「Chromosome 9 open reading frame 72」の版間の差分

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藤野 雄三1,2, 永井 義隆1,3
<div align="right"> 
 
<font size="+1">藤野 雄三<sup>1,2</sup>、[https://researchmap.jp/yoshitakanagai 永井 義隆]<sup>1,3</sup></font><br>
1. 近畿大学医学部 脳神経内科  
''1. 近畿大学医学部 脳神経内科<br> ''
2. 京都府立医科大学大学院医学研究科 脳神経内科学  
''2. 京都府立医科大学大学院医学研究科 脳神経内科学<br>''
3. 近畿大学ライフサイエンス研究所
''3. 近畿大学ライフサイエンス研究所''<br>
 
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年7月7日 原稿完成日:2025年9月1日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 薬理学分野)<br>
</div>
英: Chromosome 9 open reading frame 72<br>
英: Chromosome 9 open reading frame 72<br>
略語: C9orf72
略語: C9orf72
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 C9orf72遺伝子連鎖性ALS/FTD(C9-ALS/FTD)の病態メカニズムに関しては、当初、GGGGCCリピート伸長変異による遺伝子機能の喪失や、転写された異常伸長リピート配列を含む変異RNA(リピートRNA)による毒性が想定されていた。しかし2013年に、リピートRNAから非古典的なリピート関連非AUG依存性(RAN: repeat-associated non-AUG)翻訳によって病的なジペプチドリピートペプチドタンパク質(DPR: dipeptide repeat protein)が産生され、実際にDPRが患者脳に蓄積することが明らかになり、現在ではこれら3つの病態メカニズムが協調的に神経変性病態に寄与すると考えられている<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。
 C9orf72遺伝子連鎖性ALS/FTD(C9-ALS/FTD)の病態メカニズムに関しては、当初、GGGGCCリピート伸長変異による遺伝子機能の喪失や、転写された異常伸長リピート配列を含む変異RNA(リピートRNA)による毒性が想定されていた。しかし2013年に、リピートRNAから非古典的なリピート関連非AUG依存性(RAN: repeat-associated non-AUG)翻訳によって病的なジペプチドリピートペプチドタンパク質(DPR: dipeptide repeat protein)が産生され、実際にDPRが患者脳に蓄積することが明らかになり、現在ではこれら3つの病態メカニズムが協調的に神経変性病態に寄与すると考えられている<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。
 
[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig1.jpg|サムネイル|'''図1. C9orf72遺伝子, 転写産物, タンパク質'''<br>C9orf72遺伝子は12のエクソンから構成され、このうちエクソン2~11がタンパク質をコードする。GGGGCCリピート配列はエクソン1aと1bの間の非翻訳領域に存在する。3種類の転写産物と2種類のタンパク質アイソフォームが存在し、Variant 1はショートアイソフォームに、Variant2および3はロングアイソフォームにそれぞれ翻訳される。Variant 1およびVariant 3はGGGGCCリピート配列を含む。ロングアイソフォームにはDENNドメインが含まれる。]]
== 構造 ==
== 構造 ==
=== 遺伝子 ===
=== 遺伝子 ===
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=== オートファジーの制御 ===
=== オートファジーの制御 ===
  培養神経細胞系やヒト脊髄運動ニューロンにおいて、C9orf72タンパク質はRab1、Rab5、Rab7、Rab11などのRabファミリータンパク質と共局在する<ref name=PrparMihevc2016><pubmed>27669407</pubmed></ref>[18]。また培養細胞を用いた免疫沈降法による解析では、Rab8aやRab39b、FIP200/Ulk1/ATG13/ATG101複合体と相互作用することが報告されている<ref name=Lall2019><pubmed>31029540</pubmed></ref>[15]<ref name=Koppers2015><pubmed>26012240</pubmed></ref>[16]。これらの分子との相互作用を介して、C9orf72タンパク質はオートファジーの開始、基質のリクルートメント、隔離膜の伸長と閉鎖、オートファゴソームとリソソームの融合など、オートファジーの各段階を制御すると考えられている<ref name=LopezGonzalez2016><pubmed>27112497</pubmed></ref>[19]。実際に、C9orf72遺伝子をノックダウンした培養細胞では、オートファジーの誘導阻害や異常なオートファゴソームの蓄積が観察されている<ref name=Koppers2015><pubmed>26012240</pubmed></ref>[16]<ref name=PrparMihevc2016><pubmed>27669407</pubmed></ref>[18]。
