「成長円錐」の版間の差分

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===== [[環状ヌクレオチド]]  =====
===== [[環状ヌクレオチド]]  =====


成長円錐内の[[CAMP]]および[[CGMP]]シグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の誘引-反発応答性を規定するものとして報告例が多い。 例えば、ネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPのアンタゴニストである[[Rp-cAMPs]]の投与によって反発へと逆転する<ref><pubmed>9427246</pubmed></ref><ref><pubmed>9230436</pubmed></ref>。また、[[軸索再生]]阻害因子として知られ軸索反発を誘導する[[MAG]]の濃度勾配に対する反発は、cAMPアゴニストである[[Sp-cAMPs]]の投与により誘引へと逆転する<ref><pubmed>9727979</pubmed></ref>。さらに、cGMPのアゴニストである[[8-Br-cGMP]]の投与によりネトリン-1による誘引が反発へと逆転する報告もあり<ref><pubmed>12827203</pubmed></ref>、多くの軸索ガイダンス因子に共通するメカニズムとしてcAMP/cGMPシグナルにより成長円錐の旋回方向が決定されると考えられている。 cAMP/cGMPの下流では主に[[プロテインキナーゼA]](PKA)/[[プロテインキナーゼG]](PKG)が機能すると考えられており、これら2種類のリン酸化酵素の標的分子などの違いにより成長円錐の誘引と反発という正反対の応答が誘導されると思われる。
成長円錐内の[[cAMP]]および[[cGMP]]シグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の旋回方向を規定するものとして報告が多い。 例えば、ネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPのアンタゴニストである[[Rp-cAMPs]]の投与によって反発へと逆転する<ref><pubmed>9427246</pubmed></ref><ref><pubmed>9230436</pubmed></ref>。また、[[軸索再生]]阻害因子として知られ軸索反発を誘導する[[MAG]]の濃度勾配に対する反発は、cAMPアゴニストである[[Sp-cAMPs]]の投与により誘引へと逆転する<ref><pubmed>9727979</pubmed></ref>。さらに、cGMPのアゴニストである[[8-Br-cGMP]]の投与によりネトリン-1による誘引が反発へと逆転する報告もあり<ref><pubmed>12827203</pubmed></ref>、多くの軸索ガイダンス因子に共通するメカニズムとしてcAMPシグナルが優位だと誘引性、cGMPシグナルが優位だと反発性の旋回運動を誘導すると考えられている。 cAMP/cGMPの下流では主に[[プロテインキナーゼA]](PKA)/[[プロテインキナーゼG]](PKG)が機能すると考えられており、これら2種類のリン酸化酵素の標的分子などの違いにより成長円錐の誘引と反発という正反対の応答が誘導されると考えられている。


===== 細胞内カルシウムシグナル  =====
===== 細胞内カルシウムシグナル  =====


[[ケージドカルシウム光解離法]]を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動が誘導される<ref><pubmed>10638759</pubmed></ref>。また、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると軸索ガイダンス因子に対する誘引、反発応答の両方が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは成長円錐の旋回運動制御の中心的役割を担っていると考えられている。  
[[ケージドカルシウム光解離法]]を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動が誘導される<ref><pubmed>10638759</pubmed></ref>。また誘引性、反発性を問わず、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると軸索ガイダンス因子に対する誘引、反発応答の両方が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは成長円錐の旋回運動制御の中心的役割を担っていると考えられている。  


カルシウムシグナルが誘引-反発の両方を誘導するメカニズムとして、現在2つのモデルが提唱されている。  
カルシウムシグナルが誘引-反発の両方を誘導するメカニズムとして、現在2つのモデルが提唱されている。  


1つは成長円錐内で上昇するカルシウムイオン濃度の絶対量による差が誘引-反発を決定するというモデルで<ref><pubmed>15603734 </pubmed></ref>、低カルシウムイオン流入ではカルシウムに対するアフィニティーの高い分子のみが活性化され反発性応答が、一方高カルシウムイオン流入はカルシウムに対するアフィニティーの低い分子も活性化され誘引性応答が誘導するとされている。
1つは成長円錐内で上昇するカルシウムイオン濃度の絶対量の差が誘引-反発を決定するというモデルで<ref><pubmed>15603734 </pubmed></ref>、低カルシウムイオン流入ではカルシウムに対するアフィニティーの高い分子のみが活性化され反発性応答が、高カルシウムイオン流入はカルシウムに対するアフィニティーの低い分子も活性化され誘引性応答が誘導するとされている。


2つ目は誘引-反発は流入するカルシウムチャネルの種類に依存するというモデルで、小胞体ストアからのカルシウム放出を伴うと誘引性、それ以外のカルシウムシグナルは反発性応答を誘導するというものである。このモデルでは、各種カルシウムチャネルの近傍に存在するカルシウム感受性分子の種類の違いが誘引-反発の応答を決定すると考えられている<ref><pubmed>16172206</pubmed></ref>
2つ目は、旋回方向は流入するカルシウムチャネルの種類に依存するというモデルで、小胞体ストアからのカルシウム放出を伴うと誘引性、それ以外のカルシウムシグナルは反発性応答が誘導されると考えられている<ref><pubmed>16172206</pubmed></ref>。このモデルでは、各種カルシウムチャネルの近傍に存在するカルシウム感受性分子の違いが成長円錐の旋回方向を決定すると予想されている。


