「成長円錐」の版間の差分

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=== アクチン繊維の動態  ===
=== アクチン繊維の動態  ===


周辺部に存在するアクチン繊維は、プラス端を成長円錐先端に、[[マイナス端]]を中心部側に向けて規則正しく配置されており、単量体アクチンのアクチン繊維への付加は主に先端部で、アクチン繊維の解離は主に中心部側で起こる。同時にアクチン繊維全体は[[モータータンパク質]]である[[ミオシン(myosin)Ⅰb]]や[[ミオシンⅡ]]の作用により一定の速度(約5 μm/min)で先端部から中心部へと移動している。そのため、見かけ上、周辺部が運動を停止しているような場合でも、その内部に存在するアクチン繊維は先端部から中心部へと運ばれており、その移動分を補うように先端部では重合、中心部では脱重合が続いている[[(トレッドミル)]]。
周辺部に存在するアクチン繊維は、プラス端を成長円錐先端に、[[マイナス端]]を中心部側に向けて規則正しく配置されており、単量体アクチンのアクチン繊維への付加は主に先端部で、アクチン繊維の解離は主に中心部側で起こる。同時にアクチン繊維全体は[[モータータンパク質]]である[[ミオシン(myosin)Ⅰb]]や[[ミオシンⅡ]]の作用により一定の速度(約5 μm/min)で先端部から中心部へと移動している。そのため、見かけ上、周辺部が運動を停止しているような場合でも、その内部に存在するアクチン繊維は先端部から中心部へと運ばれており、その移動分を補うように先端部では重合、中心部では脱重合が続いている[[(トレッドミル)]]。  


=== 接着分子 ===  
=== 接着分子 ===


成長円錐の形質膜には[[免疫グロブリン]](immunogloblin)ファミリー、[[カドヘリン]](cadherin)ファミリー、[[インテグリン]](integrin)ファミリーなどの接着分子が発現しており、[[細胞外基質]]、または隣接する細胞との接着を媒介している。多くの場合、細胞外領域での接着分子の[[リガンド]]結合および細胞表面での接着分子[[クラスタリング]]は細胞内領域における接着分子とアクチン繊維間の結合を誘導する。例えば、インテグリン細胞外領域における[[フィブロネクチン]](fibronectin)との結合は、インテグリン細胞内領域と細胞骨格の結合を引き起こす。このような接着分子-アクチン繊維間の結合は、接着分子の接着性を増強するとともに、アクチン繊維の後方移動により発生した牽引力を細胞外周囲環境に伝達し、その結果として成長円錐が前方に推進されると考えられている。  
成長円錐の形質膜には[[免疫グロブリン]](immunogloblin)ファミリー、[[カドヘリン]](cadherin)ファミリー、[[インテグリン]](integrin)ファミリーなどの接着分子が発現しており、[[細胞外基質]]、または隣接する細胞との接着を媒介している。多くの場合、細胞外領域での接着分子の[[リガンド]]結合および細胞表面での接着分子[[クラスタリング]]は細胞内領域における接着分子とアクチン繊維間の結合を誘導する。例えば、インテグリン細胞外領域における[[フィブロネクチン]](fibronectin)との結合は、インテグリン細胞内領域と細胞骨格の結合を引き起こす。このような接着分子-アクチン繊維間の結合は、接着分子の接着性を増強するとともに、アクチン繊維の後方移動により発生した牽引力を細胞外周囲環境に伝達し、その結果として成長円錐が前方に推進されると考えられている。  
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=== クラッチ分子  ===
=== クラッチ分子  ===


成長円錐の前方移動の仕組みを自動車の走行に例えると、エンジンの役割を果たすのがアクチン繊維の動態(重合・脱重合・後方移動)であり、タイヤの役割を果たすのが周辺環境と接着している接着分子である。このエンジンとタイヤをつなぐ役割を果たすものがクラッチ分子と呼ばれ、アクチン繊維の動態を、接着分子を介した成長円錐の推進力へと変換する役割を持っている。成長円錐内においてクラッチ分子の実態および制御機構は不明な点が多いが、アクチン繊維とL1間のクラッチ分子として[[シューティン]](shootin)が同定され、アンキリンや[[カテニン]](catenin)といった[[リンカー分子]]もクラッチ分子として機能すると考えられている。
成長円錐の前方移動の仕組みを自動車の走行に例えると、エンジンの役割を果たすのがアクチン繊維の動態(重合・脱重合・後方移動)であり、タイヤの役割を果たすのが周辺環境と接着している接着分子である。このエンジンとタイヤをつなぐ役割を果たすものがクラッチ分子と呼ばれ、アクチン繊維の動態を、接着分子を介した成長円錐の推進力へと変換する役割を持っている。成長円錐内においてクラッチ分子の実態および制御機構は不明な点が多いが、アクチン繊維とL1間のクラッチ分子として[[シューティン]](shootin)が同定され、アンキリンや[[カテニン]](catenin)といった[[リンカー分子]]、エズリン(ezrin)などもクラッチ分子として機能すると考えられている。