 培養神経細胞系やヒト脊髄運動ニューロンにおいて、C9orf72タンパク質はRab1、Rab5、Rab7、Rab11などのRabファミリータンパク質と共局在する<ref name=PrparMihevc2016><pubmed>27669407</pubmed></ref>[18]。また培養細胞を用いた免疫沈降法による解析では、Rab8aやRab39b、FIP200/Ulk1/ATG13/ATG101複合体と相互作用することが報告されている<ref name=Lall2019><pubmed>31029540</pubmed></ref>[15]<ref name=Koppers2015><pubmed>26012240</pubmed></ref>[16]。これらの分子との相互作用を介して、C9orf72タンパク質はオートファジーの開始、基質のリクルートメント、隔離膜の伸長と閉鎖、オートファゴソームとリソソームの融合など、オートファジーの各段階を制御すると考えられている<ref name=LopezGonzalez2016><pubmed>27112497</pubmed></ref>[19]。実際に、C9orf72遺伝子をノックダウンした培養細胞では、オートファジーの誘導阻害や異常なオートファゴソームの蓄積が観察されている<ref name=Koppers2015><pubmed>26012240</pubmed></ref>[16]<ref name=PrparMihevc2016><pubmed>27669407</pubmed></ref>[18]。


=== シナプス機能の制御 ===
=== シナプス機能の制御 ===
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=== 自然免疫応答の制御 ===
=== 自然免疫応答の制御 ===
 C9orf72ノックアウトマウスでは、脾腫やリンパ節腫脹といった免疫系組織の腫大が認められ、さらにTypeⅠインターフェロンなどの炎症性サイトカインや自己抗体の産生が亢進していることから、免疫系における役割が注目されている<ref name=Haeusler2014><pubmed>24731978</pubmed></ref>[23]<ref name=CooperKnock2014><pubmed>24559645</pubmed></ref>[24]。特に、骨髄系細胞特異的C9orf72ノックアウトマウスにおいても、同様の異常が確認されることから、同細胞での作用が免疫系の制御に重要であると考えられる<ref name=Conlon2016><pubmed>27041224</pubmed></ref>[25]。その詳細な機序は未解明であるものの、C9orf72タンパク質がオートファジー活性を調節することで、STINGやmTORC1といった自然免疫応答に関与する分子の発現を制御する可能性が示唆されている<ref name=Conlon2016><pubmed>27041224</pubmed></ref>[25]<ref name=Lee2013><pubmed>23911329</pubmed></ref>[26]。
 C9orf72ノックアウトマウスでは、脾腫やリンパ節腫脹といった免疫系組織の腫大が認められ、さらにTypeⅠインターフェロンなどの炎症性サイトカインや自己抗体の産生が亢進していることから、免疫系における役割が注目されている<ref name=Haeusler2014><pubmed>24731978</pubmed></ref>[23]<ref name=CooperKnock2014><pubmed>24559645</pubmed></ref>[24]。特に、骨髄系細胞特異的C9orf72ノックアウトマウスにおいても、同様の異常が確認されることから、同細胞での作用が免疫系の制御に重要であると考えられる<ref name=Conlon2016><pubmed>27041224</pubmed></ref>[25]。その詳細な機序は未解明であるものの、C9orf72タンパク質がオートファジー活性を調節することで、STINGやmTORC1といった自然免疫応答に関与する分子の発現を制御する可能性が示唆されている<ref name=Conlon2016><pubmed>27041224</pubmed></ref>[25]<ref name=Lee2013><pubmed>23911329</pubmed></ref>[26]。
[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. C9orf72連鎖性ALS/FTDの病態機序'''<br>非翻訳領域のGGGGCCリピート配列の異常伸長によって、1) C9orf72タンパク質の発現が低下し、遺伝子の機能喪失をきたす。また、2) リピートRNAはRNA結合タンパク質を巻き込みながらRNA fociとして凝集し、これらのタンパク質の生理的機能を撹乱する。さらに、3) リピートRNAから非古典的なRAN翻訳によって異常なDPRが産生される。これら3つの主要な病態メカニズムが協調的に神経変性に寄与する。]]
