17,548
回編集
細 (塩素チャネルへのリダイレクト) |
細 (塩素チャネル へのリダイレクトを解除しました) タグ: リダイレクト解除 |
||
| 1行目: | 1行目: | ||
<div align="right"> | |||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0077654 秋田 天平]、[http://researchmap.jp/read0096747 熊田 竜郎]、[http://researchmap.jp/atsuofukuda 福田 敦夫]</font><br> | |||
''浜松医科大学 医学部''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月7日 原稿完成日:2013年4月5日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
</div> | |||
{{box|text= 細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇に応じて活性化される塩素チャネルである。古くから神経系の細胞を含む、様々な細胞種で確認されていた最も典型的なカルシウム依存性塩素チャネル(CaCC)の主な責任分子が、近年[[Anoctamin]]/[[TMEM16]]ファミリーの[[Ano1]]/[[TMEM16A]]及び[[Ano2]]/[[TMEM16B]]であることが確定した<ref name="ref2"><pubmed>22090471</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>19827947</pubmed></ref>。また、[[卵黄状黄斑ジストロフィ]]([[ベスト病]])の原因遺伝子として主に[[網膜色素上皮]]に発現し、神経系全般にも或る程度の発現が認められているBestrophinファミリー(Best1-4)もCaCC活性を持つことが知られている<ref name="ref4"><pubmed>18391176</pubmed></ref>。なお、かつてCaCCの候補として挙げられていた[[CLCA]]及び[[TTYH]]ファミリーのCaCCとしての機能については、現在否定的な見解が占める。}} | |||
== 構造 == | |||
[[Image:CaCC.JPG|thumb|right|270px|'''図.カルシウム依存性塩素チャネルの一つAno1(TMEM16A)チャネルの構造'''<br>細胞質側にN末端とC末端を持ち、8回膜貫通領域から成る構造が示唆されている。(<ref name=ref8><pubmed>19153558</pubmed></ref>より転載)。]] | |||
=== Anoctamin/TMEM16ファミリー === | |||
Ano1/TMEM16Aについては、近年二量体を形成していることが示され、アミノ酸疎水性度の解析から、各サブユニットは8回膜貫通領域を持ち、細胞質側に大きなN末端とC末端から成る構造物を持つことが示唆されている('''図''')。ポア領域やCa<sup>2+</sup>結合部位及び[[電位センサー]]部位は未だ同定されていないが、他のCa<sup>2+</sup>依存性、電位依存性イオンチャネルでよく知られる構造との類似性は認められていない。 | |||
=== Bestrophinファミリー === | |||
Bestrophinチャネルも少なくとも二量体以上の多量体を形成し、各サブユニットは少なくとも4つの膜貫通領域を持つことが示唆されている。各サブユニットのC末端側に、酸性アミノ酸のクラスター領域と[[EFハンドモチーフ]]で構成されるCa<sup>2+</sup>結合部位がある。Ca<sup>2+</sup>結合後にN末端とC末端領域の相互作用が起こり活性化することが、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]Best1で示されている。 | |||
== 発現 == | |||
Ano1/TMEM16Aは神経系では主に[[末梢神経]]系([[後根神経節]]や[[交感神経節]]細胞)に強い発現が認められる。Ano2/TMEM16Bは特に網膜や[[嗅神経]]で多く、脳内では[[大脳皮質]]、[[中脳]]、[[脳幹]]部に或る程度の発現が報告されている。 | |||
BestrophinファミリーのBest1は広く神経、グリア双方で発現が報告されており、Best2は特に嗅神経での発現が認められている。Best3、Best4は神経系でのタンパク質レベルでの発現は未だ確認されていないが、mRNAは脳内の神経、グリア双方で或る程度の発現が確認されている。 | |||
== 機能 == | |||
Ano1/TMEM16Aが発現する後根神経節細胞は細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が高く(>30 mM)、古くからCaCC活性化による[[活動電位]]の後[[脱分極]]相の形成が知られている。即ち、この神経でのAno1/TMEM16Aの活性化は膜興奮性を高め、それが例えば発痛物質[[ブラジキニン]]の作用後の細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇に伴う[[痛覚神経]]の発火頻度上昇に関わることが知られている<ref name="ref13"><pubmed>20335661</pubmed></ref>。また、嗅神経の[[嗅毛]]では、におい物質の[[Gタンパク質共役型受容体]]への結合により、[[cAMP依存性陽イオンチャネル]]とともにAno2/TMEM16Bが活性化され、ともに脱分極性の電流をもたらすことで嗅神経の発火を誘起することが知られている。但し、Ano2/TMEM16B KOマウスでそのCaCC成分が消失しても、嗅覚自体にはそれほど強い影響を与えないことも報告されている<ref name="ref14"><pubmed>21516098</pubmed></ref>。 | |||
一方、細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が低い(<10 mM)多くの成熟神経細胞では、CaCC活性は膜興奮性を抑制する。例えば海馬の[[錐体細胞]]では、活動電位中のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによる活動電位の再分極の促進や、興奮性シナプス入力時のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによるシナプス後電位の抑制が認められている<ref name="ref15"><pubmed>22500639</pubmed></ref>。 | |||
Best1については、近年[[アストログリア]]の主なCaCCであると報告されると同時に、同チャネルを通じてグルタミン酸や[[GABA]]がアストログリアから周囲に放出されることにより、シナプス機能や神経興奮性の調節が行われるとの報告がなされた<ref name="ref16"><pubmed>20929730</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>23021213</pubmed></ref>。Best2はかつて嗅神経でのCaCC候補の1つであったが、Best2 KOマウスとWTマウスでCaCCに大きな相違が認められず、後に嗅神経でのCaCCは上記のようにAno2/TMEM16Bによることが確定している。 | |||
Best3、Best4の神経系での機能は未だ調べられていない。 | |||
BestrophinチャネルはHCO<sub>3</sub><sup>–</sup>に対する透過性が高く、また[[L型電位依存性Ca2+チャネル|L型電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル]]との相互作用を介してCa<sup>2+</sup>流入量も変化させうることから、細胞内Ca<sup>2+</sup>動態やpHの恒常性維持にも寄与している可能性が示唆されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。 | |||
==疾患との関連== | |||
Ano1/TMEM16A及びAno2/TMEM16Bの異常と神経系疾患との関連は未だ不明である。但し、Ano1/TMEM16AはCaCCの機能が判明する以前より、悪性腫瘍、特に消化管間質腫瘍(GIST)で豊富に発現していることが知られており、それはその腫瘍の起源とされる消化管運動のペースメーカー細胞(カハールの介在細胞、interstitial cell of Cajal; ICC)がAno1を豊富に発現していることを反映すると考えられている。<br> | |||
Best1については、卵黄状黄斑ジストロフィ(ベスト病)や硝子体網脈絡膜症の発症と関わる変異体が100種類以上知られており、それらの変異体の多くでCaCC機能の減退が認められている。しかし、その減退と発症機序との関連には不明点や疑問点が多い。また、それらの変異体と神経・グリア機能の異常との関連等も未だ明らかになっていない。 | |||
==参考文献== | |||