001 />。末梢組織では、[[肝臓]]、[[腎臓]]、肺、[[心臓]]などでも発現が確認されている<ref name=Hogenesch1997><pubmed>9079689</pubmed></ref><ref name=Storch2002><pubmed>11967526</pubmed></ref>。SCNや肝臓においては、その[[mRNA]]およびタンパク質レベルが[[概日周期]]に従ってリズミカルに変動することが知られている<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Storch2002 />。 | ||
=== 機能 === | === 機能 === | ||
==== リガンド応答性 ==== | ==== リガンド応答性 ==== | ||
NPAS2は[[ヘム]]をリガンドとして結合し、細胞内のガス状分子([[CO]], [[酸素|O<sub>2</sub>]], [[NO]])の濃度変化に応じてその立体構造や転写活性が変化する可能性が示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>。これにより、NPAS2は細胞の代謝状態(例:ヘム生合成レベル)やガス環境を感知し、概日リズムや代謝関連遺伝子の発現を調節する役割を担っていると考えられる<ref name=Kitanishi2008><pubmed>18479150</pubmed></ref>。NPAS1, 3, 4も、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットを有することが構造的に示されており<ref name=Wu2016 /><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>('''図2''')、これらのタンパク質は未知の内因性リガンドによって活性が制御されている可能性が考えられる。 | NPAS2は[[ヘム]]をリガンドとして結合し、細胞内のガス状分子([[CO]], [[酸素|O<sub>2</sub>]], [[NO]])の濃度変化に応じてその立体構造や転写活性が変化する可能性が示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>。これにより、NPAS2は細胞の代謝状態(例:ヘム生合成レベル)やガス環境を感知し、概日リズムや代謝関連遺伝子の発現を調節する役割を担っていると考えられる<ref name=Kitanishi2008><pubmed>18479150</pubmed></ref>。NPAS1, 3, 4も、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットを有することが構造的に示されており<ref name=Wu2016 /><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>('''図2''')、これらのタンパク質は未知の内因性リガンドによって活性が制御されている可能性が考えられる。 | ||
==== 概日リズム制御 ==== | ==== 概日リズム制御 ==== | ||
視交叉上核(SCN)において、CLOCKと共にコア[[時計遺伝子]](period ( | 視交叉上核(SCN)において、CLOCKと共にコア[[時計遺伝子]](period (PER)、cryptochrome (CRY)など)の転写を制御する転写活性化因子として機能し、約24時間周期の概日リズム発振に寄与する<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Parekh2019><pubmed>30962277</pubmed></ref>。末梢組織(肝臓、肺など)においても、それぞれの組織における概日時計の維持に関与する<ref name=Storch2002><pubmed>11967526</pubmed></ref>。NPAS2変異マウスは、正常な光周期下では比較的正常な活動リズムを示すが、恒常暗黒下での活動周期の不安定性や、特定の光パルスに対する位相シフト反応の変化、睡眠ホメオスタシスの異常などを示す<ref name=Dudley2003><pubmed>12843397</pubmed></ref><ref name=Mongrain2011><pubmed>22039518</pubmed></ref>。 | ||
==== 代謝調節 ==== | ==== 代謝調節 ==== | ||
特に肝臓において、[[糖新生]]や[[脂質]]代謝に関わる遺伝子の発現を概日的に制御し、[[エネルギー恒常性]]の維持に関与する<ref name=Lee2015><pubmed>25212631</pubmed></ref><ref name=Ma2023><pubmed>36978001</pubmed></ref>。 | 特に肝臓において、[[糖新生]]や[[脂質]]代謝に関わる遺伝子の発現を概日的に制御し、[[エネルギー恒常性]]の維持に関与する<ref name=Lee2015><pubmed>25212631</pubmed></ref><ref name=Ma2023><pubmed>36978001</pubmed></ref>。 | ||
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=== 機能 === | === 機能 === | ||
==== 神経活動依存的な遺伝子発現のマスターレギュレーター ==== | ==== 神経活動依存的な遺伝子発現のマスターレギュレーター ==== | ||
NPAS4は、[[興奮性ニューロン]]での標的遺伝子([[BDNF]]など)を活性化させて、[[抑制性シナプス]]の数を増加させることで、回路全体の活動を低下させる一方、抑制性ニューロンでの標的遺伝子([[MDM2]]など)を不活性化させて、[[シナプス形成]]を促進し[[GABA]]の放出を増加させることで、回路全体の活動を低下させるという、[[恒常的な可塑性]]を維持する役割を果たす('''図3''')。 | NPAS4は、[[興奮性ニューロン]]での標的遺伝子([[神経栄養因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]])など)を活性化させて、[[抑制性シナプス]]の数を増加させることで、回路全体の活動を低下させる一方、抑制性ニューロンでの標的遺伝子([[MDM2]]など)を不活性化させて、[[シナプス形成]]を促進し[[GABA]]の放出を増加させることで、回路全体の活動を低下させるという、[[恒常的な可塑性]]を維持する役割を果たす('''図3''')。 | ||
ニューロンが活動すると迅速に発現が誘導され、その後、抑制性シナプスの形成や機能に関わる遺伝子群([[glutamate decarboxylase 1]]/[[glutamate decarboxylase 2|2]] ([[GAD1]])/[[GAD2|2]]), [[ソマトスタチン]] ([[ | ニューロンが活動すると迅速に発現が誘導され、その後、抑制性シナプスの形成や機能に関わる遺伝子群([[glutamate decarboxylase 1]]/[[glutamate decarboxylase 2|2]] ([[GAD1]])/[[GAD2|2]]), [[ソマトスタチン]] ([[somatostatin]], [[SST]])、[[BDNF]])、[[イオンチャネル]]、その他の転写因子など、多岐にわたる標的遺伝子の発現を協調的に制御する<ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref><ref name=Bloodgood2013><pubmed>24201284</pubmed></ref><ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref><ref name=Spiegel2014 />。これにより、神経回路の活動レベルに応じた適応的な変化を引き起こす。 | ||
[[Fos]]、Npas4、[[Egr1]]などの最初期遺伝子(immediately early gene: IEG)のプロモーターでは、感覚刺激により[[topoisomerase IIβ]]([[TOP2B]])を介してDNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)が形成される。マウス海馬ニューロンを[[カイニン酸]]で刺激した2時間後に観察されるDSB部位の大部分(69%)は、NPAS4/ARNTヘテロダイマーが最も多く結合しているNpas4遺伝子座と重なっていた<ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref>('''図4''')。 | [[Fos]]、Npas4、[[Egr1]]などの最初期遺伝子(immediately early gene: IEG)のプロモーターでは、感覚刺激により[[topoisomerase IIβ]]([[TOP2B]])を介してDNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)が形成される。マウス海馬ニューロンを[[カイニン酸]]で刺激した2時間後に観察されるDSB部位の大部分(69%)は、NPAS4/ARNTヘテロダイマーが最も多く結合しているNpas4遺伝子座と重なっていた<ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref>('''図4''')。 | ||