== 疾患との関連 ==
== 疾患との関連 ==
 2006年に、欧米の家族性ALS/FTDコホートの連鎖解析によって、責任遺伝子領域として9番染色体短腕13.2-21.3が同定された<ref name=Morita2006><pubmed>16421333</pubmed></ref>[1]<ref name=Vance2006><pubmed>16495328</pubmed></ref>[2]。その後5年にわたる原因遺伝子変異探索の結果、2011年にC9orf72遺伝子の非翻訳領域内に存在するGGGGCCリピート配列の異常伸長が、原因遺伝子変異として同定された<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4]。この配列のリピート回数は、健常人では2~23回であるが、C9-ALS/FTDでは40~6000回に異常伸長している<ref name=Zhang2019><pubmed>30602785</pubmed></ref>[27]。リピート伸長変異は不完全浸透であり、一般人口においても約0.1~0.4%の頻度で認められる<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4]<ref name=Cheng2019><pubmed>31209379</pubmed></ref>[28]。異常リピート回数の明確な閾値の決定は困難であり、リピート回数が24回から30回程度の中間伸長アレルも疾患発症リスクとなることが知られている<ref name=Zhu2020><pubmed>32234463</pubmed></ref>[29]。本リピート伸長変異は、家族性ALSの約40%、家族性FTDの約25%、孤発性ALSおよびFTDの5~6%で認められており、両疾患における最も頻度の高い遺伝的素因である<ref name=Meier2018><pubmed>29899452</pubmed></ref>[30]。なお、変異の頻度には地域差があり、欧米では高頻度であるのに対し、日本を含むアジア地域では稀である<ref name=Meier2018><pubmed>29899452</pubmed></ref>[30]。
 2006年に、欧米の家族性ALS/FTDコホートの連鎖解析によって、責任遺伝子領域として9番染色体短腕13.2-21.3が同定された<ref name=Morita2006><pubmed>16421333</pubmed></ref>[1]<ref name=Vance2006><pubmed>16495328</pubmed></ref>[2]。その後5年にわたる原因遺伝子変異探索の結果、2011年にC9orf72遺伝子の非翻訳領域内に存在するGGGGCCリピート配列の異常伸長が、原因遺伝子変異として同定された<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4]。この配列のリピート回数は、健常人では2~23回であるが、C9-ALS/FTDでは40~6000回に異常伸長している<ref name=Zhang2019><pubmed>30602785</pubmed></ref>[27]。リピート伸長変異は不完全浸透であり、一般人口においても約0.1~0.4%の頻度で認められる<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4]<ref name=Cheng2019><pubmed>31209379</pubmed></ref>[28]。異常リピート回数の明確な閾値の決定は困難であり、リピート回数が24回から30回程度の中間伸長アレルも疾患発症リスクとなることが知られている<ref name=Zhu2020><pubmed>32234463</pubmed></ref>[29]。本リピート伸長変異は、家族性ALSの約40%、家族性FTDの約25%、孤発性ALSおよびFTDの5~6%で認められており、両疾患における最も頻度の高い遺伝的素因である<ref name=Meier2018><pubmed>29899452</pubmed></ref>[30]。なお、変異の頻度には地域差があり、欧米では高頻度であるのに対し、日本を含むアジア地域では稀である<ref name=Meier2018><pubmed>29899452</pubmed></ref>[30]。
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 異常伸長したリピート配列は両方向性に転写され、GGGGCCリピートおよびその逆鎖であるCCCCGGリピートを含むリピートRNAが産生される。これらのリピートRNAはRNA結合タンパク質(RBP: RNA-binding protein)と異常な相互作用を獲得して、RBPの生理的な分布や機能を撹乱し得る。特に、リピートRNAは異常な高次構造を形成してRNA fociと呼ばれるRNA凝集体を形成し、種々のRBPと共凝集することが示されている<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Kramer2018><pubmed>29472620</pubmed></ref>[36]。例えば、GGGGCCリピートRNAが形成するRNA fociは、hnRNPH, hnRNPF, hnRNPA1, ALYREF, SRSF2, nucleolinといった多数のRBPと共局在し<ref name=Kramer2018><pubmed>29472620</pubmed></ref>[36]<ref name=Gendron2017><pubmed>28794246</pubmed></ref>[37]<ref name=Chew2019><pubmed>31358870</pubmed></ref>
