「グレリン」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
 グレリンは、主に胃粘膜で合成・分泌される。その構造的特徴は、特定の[[脂肪酸]]修飾(アシル化)を受けることにある。
===前駆体===
===前駆体===
 グレリンはmRNAから、まず[[プレプログレリン]]([[preproghrelin]]) と呼ばれる117アミノ酸残基(ヒトの場合)からなる前駆体タンパク質として合成される。そのN末端には[[シグナルペプチド]]が存在する。このシグナルペプチドが、[[シグナルペプチダーゼ]]により切断されることで[[プログレリン]]([[proghrelin]], 94残基) が生成される。プログレリンはさらに酵素的切断を受け、28アミノ酸残基からなるグレリンとなる。
 グレリンはmRNAから、まず[[プレプログレリン]]([[preproghrelin]]) と呼ばれる117アミノ酸残基(ヒトの場合)からなる前駆体タンパク質として合成される。そのN末端には[[シグナルペプチド]]が存在する。このシグナルペプチドが、[[シグナルペプチダーゼ]]により切断されることで[[プログレリン]]([[proghrelin]], 94残基) が生成される。プログレリンはさらに酵素的切断を受け、28アミノ酸残基からなるグレリンとなる。


=== アシル化===
=== アシル化===
 グレリンの最大の特徴はN末端から3番目の[[セリン]](Ser3)残基の[[水酸基]]に[[オクタノイル基]](C8:0)が[[共有結合]]して[[アシルグレリン]]となる点である<ref name=Kojima1999><pubmed>10604470</pubmed></ref>('''図1''')。このアシル化はグレリン受容体との結合および生理活性の発現に必須であり、特異的な生理機能を決定する重要な要素である。通常、ペプチドホルモンの活性はアミノ酸配列によって決定されるが、グレリンは受容体への結合と活性発現に脂肪酸修飾が不可欠である。このアシル化修飾は[[グレリン-O-アシル転移酵素]] ([[ghrelin O-acyltransferase]], [[GOAT]])によって触媒される<ref name=Yang2008><pubmed>18267071</pubmed></ref>(2)
 グレリンの最大の特徴はN末端から3番目の[[セリン]](Ser3)残基の[[水酸基]]に[[オクタノイル基]](C8:0)が[[共有結合]]して[[アシルグレリン]]となる点である<ref name=Kojima1999><pubmed>10604470</pubmed></ref>('''図1''')。このアシル化はグレリン受容体との結合および生理活性の発現に必須であり、特異的な生理機能を決定する重要な要素である。通常、ペプチドホルモンの活性はアミノ酸配列によって決定されるが、グレリンは受容体への結合と活性発現に脂肪酸修飾が不可欠である。このアシル化修飾は[[グレリン-O-アシル転移酵素]] ([[ghrelin O-acyltransferase]], [[GOAT]])によって触媒される<ref name=Yang2008><pubmed>18267071</pubmed></ref>。


 最も一般的に付加される脂肪酸は[[n-オクタン酸]](C8:0)である。加えて、[[ヘキサン酸]](C6:0)や[[デカン酸]](C10:0)などが付加されたグレリンも報告されている。摂取された[[中鎖脂肪酸]]([[medium-chain fatty acid]], [[MCFA]])や[[中鎖トリグリセリド]]([[medium-chain triglyceride]], [[MCT]])が、これらのアシル基として直接利用されることも示されており、食餌成分がグレリンの修飾に影響を与えることが示唆されている<ref name=Nishi2005a><pubmed>15677766</pubmed></ref>。発達段階によるアシル化パターンの変化も報告されている。マウスを用いた研究では、胃内のn-オクタノイルグレリン量が授乳期にかけて徐々に増加し、離乳開始後に急激に減少することが観察されている。さらに、早期に離乳させたマウスでは、胃内の[[n-オクタノイルグレリン]]および[[n-デカノイルグレリン]]の量が有意に低下しており、発達段階がアシル化修飾に影響を及ぼす可能性がある<ref name=Nishi2005b><pubmed>15746259</pubmed></ref>。このペプチドもオクタン酸修飾を受け、生理活性を持つことが示唆されており、グレリン遺伝子の[[選択的スプライシング]]によって産生される。ラット胃におけるグレリンに対するdes-Gln14-グレリンの比率は約1/4とされている。
 最も一般的に付加される脂肪酸は[[n-オクタン酸]](C8:0)である。加えて、[[ヘキサン酸]](C6:0)や[[デカン酸]](C10:0)などが付加されたグレリンも報告されている。摂取された[[中鎖脂肪酸]]([[medium-chain fatty acid]], [[MCFA]])や[[中鎖トリグリセリド]]([[medium-chain triglyceride]], [[MCT]])が、これらのアシル基として直接利用されることも示されており、食餌成分がグレリンの修飾に影響を与えることが示唆されている<ref name=Nishi2005a><pubmed>15677766</pubmed></ref>。発達段階によるアシル化パターンの変化も報告されている。マウスを用いた研究では、胃内のn-オクタノイルグレリン量が授乳期にかけて徐々に増加し、離乳開始後に急激に減少することが観察されている。さらに、早期に離乳させたマウスでは、胃内の[[n-オクタノイルグレリン]]および[[n-デカノイルグレリン]]の量が有意に低下しており、発達段階がアシル化修飾に影響を及ぼす可能性がある<ref name=Nishi2005b><pubmed>15746259</pubmed></ref>。このペプチドもオクタン酸修飾を受け、生理活性を持つことが示唆されており、グレリン遺伝子の[[選択的スプライシング]]によって産生される。ラット胃におけるグレリンに対するdes-Gln14-グレリンの比率は約1/4とされている。


 一方、アシル化されていない[[デスアシルグレリン]]は、グレリン受容体に対する親和性を持たないが、血中ではアシルグレリンよりも高濃度で循環している<ref name=Hosoda2000><pubmed>11162448</pubmed></ref>。その生理的役割は未だ完全には解明されていないが、デスアシルグレリンが[[骨格筋]]由来の[[C2C12細胞]]の増殖を抑制しつつ分化を促進して多核の[[筋管細胞]]に変化させることや<ref name=Filigheddu2007><pubmed>17202410</pubmed></ref>、[[膵臓]]や[[皮膚]]、[[副腎]]などの細胞株において細胞増殖の促進やアポトーシスの抑制作用を示すことが報告されている<ref name=Granata2007><pubmed>17068144</pubmed></ref>(9)。以下,特に記載のない場合、“グレリン”はオクタン酸で修飾されたアシルグレリンを指す。
 一方、アシル化されていない[[デスアシルグレリン]]は、グレリン受容体に対する親和性を持たないが、血中ではアシルグレリンよりも高濃度で循環している<ref name=Hosoda2000><pubmed>11162448</pubmed></ref>。その生理的役割は未だ完全には解明されていないが、デスアシルグレリンが[[骨格筋]]由来の[[C2C12細胞]]の増殖を抑制しつつ分化を促進して多核の[[筋管細胞]]に変化させることや<ref name=Filigheddu2007><pubmed>17202410</pubmed></ref>、[[膵臓]]や[[皮膚]]、[[副腎]]などの細胞株において細胞増殖の促進やアポトーシスの抑制作用を示すことが報告されている<ref name=Granata2007><pubmed>17068144</pubmed></ref>
 
 以下,特に記載のない場合、“グレリン”はオクタン酸で修飾されたアシルグレリンを指す。


=== 種間比較 ===
=== 種間比較 ===