誘引-反発のカルシウムシグナルの下流因子として、誘引性カルシウムシグナルには[[カルモジュリン]]依存性リン酸化酵素である[[CaMキナーゼⅡ]](CaMKⅡ)が、反発性カルシウムシグナルには脱リン酸化酵素である[[カルシニューリン]](calcineurin)がそれぞれ中心的な役割を担っていると考えられている<ref><pubmed>15363394</pubmed></ref>。  
旋回運動を誘導するカルシウムシグナルの下流因子として、誘引性カルシウムシグナルには[[カルモジュリン]]依存性リン酸化酵素である[[CaMキナーゼⅡ]](CaMKⅡ)が、反発性カルシウムシグナルには脱リン酸化酵素である[[カルシニューリン]](calcineurin)がそれぞれ中心的な役割を担っていると考えられている<ref><pubmed>15363394</pubmed></ref>。  


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==== 膜トラフィッキング  ====
==== 膜トラフィッキング  ====


近年、エキソサイトーシスやエンドサイトーシスといった細胞膜トラフィッキングも軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の旋回運動に関与することが報告されている<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>。これまでの見解として、誘引性ガイダンス因子ではエキソサイトーシスが、反発性ガイダンス因子ではエンドサイトーシスがそれぞれ非対称に成長円錐内で起き、成長円錐は旋回運動を呈すると考えられている。また、人為的にエンドサイトーシス-エキソサイトーシスを成長円錐の片側で促進あるいは阻害すると成長円錐の旋回運動が誘導されるという報告もあり<ref><pubmed>20471350</pubmed></ref>、軸索ガイダンス因子は成長円錐内のエキソサイトーシス/エンドサイトーシスの空間的なバランスを制御することで、成長円[[Image:旋回方向決定.png|thumb|500x242px|図3 成長円錐の旋回方向を規定する要因の例。]]錐の旋回運動の方向性を規定すると考えられる。  
近年、エキソサイトーシスやエンドサイトーシスといった細胞膜トラフィッキングも軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の旋回運動に関与することが報告されている<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>。これまでの見解として、誘引性ガイダンス因子ではエキソサイトーシスが、反発性ガイダンス因子ではエンドサイトーシスがそれぞれ非対称に成長円錐内で活性化され、成長円錐は旋回運動を呈すると考えられている。また、人為的にエンドサイトーシスやエキソサイトーシスを成長円錐の片側で促進あるいは阻害すると成長円錐の旋回運動が誘導されるという報告もあり<ref><pubmed>20471350</pubmed></ref>、軸索ガイダンス因子は成長円錐内のエキソサイトーシス/エンドサイトーシスの空間的なバランスを制御することで、成長円[[Image:旋回方向決定.png|thumb|500x242px|図3 成長円錐の旋回方向を規定する要因の例。]]錐の旋回運動の方向性を規定すると考えられる。  


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==== 局所タンパク質合成と分解  ====
==== 局所タンパク質合成と分解  ====


成長円錐には小胞体や[[MRNA]]、[[リボソーム]]、[[翻訳制御因子]]等タンパク質の翻訳合成に必要な分子機構が備わっており、近年、このタンパク質の局所翻訳が軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の旋回運動に関与することが報告されている。
成長円錐には小胞体や[[mRNA]]、[[リボソーム]]、[[翻訳制御因子]]等タンパク質の翻訳合成に必要な分子機構が備わっており、近年、成長円錐内でのタンパク質の局所翻訳が軸索ガイダンス因子による旋回運動の制御に重要であることが報告されている。


Holtのグループは、細胞体から切り離した軸索の成長円錐のネトリン-1への誘引応答がタンパク質合成阻害剤により消失することを報告した<ref><pubmed> 11754834</pubmed></ref>。このことは成長円錐の旋回運動には成長円錐における局所タンパク質合成が必要であることを示している。その後、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが明らかにされている<ref><pubmed> 21530230</pubmed></ref>。  
例えば、細胞体から切り離した軸索の成長円錐はネトリン-1の濃度勾配に対し誘引されるが、この誘引応答はタンパク質合成阻害剤により消失する<ref><pubmed> 11754834</pubmed></ref>。同様に、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが明らかにされている<ref><pubmed> 21530230</pubmed></ref>。  


軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1による軸索誘引では、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を抑制しているが、ネトリン-1がDCCに結合するとリボソームがDCCから解離し抑制が外れタンパク質合成が起きることが報告されている<ref><pubmed>20434207</pubmed></ref>。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称なβ[[Β-アクチン|-アクチン]]mRNAの翻訳が誘発されることも報告されており<ref><pubmed>16980965</pubmed></ref>、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在も示唆されている。  
軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を抑制しているが、ネトリン-1がDCCに結合するとリボソームがDCCから解離し抑制が外れタンパク質合成が起きることが報告されている<ref><pubmed>20434207</pubmed></ref>。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称な[[β-アクチン]]mRNAの翻訳が誘発されることも報告されており<ref><pubmed>16980965</pubmed></ref>、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在も示唆されている。  


また、最近になり、[[マイクロRNA]](miRNA)による局所タンパク質翻訳制御が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  
また、最近になり、[[マイクロRNA]](miRNA)による局所タンパク質翻訳制御が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  


一方、成長円錐において[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]系によるタンパク質分解システムも機能しており、これも旋回運動に関与すると考えらており、今後軸索ガイダンスシグナルにより分解が促進されるタンパク質群の同定や、分解系の活性化機構の解明が待たれる。 <br>
一方、成長円錐において[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]系のタンパク質分解システムも機能しており、これも旋回運動に関与すると考えらており、今後軸索ガイダンスシグナルにより分解が促進されるタンパク質群の同定や、分解系の活性化機構の解明が待たれる。 <br>


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