 異常伸長したリピート配列は両方向性に転写され、GGGGCCリピートおよびその逆鎖であるCCCCGGリピートを含むリピートRNAが産生される。これらのリピートRNAはRNA結合タンパク質(RBP: RNA-binding protein)と異常な相互作用を獲得して、RBPの生理的な分布や機能を撹乱し得る。特に、リピートRNAは異常な高次構造を形成してRNA fociと呼ばれるRNA凝集体を形成し、種々のRBPと共凝集することが示されている<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Kramer2018><pubmed>29472620</pubmed></ref>[36]。例えば、GGGGCCリピートRNAが形成するRNA fociは、hnRNPH, hnRNPF, hnRNPA1, ALYREF, SRSF2, nucleolinといった多数のRBPと共局在し<ref name=Kramer2018><pubmed>29472620</pubmed></ref>[36]<ref name=Gendron2017><pubmed>28794246</pubmed></ref>[37]<ref name=Chew2019><pubmed>31358870</pubmed></ref>
[38]<ref name=LopezGonzalez2019><pubmed>30804510</pubmed></ref>[39]hnRNPHのRNA fociへの共凝集は標的mRNAのスプライシング異常を来すことが報告されている<ref name=Gendron2017><pubmed>28794246</pubmed></ref>[37]。
[38]<ref name=LopezGonzalez2019><pubmed>30804510</pubmed></ref>[39]hnRNPHのRNA fociへの共凝集は標的mRNAのスプライシング異常を来すことが報告されている<ref name=Gendron2017><pubmed>28794246</pubmed></ref>[37]。
 
[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. RAN翻訳'''<br>'''(A)''' RAN翻訳は、C9orf72連鎖性ALS/FTDなど、遺伝子の非翻訳領域内のリピート伸長変異を原因とするノンコーディングリピート病の病態に関与する非古典的な翻訳機構である。リピートRNAを鋳型として、AUGコドン非依存的に翻訳が開始し、異常なリピートペプチドを産生する。翻訳は全ての読み枠で進行する。<br>'''(B)''' C9orf72連鎖性ALS/FTD においては、GGGGCCおよびCCCCGGリピートRNAを鋳型として、RAN翻訳によって合計5種類のDPRが産生される。]]
=== RAN翻訳とDPR毒性 ===
=== RAN翻訳とDPR毒性 ===
 非翻訳領域由来のリピートRNAは、AUG開始コドンを欠くものの、RAN翻訳によって異常なDPRが産生される。RAN翻訳は鋳型となるRNAにリピート配列が含まれる際に、AUG開始コドン非存在下に翻訳が開始し、リピートペプチドが産生される非古典的な翻訳であり('''図3A''')、元々2011年に、同じく遺伝子非翻訳領域で異常伸長したリピート配列を原因とする脊髄小脳失調症8型(CAGリピート)および筋強直性ジストロフィー1型(CTGリピート)で発見された<ref name=Stopford2017><pubmed>28792425</pubmed></ref>[40]。AUGコドン非依存的な翻訳開始には、リピートRNAが形成する高次構造が重要であると示唆されている<ref name=Stopford2017><pubmed>28792425</pubmed></ref>[40]。3種類全ての読み枠で翻訳が進行するため、GGGGCCリピートRNAからはDPRとしてポリグリシン-アルギニン(polyGR)、ポリグリシン-アラニン(polyGA)、ポリグリシン-プロリン(polyGP)ペプチドが、CCCCGGリピートRNAからはポリグリシン-プロリン(polyGP)、ポリプロリン-アルギニン(polyPR)、ポリプロリン-アラニン(polyPA)ペプチドが産生され、実際に患者脳や髄液で検出される('''図3B''')<ref name=GTExPortal></ref>[41]<ref name=GeneReviews></ref>[42]<ref name=DeJesusHernandez2017><pubmed>28863209</pubmed></ref>[43]<ref name=Mehta2013><pubmed>23280836</pubmed></ref>[44]<ref name=Alonso2015><pubmed>26268563</pubmed></ref>[45]。