=== 接着分子のリサイクリング  ===
=== 接着分子のリサイクリング  ===
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ケージドカルシウム光解離法を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動が誘導される。また、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると成長円錐の誘引-反発応答が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは誘引性、反発性を問わず軸索ガイダンスシグナルの中心的役割を担っていると考えられている。  
ケージドカルシウム光解離法を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動が誘導される。また、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると成長円錐の誘引-反発応答が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは誘引性、反発性を問わず軸索ガイダンスシグナルの中心的役割を担っていると考えられている。  


成長円錐の誘引、反発という全く逆の応答の両方にカルシウムシグナルが関与することは非常に興味深く、カルシウムシグナルによる誘引-反発の決定機構として、現在2つのモデルが提唱されている。  
カルシウムシグナルによる誘引-反発の決定機構として、現在2つのモデルが提唱されている。  


1つは成長円錐内で上昇するカルシウムイオン濃度の絶対量による差が誘引-反発を決定するというモデルで、高カルシウムイオン流入は誘引性応答を、低カルシウムイオン流入は反発性応答を誘導するとされている。
1つは成長円錐内で上昇するカルシウムイオン濃度の絶対量による差が誘引-反発を決定するというモデルで、高カルシウムイオン流入は誘引性応答を、低カルシウムイオン流入は反発性応答を誘導するとされている。  


2つ目は誘引-反発は流入するカルシウムチャネルの種類に依存するというモデルで、小胞体ストアからのカルシウム放出を伴うと誘引性、それ以外のカルシウムシグナルは反発性応答を誘導するというものである。このモデルでは、各種カルシウムチャネルの近傍に存在するカルシウム感受性分子の種類の違いが誘引-反発の応答を決定すると考えられている。  
2つ目は誘引-反発は流入するカルシウムチャネルの種類に依存するというモデルで、小胞体ストアからのカルシウム放出を伴うと誘引性、それ以外のカルシウムシグナルは反発性応答を誘導するというものである。このモデルでは、各種カルシウムチャネルの近傍に存在するカルシウム感受性分子の種類の違いが誘引-反発の応答を決定すると考えられている。  


誘引-反発のカルシウムシグナルの下流因子として、誘引性カルシウムシグナルにはカルモジュリン依存性リン酸化酵素であるCaMキナーゼⅡ(CaMKⅡ)が、反発性カルシウムシグナルには脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(calcineurin)がそれぞれ中心的な役割を担っていると考えられている。
誘引-反発のカルシウムシグナルの下流因子として、誘引性カルシウムシグナルにはカルモジュリン依存性リン酸化酵素であるCaMキナーゼⅡ(CaMKⅡ)が、反発性カルシウムシグナルには脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(calcineurin)がそれぞれ中心的な役割を担っていると考えられている。  


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==== 膜トラフィッキング  ====
==== 膜トラフィッキング  ====
エキソサイトーシスとエンドサイトーシスといった細胞膜トラフィッキングも軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の旋回運動に関与する。一般に誘引性シグナルではエキソサイトーシスが、反発性シグナルではエンドサイトーシスが成長円錐内で非対称に促進され、成長円錐が旋回運動を呈すると考えられている。


==== 局所タンパク質合成と分解  ====
==== 局所タンパク質合成と分解  ====
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Holtのグループは、細胞体から切り離した軸索の成長円錐のネトリン-1への誘引応答がタンパク質合成阻害剤により消失することを報告した。このことは成長円錐の旋回運動には成長円錐における局所タンパク質合成が必要であることを示している。その後、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが報告されている。  
Holtのグループは、細胞体から切り離した軸索の成長円錐のネトリン-1への誘引応答がタンパク質合成阻害剤により消失することを報告した。このことは成長円錐の旋回運動には成長円錐における局所タンパク質合成が必要であることを示している。その後、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが報告されている。  


軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1による軸索誘引では、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を阻害しているが、ネトリン-1のDCCへの結合によりリボソームがDCCから解離することでタンパク質合成が起きることが報告されている。また、BDNFの誘引シグナルでは受容体TrkBの下流でチロシンキナーゼであるSrcがRNA結合タンパク質であるZBP1をリン酸化し、β-アクチンmRNAの構造変化を誘導して翻訳を促進すると考えられている。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称なβ-アクチンmRNAの翻訳が誘発されることも報告されており、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在する。  
軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1による軸索誘引では、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を阻害しているが、ネトリン-1のDCCへの結合によりリボソームがDCCから解離することでタンパク質合成が起きることが報告されている。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称なβ-アクチンmRNAの翻訳が誘発されることも報告されており、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在する。  


また、最近になり、マイクロRNA(miRNA)によるタンパク質翻訳が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  
また、最近になり、マイクロRNA(miRNA)による局所タンパク質翻訳制御が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  


一方、成長円錐においてユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解システムも機能しており、これも旋回運動に関与すると考えられ、今後軸索ガイダンスシグナルにより分解が促進されるタンパク質群の同定や、分解系の活性化機構の解明が待たれる。  
一方、成長円錐においてユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解システムも機能しており、これも旋回運動に関与すると考えられ、今後軸索ガイダンスシグナルにより分解が促進されるタンパク質群の同定や、分解系の活性化機構の解明が待たれる。  
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