 非翻訳領域由来のリピートRNAは、AUG開始コドンを欠くものの、RAN翻訳によって異常なDPRが産生される。RAN翻訳は鋳型となるRNAにリピート配列が含まれる際に、AUG開始コドン非存在下に翻訳が開始し、リピートペプチドが産生される非古典的な翻訳であり('''図3A''')、元々2011年に、同じく遺伝子非翻訳領域で異常伸長したリピート配列を原因とする脊髄小脳失調症8型(CAGリピート)および筋強直性ジストロフィー1型(CTGリピート)で発見された<ref name=Stopford2017><pubmed>28792425</pubmed></ref>[40]。AUGコドン非依存的な翻訳開始には、リピートRNAが形成する高次構造が重要であると示唆されている<ref name=Stopford2017><pubmed>28792425</pubmed></ref>[40]。3種類全ての読み枠で翻訳が進行するため、GGGGCCリピートRNAからはDPRとしてポリグリシン-アルギニン(polyGR)、ポリグリシン-アラニン(polyGA)、ポリグリシン-プロリン(polyGP)ペプチドが、CCCCGGリピートRNAからはポリグリシン-プロリン(polyGP)、ポリプロリン-アルギニン(polyPR)、ポリプロリン-アラニン(polyPA)ペプチドが産生され、実際に患者脳や髄液で検出される('''図3B''')<ref name=Mori2013><pubmed> 23393093 </pubmed></ref>[41]<ref name=GeneReviews></ref>[42]<ref name=DeJesusHernandez2017><pubmed>28863209</pubmed></ref>[43]<ref name=Mehta2013><pubmed>23280836</pubmed></ref>[44]<ref name=Alonso2015><pubmed>26268563</pubmed></ref>[45]。


 polyGAは凝集性が高く、病理学的にC9-ALS/FTD患者脳で最も豊富に検出されるDPRである<ref name=McEachin2018><pubmed>29305472</pubmed></ref>[46]。培養細胞や動物モデルではpolyGAは弱い神経毒性を生じ、またプロテアソームと相互作用することからタンパク質分解系を障害する可能性がある<ref name=Mizielinska2014><pubmed>25023859</pubmed></ref>[47]<ref name=May2014><pubmed>24793942</pubmed></ref>[48]<ref name=Wen2014><pubmed>24909709</pubmed></ref>[49]。一方、アルギニンを含有するDPRであるpolyGRやpolyPRは、患者脳での発現はpolyGAと比較して少ないが<ref name=McEachin2018><pubmed>29305472</pubmed></ref>[46]、培養細胞や動物モデルで最も高度な毒性を来す<ref name=Mizielinska2014><pubmed>25023859</pubmed></ref>[47]<ref name=Ash2013><pubmed>23390130</pubmed></ref>[50]。その機序として、核細胞質輸送の障害<ref name=Zu2013><pubmed>23393093</pubmed></ref>[51]や、核小体やストレス顆粒といった膜のないオルガネラの動態の障害<ref name=Freibaum2015><pubmed>26168013</pubmed></ref>[52]<ref name=Kwon2014><pubmed>24842906</pubmed></ref>[53]が実験的に示唆されている。
 polyGAは凝集性が高く、病理学的にC9-ALS/FTD患者脳で最も豊富に検出されるDPRである<ref name=McEachin2018><pubmed>29305472</pubmed></ref>[46]。培養細胞や動物モデルではpolyGAは弱い神経毒性を生じ、またプロテアソームと相互作用することからタンパク質分解系を障害する可能性がある<ref name=Mizielinska2014><pubmed>25023859</pubmed></ref>[47]<ref name=May2014><pubmed>24793942</pubmed></ref>[48]<ref name=Wen2014><pubmed>24909709</pubmed></ref>[49]。一方、アルギニンを含有するDPRであるpolyGRやpolyPRは、患者脳での発現はpolyGAと比較して少ないが<ref name=McEachin2018><pubmed>29305472</pubmed></ref>[46]、培養細胞や動物モデルで最も高度な毒性を来す<ref name=Mizielinska2014><pubmed>25023859</pubmed></ref>[47]<ref name=Ash2013><pubmed>23390130</pubmed></ref>[50]。その機序として、核細胞質輸送の障害<ref name=Zu2013><pubmed>23393093</pubmed></ref>[51]や、核小体やストレス顆粒といった膜のないオルガネラの動態の障害<ref name=Freibaum2015><pubmed>26168013</pubmed></ref>[52]<ref name=Kwon2014><pubmed>24842906</pubmed></ref>[53]が実験的に示唆されている。

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